第29話「JKとデート②」


 久遠の友達、夢さんに変な疑念を抱きながら俺たちは地下鉄に乗り込んで駅前まで向かった。


 かれこれ10分程度で札幌駅に着いた。


 とまぁ、その10分間はなぜだか顔を真っ赤にした久遠が俺の方をチラチラと見つめてきて、カップルとは言えないほどによそよそしさ全開だった。もはや夢さんは俺たちの関係に勘付いているのでは? と思ったが、彼女は何も言ってこないのでバレていないようだった。


「——っぷはぁ‼ やっぱり外の空気はっ、美味しいわねっ!」


 俺と久遠を追い越して、階段を登り外に出る夢さん。まるでビールでも飲み終わったかのように息を吐く。


 そんな姿を後ろから眺めて、お互い見つめる俺と久遠。


「ははは……」


「えへへ……」


 夢さんの姿のおかげか、何かあほらしくなって俺たちは笑みを溢した。


「おーい、来ないのぉ?」


 上の方から訊ねる夢さん、そんな声を聞いて——


「行くか」


「そうですねっ」


 俺たちは階段を上った。





「それで~~どこ行くぅ?」


「え、夢が考えてたんじゃないの⁉」


「え、あぁ……だって私、義隆君に会いたかっただけだし……」


「っ……ほんと?」


「うん……?」


「なんで先に言わなかったのぉ!!」


「え、先に言ったじゃん。ん、言ってなかったっけ?」


「言ってないよ! というか……私は本を買いたかっただし。三人でどこ行こうかなんて考えてないわよ?」


 さも当然かのように言い放つ夢さん。すると、彼女の返しに困って固まった久遠がおどおどとこちらに顔を向ける。


「どうした?」


「……ほんと、夢がごめんなさいっ」


「え——いやいや、頭下げないでっ!」


「わ、私の勘違いで遊びに連れてって……ご、ご飯これからもめっちゃ作るので許してください」


「ちょっ、泣かないでって——俺は迷惑だなんて思ってないから!」


 さすがに涙目で頭を下げられても困る。


「それにご飯は毎日作ってもらってるから……そんなことしなくてもいいからっ」


「ほ、ほんとに……? 怒ってない……?」


 瞳が潤っていて太陽の光がきらきらと反射している。普段から華奢だとは思っていたが涙目になるとここまで弱弱しく見えるのか……。ちょっとかわいいな。


 ——って、感心している場合じゃねえよ、俺!!


「——何やってんだっ!!」


 おっと、やばい。心の声が外に漏れた。


「っう――や、やっぱり怒って……」


「あぁあぁ!!! じゃないじゃないっ——そうじゃないから!!」


「鈴木〇之じゃん」


「——え」


「いやぁ……なんか今の台詞がね、似てるなぁと」


「あぁ、そっか……って!! 夢さんも変なこと吹っ掛けないでください!! あぁ、ごめん! まじで怒ってないから、久遠っ~~大丈夫か、大丈夫か?」


 夢さんの不意の狙撃に撃ち抜かれた俺はその後、久遠が平常心を取り戻すのに10分ほど要した。


 結局、俺たちは本屋に行き夢さんの欲しがっていた小説を買い、駅を出て大通公園の通りを歩いていた。


 信号が赤になり、足を止める。


「はぁ……もう、夢も考えてよ」


「ほんとだよ、なんか久遠が言ってたことなんとなく分かった気がするな……」


「ん?」


 ナンノコトデスカ? と片言の台詞が浮かんでくるような顔で俺たちを見つめる。


 どうやら椎奈夢という久遠の友達は中々なムードクラッシャーらしい。読書好きな文芸少女の皮を被った世間知らずの子供のような感じで、それはもうギャップがあり過ぎる。


 見た目も久遠ほどではないがかなり可愛いのに性格がこうだとさぞモテないのだろうと自然に考えてしまう。


「……夢。色々と拗らせないでって言ってるの」


「こじらせる? 漫画の事?」


「え、漫画?」


「こじらせお姉さんとの同棲生活っていう漫画。ほら、私続編かったし」


「へぇ……そうなんだ」


「うん」


「——じゃなくて‼‼ 本の事じゃないわよ! 私が言っているのは色々と勘違いさせるようなこと言うのやめてってことよ」


「あぁ……私、そんなこと言ってるかしら?」


 半分頷いてから、彼女は首を傾げる。久遠は夢さんの表情に「もぅ」と悪態をついた。


 しかし、全くもって聞き耳を持っていないのか「ふぅん」と一蹴し彼女は何事もなかったのかのように話しだす。


「いやぁ……まぁ、考え過ぎでしょ? ほら、最近付き合った二人だからここまでたどたどしくなってるのくらい。私だってわかるわよ? それに、その責任を押し付けないで」


「義隆君。私と夢、どっちが悪いか聞いてもいいですか?」


「え、あぁ……それはまぁ夢さんじゃないかな」


「ですよね」


 急に回ってきた会話のターンだったが、散々ばらこじらせてきたのはどう考えても夢さんだった。


 うんうんと頷く久遠にギョッとして捕まる夢さん。


「なんで!!」


「いやぁ……だって、謝ろうとしてる俺に変なこと吹っ掛けるし」


「思ったこと言っただけじゃん」


「それがダメなんだと思いますけど?」


 中々な反論に驚いた。

 というか、久遠の友達はこんな人ばっかりなのかと心配になるくらいだ。


 さすがにこんな人呼ばわりは失礼だろうけど、これは許してほしい。


「……うぅ。私、そんなに悪いことしてるかなぁ……」


「してますね、はい」


「うぐっ……なんか、カップルにそう言われると少し痛いかも」


「改めてくださいよ……それじゃあ、ほら。行きましょ」


 そう言って、俺は若干涙目になった夢さんを引き連れ、行きたかったゲームショップへ向かった。





 


 





  

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疎遠だった幼馴染に再会したらキスされた。 藍坂イツキ @fanao44131406

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