第6話 引きこもりをやっていた人間です!!


「それで……君は一体何者なのかい?」


 家族揃って久しぶりにリビングに集まると、早速父が会話をスタートさせた。


 さっきまで、かなりおちゃらけていた様子の父だったが、こういう真剣な場ではそれなりに頼りになる。


 でも……少し気になったのだが、父の俺に掛ける言葉は、家族に掛けるような気軽さは無く、どこまで行っても他人に掛ける言葉なのが少し寂しかった。


「っ、お、──」

「琥珀ちゃんだよ!」


 すぐに俺は告白しようとした。だが姉の声によって邪魔された。(`ーωー´)イラッ


「琥珀……ちゃんと言うのか。じゃあ凛花の知り合いなんだな?」

「うん!」


 いや、違うからね?


 知り合いとかじゃなくて、家族なんだよ!?

 もしかたら姉の知り合いの中に俺と顔が瓜二つの人が居るの?……居ない、よなぁ( ¯▿¯ )?


 なんてツッコミを入れたい所だけど、コミュ障モードが発動し始めてきたので無理だった。


「じゃあ琥珀ちゃんは家に遊びに来たのかな?」

「うん!」


 おいー姉!勝手に記憶を捏造するなぁぁぁぉぁ!!!


 やばい、このままじゃ本当に俺が姉の友達になってしまう。それだけはマズイ。話しが勝手におかしな方向へ進もうとしている。


 このままじゃ……俺が外に出る事になってしまう。

 それだけは、それだけは嫌だ。絶対に。絶対にっ!


 まだ俺は自分自身を越えられていない。だからまだ家は出られない。出たくない。出れる覚悟がない。


「──違う、よ」


 だから俺は頑張って父の言葉を否定した。

 ここから話を調節出来る自信は無いけど、できる限りやってみる。


「へ?」

「──友達なんかじゃない」


 まず、俺に友達とか居たことないしな。


「そう、私の愛しき推しキャラよ!」

「──違うから!」


 ちょくちょく邪魔する姉を無視しつつ、俺は母と父に否定の言葉を伝える。


「じゃあ、あなたは誰なの? どこから来たの?」


 先程から蚊帳の外で喜怒哀楽の様々な顔をしていた母がようやく口を開いた。


「…………っ、」


 口篭る俺。だって、言わなきゃいけない場面になったのに、コミュ障モードがフルに活動し始めてしまった。








「どうしたの? あなた、喋れないの? 喋れない理由でもあるの?」

「母さん、そんなに詮索したら琥珀ちゃんが困っちゃうだろう?」

「はぁ……分かったわアナタ。じゃあ私は先にしろの分のご飯を置いてくるわ」


 おいおいおーい(´・Д・)

 ここに俺は居ますよー

 もう晩ご飯を食べてお腹いっぱいですよー


「あー、忘れてた。弟……そう言えばご飯抜きだったね。哀れ。でも、そろそろ私文句でも言いに行こっか?父さん母さんいつも大変そうだし」

「はは、そう言うなって。俺たち家族は白のことを待っててやればいいのさ。そうすれば自ずとアイツは出てくるはずさ。 なんたって家族なんだからな。俺たち家族が信じてやらないで誰が信じるんだ?な、だろう?」

「そうね。当たり前ね、」

「うぅ、そりゃ分かってるけど……って、はぁ~。姉は見守るのが仕事って前に決めたもんね。分かってる。私だって白を信じてる」


「…………」


 でも、知らなかった。家族が……俺のことをこんなにも考えてくれているなんて。


 もう見限られたと思ってた、見捨てられたと思ってた、俺は一族の恥だって思ってた……


 ぐっと、拳を強く握りしめる。だって、ずっと……家族の皆は……俺のことを見守っていてくれた。信じていてくれたのだから。





「あの……」

「ん?」


 俺は微かな声を振り絞り、晩ご飯を2階に持って行こうとした母を呼び止めた。


「お、俺は……」

「え。オレっ子……なの、琥珀ちゃん!?」


 心臓がドキドキと緊張で高鳴る。今、俺の正体を明かしたら家族はどんな反応をするのだろう。信じてくれるかな?助けてくれるかな?一緒に今後のことを考えてくれるかな?


「ふぅ、」


 ──なに迷ってるんだ。俺自身が家族を信じないで、誰が家族の一員だって言い切れるんだ?


 そうだろう、俺?

 そして、お前は一宮の男だろう?気張れ(ง •̀_•́)ง!



「俺っ、俺っ、俺は……一宮 白。 あなた達の家族で、この家で引きこもりをやっていた人間です!!」


 俺は家族にようやく正体を打ち明かすことが出来た。

 多分、昔の俺なら無理だった。だから……ほんの少しだけ今の俺は変われたのかもしれない。強くなれたのかもしれない。

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