第11話 ったく、バカな幼なじみだ(〃´o`)


 幼なじみと気軽に話せるようになり、俺が“茉白”となってから数日が経過したある日。


 当たり前のように家に来る幼なじみの愛葉と蒼太。2人とも、もう少しで高校受験だと言うのに遊んでる余裕があるのだろうか?まぁ、俺も・・なんだけどな。(´Д`)


 2人とはその間、沢山話をした。これまでの空白を少しでも埋めるかのように。凝縮した濃厚な時間を過ごした。(ゲームをしたり、アニメを見たりしたよ)


 2人とも案外そっち系(アニメやゲーム)はやらなそうだと思っていたけど、それは大きな勘違いで……元から俺がやってるゲームをしていたり、見ていたアニメが一緒だったりとついつい盛り上がってしまった。



「──それにしても、茉白はその姿にはもう慣れたのか?」


 少しだけ色褪せた中学の制服をカッコ良く着こなした蒼太が俺のことを自然に膝に乗せながら聞いてきた。


「そ、蒼太?」

「ん?どした、茉白」


 流石に距離が近すぎて、離れたいんだけど!?

 一見、カッコイイ中学生が小学生低学年の可愛らしい子供を膝に乗せている微笑ましい場面に見えるが………実際は同年齢の男同士である。ははは、“現実”は一旦見ないでおこうな?( 。・ω・ 。)


 まだ蒼太が学校でどういう感じなのかは分からない。だけど、少なくともここでは蒼太の素が見えるのかもしれない。愛葉も同様にだ。


 だからか、ふと思った。蒼太って……なのか?っと。それとも俺をもう既に“女”として……?いや、流石に無いだろう。だって、幼なじみなんだもの。


 それにしても。いずれ「ただいまー」なんて言って、平然と家に入って来そうで怖いけど。それが蒼太なりのコミュニケーションだということは十分に理解しているつもりだ。だから気にしないようにしている……(・ω・`;)


 ふぅ、蒼太の質問に正直に答えれば「まだまだ慣れていない」が答えだ。もっと深堀させると「コミュニケーションがやはり難しい」というのが課題である。


 俺は自分でもコミュ障を拗らせたクソ陰キャだと思う。家族とまともに話せるようになったのもここ最近だし、幼なじみの2人に限ってはまだ慣れない部分も多い。


 ──まだその程度のレベルなのだ。


 陰キャモードのせいで人一倍キョドりやすいし(愛葉の時が多め)、コミュ障モードのせいで会話で上手く喋れないし(蒼太の時が多め)……本当にまだまだで大変なのである。



「慣れ……か。まだまだ、かな。やっぱり男でいた時の方が断然長い訳だし」


 コミュ障含め、話し方、歩き方、身だしなみ、そして女としての『覚悟』……など課題をあげたらキリが無い。


 それを全て克服して前を向く?

 普通に考えて無理じゃね?≧(´▽`)≦


 ☆☆☆


「それでさ、」

「ん?」


 蒼太の勉強の区切りが良かったのか?蒼太は腕を伸ばしながら話を切り出してきた。


「単刀直入に言う!茉白、俺と同じ高校に行こう!」

「は……?」


 予想外過ぎて俺は固まった。だって、それは俺の人生を左右する重要な誘いだったからだ。


「あ!望月くんに先に言われた!?まぁ、いいけど」


 愛葉もそう言う……ということは、蒼太と同じ誘いをするつもりだったのだろう。


「え、え、なんで、高校?」


 母からも言われた。そして高校へ行くと俺は言ったものの、曖昧にして逃げていた。だけど、こうしてまた誘いチャンスが訪れた。


「茉白ちゃんの引きこもりもそろそろ終わりがいいと思うんだ」

「そうだな、もうやること無くて飽きてきた頃だろ?外を出歩きたい頃だろ?」


 うぐっ……なんでそのことを知ってるんだ!?

