第24話「JKとの文化祭まで」


・久遠有希花の視点


 告白された。正直びっくりした。

「付き合いたい、付き合ってくれ」と義隆君の口からそう言われた。


 この文化祭の間だけ、周りの男たちを追い払うためと彼氏(仮)なのがちょっと残念だけど……そう言われた私としてはちょっと嬉しかった。


 ほんと、ちょっとだけだけど。ちょっとだけね。

 何、笑わないでよ。


 だって、仕方ないじゃん? 好きな人に紛いなりにも付き合おうだなんて言われたんだよ⁉ 逆に嬉しく思わない女の子がいたら私はびっくりしたんだよ。ほんとに。


 でも、一応文化祭の時には一緒に回れるし、今のうちに何をするか考えておかなくちゃ! えっとぉ、お化け屋敷でくっついたりとか? あ、なんならクレープとか食べたいかも!


「——って、顔がにやけてるわよ」


「うっ——な、何でもない!」


「何でもない人はそんな顔トロトロにしないわよ……んで、何かあったの?」


「えぁ。べ、別に……何もないけど」


「ほんとにぃ?」


「……う、うん」


 私としたことが何やってるんだか。お昼を食べに来た図書準備室で考えることはなかった。


 反省しよう。


 そんなうかうかしている私に夢は少し表情を固くしてこう訊ねてきた。


「まぁ、別に言う必要はないけどさ……でも、あれなんでしょ? 最近、色々と風当たりが強いって聞いてるわよ」


 一瞬で私は現実に引き戻される。


 あまりの嬉しさに忘れかけていたが私は今、いじめを受けている。いじめ自体は中学の頃から受けてきたし、高校に入って来てからも間接的には受けてきた。ただ、ここまであからさまなのは初めてだった。


「——あぁ、そうだね」


「そうだねって、いやさ、別にゆきちゃんがいいならいいんだよ? でも、そんなに浮かれてるとエスカレートしそうで」


 エスカレートか、確かに。その可能性もある。義隆君にはああは言われたが学校内のトラブルに関しては特に考えていなさそうだった。あの生徒会長候補をどうすればいいのか。


 正直、考えたくもない。


 私はしたくもない生徒会長なんかで変な被害を被っているのだ。馬鹿な話も甚だしい。


 だったら、辞退すればいいのでは? なんて言われるけど、そう簡単にもいかないのが世の中だ。


 むしろ、私はこれまでも断っている。それも何度もだ。何回も何回も。なんなら入って一か月で言われては断ってを続けてきた。だが、先生たちは勧誘を続けて、最後は泣きながらせがんできた。


『君がならなくちゃ、誰もなってくれないんだよぉ!』


 と。まったく、その日は生徒指導室で学年主任と一緒に説得され続けた。ならないと出さない。そんな感じだった。


 だから私は折れて渋々了承したのだ。

 そしたら、この有様。まったくもって最悪だ。


 とはいえ、まぁ、私の態度もある。いつも何か言われたら避けてきたし、それが積み重なって今の状況になっているのかもしれないから一概には言えないのだ。


「というか、その話知ってるってことは広まってる感じなの?」


「え——あぁ、ちょっとだけね。会長候補の久遠ってやつが他校の男をたぶらかしてるって噂がね」


「はぁ……まじかぁ」


「まじね。私は無視したけどさ」


「そっか」


 まったく、どうしたらいいかなんてわかるわけもない。

 あの人数を前にしたら、私一人が出来る事なんてあるわけもない。


 耐えて、私が生徒会長選でわざと負けて収まるまで待つしかないか。


「まぁ、今は耐えかな。会長選が終わればなんとかなるでしょ」


「だと良いんだけどねぇ」


 結局、何も変わることもなく時が過ぎていくだけだった。






 文化祭まで残り一週間。


 俺と久遠は彼女の誘いで一緒に駅前のデパートに買い物に行くことになっていた。久々のデートか、なんて思ったが別に久遠と会うのが久々ってわけでもない。


 最近はよく文化祭準備とかであんまり遊べなかったけど、夜ご飯はいつも通り作ってもらっている。


 ただ、一つだけ違うのが俺たちは付き合っているということだ。あくまで仮。文化祭が終わるまでのお試し―—ではなくて、彼女を変な男どもから守るための彼氏になると言った形だ。


 今回のもあくまで文化祭でボロを出さないためにちゃんと彼氏っぽくできるのかの練習でもある。そういう誘い文句で誘われたしな、本心だったらもっと嬉しかったけど。


 とはいえ、付き合っていることには変わりない。そんな彼氏彼女の関係での初デートに俺も多少なりとも胸を躍らせているわけだ。


 


「お待たせしましたぁ~~!」


「おう、待ったぞ」


「そこは待ってない、今来たところだ。じゃないんですか?」


「なわけ、隣の家でそんなことないだろ?」


「嘘も方便って言いますけど……」


「言われたかったのか?」


「別に、もういいですよぉーーだ」


 むすっと頬を膨らませたがすぐに笑みを浮かべた。

 俺はそんな彼女の手を握る。


「んっ……に、握っちゃうん、ですか……」


「握るだろ、だって彼氏なんだし……まぁ、仮だけど」


「……あの、せっかくカッコよかったのに最後ので台無しですよ?」

 

「あぁーーすまん」


 すぐさま謝ると久遠はジト目を向けてきた。なれないな、こういうのは。


「……まぁ、いいですっ。とにかく、いきましょっ!」


「おうっ」


 そんなこんなで最初から失敗をしてしまった俺は駆動に導かれる形でデパートまで向かうことになったのだった。



 


 

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