第4話 母め、ハメやがったな!٩(๑`^´๑)۶


 夜になり、俺は母からほぼ無理やり着替えさせられ、家を追い出された。母は一瞬外を確認したと思ったら……素早い行動に移っていたので何かあるだろうと思ったけど。


 母め、ハメやがったな!٩(๑`^´๑)۶


 だって、幼なじみの2人の下校ルートに俺の家の道は入らない。つまり幼なじみの2人が俺の家の前に居るはずがないのだ。


 ──だが、俺の目の前には幼なじみの2人が立っていた。


 久しぶりに見た幼なじみの2人。

 幼稚園からの腐れ縁で……家も案外近く、クラスも毎回同じで。家族間の間柄も良い。正真正銘の幼なじみ。


 蒼太も愛葉も相変わらずイケメンで、美人で……更に勉強も俺なんかより出来るし、運動も出来る。コミュニケーション能力も異次元だし、陰キャでコミュ障の俺からしたら天と地の差もあるのだ。


 前の姿の時は、よくその天才2人と自分を比べてはため息を吐いてたっけ。あぁ、懐かしい……とは、行かないものの劣等感を抱えていた時期があったのは事実だ。今は引きこもっていたからそこまで強くは感じないけど。



 って、改めて。どうして幼なじみの2人がこんな所に居るんだっっっっ(゚〇゚ ;)!?



 意味が分からなすぎだし、急過ぎで、ただただ唖然とする俺だったが、2人とも俺に対して同様の唖然とした態度をとっていた。


 久しぶりに“落ちこぼれ”の幼なじみと再会したからだろうか?それとも“人間として不完全”だから家から勘当されたのでは?と、驚いているのだろうか……?


 いや。違うな。だって……


 適応能力が高かった家族のせいで忘れがちになるが、今の俺は前のガリガリの陰キャコミュ障の身体じゃないんだった。


 つまり、幼なじみの2人が驚いているのは俺の容姿についてだろう。──決して、久しぶりに俺と会ったからでは無い。


 そう思うと、俺はすっとコミュ障モードに入り、冷静さを保つフリをする。久しぶりの顔見知りとの再会&外への恐怖感から一旦他人のフリをして切り抜けるのが最善だと考えたからである。


 さっ、さっさとこの場から立ち去ろう。俺はコンビニ行くのだ!それが今日課されたミッションなのだ!……と、強く念じながらそそくさとこの場から立ち去ろうとするが──そんな上手いこと切り抜けられず、


「ちょ、ちょっと待ってアナタ!」

「そうだぜ、そこの可愛い子!」


 当然のように呼び止められた。

 そして当然のように俺のパーソナルエリアに侵入し、コミュニケーションを取ろうとしてくる幼なじみの2人。



 ちっ、……陽キャが!俺に出来ないことを平然とやってのける!そこにシビれる憧れるぅぅぅ!(> <)



 なんて悔しく思いながら、俺はコミュ障モードが絶賛発動中なので上手くコミュニケーションを取れずにいた。


 幼なじみの2人はそんな焦る俺なんて関係なく、とにかく俺の容姿について褒めまくっていた。


 「可愛いねー」だとか、「ハーフなの?」とか。とにかく褒められた。


 別に悪い気はしなかったけど、

 ──全くこのロリっ子が俺だとは気付いてくれない。


 当然と言えば当然なのだが、こういうモヤモヤとする曖昧な展開には普通ならないだろ?愛の力だとか絆の力だとかでこういうものは気付く展開なのに。


 って。まぁ、コイツらとはほとんど関わりが無かった訳だし 、愛の力だとか絆の力だとかが実るわけが無いよね。(´▽`)



 そんな幼なじみの2人はどこまでも俺に付いてきて、そろそろ“ウザイ”という感情が出てきた頃。



「──それでね、聞きたいことがあるんだ!」



 唐突に口調を変えて話してきた愛葉。今まではギャルが可愛い小物を見つけてはしゃぐような口調だったのに、今の口調はギャルが子供と接する時のような口調だった。



 それで、聞きたいこと?俺に……?いや、違う。どうせ、このロリっ子の俺に対してだろう。


 だが、これから俺は愛葉の予想外の質問によって、積み重なった負の感情が粉々に粉砕されることとなる。



「“一宮 白”って、男の人をアナタは知ってる、かな?」



「は……!?」


 絶対にありえないことなのに、ありえるはずがないのに……愛葉の口からとんでもない名前が出てきた。


 ど、ど、どうして俺の名前なんかを?


「教えてくれることならなんでもいい。ただ俺たちは“一宮 白”のことが聞きたいんだ。君が白の家から出て来たから、少しは知ってるかなと思ってな」


 蒼太も聞き方が完全に子供(幼稚園生から小学校低学年)と話すようなゆったりとした口調なのが少し癪に触るが、そんなことよりもどうしてこの2人が俺のことを知りたがってるんだ?別に関係のない話じゃないか。どうでもいい話じゃないか!


身長差的に見上げるようにして睨む俺。


「あぁ、急にごめんね、困らせちゃったね。でも大切な“私の”幼なじみなの」

「そーそー、大切な“俺の”幼なじみなんだ。だから今度こそは絶対に支えてやりてーんだ」


「……っ」


 えっと……俺のことを嫌ってるんじゃないの?

 下に見てるんじゃないの?だって、ずっと他人のフリをしてたんだぞ?コミュニケーションなんて全く取ってないんだぞ!?



 どうして……どうして…………っ!?

 家族も、幼なじみも。どうしてこんなダメダメで何も出来ず引きこもった俺なんかのことを……?


「──ど、どうして?」


 もう、気付いた時には口に出していた。どうしようも無かった。身体が、心が、感情が、理性が……全てが我慢ならなかったのだ。コミュ障なんて関係ない。ただただ俺の中の本音が漏れた。



「「ん、そんなの決まってるわ(だろ)。 白は大切な“幼なじみ”だからだよ(ぞ)」」



 俺のコミュ障も陰キャも……俺の負の部分を全て粉砕してくれるかのような素敵な言葉が俺の中に響いた。


 俺はずっとかけがえのない人達に支えられていた。家族に。そして幼なじみに。それがとても嬉しくて……どうしようもなく嬉しくて。嬉し過ぎて!!!


「うっ……うぇぇぇぇぇーんっっっ‪( ;ᯅ; )!!!‬」


 俺は嬉し泣きしてしまうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る