第25話「JKとデート①」
デパートには市営のバスに乗って向かうことになった。入口にあるICカード読み取り機に札幌の地下鉄や市電、バスなどで使えるSAPIKAを読み取らせて乗車した。
「なんか、最近の技術ってハイテクですよね」
椅子に座り、バスが発進して直後、あの機器を見た久遠が不思議そうに訊ねる。
「そうかな?」
俺も札幌に来ては長い。東京都まではいかないが最新機器や人、そして会社は密集している。政令指定都市の一角を構える北海道で栄えている街だ、それも当然と言うべきだろう。
「はい……私のいた——ってあれでしたね、義隆君も同じ田舎出身でしたね」
「ん、あぁ……まぁ俺だって最初こっちに来た時はびっくりしたぞ? 切符なんてありもしないからな。それはもう、都会人ぶるのに手こずった」
「あはは……私なんて、まだまだ慣れませんよ」
苦笑いして俯く久遠。
すると、少しため息交じりにこう呟いた。
「ほんと、人間関係とか……疲れますっ」
確かに、と俺は受け止めた。来た時は俺も田舎人っぽ過ぎて結構省かれた記憶もある。今は真面目に一人の道を歩んでいるが幼くもあれば、当たり前のことだ。
悲しそうな顔をする彼女の手を優しく握り直し、俺は久遠に向かって口を開いた。
「……俺がいるから、何かあったら守るからな」
「っ……そ、そうですね」
そう言うと、彼女は少し嬉しそうに微笑んで握った俺の手を自分の膝の上に持っていき、開いているもう片方の手で包み込んだ。
「……」
結局、その後は久遠と何か話することはなく、外の景色を眺めながら一緒に終点まで向かった。
「着いたねっ‼‼」
さっきまで黙っていたのに下りた途端に俺の腕をガシッと掴んで抱き寄せてくるものだから、黙って刻々頷くことしか出来なかった。
まったく、自分から借りとは言え告白したというのに情けないかもしれないが……さすがに腕組みはハードルが高すぎる。
や、やっぱり胸が当たってると色々と思考がおかしくなって駄目だ。
「ん、どうしてさっきから無言なんですか?」
それはこっちが聞きたい。
いや、だって朝に俺から手を結んだら恥ずかしがってたくせに慣れたのか知らないけど……急すぎる。
「——だ、だって……さすがに近いというか」
「えっ……あ、あぁ……そ、その……ごめんなさいっ」
「いや、別に嫌ってわけじゃないんだけど……少し恥ずかしいっていうかね、うん」
そう言うと、彼女は力を弱めながら小さく頷いた。
するすると俺の右腕を包んだ胸と左腕を降ろしていき、俺たちは手を繋いで最初の状態に戻っていく。
ま、まぁ……やっぱり俺たちにはこれが一番だよな。
「——じゃ、じゃあ行くかっ?」
「そ、そうだねっ——」
「おうっ」
恥ずかしそうにペコっと頷いて、俺は柄にもない返事をした。
なぜかそう腑に落ちて、俺たちは心機一転。デパートの中に入っていった。
デパートの中に入っていくと俺たちはさっきの恥ずかしさなど忘れてしまっていて、ウインドウショッピングに思いっきりのめり込んでいた。
「これはどうかなっ?」
そう言いながら、久遠は小さなスカートのひらひらをはためかせて一回転し、試着室で笑顔で飛び出した。
ニコニコと嬉しそうに笑う彼女はとても幸せそうで、俺も思わず笑みを浮かべてしまう。
お世辞でも何でもなく、ただ純粋に可愛い。
「——似合ってると思うぞ?」
「ほんとっ‼‼ 私が気に言ってたやつなんだけど、よかったぁ!」
「さすがだな、久遠はやっぱりセンスあるよな」
「センスっ? いやぁ、別にそう言うわけじゃないけど……なんか、最近はちょっと考えちゃってというか……」
「考えちゃう?」
「っ——あぁ、いやっ! こっちの話だから、ほらっ、義隆君も何がいいか考えてくれないかな?」
「えっ——あぁ、そうだな」
俺が訊こうとすると久遠は焦っているのか、直ぐに話題を変えようとしてきた。少し不思議だが、まぁ、ひとまずはいいかと探してきた女性用のジーンズと白のシンプルなシャツ、そしてつば付きのキャップを手渡した。
「これっ?」
すると、久遠は少し驚いたような顔を向ける。
言わんとしていることは何となく分かるが、そこまで驚かなくてもと思ったがこれに関しては俺の性癖なので仕方がない。
どっちかと言うとパンクなお姉さん的な人が好みなもんでね。
「まぁ、似合うかなぁって?」
「に、……そ、そうだねっ! じゃあちょっと待っててね!」
「あぁ、頼むよっ」
数分経って、また試着室から出てきた久遠は俺が渡しておいた服をしっかりと着こなしてくれていた。しかし、やっぱり素材がいいのか、それとも誰でも似合う服なのかはよく分からなかったが似合っていて、俺にはドキっときた。
結局、その後は俺のコーディネートもしてもらい、心機一転してご飯を食べに行くことになった。
ご飯はもちろん、金がたくさんあるわけでもない一人暮らし高校生の俺たちは札幌駅の地下にあるサイゼリーアに行くことにした。
「——やっぱり、美味しいですね!」
「あぁ、こんなに安くてうまいのは最高だな!」
「うんっ! これで二人合わせて700円で済んじゃうんだから、お買い得ね!」
元値がどうとか等は置いておいて俺たちは満足だった。最近はサイゼで喜ぶ彼女とかが問題になったらしいが……このありがたさを分からない人間は安易に批判しない方がいいと思う。
「これからはどうします?」
半分ほど食べると久遠は間違え探し冊子を見ながら、そう訊ねた。少し迷ったが俺はすぐに――
「うーん、俺は本屋寄っていきたいかな」
「本屋ね、分かりましたっ。その後はどうしますか?」
「いきたいところとかあるか?」
「……私は、特にないですけど」
「必要なものとかはなかったりしてないか?」
「……んとぉ、大丈夫です。多分っ!」
「多分って……まぁ、特に行くところもなさそうならカラオケとかはどうかな?」
「カラオケですか⁉ あ、でも……私少し下手ですし」
「大丈夫だって……笑わないから」
「うわっ! もうニヤニヤしてるじゃないですかっ……」
「あははは……冗談だって。とにかく、本屋に行ってからだな」
「は、はいっ……」
少し頬を赤くした久遠は無言でパクパクと食べていき、俺たちは本屋に向かい、お目当ての本を買った後。カラオケに向かった。
そんなこんなでカラオケもいつの間にか終わり、帰路に着く俺と久遠。流石の拾うか、帰りのバスではお互いに頭をくっ付け合いながらうたた寝してしまった。
そうして、家の前まで戻ってきた。
「今日はありがとうございますっ」
「あぁ、こっちこそ」
「明日とかって……どんな感じですか?」
「そうだな、高校も途中まで一緒に行こうか。帰りも迎えに行くよ。とりあえず、文化祭までよろしくな」
そう言うと、久遠は満面の笑みで頷いて部屋に入ってく。
俺もその姿を見て、隣の部屋のドアを開けたのだった。
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