第18話「JKとお買い物」
「プリシュアのお姉さんっ! ありがとう! またね〜〜」
「またね〜〜!」
辺りを歩いてかれこれ数十分。近くの交番から警察官が噂を小耳に挟んでくれたおかげで俺たちは少女を母親の元へ返すことができた。
少女はと言うと、会った時はそれはもう泣いてしまいそうなくらいに目を真っ赤にさせていたのに、今となってはキラキラと目を輝かせている。
まあ、それも勢いよく手を振る少女に向けて涙混じりに振り返している久遠のおかげだからありがたい。
「……泣いてるの?」
「っな、泣いてない……ですよ」
「久遠も結構、役にのめり込んでたからね……」
「だ、だからっ! そんなことはない……っです」
目を擦りながら全力で首を振る姿はとても愛らしかった。
「まあでも、無茶振りに答えてくれたのはありがとう」
「別に、大したことじゃないですよ……子ども相手にならこのくらいっ」
「その割には結構戸惑ってたけど?」
「それは最初だけっ! っていうか……意地悪するのやめてください……調子が狂います」
「はははっ、悪かったって……なんかこう頑張ってる姿見るとどうしてもな、可愛くて」
「か、かわっ……あのっ。やめてくださいっ」
「そういうところもな?」
「っう……な、何がしたいんですか?」
「別に、いじりたいだけだよ」
「じゃあやめてくださいっ!」
ふんっと鼻息が鳴り、俺は肩を叩かれた。
少女を親の元へ返した後、俺たちは札幌の地下鉄東豊線に乗り込み、福住方面へ歩を進めた。
カーブの多いこの路線の地下鉄に揺らされながら、今日あったことをボーっと思い出していると隣に座る久遠がツンツンと俺の肩を突いた。
「あのっ……夜ご飯の素材を買いたいのでスーパーの寄ってもいいですか?」
「ご飯……あぁっ。そうだな、俺も手伝うよ」
「ありがたいです。じゃあ、お言葉に甘えます」
「甘えるって……作ってもらっているのは俺なんだから気にしなくていいぞ?」
「いえ。それはそれ、これはこれですよ」
「ははっ、久遠は律儀だな」
「私はそういうところには厳しいので気を付けた方がいいですよ?」
「おう、気を付けるよ」
にひっと笑みを浮かべ、久遠はスマホを取り出した。
ピコピコと操作し、夜ご飯の素材を調べているのか料理アプリを開いている。少しだけ疑問になり、俺は口に出して聞いてみた。
「久遠でもアプリ見るのか?」
「はっ——はい」
ぺこり? と首を傾げながら俺を見つめた。
「え、いやっ……ちょっと気になって。ほら、料理できる人って自分で考えながら作ってるもんだと思ってたから」
「あぁ……別にできる人でも全然見ますよ? だいたい、私だってすべての料理の素材を知ってるわけじゃありませんし。なんなら配分とか量とかなんて知らなくて当然ですっ」
「そういうもんなんだな……」
「それに、私なんて……そこまで料理上手くないですし」
少しだけ自信なさそうに久遠は俯きながら言った。
久遠程度でも料理できてないんだなとちょっと驚いたがきっと世界は俺が思うよりも広いのだろう。
ただ、俺は思ったことを口にする。
「そんなことないと思うけどな」
「っ——な、別に」
「いや、本気でな」
「お、お世辞じゃないんですかっ」
「お世辞なわけっ……あんな美味しい料理まで食べてそんな薄情なこと言えるかよ」
「……っう。あ、ありがとうございます」
「おうっ」
それから数分ほど地下鉄で揺らされながら、下りてまた数分。家から十分程度の場所にあるスーパーに来ていた俺たちは野菜のコーナーを回っていた。
「えっとぉ―—あとはぁ、茄子と豆腐」
「うっ……茄子って言った?」
「言いましたけど?」
「……な、なんで俺の苦手なものを」
「それは……もちろん、義隆君の好き嫌いをなくすためですし……茄子をたべれないなんて馬鹿にされちゃいますよ?」
「別にっ、そんなことされないと思うけどなぁ」
「じゃあ私が馬鹿にします。さっき、馬鹿にされたので」
「なっ! 俺は逆に褒めたじゃんか!!」
「そ、それはありがたいというかっ……感謝してますけどそっちじゃないです」
「えっ」
「いや、その……女の子の時に結構恥ずかしいこと演じなきゃいけなかったので」
「うっ」
虚を突かれた。
ツンとした瞳が俺を見つめている。
「とにかく、ちゃんと食べてくださいね? 私が美味しいマーボー茄子と豆腐を作ってあげますから」
「わ、分かったよ……」
いたずらな瞳を向けられた俺はただただ頷くことしか出来なかった。
結局、その後は涙目になりながらも味は美味しかったマーボーを頂くことになったのだった。
思ったんだが、久遠って結構策士だよな。やっぱり。ちょっとずるいぞ。
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