第26話「JKは告白しちゃった(1)」


・久遠有希花の視点


 私がお風呂に入り、明日の準備をしていると机の上に置いていたスマホがぶるぶると振動した。


「ん……こんな時間に誰だろっ」


 疑問に思いつつも、もしかして義隆君から一緒に寝てほしいのお誘いかな!? って舞い上がりそうになってしまったが、スマホを手に持つと同時にそんな幻想は虚空に消えていった。


「……なんだ、夢かぁ」


 別に、嫌とかそう言う意味ではない。

 ただ、なんかこう……思ってたのと違って気分が下がっただけだ。


 ぽちりと画面とタップして、電話に出ることにした。


「ん……もしもし、どうしたの?」


「あぁ、ゆきちゃん? いま大丈夫?」


「一応……大丈夫だけど」


「なら、いいわね。その、明日ね、文芸部の部活なくなったから一緒に帰らない?」


「明日?」


「そうっ」


 帰れないことは——ある。ちょうど別れるときに義隆君と帰る約束をしたし、どっちかと言うと私も彼と帰りたい。夢には悪いけど、この文化祭期間中の夢のような関係を楽しみたい。


「明日は……無理かな?」


「え、なんで」


「別にいいじゃん、私にも色々と用事があるし」


 私が拒否すると正面から飛び出たかのような低い驚嘆声が電話越しから聞こえてくる。何か用事があるのがそんなに不思議なのだろうか? ちょっとムカつく。


「用事って何? 友達なんていなかったでしょ……って、あぁ」


「あぁってなに……分かってると思うけど、義隆君よ。彼と一緒に帰るの」


「付き合ってるの?」


「……」


 私はその質問に答えられずに固まった。

 いや、別に言えないわけではない。今の彼との関係は仮の恋人状態だ。文化祭で変な男を追っ払うための関係。別にちゃんとした恋人ってわけではない。


 しかし、それをそのまま夢に言うのは些か気が引けていた。


「——どうしたの、黙って?」


「……あぁ、いやっ、なんでもない……けど」


「けど?」


「な、なんでもないわっ」


「怪しいわね……この前、なんか告白するのとか茶化した時とは妙に対応が違うんじゃないのかしら?」


「うぐっ……」


「付き合ったのかしら?」


 やばい……普通に自ら墓穴掘っちゃった。

 夢も勘が悪いわけじゃないし、私が彼の事を好きなのはもう知っている。どうやら、私には逃げ場が無くなっていた。


 結局、そのまま白状することになった。


「やっぱり……でも、すごいわね、付き合えることができたなんてねっ」


「……ま、まぁね」


 義隆君。本当にごめんなさい! 夢に知られちゃいました!!

 いっそのこと、というかこのまま付き合えたら私も本望なんだけど……そう簡単ではないし、真面目にやっちゃったのかもしれない。


 そんな自己嫌悪に駆られていると彼女はさらにこんなことを提案してきた。


「——あ、でもそれならさ、私にも紹介してくれない?」


「え?」


 思わず、固まった。


「紹介してよ、せっかくだしさ。一緒に帰りたかったのはその、一人で本屋に行くのが寂しかっただけだし」


「い、いつも一人でいってるんじゃないの?」


「アマゾーンよ」


「な……い、行かなきゃ駄目?」


「えぇ、というか、色々と興味湧いてる。それに、私だってこの女子高じゃ出会いなんてないしね」


「で、出会いって……義隆君は渡さないわよ?」


「はははっ……どうだかなぁ」


「んな!! だ、駄目だからね!! 絶対‼‼」


「冗談よ、ほんと……通じないんだから」


 なははと笑い声が電話越しに聞こえてきて、私は少し安堵した。というか、その前に義隆君は誰のものでもない。私の本当の彼氏じゃないのに、何言ってんだか。


「とにかく、じゃあ私も帰るからっ、よろしくね」


「そ、でもまだ――」


「私まだ本読み終わってないから、じゃあね!」


「まっ——」


 プツン。

 私が声を掛けようとすると電話が切られた音がした。ツーツーと音が聞こえて、やってしまったと我に返る。


「……ちゃんと、言わないと駄目だよね」


 結局、義隆君に色々と経緯を説明してみると彼は優しく受け入れてくれた。自分も丁度委員会はなかったと言っていて、ラッキーなのか、そうでないのか自分の運勢を疑った。


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