第2話 幸先の悪い高校受験
全国の大半の生徒が
前までの俺だったらその関門に挑戦するのもおこがましいとさえ思っていた。だけど、俺は皆のおかげで変われた。姿も声も……そして覚悟も。
だから挑戦する。自らの強い意思と決意を持って。
だけれど、(;ω;)
──ピリリリリリリ……!!!
俺の勉強道具が散乱した部屋に、爆音のアラームが鳴り響く。
「っ……うぅ、」
朝。無理やりアラームで起こされた俺は、ゆっくりとベットから起き上がる。この小さな身体には男用のベットは広過ぎるぐらいだが、慣れた動きでアラームの位置を特定し、止めた。
「ふわぁぁぁーっ(※´O`※)」
俺はどちらかと言えば目覚めはいい方である。(夜中にゲームをしなくなったからである)だが今日に限ってはそんな清々しさは皆無で、直ぐに盛大な欠伸をかましてしまう。
焦点のまだ合わない瞳で、近くにあった手鏡を覗き込むと、いつもの可愛い俺が映る……のでは無く。手鏡に映っていたのは……寝癖が着いた銀髪でボソボソで乾燥した唇。そして子供用(女の子)のパジャマ姿の俺だった。
それはいつも通りと言えばいつも通りだ。だけど今日は目の下の方に出来たクマがえげつないほどあり、まだ可愛さと凛々しさを残してはいるが、それでも俺はボロボロの状態だった。
……やはり、俺の予想通りやってしまった。
昨日の夜から朝にかけて……俺はまともな睡眠を摂ることが出来ず、等々朝を迎えてしまったのだ。俺にとって生まれて初めての──絶望的な朝である。
過度な睡眠欲と緊張感、倦怠感から巻き起こる吐き気と食欲不振と悪寒が俺を襲った。
はっきり言って最悪なコンディションである。今日この日のために、これまでの辛い努力の成果を出し切る時なのに……っ、それなのに。本番当日に万全の準備すら出来ない俺に怒りすら覚える。
そんな萎えた気持ちを数分掛け、整理をつけた俺は前日に用意して置いた荷物を持って自室から出た。
「だ、大丈夫なの?」
「……う、うんっ。多分ねヾ(・ω・`;)ノ」
母が心配そうに聞いてくるのをカラ元気で返答しつつ、俺はなるべく時間を掛けずに身支度を整え、愛用する参考書に食い付いた。体調不良の影響で失った勉強の記憶を少しでも取り戻そうとしたのだ。
……そんな怒涛な朝を過ごし、俺は家を出た。
☆☆☆
今日の天気は中々の微妙で、今にも雨が降りそうな薄暗い天気だった。
「うっ……幸先が悪いなぁ」
嫌なため息を吐きつつ、俺は何度も予行練習を繰り返したルートで高校までの道のりを歩く。俺はまだ“外”という荒れ狂う環境に適応した訳では無い。むしろまだまだ慣れず、恐怖という感情に付き纏われる事の方が多い。
でも、俺の努力は決して無駄だった訳じゃないと……身を持って証明したい。それが今俺に出来る最大の恩返しだからだ。
──だから、止まることなんて出来やしない。
一つ一つを丁寧に、慎重に脳裏に刻みながら歩を進めた。
「──オウ、茉白」
「──おはよう、茉白ちゃん」
すると、聞き覚えのある声が俺の両隣から聞こえた。
「えっ!?」
どうやら、ずっと参考書に集中していた為に気付かなかったが、愛葉と蒼太の2人が俺の隣を歩いていたのだ。
「あっ、ごめん。気付かなかった。おはよう……2人とも」
慌てて、参考書を閉じ2人に朝の挨拶を送る。
「……なんだか、茉白ちゃんが制服なのって新鮮ね」
「そーだな、超似合ってるぜ!」
「そ、そうかな?」
今日の俺は姉の中学生の時のお古のセーラー服を着ていた。流石に高校受験を私服で行く勇気もなく、たった1回の高校受験のために新たにセーラー服を作るのはバカバカしいと考えてのことだ。
でも、中学の姉のセーラー服はそれなりに大きく、俺の身体にはあまり合わない。特に胸元が……って、全く0って訳じゃないからな!?( ( ・ὢ・ ) )
そんな若干初々しい俺に対し、2人はいつも家に来るような私服姿であった。
そういえば言い忘れていた事があったけど、愛葉と蒼太は既に“特別推薦枠”を獲得していて高校に合格していた。何だか、2人は良好な功績を多く持つから志願した時点で合格だったらしいのだ。
ずるい……とは一瞬思ったけど、それが2人と俺との差だった。今まで引き篭っていた俺にずるいと言う権利と資格はない。だから、俺がするべき事は一足先に「おめでとう」と2人を賞賛することだけだ。
「万全……って訳じゃないな。見た感じ」
「大丈夫?目元、クマだらけだよ」
「うっ……緊張で中々寝付けなくて」
そう言うと、2人は心から嬉しそうにしながら、
「緊張を感じてるってことは、その分茉白が努力を続けたってことなんだぞ?」
「そうそう。茉白ちゃんは本当に頑張ったんだよ?だって、普通の人じゃ到底不可能のことをやりきったんだから。後はその成果を出し切るだけ。絶対にいけるはずだから!」
蒼太と愛葉そう断言してくれているのだから大丈夫なのだろう。信じよう。
「さっ、ギリギリまで茉白ちゃんに着いて行くよ。だから限界まで勉強して」
「ありがとう、愛葉。助かるよ」
「っっ……♡どう、いたしまして」
一瞬たじろぐ愛葉を若干心配しつつ、俺達は高校へ向かった。電車を数駅乗り継ぎ、数分歩くと…… 遂に到着した。
──俺が全てを出し切る場所に。
「私と望月くんは外で終わるのを待ってるから。頑張ってね」
「精一杯、全力で……気合いを持てよ!」
「うん。頑張る。絶対に合格してみせるよ」
──『高校受験』とは一人の戦いだ。
会場に仲間は居ないし、知り合いも居ない。単純なる実力の勝負だ。皆々当然覚悟があり、負けるつもりなど毛頭無い。だけど俺だって負けない。絶対に俺はこの高校に合格するんだから。
『高校受験会場』と大きく書かれた看板が立て掛けられた校門の前まで来ると、俺は愛葉と蒼太のいる方へ振り向いた。
長い銀髪が風に揺れ、美しさと可憐さを醸し出す。
「──ありがとう、2人のおかげで俺はすごい“勇気”を貰えたよ。頑張ってくる」
俺が今出来る最高の笑顔で、感謝を込めて俺は言い切った。
「「っっっ♡♡♡」」
Σ(♡ロ♡;)
2人が明らかに顔を赤面させ、顔が緩んだのを見届けた後。俺は再び意識を高校受験に戻した。
時間にゆとりを持つ為に朝早く来たので、まだ受験者の数は少ない。だけど、妙な視線が俺を襲う。
多分、気持ちにゆとりがなくて取り敢えず周りの状況を伺っているのだろう。まぁ、俺がそうなのだから周りの人もそうなのだろう。
集中しよう。自分の気持ちを落ち着かせる為に。
ようやくだ……俺の挑戦が始まる。
気合とやる気に満ち溢れる俺。
──だが、そんな時。
「あてっ!?」
俺は高校の門を通ろうした時、何も無いところで
「あっ、参考書が!?」
そして俺の愛用していた参考書が水溜まりに
プルプルと震え始める俺……だって、だって、こんなにも運が悪いんだぞ……
涙を
さ、幸先……悪っ!
そんな事を冷や汗を大量にかきながら思う俺であった。
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