 感が鋭い2人にたじろぎつつも。


「で、でも。俺なんかが高校なんて行ってもいいのかな……?」


 俺にとって高校とは遠く果てしない存在。

 それに、逃げた俺にはもう。行けないステージで歩むことの出来ないステージなんだ。


「中学不登校、勉強未熟、精神未熟、それに男から性転換して女になった?こんな不可思議で中途半端なやつが、皆と同じ道を歩くことなんて出来るはずがないんだ」


 遠慮……では無く。“不可能”であると諦めているのだ。





「──────そんなことないよ!」


 だが、いつまで経ってもグチグチと……重い腰を上げない俺を見て愛葉は声を大にして立ち上がった。


「え、愛葉?」


 愛葉はすごく悲しそうな( ´;ω;` )表情を浮かべながら、鞄から大量の参考書らしき物?を取り出し、俺へと放り投げた。


「うわっと!?(゚д゚)」


 ギリギリでその参考書を受け止める……

 どうやらこの参考書全てが愛葉の使用した物らしく、少しボロボロになっていたが要点や解説などのメモ書きがほぼ全てのページに書かれており、すごくわかりやすい参考書だった。


 これってもしかして……俺の為に?


「茉白ちゃんはなんで初めから諦めてるの?」

「え……?」


 愛葉は俺のために怒っているのだ。

 それもそうだ、愛葉と蒼太はいつも真剣で真面目。だけど、俺はいつも逃げ腰で臆病で、勇気がなくて……2人とは違ったからだろう。


「何事にも挑戦する。それが昔の、私が知る幼なじみだよ!」

「そーだな。こんなナヨナヨするなんて俺の知る幼なじみとは随分違うな」


 え、は?(´-д-)

 2人が言ってる“幼なじみ”は引きこもる前の俺のことだろう?


 あの時の俺はただ愚直に頑張ればなんとかなると思っていた。そんな考え無しで無鉄砲に突っ走っていただけなんだ。だから自信が無いけど、どんな事にも進んで挑戦してたしナヨナヨもしていなかった。そんな余裕なんて無かったからだ。


 ──だけど、いくら頑張っても結果は出なかった。喉から手が出るほど欲しい『1位』が『優勝』が『金賞』が手に入らなかった!家族の経歴を1つも超えることは出来なかった。

 だから俺が引きこもりになったというのは2人も知っている事実なはずだろう?前の俺はもう、ここには居ないのだと分かってるはずだろう。


「じゃあ。どうするんだよ!今更、無理だろ!?」


 無意識に叫んでいた。

 その時だけは茉白としてでは無く、白としての言葉だった。


 もうあの時の俺には戻ることは不可能なのだと。

 いくら頑張っても、人生の最高到達点には決して辿り着けないのだと。それが限界なのだと。


 だが、俺の必死の叫びも、全く疑っていない表情の愛葉と蒼太は首を横に振って受け流した。


「え?だって、まだまだ人生ってこれからじゃね?」

「そーそー、諦めるのはまだ早いよ。茉白ちゃん」


 ──絶対に俺を外へ出させる。そして同じ高校へ行く。そのために愛葉と蒼太は必死だった。


「無理無理!絶対に無理だって」

「やってもないんだから、そもそも始まらないと思うよ!」

「それは、そうだけど……誰も理解者にはなってくれないと思うんだ」


 俺の身体の変化を皆に言うのかどうかは別として、俺自身を単体で理解してくれないと思い怖いのだ。


「いいえ、そんなことない。だって私がいるもの」

「そうさ、俺が茉白を理解してやれる」


 だけど、やはり2人は自信を持って断言する。


「だって、同じ高校じゃないっていうのに?」


 愛葉も蒼太も勉強が出来る。どうせ、俺とは違う進学校へ行くのだろう?

 ──そう、俺は今まで勘違いをしていた。


「同じ、だぞ?」

「は?なにが?」

「だから、茉白と同じ高校へ行くって、俺も。東雲もな」

「ええ、そうだよ」


 え、えぇっっっ!?!?!?


「そ、そ、そ、そう言えば……“同じ高校”に行こうって最初に言ってたっけ」


 でも待てよ。こ、こんな時期なのに?まだなのか!?


「まだ、高校を決めてないのか!?」

「あぁ、俺はお前と、」「同じ高校に行きたいんだもの!」


 あー、はは。

 つい微笑を零してしまった。呆れでは無く、ただ単純に嬉しさの笑みだ。


 ったく、バカなんじゃないか?俺の幼なじみは。

 どうして、俺なんかの為に人生を天秤に掛けたんだ。


 どうして、そんな。俺のことを。

 求めてくれるんだ。誘ってくれるんだ。



 ──ドクン、と、1回心臓が高鳴った。



 嬉しくて泣きそうになった。だけど、我慢。

 だが、その幼なじみの覚悟が俺の中で確かに響いたことは事実である。







「……俺、行くよ。高校。愛葉と蒼太と一緒に!」


 それが俺が勇気を振り絞って出した強い強い決意の言葉であった。







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