第4話 俺の居場所


「──いやーだ!俺は絶対に行かないからなっ!」


 ヾ(゚`ω´゚)


 高校受験から数週間後。俺は家でゆったり……そしてのんびりと久しぶりのゲーム生活を満喫していた。

 受験勉強中は封印していたゲーム欲、その反動は凄まじかったようで……四六時中ゲーム三昧のストレスフリーの生活を過ごしていた。



 だが──珍しく俺は声を荒らげながら拒否反応を示していた。



 目の前にいるのは幼なじみの愛葉と蒼太。2人は中学の制服姿で平日の朝、唐突に俺を訪ねて来たのだ。


 朝早く、全く何を考えているのやら……( ˊᵕˋ ;)

 胸元に桃色の花を付けていることから何となく状況は理解出来た。だけど、いや、だからこそ…………“今更”なのである。


「えー、“最後”ぐらいいいじゃん。高校受験も終わって、もう何も失うことはないんだから。なっ、茉白!」


 俺の拒否反応が明らかに早かったからか、少し調子を狂わせつつもすぐに説得に取り掛かる蒼太。


「──嫌です」


 それでも尚、拒否る俺。



 当然である。何故なら……今日は……( ˊᵕˋ ;)



「人生に1度きりなんだよ──中学の卒業式ってのは!」



 そう。今日は俺の通っていた中学校(愛葉と蒼太の通う中学校)の最重要行事……“卒業式”なのである。


 皆、公立でも私立でも全ての高校受験が終わり……合格した者、不合格で滑り止めの高校に行く者、まだ合格発表がまだな者。その者たちの怒涛の中学生活を締めくくる特別な日なのである。



「──それが、嫌なんだよ!」


 だけど、そんなものに俺が行けるはずがないだろう。

 俺はその中学校には途中までしか行っていない落ちこぼれなのだから。

 仲のいい友達がいる訳でも無く、信頼する先生がいる訳でも無い。お気に入りの場所も特には無いし……俺の中学校に思い出はない。そして思い入れも皆無なのである。


 そもそも……性別が変わり、見た目も変わり、名前も変わったのだ。俺の居場所なんて、既に跡形も無い程に無くなっているはずだろう。


「俺なんかが、行く必要は無いし、行く資格もない。行く意味も無いんだよ。だから、今回ばかりは諦めてくれ」


 心の内の内の内ら辺には卒業式に出てみたいという、ほんの僅かな淡い気持ちもある。だけど……現実はそんなに甘いものでは無いと分かっている。



 やる気MAXの俺\( 'ω')/

 ↓

 決心をし、卒業式へ行く

 ↓

 俺が心機一転した姿茉白で教室に現れる

 ↓

 ザワつく、教室

 ↓

 そして、「誰?」という雰囲気でシラケる教室

 ↓

 地獄か?( ;꒳​; )




 そうなることが容易に想像出来てしまう。

 もし、そんなことが現実で起こってしまったのならば俺は心に深い深い傷を食らうだろう。だから嫌なのだ。





「えぇ……折角、皆に事情を話したのに……?」

「だねぇ……クラスのやつら、茉白が来るのを楽しみにしてたんだけどなぁ」


 2人は俺にギリギリ聞こえる程度の小さな音量で愚痴を吐いた。多分ワザとだ。無視するのが得策……なんだけども、その愚痴を黙って見過ごすほど、俺は馬鹿ではなかった。



「んんっ!?ちょっと持って!

 えっ、えっーと、さ。何をクラスメイトに話したの?」

「ん?白が茉白になったってことだよ!もちろん、口止めはしておいたから話が他人に広まることは無いはずだよ」


 いや……ちょっと愛葉さんや。

何やっちゃってんのさ!٩(๑`^´๑)۶


「っ……」


動揺した俺はバランスを崩し、咄嗟に近くにあった椅子に捕まった。


 すぐに怒ろうと思った。当然だ、俺の秘密を勝手に……しかも相談も無しに他人に話したのだから。



 だけど、ふと思った。これも全部“俺の為”なのでは無いかと。──俺に何とかして外に出て貰うきっかけを作ろうと自ら考えて動いてくれたのでは無いかと。


 俺の幼なじみはそういう気遣いをしてくれるデキる幼なじみだ。だから、俺にとって負の記憶しかない中学に少しでも花を持たせたかったのだろうか?なんて考えてしまった。





 だから、喉元まで来ていた怒りの言葉をそっと飲み込むのであった。



 ☆☆☆


「それで……行かない?」


 愛葉はなるべく俺の機嫌を損なわないように、だがなるべく自分の意思を尊重して欲しい……そう感じられる言葉の重みがあった。



「…………っ……と。でも……」



 ──数秒の思考。

 嬉しさと恐ろしさ。今の所は五分五分。

 その為、ほんのわずかな時間でも俺は多くのことを考えてしまう。


 ──俺は1人じゃないってこと。


 ──案外、外の世界も悪くないってこと。


 ──何事にも挑戦してみないと始まらないということ。




 俺はもう、そのことを知っている。




 ──────だからこそ、



「はぁ……行くよ。折角準備してくれたんだしね」


 本当は行きづらい。ほぼほぼ顔を出さなかった俺を今のクラスメイトがどう思っているのかが“怖い”からだ。


 だけど、それもまた一興。俺の長い長い人生のほんの一日に過ぎない。人生で1番辛い日々を乗り越えた俺に怖いものなんて無いだろう。


 そう強い意志を持って考えた俺は、緊張で震え始めた足を両手でロックし抑えつつ、中学校の卒業式へ行くことを決意したのであった。











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