第20話「JKが幼馴染」


 まさかのまさか、翌日からまた高校が始まるというのにお互いの存在をバラすことになった。


 というか、個人的には久遠は俺のことに気づいていないと思っていたのだが……どうやら彼女は俺のことも、昔の話もしっかりと覚えていたのだ。


 正直、正体は知っていたからそっちの方が驚いたがお互い隠していたことがなぜか面白くなって笑ってしまった。


「っそうか、そうか……黙ってるなんてなぁ」


「それを言うなら義隆君だってめっちゃ知らない人みたいに話しかけてきたじゃないですかっ……」


「いや、あれだぞ。真面目に初日……というか会ったその日はわからなかったんだぞ?」


「えっ……そうなんですか」


「あぁ、ほんとだ。気づいたのはその……一緒に寝た日というか、まぁ、その辺だ」


「うっ……そ、その節は本当にごめんなさいっ」


「いや、別に気にしてないから。ほんとに」


 まぁ、個人的には寝るたびに思い出すくらいには気にしているとは言えないしな。でも許して欲しい。あれは俺には刺激が強すぎるんだ。


「き、気にしてくれても……いいんですけど」


「え?」


「あっ……なんでもないです」


「いやでm」


「なんでもないですっ!!」


「は、はい……」


 ぎろっと睨みを聞かせながら近づいてくる久遠に俺は言いくるめられてしまった。さすがに目が怖かったからこれ以上触れるのはやめておこう。


「それで……これからどうしましょうかね?」


「何が?」


「いや、その……タメ口とか敬語とか、呼び方とか」


「うぅん、別に今まで通りでいいんじゃないか?」


「いいんですか? なんか、幼馴染なのにこの感じなのは……ちょっとだけ隔たりがあるかなって思いまして」


「……久遠はそう思うのか?」


「えっ、いやその……私は別に」


「なら俺は今のままでもいいぞ? それに幼馴染とは言ってももう3年も4年も前のことだろ? あれ、でも5年だっけ」


「私が転校したのは小学4年生なので……えっと、多分1、2、5年、今年で6年ですかね」


「そっか、まぁでもどちらにせよ。そのくらいあれば色々性格だって変わることだってあるんだし……慣れるまではこのままでいこうぜ」


「っ……そ、そうですね。なら、ひとまずは今のままでいきます」


「おう」


 短く返事をすると隣に座る久遠はペコっと頷いて笑みを浮かべた。






 ・久遠有希花の視点


 翌日、私たちはいつも通り高校へ登校した。

 

 昨夜の出来事は色々と驚いたことばかりで正直なんて言えばいいかわからなかったけれど、今まで通りでいこうと義隆君が言ってくれたおかげで私としては安心した。


 私もタメ口で話せるようになるまで頑張っていこうかなと思っている。あわよくば……付き合いたい、的な。


 ……それはちょっと求めすぎかな。


「それで、色々と行ってきましたと?」


「ま、まぁ。そういう感じかな」


 というわけで今日とて今日も図書準備室にてお昼ご飯を食べていた。


 相談をさせてくれた相手に報告しないのも少し違う気がして土日の出来事を話すと夢は清々しいくらいのジト目で私を睨んできた。


「……はぁ、そっかゆきちゃんが本当にリア充にねぇ」


「私は……別に、付き合ってないけどっ」


「でも、それまでしてくれたら脈アリじゃないの? ほんと、私だけ置いてかれて悲しいわぁ」


「うっ……そ、そうとも限らないし」


「どうだかねぇ〜〜」


 ジト目、ジト目、そして意味深な笑み。

 その3点コンボで私は顔が熱くなっていた。


 まさか、そんなわけ。いくら幼馴染って分かっただけで好きになってくれるわけ……私はそんな鈍感系じゃないし。そのくらい知ってるってもんだ!


 ただ、夢は勘が鋭いからきっと何か分かっているのだろう。そのせいか、ムスッとした表情で見つめてくる。


「どうだかって……何もないって」


「でも一緒にいるんでしょ?」


「それはそうだけど」


「じゃあそういうことじゃん」


「でも、夢としては恋愛に興味ないんじゃないの?」


「興味はないよ? 私は面倒臭そうだしそういうのする気はない」


「じゃあ良くない?」


「良くない。自分の友達が幸せになるのは許せない……」


「何よそれ……」


 さすがに引く。というか、なんだよ、友達が幸せになるのは許せないって。私は別にそんなふうには思わないけどなぁ。


 嫉妬なのかなんと言えばいいのかわからないけどやはり女子は面倒臭いと再確認できた。


「それで、告白とかするの?」


「え」


「いや、ほらそこまで脈がありそうなら狙ってもいけそうじゃん?」


「そんな簡単なわけ……」


 夢は小説の読みすぎだ。


 そんなすぐに付き合えるとでも思ってるのだろうかと常々疑問に思う。そう思いたいのは私も分かるけどそう簡単ではないのだ。恋は。


 だいたい、そんなの身に染みて分かってる。


「でも、ほら最近もへんな男にカマかけられてるんでしょ?」


「……なんで知ってるの」


 話せば長いが確かに最近もそういうことがあった。


 いつも通り下校しようと校門を出ると近場の高校の男子生徒に囲まれたし……色々と聞いてみればこの前振った先輩の後輩らしくて、私のことを狙えるとでも思ったのか凄く勢いがあったが適当にあしらった。


 簡単に言えばそんなかんじだ。私としてもあまり思い出してくないから誰にも言ってなかったのに。


「いや、見えたから」


「……窓から?」


「うん。窓際で東野のやつ読んでたらさ、外が騒がしくて見えた」


「まぁ、それなら仕方ないか」


「でもほら、そういうのがあるくらいなら早く男作って付き合ったほうがいいんじゃないの?」


 その手もあるにはあると思う。

 

「でも、それをすると私のことを良く思わない人が変なことしてくる可能性があるのよ」


「……そっか、ならなんとも言えないわね」


「ほんとよ」


「大変で何より……」


「その時は助けてくれないの?」


「私だって私の生活があるわけで……」


「うげ、ひどい」


「しかたないじゃーん」


 本片手に本音を漏らす夢を見て私はお弁当を食べる。


 実際のところ、私も夢に危害は加えたくないわけで何かあっても関わらない方がいいと思う。


 だけど、なにか悲しい気もして義隆君と同じ弁当を見つめながらそっと口に運んでいった。






PS:作品には関係ありませんが、カクヨムコン7に長編ラブコメで1作品、短編恋愛・ラブコメで2作品中間選考を突破しました! 本当にありがとうございます!


 

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