第5話 行くか──卒業式
「──う……、この感じ、なんだかやな感じ……」
俺は顔をしかめっ面( ・ὢ・ )にしながらも、大人しく愛葉が用意した中学の制服に身を包んだ。愛葉と同じ、黒色の可愛いと言うよりもシックで可憐な制服にだ。
どうやら俺用(女用)の物をしっかり用意して来たようだ。しかも……
「おぉー、サイズはピッタリね!」
「う、うん……」
呼吸を荒くし、興奮気味?の愛葉はテンション高めに俺の制服姿を写真に収めまくっていた。
でも、ん、待てよ?
──俺の大体の事は幼なじみに教えていたけど、確かあれだけは教えていなかったはずだ。
だって“これ”は女子にとってはとてもデリケートなものだし、教えても何も得は無い。だから俺は教えていなかった。
で、でも。愛葉はまるで知っているかのように俺にピッタリな制服を用意した。な、なんで、なんで俺の“スリーサイズ”を知っているんだ?
俺の身体は明らかに小学生低学年に近い。だからそれなりに身体の大きさは分かるが、それでもサイズがピッタリ過ぎて不自然だったのだ。
まさか……家族から情報が漏れた?いや、母はそういうことは口が硬そうだし、父にはそもそも何も話していないし、姉は論外だし……
ま、まぁ、見た感じの偶然ってかもしれないし、一応、一応聞いてみよう。( ´•ᴗ•ก 💦)
「あ、聞くけどさ。愛葉が制服を仕立てたのかな?言動的にそう思ったんだけど?」
「ん、そうだよ。いつか使うと思って裁縫系は勉強しておいたのよ」
へー、愛葉らしい。ほぼほぼのジャンルをよろずに身に付けている。
「流石だね、じゃあ俺の身体のサイズがどことなく分かったのはその経験からなのかな?」
だったら納得だな。
……うんうん、疑って悪かったな愛葉。
俺が愛葉の疑いをキッパリ晴らした所で、愛葉はケロッとした表情で、何の嫌味も無く、本音で……
「──茉白ちゃんの身体は毎日のスキンシップで知り尽くしてるから制服なんて楽勝よ♡」
──っ!?
なんだろう。かなりの寒気に襲われたんだけど!?
もしかして、毎日、毎回。俺を膝の上に乗せるのは俺の身体を調べる為だったのか?スキンシップという名の下で……まさか、スリーサイズを調べられているなんて──若干引く俺。
その発言以降、俺は愛葉の膝の上に乗ることが少なくなるのであった。
「──あ、後ね、“お義母さんとお義父さん、義姉さん”にも事情を話して了承を貰ってるわ。多分、今頃1階で卒業式に行く準備をしてると思うわ!」
「あー、そう?なんだ……」
ん……?
なんだか家族の発音が少しだけ違ったような気がしたけど、気のせいか。
まぁ取り敢えず、色々と準備されて、オマケで色々と真実を知れて、テンションがやや下がった卒業式の朝であった。
☆☆☆
数分後、俺と幼なじみの愛葉と蒼太は玄関前でそろそろ行く準備をしていた。
「ふぅ……( -᷄ ω -᷅ )」
それなりに外に出て、今は余り感じなくなったと思ったのに……なんだか今日は不思議な気分だな。
スカートはまだ履きなれておらず、感覚も馴染めない。身体の動かし方もたまにミスる。生活習慣も時折辛い時がある。
だけど、この感じは初めて外に出た──あの時の感覚に近い。心臓の音がうるさくなり、冷や汗が止まらなくなる感じだ。
多分、卒業式だからであろう。
久しぶりの中学校だからであろう。
久しぶりにクラスメイトに会うからであろう。
でも、それと同時にまだ俺が中学生なんだ……という懐かしい気持ち?とでも言えば良いのだろうか。上手く言葉には出来ないが凄く絶妙な気持ちにもなった。
でも。その気持ちも今日で締めくくり。
俺には新たな環境、生活が待っている。
まだ高校は受かっていないけども、人生が確信的に変わる1歩を踏み出すはずなのだ。
「よし、行くか────卒業式」
多分ほとんどの人とは二度と会うことは無くなるのだろう。だけど、まだクラスメイト達は俺と関わってくれるらしいのだ。だからその人たちに感謝の言葉と謝罪を送りたかった。
そして──俺の引きこもりにようやく終止符を打ち、新たな高校生活に向かって歩んで行くんだ。
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