第6話 茉白はやはり気付かない
「──お、そう言えば ……茉白!」
中学校へと向かっている道中、蒼太がふと何かを思い出したのか……俺を呼び止めた。
「ん、どうかした蒼太?何か忘れ物とかか?」
「いや、違う」
俺の質問を軽く流した蒼太は若干聞きづらそうな表情を作りながら”あること“を俺に聞いてきた。
「んーっと、ずっと言う機会を失っていたんだが明日が“何の日”かって茉白はもちろん知ってるんだよな?」
明日……?
んー?ゲームのサブイベントが始まる……って、そんなのは多分違うと思うし、一体なんなのだろうか?
「明日は、なにかあるんだっけ?」
「えーっ!?」
「全く……?」
何も知らず、とぼける俺に愛葉と蒼太はため息を零しながら頭を抱えた。
えぇ……何かの記念日とか何か?それとも誰かの誕生日なのか?いや違うはず。俺の知り合いに3月生まれはいない。
じゃあ一体何の日なんだ?•́ω•̀)?
少し考えてみたが、今の俺の頭は卒業式の事でいっぱいでその事を深く考えられる脳内CPUは稼働していなかった。
「──明日はな、高校受験の合格発表なんだぜ!?」
「あ……( ・∇・)……」
そ、そ、そ、そう言えばそうだった。完全に忘れてた。(゜Д゜)
全力の試験が終わったから、もう結果とか合格とか……どうでも良くなってたんだっけ。
「うわぁー、マジか」
明日と聞いてからようやくドキドキし始める俺、いや…もう少しタイミングを見計らって欲しかった。どうして今、このタイミングで!?
こんな性格なんだ、最悪1日中引っ張るぞ!?
「も、もう!どうしてこのタイミングで言ったんだよ。もうちょっと気を使って、見計らって欲しかった」
知らない俺が100%悪いのは分かってるけど、今の俺には余裕が無くなりつつあったのだ。
「大丈夫だって。明日の結果は、どうせ受かってるしな」
「そうね、だって茉白ちゃんだもの」
いやいや、流石に断言し過ぎだろ……
それほど信用されていると思えば嬉しいけど。
「……まぁ、俺もそう思いたいけど……どうなんだろうね、実際」
俺の性格は常に心配性。だから、そんなに自信を強く持つなどと言う大それたことなんて出来なかった。
それに筆記とかは普通に自信が無いしなぁ……(´д`)
☆☆☆
久しぶりの中学校。
数ヶ月ぶりだと言うのにそこまで記憶の中にあった中学校と目の前にある中学校に変わりはなく。まぁ、強いて言えば季節が春で桜が咲いているということと、卒業式というお別れの雰囲気が至る所で感じられるということだ。
道中、色々あったせいで若干遅く到着してしまい、校門前は卒業生やその親御さん達でごった返していた。皆、校門前に設置された『卒業式』の看板(定番スポット)で写真撮影をしたいようなのだ。
「──う……見られてる( > < )」
そんな到着して早々、俺たちは否応無しに目立った。
なぜなら俺の両隣にはこの中学校で天才。更に才色兼備で人望も厚く、モテる2人がいる。だから視線が誰よりも集まり……その真ん中で歩く俺にさえも視線が集まってしまう。
どんな生徒も、親も、先生も。1度俺たちとすれ違っただけで驚いたように2度見をし、そこから目線を一切ズラさなくなる。
幼なじみの中学生という姿を実際に見るのはかなり久しぶりだったが……やはり、すごいと思う。誰に対しても優しく、絶対に見捨てず手を差し伸べる。そりゃ誰からもモテる訳だ。
2人に想い人が居ないというのが若干勿体ないけどね。
「……相変わらず凄いんだな、2人って」
でもな。そんな2人に挟まれる凡人の俺の気持ちにもなってくれ!俺はなるべく目立ちたく無いのに、これじゃどうしようもない。どうか、どうか……助けてくれ(;ω;)
いつも通り、今すぐに逃げ出したかったが……今更単独行動という自殺行為も出来ず、ただ2人にくっつきながら下を見て歩いた。
なるべく視野を細めて、音もなるべく拾わないようにし、気持ちも薄め、なるべく目立たないように心掛けつつ、心をゆっくりと落ち着かせて行った。
そのため……
「──え、何あの子。愛葉ちゃんと蒼太くんの隣にいる子、えげつないぐらい可愛いんだけど(惚れた♡)」
「──そ、それ。神が降臨したって言うぐらいの衝撃なんだけど!?(惚れた♡)」
「──ねぇ、あんな子ここに居たっけ?(惚れた♡)」
「──え?いないと思う。だってあんなに可愛かったら絶対忘れないし(惚れた♡)」
「──だよねぇ?じゃあなんで卒業生の格好をしてるんだろう?」
「──転校生?」
「──ははっ、そんなまさか。だって今日は卒業式なんだよww」
「──でも、何か惹かれるものがあるね♡」
「──それw」
「──なぁ、卒業式補正に便乗して愛葉ちゃんに告白するっていう流れだったじゃん」
「──お、おう?」
「──あの子に変えてもいいか?」
「──お、おい!?お前の愛葉ちゃんに対する想いはそんなもんだったのかよ!?」
「──でも、しょうがねぇーだろ。あまりにも衝撃的過ぎたんだからよ(惚れた♡)」
「──まぁ、確かにそうだな。だけど…………俺もチャレンジしたくなってきた(惚れた♡)」
「──おいおい、対決だぜ!」
「──オウ!」
……という、生徒たちの茉白へと向ける視線の理由を聞き取ることが出来なかった。
そんな、常に緊張しっぱなしで、本当に嫌な中学最後の登校だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます