第17話「JKとJS」
「すごく美味しかったですねっ!」
「あぁ、あれは人気になってもおかしくないな」
「はいっ! クリームたっぷりだし、ブルーベリーがめっちゃ美味しかったです! それに生地もふわふわで最高でした!」
「バナナもうまかったしな」
「もう、たまらんです!」
クレープを食べ終わった俺たちは札駅周辺をダラダラと歩きながら次はどこへ向かおうかと話し合っていた。
数分ほど歩くと、久遠の方から久しぶりにカラオケに行ってみたいですと言われたので俺たちは最寄りのカラオケ屋に向かった。
「混んでるな」
「混んでますね」
札駅から一番近いカラオケ店はカウンターの前のベンチに順番待ちの人たちがいて入ることができなかった。それから数件ほどまわり、大通公園をこえて、いつのまにかすすきのへ。
路地に入って行き、なんだかんだでいつも行っている学生30分50円の格安カラオケに入ることになった。
10分ほど並ぶとすぐに部屋も空き、俺たちはカラオケルームに入った。カラオケあるあるかもしれないがたった二人なのにパーティールームに入れられてなかなか恥ずかしかった。
「広いな」
「広いですね」
「まぁ、いいか」
「はいっ」
ぎこちなく上着を脱ぎハンガーにかけてお互いに隣同士に座った。
周りがあまりにも広くて落ち着かないし、まさか久遠が隣に座ってくるとも思わなくて少し驚いてしまった。
俺が呆気に取られていると久遠が一言。
「あ、あの……先に歌わないんですか?」
「え、俺?」
「はい」
「いやぁ……あれだぞ、久遠も歌いたかったら遠慮なんてしなくてもいいんだぞ?」
「私は大丈夫です。もう少しだけ経ってから歌いますっ」
「でも……」
そこからは数分。結局は俺が先に歌うことになった。少し恥ずかしくて中々上手く歌えなかったが、久遠も声を出すようになってから少しずつ堂々と歌えるようになっていき、終わる頃にはお互いに手拍子をしながら歌えるようにもなっていた。
「っはぁ……疲れましたねぇ」
「だなぁっ。久々だと、喉もガラガラになっちゃうし……衰えたな」
「はははっ……でも、義隆君は歌うまかったですよ?」
「馬鹿言えよ。そんなことないって! それに、真面目にいうなら久遠のほうがよっぽどうまかったぞ?」
「そ、それは……お世辞です」
時間は残り数十分。
誉めると額に汗を浮かべて隣に座っている当の本人の方は頬を赤らめながら恥ずかしそうに否定した。
ちょっとだけ笑みが溢れているし、どうやら嬉しいのが隠せないのだろう。かわいいな、ほんとうに。
「とりま、最後もちゃっちゃ歌って終わりにしよう!」
「そうですねっ」
額の汗を拭い、久遠はにへらと笑みを浮かべる。
「っ」
「……どうかしましたか?」
「や、なんでもない」
少しだけよろめいた。そんな久遠の笑顔がどうしてか俺には煌めいて写って見えた。
時間をきっちり守り、俺たち二人はその場を後にした。時間はすでに午後4時を回り、学校が終わった高校生や中学生がちらほらと見え始めていて、今日も終わりかと悟る。
特に話もしないまますすきのあたりを歩いていると一人の女の子を見つけた。
「あっ」
「どうか、しましたか?」
「や、そういうわけでもないんだけど……あの子」
俺が指差し、久遠がその方向へ視線を向ける。
「迷子ですかね」
「そうらしいな、多分お母さんとはぐれちゃったんだろう」
今にも泣きそうな顔で道ゆく人に視線を向けている。
「義隆君、行きましょう」
「そうだな」
久遠は俺の方に視線を戻し、一言。
俺も頷いて少女の元へ向かうことにした。
「あの、大丈夫?」
久遠がしゃがみ込み、少女と視線を合わせる。俺の時もなんだかんだそうだったがやはり彼女は面倒見がいい。黒猫っぽいとは言ったが、今の久遠は立派なお姉さんだった。
「お、ぉかあさん……が」
「はぐれちゃったの?」
「うんっ……お姉さん、誰?」
「えっ……あぁ……っ」
「え、俺?」
焦った顔でコクコクと頷く久遠。
どうやら彼女はまだお姉さんになりきれてなかったらしい。
「このお姉さんはプリンセスプリシュアの幻、シルバーの久遠有希花さんですよ」
俺も腰を落とし、少女に嘘を言う。すると、少女はパーっと目を輝かせて、涙を忘れていた。
「ちょっ、な、何言ってーー」
「っほんと!? お姉さんプリシュアなのっ!?」
「えっ」
今度は久遠の方が涙目で俺に訴える。ここまで言ったんだ。なんとかしてくれよ、プリシュアの久遠さん。とアイコンタクトを送った。
すると、ため息をついてパッと一言。
「えぇ! そうよ、私がプリシュアの幻っ、久遠有希花よっ!!」
キリッと決めポーズまでして、胸を張る久遠。
それを頼もしそうな目で見つめる少女。
そんな面白い光景を写真に収められずにはいられなくなって一枚パシャリ。あ、ちなみに久遠しか映ってないからね。
「それで、君の名前は?」
「私はりりえだよ!」
「りりえね、いい名前だわ。それじゃあ行きましょうか!」
「うんっ!」
久遠と少女りりえは手を繋いで、るんるんに歩いていく。二人は見つめ合いながらにへらと笑みを浮かべていた。
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