第16話「JKとショッピング」
あっという間に動物園でのデートは終わり、俺としては少なからず成功を収めたと思う。ため口と呼び捨ても許されたし、なんといっても久遠の作る唐揚げ弁当が最高級に美味しかった。
唐揚げと言うよりかはザンギっぽい味付けだったがとにかく、俺のような育ち盛りの男には響く濃くて美味いものだった。いや、美味すぎた。
白米に合っているし、レモンとの相性も抜群。彼女の腕は認めていたがここまでとは思っていなかった。
将来はもっと研鑽を積んで、久遠ザンギ店でも開けるくらいだ。真面目にお世辞抜きにだ。
「うん、最高だな。その未来も」
こくりと一人頷く俺。
今日も今日とて、俺は久遠の部屋の前に立っていた。
なぜかと言うと、昨日の帰りに明日は洋服を買いに行きたいと誘われたからだ。せっかくなら俺にも見てもらいたいと言っていたし、俺としてもいろんなものを着てくれるともなると行く以外の選択肢はなかった。
「お待たせっ!」
今日は時間通り、昨日の反省を生かしてくれたのか彼女は満面の笑みで部屋から飛び出してきた。
「おはよっ」
「おはようございますっ! あれ、今日はなんか機嫌よさそうですね?」
「えっ、いや別に……久遠が楽しそうに笑ってるからだけど……って昨日の俺、そんなに機嫌悪そうだったか?」
「う~~ん、ちょっとだけ眠そう? でしたね……」
「あぁ~~、それはすまん」
「いえいえ、別に謝る必要はないですよ! 私が昨日も今日も誘ってるんですからっ」
「でも、了承したのは俺だ。以後、気を付けるよ」
「……別に、気にしてないのに。もぅ」
「いいのいいの、とりあえずほら、行くぞ!」
少し困った顔で呟く久遠を俺は笑顔で連れ出した。
「うーん、これとかどうですか?」
「いいんじゃないか? ほら、久遠ってスタイル割といいし、ラインわかる服でも映えるしな」
「そ、そう言ってくれるのは嬉しいんですけど……これはぁ、そのっ……ちょっと恥ずかしいと言うか」
頬を赤らめ、両手で顔半分を隠している。まあ、久遠の着ているのは半袖セーターにカーディガン、一時期流行った童貞を殺すセーターってやつに一番似ている。
とはいえ、昨日の服だって肩出してたし、正直どの
「そうかぁ……う〜〜ん、ならこっちとかはどう?」
そう言って俺はもう一つの服を見せる。いわゆるブカブカパーカーってやつだ。体のラインも見えないし、背の低い女性にはかなり似合う種類の服でもある。
まあ、とは言っても久遠はそんなに身長が低いわけでもないが……。
俺が身長173cmだから、それで行くと彼女はおそらく160cmって感じだろう。
「な、どう?」
一枚上着を脱ぎ、久遠に被せる。ふわりといい香りが舞って、ちょっと嬉しく感じた。
うん、変態って罵ってくれ。でも、それでいいっ! 開き直ろう、俺は変態なのだから!
「あ、いいですねっ、これ!」
「だろっ!」
鏡を見ながらくるっと一周。
その度、シャンプーのいい匂いがするしもうどうにかなりそうだった。
「買いますっ!」
「おうっ!」
それからも服屋さんを転々としいつの間にか時間はお昼。俺たちは札駅近くのクレープ屋でご飯を食べることになった。
「えっとぉ……ブルーベリークリーム一つお願いします! あ、義隆君は何にします?」
「俺は……じゃあ、これ、チョコバナナにしようかな」
「じゃあ、それお願いします!」
「かしこまりました。では、金額は合計987円になりますっ」
「あぁっ、俺払うか?」
「じゃあ、とりあえずお願いしますっ」
「おう。では、これで」
「ありがとうございます。13円のお返しです。では少々お待ちください」
「ありがとうございますっ」
俺は店員さんからお釣りを受け取り、そばにあるテーブル席に腰掛ける。
「こんなところにあったなんて知らなかったな」
「そうですか? 結構前からありましたけど」
「え、そうなのか?」
「はいっ。女子高生の間では人気ですよ。その、あれですねっ。今流行りのインスタ映えってやつです」
久遠は目を閉じながらふふんと説明する。見た感じじゃあまりピンときていないのだろう。
「久遠はやってないのか?」
「え?」
「いや、インスタ」
「や、やってませんよ……そんなのっ。決して流行にのり遅れたわけじゃないですから、決して」
「そうか、そういうことなんだな」
「な、なんでそうなるんですかっ! 違いますよ! 本当に、ただキャラじゃないので……って理由だけです」
うぅ……と借りてきた猫のように背筋が曲がっていた。いやはや、縮こまった
久遠も可愛すぎるよ、ほんと。
「あはははっ。すまんすまん」
「ほんとに、なんですかぁ……いじめないでください」
「まぁ、ちょっと可愛かったもんで」
「うっ」
「?」
「な、なんでもないですっ!」
虚をつかれてガクッと肩を震わせたのはそっちだろうに、まぁ恥ずかしかったのだろう。俺はそうかと言ってすぐに引いた。
「あっ。そういえばお金っ!」
「ん、あぁ、別にいいぞ?」
「いや、ダメですっ。返します」
「別にいいんだけどなぁ、それにこういうのは男の俺が払ったほうがいいんだろ?」
「それは昔の考えた方です。あっ、もしかして義隆君はアラサーとかなんですか?」
「おい、それは言い過ぎだぞ」
「全然ですよっ。今の時代は女性もお金を払うのが基本です! というか、私はそんな関係になりたいわけじゃないのでいいんです」
「そ、そうならいいけど」
「はいっ。なので受け取ってください」
俺は久遠からクレープの代金を受け取った。別に本当に奢ってもいいと考えていたんだが、久遠の目を見たらそうもいえなかった。仕方あるまい。
「でもっ」
「ん?」
「そんなふうに思ってくれたのはすごく嬉しいですっ!」
えくぼができて、笑みが溢れる。テーブルに頬杖をつきながら俺に向ける笑顔は最強に可愛かった。
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