第11話「JKとゲーム」


 俺の記憶では久遠は勉強も出来て、スポーツも出来て、顔も良かった気がする。

 

 とは言っても小学生の頃の記憶だから信憑性はあるかは分からないし、今でもそうか分からないがとにかく久遠は何でもできるイメージがあった。

 

 いつも久遠と俺はせっていて、ギリギリだった思い出がある。


「うわぁっ——それはずるいですよ!! こう、もっと早く動けないんですかっ! このキャラ!」


「いやぁ……それは久遠が弱いだけじゃぁ…………」


「っ違うもん‼‼」


 先程から敬語とため口がぐちゃぐちゃだがまぁ嫌でもないので触れないでおこう。彼女には少し、興奮したら語彙力が無くなるらしい。成長したのか分からないが昔よりは変わってくれて嬉しい限りだ。


 また、久遠はゲームが物凄く苦手らしい。今やっているのは話題の格闘ゲーム。


 その名も「大乱戦スプラッシュシスターズ」。


 様々なゲームのキャラ(女)が集って、キャラを選択してほかのプレイヤーと戦うことができる革新的なゲームなのだが……久遠の操作はたどたどしくて好きが見え捲りで片手でも戦えそうなくらいだ。


「……っうぅ……」


「手加減する?」


「そ、それは嫌ですっ‼‼」


「だってこのままじゃ勝てないけど……いいの?」


「いぇっ――――べ、つに……良くはないけど」


「片手でやってあげますか?」


「っ——それは、なんかムカつきます!」


 どっちなんだよ。と思ったが葛藤している久遠はとても可愛かった。


「……じゃ、じゃあ野球拳しよ」


「——え?」


「勝負よ、勝負! 負けたら服を脱ぐから、本気でやって」


 俺が動揺してポカンとしていると久遠は「うぉぉぉ!」と声をあげて、準備完了のボタンを押して、半強制的にバトルが始まった。





 一時間後。


「か、勘弁してくださいっ……」


「っ~~~~よっしゃぁ‼‼ 勝ったぁ~~、勝ちましたぁ!!」



 結果を言うと俺の全敗だった。

 

 いや、ずるい。考え方がずるい。この前言っていた「ほんとに、無防備で、立場の弱いはずの義隆君にしてしまったことが悔しくて……」なんて言葉が少々信じられなくなるくらいだ。


 コントローラーを掲げながら喜ぶ久遠の方は制服の一番上と、ブラウスを脱いだだけなのでスカートとワイシャツ一枚になり、俺の方はパンツとワイシャツの防御壁二枚の貧弱装備に変わっていた。


 「変身っ——変態マン参上っ!」まで残り一枚ってところだ。


 生憎と女子と男子では装備の数が違うなんて言われることなったら面倒だからそこについての話はしたくないが……「俺が買ったら久遠が裸になる」という暗示のせいで全くと言っていいほど操作ができなかった。


 仕方ないじゃないか、男なら皆動揺するだろう。逆にここで本気になれる鬼畜はどこにもいないと思いたい。


 ともあれゲームだけ見ればほぼ全部、俺のミスで負けた。それはもう隣で大はしゃぎしている久遠に「負けてない」と言ってやりたいが……俺も大人だ、そこまで言うことはしない。


「……っしょっと」


「ねぇ、勝ったでしょ!? 私強いでしょ!」


 興奮しているのか目を輝かせながら立ち上がった俺の脚をぺちぺちと叩く。あぁ、もちろん生足だ。男のだけど。


「あの、もう着てもいいですか?」


「えっ——あ、そ、そうですねっ……はいっ——」


 申し訳なさそうに訊いてみるとどうやら久遠も俺の情けない姿に気づいた様でコクっと頷いた。キスでも赤くなっていたが俺の素足はもっともかなり恥ずかしくなるようだ。


 うん、さすが俺の幼馴染、すごくいい、凄く可愛い。


 SASUGAOSANANAJIMI

 SUGOKUII

 SUGOKUKAWAII


 略してSSS《トリプルエス》だな。







 と、そんなこんなでゲームも終わり、お互いに授業の課題を片付けたいとのことで勉強会を開いた後に、俺たちは夕飯を食べることになった。


 勉強会と言っても、久遠も頭がいいわけで俺が何かを教える必要もなくただの無言で勉強する会だったのだが……まぁ、それは置いておくとして俺はテーブルに並ぶ料理を呆然と見つめたまま体の動きを止めていた。


「……茄子」


「ん、食べないんですか。義隆君?」


「い、いやぁ……食べるけど、ちょっとね」


 俺がフォーク片手にうだうだと言っていると久遠は怪訝な表情で覗いてくる。


 いやはや、運が悪い。


 いつもなら、全部作らせるのは悪い気がして手伝えるところは手伝ったりするのだが今日は宿題の方が多く、長引いてしまって今日のご飯は何かと聞いていなかった。


 田舎の親からは「出されたものは余さず食い尽くせ」と英才教育を受けているため、どんなに嫌いなもので余さず食べる派であるが……今回はちょっと事情が違う。


 数少ない俺の苦手とする食べ物の一つ。

 茄子だった。


 一富士二鷹三茄子とは言うが俺にとって茄子というものは猛悪の権化と言っても過言ではない。勿論、茄子の農家さんに悪いことは言いたくはないがもの凄く苦手だ。この話をしたらざっと1時間くらい時間を使うほどだ。


 とにかく、俺はそんな嫌いなもの三銃士の一角「茄子」と睨めっこをしていたのだが……目の前の久遠にも怪しまれ、袋小路なわけだ。


「食べたくないんですか?」


「……そ、そういうわけじゃないですけど……ね?」


「ねって、ウインクされても分かりませんよ……」


「うっ……」


 俺が言葉を詰まらせると久遠は何かハッとしたのか声をあげた。するとすぐに、俺を一瞥。ニまぁと笑みが漏れている。


 なに、なにこれ、こわっ!!


「……へぇ、そう」


 何がそうなんですか!! 俺はギョッとして腰が引ける。


 しかし、そんな俺を見つめながら「はは~~ん」と絶えず嬉しそうな笑みを向ける。


「茄子、嫌いなんですか?」」


「べ、別に……」


 バレた。バレちゃった。これだけは隠そうと思っていたのだが。バレちまった。


 久遠と会っていた小学生の頃は全然食べれていたのだが最近になってなぜだか苦手になったのだ。中学生の頃はよく、妹に「お兄ちゃんっ! 茄子なんか食べられないのぉ~~!? ぷぷぷ~~」と散々ばら馬鹿にされてきたせいで口外してこなかったが……。


「別にぃ? じゃあ、早く食べましょ?」


「っく」


 分かってやがる顔をしてる……くそ、このままじゃほんとにっ。


「食べれないんですか?」


 今度はさも真面目に言ってきやがった。お、俺の自尊心を奪おうとでもしているのか? 俺も少しカッとなって口に出した。


「ま、まさかっ——茄子くらい食えますよ」


「じゃあ、食べましょ」


「は、はいっ」



 



「うぇえええええええ……」


「もう、だから無理しないで言ってくれればよかったのに……意固地に反対しなければぁ」


 気持ち悪い。でもゲームでも負けて、好き嫌いを知られるのは嫌だったし、もとはと言えば野球拳勝負をしようとした久遠のせいじゃ——


「————うぇぇぇぇ」


 その後はもう、寝ることしか出来なかった。





 


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