第21話「JKと衝突」
・久遠有希花の視点
「義隆君っ、私行きますよ~~」
「ん……あぁ、えっ……もう、行くのかぁ……?」
寝室から眠そうに目を擦りながら起き上がる義隆君。今日は高校の開校記念日で休みらしく、昨日の夜更かしが影響していつもはキリッとしている目はもはや3分の1くらいの大きさになっていた。
「用事があるので出ますよ。一応朝食は作ってあるので冷蔵庫から取って食べてください」
「ん、おぅ……ごめんなぁ」
「大丈夫ですよ。とりあえず、私もう時間ないので行きますね~~」
「あいょ……うぅぁ」
ドアを閉めると奥からバサッとベットがきしむ音がする。きっと二度寝。まあ昨日のゲームへの熱中度は私の度肝を抜くほどだったし……少し付き合わされたこっちも立ち眩みが置きそうなほどだ。無理もない。
「ふぅ……よいしょ」
玄関で高校規定の黒い靴に履き替え、扉を開けて高校へ向かった。
一緒に動物園に行ったり、洋服を見に行ったり、小学生を親元へ返したり―—そんな濃くも短かった土日から2週間ほどが経過した。
2週間が経ったとはいえ、私と義隆君との関係は変わっていない。いつも通りご飯を作りに行き、家事をしたり、家事を手伝ってくれたり、私のお話にも付き合ってもらっている。
正直、色々あって幼馴染って言うのも知られていたらしいけど、まだまだ隔たりがある気がする。私もちょっと話していて恥ずかしいし、好きになった……というか好きだったというか……そう言った気持ちもあるのに恩のせいかあまり露わに出来ない。
この前も言ったがこれに漬け込んでの恋愛はしたくないし、されたくもない。
いやでもよく風呂上がりの私をじっと見つめてくるのを鑑みれば実は好きとか……って何妄想してるのよ、私は! なわけ、あの紳士的な義隆君ってことを考えればそんなことは。
いやでも、夢は「思春期の男なら女子にくっつかれたらその時点で落ちるわよ?」なんて言ってくるし……私はそうは思わないけど、そうなのかなって思っちゃいそうになる。
はぁ、まったく何考えてるんだか。とにかく学校行こう。
高校に着くと早速教室では文化祭の準備が始まっていた。文化祭はまだまだ一か月後だが、今通っている高校では夏休み前の一週間を使って大掛かりに行われるために準備期間も長い。
先週から話し合いは始まっていて、文化祭実行委員会が予算を立てたり広報委員会と提携して周りの高校や地元住民へのチラシ配りも始まっている。
高々高校でそんなことある? と思われてもしょうがないけど、市内唯一の女子高って言うのもあって特に男子高校生や大学生からの人気は高い。
まぁ、なんでかは言いたくないけどね。色々と裏ではあるようだって夢が言ってたし。
「あっ、私もするよ」
「うん、ありがとう」
ペコっと頭を下げて私も作業へとりかかることにした。
午前の授業も終わり、昼食。そしてあっという間に放課後。毎週恒例の委員会の仕事を終えた私は自教室へ向かっていた。
帰ったらご飯も作らないとだし、色々とやることもあるけど時間ギリギリまではなんとか手伝いたい。あまり私の事を良く思わないクラスメイトもいるけど、人では必要だろう。
そう思ったのも束の間。
私は絡まれた。
「ねぇあんた、1年の久遠でしょ」
ファイル片手に中央階段を下りる最中、声がした。
「はい?」
顔をあげると、そこにいたのは
彼女は一個上の先輩、つまりはこの女子高の2年であり、生徒会長候補の一人。高校屈指の美少女で少し見た目がきゃぴきゃぴしている。
そのため、先生方からの信頼は皆無に等しいが彼女が作る生徒内からの信頼は厚い。だからと言って何かをやらかしているわけではなく、ただただ見た目がって言う話だ。
とはいえ、側だけ見ればいい人には見えるが——中身は根っからの真逆。自分に仇成すものには徹底的にいたぶる虎のような女だ。
さっき生徒会長候補とは言ったがそれは私もだ。成績は学年でもトップのため、先生方から推薦されている。この高校では特に序列はないため現生徒会長が3年生になったら、学年問わず数人ほど選出される。先生方からの推薦、そして自分からの出馬のどちらかで夏休み後の9月から選挙が始まり10月までには決定すると言った感じで、この文化祭やその他諸々の行事は好感度アップにつながる。
そこで、彼女は強いわけだ。私のようにおかしな経歴を持つような者に対して裏で情報戦を仕掛けて蔑み、会長になるというわけだ。
別に、生徒会長なんかに興味がない私にとっては本当に厄介だ。
「あのさ、最近男と一緒にいるんだって?」
「は、はぁ」
「とぼけるなよ、おい。噂で聞いたわよ」
確かに男……まぁ、義隆君とはよく一緒に居させてもらっているがそれが何かしたのだろうか。
今すぐこの場から逃げたいが取り巻きがいるせいで道を塞がれている。どうしようもない。
「噂って何ですか」
「知らないの? 原因なのに? ははっ、馬鹿ね」
「……それで、なんですか? 噂とかよく分かりませんし、やめてくださいよ。様がないなら行きますけど」
「っち……ムカつくわね、そういう態度」
こっちの台詞だ。
「そうね、まぁいいわ。ライバルだものね、会長候補の」
「……」
「私、聞いたの。近くの中央高校の西君と付き合ってたんだってね?」
「付き合ってない」
「は? 何言ってるわけ?」
「本当のことですけど」
「馬鹿。聞いたわよ、散々誘惑しといて付き合った挙句、別の男が出来たから乗り換えたとか言われたわ。だいたい、後輩なのにそれはどういう態度? 礼儀がなってないんじゃない? まじでさいてー、西君泣かせるのはない」
睨むような目に少し怯みそうになったがここで止まっては舐められる。
「嘘よ。違うわ。私がやりs……や、ヤリ捨てされたのよ」
「はぁ? ばかじゃないの? こっちは証拠まで持ってるんだから。写真まで送られてきたのよ、乗り換えて振りもせず、適当にあしらわれてるって。あそこ、隣の頭がいい高校の生徒と一緒にいるところをね」
何を言ってるか訳が分からない。
あの最低な男が証拠? 私が一方的に蹂躙されたのに……。
ただ、確かに振ってはいなかった。捨てられたのだから、縁を切られたわけじゃない。私が逃げた、それだけだ。
「ほんと、うざい。どうせ、ヤリ捨てとか嘘言って、猫芝居して転がり込んだんでしょ? ほんと、これだからブスは」
「……してn」
「はっ。言い訳はいいわ。とにかく大人しくしてて」
「————っ!」
っち。
と大きな音で舌打ちをされ、私は肩で突き飛ばされた。
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