第28話「JKの友達との対面」


 生徒会長がいなくなって1分も経たず、久遠は遠くの方から小走りでやってきた。


「っはぁ、っはぁ、っはぁ……」


「だ、大丈夫か?」


「ん……、だ、大丈夫っ! ……んぁ……はぁ」


「俺は大丈夫だし……ほら、落ち着いてって」


「で、でもぉ……遅れちゃってぇ」


「いやいや、時間通りだし。焦らなくてもいいから」


「うぅ……すみませんっ」


 申し訳そうに謝る久遠を見ながら可愛いなと思いつつ、やはり変なところでぼろが出るのが実に彼女らしくて笑みが零れてしまった。


 目の前で「ふぅ、はぁ」と繰り返し深呼吸をしながら息を整えて十秒後。彼女は回復したのか、俺の手を掴みながら。


「あ、そうだっ。さっき誰かとお話してませんでした?」


 お話?

 一瞬分からなくなったが、そう言えばそうだった。


「誰かって……あぁ、生徒会長さんか……」


「か、会長さんが!?」


 俺がボソッと返すと膝に当てていた手を頬に持ってきて、血相を変えるかのように驚いていた。


 なんか変なことでも言ったかなと首を傾げていると——


「か、会長って……でも、え、そのっ——な、何か嫌がらせとかされてませんでした!?」


「嫌がらせ?」


「えっとぉ……その、私……色々ありますしっ」


 恥ずかしそうにもじもじと答える久遠に、ハッとして俺はすぐさま否定する。公衆の面前でいじめだとか、公言するわけにもいかない。


「いやいや、なんもない! ただその、怪しまれて声掛けられただけだからっ!」


「あ、怪しまれた?」


「っ——あ、怪しまれたというか……その、不審者だと思われたっていうか……」


「義隆君は不審者じゃないです!」


「そ、それは俺が一番知ってるよ……」


「あ、すみません……ついっ」


「いや、いいんだ。別にっ」


「えへへ……」


 いつもよりも人の視線が強いのか、少し緊張してしまって自分が何を言っているのか分からなくなっていく。やっぱり慣れないな。こういうのはもっとカッコいい男がするものだし……俺には少々荷が重い。


「待ってぇって!!」


 二人で気まずそうに笑っていると奥の方から身体をくねらせながら走ってくる女子生徒。思わず身構えてしまったが久遠が「こっちだよ」と手を子招いていたのが見えて、直ぐに気づく。


「あぁ、来た。夢、遅いよ」


「遅いって……はぁ、はぁ……だいたい、ゆきちゃんがっ……はや、い……んだ、よぉ」


「運動不足」


「私は……文芸部なんだからっ……運動なんてしないわっ」


「その謎理論やめてよ、全国の文芸部に謝って」


「嫌だわっ、そんなのっ」


 悪態をつく女の子がそこにいた。

 髪の毛は明るめの焦げ茶、いやほぼ黒髪か。そんな黒髪は首辺りでカッとされていた。おそらくショートボブ。正直、女性の髪形の名前なんてほとんど分からないが多分あっている。


 黒髪黒目にそして、黒ぶちの丸眼鏡。運動不足で文芸部と言われてピンときたが図書館にいそうなあからさまなインテリヒロインのようだった。


 俺が二人の会話をまじまじと見つめていると、夢? さんは後ろに立っている俺に気づいた様で——こっちに近づいてきた。


「あ……な、なんですか」


 さすがに近すぎて、地味に大きな胸が当たりそうだ。


「——ちょ、さすがに……ちかぃ」


「ふぅん……これがゆきちゃんの」


「——え」


 俺がのけぞっていると彼女は周りを一周しながら匂いを嗅いだり、「ふむふむ」と顎に手を当て探偵のように観察していく。


 そんな動きに唖然としていると、終わったのか動きを止めて今度は久遠に近づいていき、耳うちをした。


「——んぁ‼‼ な、何言ってんのよ!!」


 何を聞かされたのか、久遠が顔を真っ赤にして大声を出した。勿論、声は辺り一面に響いて、帰宅しようとしていた女子生徒が一斉にこっちを注目する。


 ギロッと睨まれて、俺の方をみんなが見つめる。


 ふと、今朝駅前で痴話喧嘩をしていたカップルを思い出して、まさか皆そんな風に思っているのではと考えてしまう。


「あぁ……えっとぉ」


 しかし、俺が慌てていると勘違いされることはなかったようで蜘蛛の子散らすように各々の帰路に戻っていった。


「はぁ……」


「ん、どうしたの?」


「ど、どうしたのって……危うく俺が不審者かと勘違いされましたよ」


「まさかぁ……」


「久遠が顔真っ赤て叫んだんだけど?」


「あははは……私はシーらないっ」


「……」


 反応、そして行動然り。

 どうやら俺はヤバい女の子と知り合ってしまったのかもしれない。






「あ……その久遠、大丈夫か?」


 フリーズした彼女(仮)に声を掛けると、気づいたのかポカンとしていた口を閉じながら驚いた。


「——はぁ⁉」


「だ、大丈夫か、ほんとに?」


「あ、え……ぁ……そ、その……私は、へ、変態じゃないっ……ですからね!!」


「え」


「はい?」


 このインテリ女子は久遠に何を吹き込んだんだ?


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