第22話「JKに関われない」

 無論、俺はそんなことを聞かされて普通でいられるわけがなかった。


「なぁ、それはなくねえか?」


「まぁ、仕方ないです……」


「仕方ないってそんなんで済まされる話じゃ——」


「ない―—ですよ、もちろん」


 あまりにもな内容に熱くなった俺を久遠は手一つで静止させる。


 そんな話じゃないのなら、それなら——何かしなくちゃいけない。そう思った。ただ、久遠の表情は真面目で何も言い返せなくなった。


「来てくれますか……高校に」


 今にも泣きそうな目。

 いや、もう泣いている目だった。


「い、いくよ……」


「いけませんよ」


「いやでも、俺はっ——久遠にはそんなことしてもらいたくないっ——」


「私の高校は女子高で男子禁制です。保護者や先生以外の男性は入れないです」


「そこはどうにかして許可取って」


「無理です。数年前の事件でかなり厳重な警備になったので……」


「でもっ——それじゃあ」


「いいんですよ。それに、義隆君の高校も文化祭そろそろありますし……私の事は考えないでそっちに専念してください」


「……」


「とにかく、私は大丈夫ですっ……なのでほら、早くご飯食べますよ」


 久遠は笑みを浮かべた。

 ただ、どうしても潤んでいる瞳を見てしまったせいで俺はその後、何も話せなかった。








「——んで、どうしたらいいかだって?」


「あぁ、そうだ」


 翌朝、俺は投稿してすぐに西片に相談を持ち掛けた。


「……正直、分からんな」


「っだよなぁ……」


「だよなぁっておい……お前、相談相手に失礼だろ」


「いや、期待はしてなかったし」


「じゃあすんじゃねえよ、リア充が」


「だから俺はリア充じゃない」


「んなことどうでもいいんだよっ——」


 悪態をつく我らが腐れ縁。

 ただ、西片の言う通り俺にはどうしようもなかった。この前、助け出せた手を今度は何もつかめない事実に溜息しか出てこなかった。


 今どきいじめなんて―—馬鹿がやることだ。そう思ってきた。そんなものは俺のそばにはないとも思ってきたが、こうやって身近に人が被害に遭うと何も言えなくなってくる。


 ましては高校が違くて何かできるのはその大元の外だけ。


 だからこそ、俺には話を聞く以外何もできない。


「……まぁ、今どきにいじめなんて低能がすることだしなぁ」


「ほんとだよ……俺には皆目見当もつかん」


「大抵、こういうのは大元潰してもしっかり噂自体消さないといい結果はうまない。やるならしっかりすべて帳消しにしなきゃ意味ねぇから正直——」


「——できない」


「そうだ」


 やけに冷静で腹が立つが——本当にその通りだった。

 この前、何かの漫画かアニメで見たがこんなセリフがあった。


『最後まで責任が持てないなら手を加えるのは良くない』


 今回はまさにその通り。

 その先輩をどうにかして終わる話ではない。ましては噂の元はヤリ捨てした本人だそうだし、最近はその後輩にも付け回されているらしい。


 そこまで根こそぎだなんて——俺に特殊能力がない限りすることはできない。


「……なんなら、一緒に帰ってみるとかどうだ? 変な男が寄ってくるんだろ?」


「は?」


「いや、そいつらは諦めてくれるんじゃねえかってな」


「そんなんで諦めてくれるのならいいけど……」


「っ——いや、多少効果はあるだろ。多少はさ」


 確かに何か成そうとするならそう言うところから潰すべきではある。ただ、深読みするならそれが火種になって余計な噂を生むかもしれない。どうやらその生徒会長からは男がいるとバレているらしいが……付き合ってるとは言われていない。


「なら——付き合ってみるとか」


「いや、それは失礼」


「——助けたいんだろ? きいたところじゃ、まだ友達的な関係だってことなんだろうし」


「……なんで急にそんな積極的になってんだよ」


「いや、いじめするやつは嫌いだからな」


「ははっ。正義の味方かって」


「……」


「何で黙る」


「いや、うざかった」


「悪かったよ……とりあえず、それなら嘘でも付き合ってみるかな」


「あぁ、これでようやくリア充だな……クソッたれ」


「最初から言うんじゃねえよ!」


 っちと舌打ちが聞こえた気がしたが——とにかく、久遠のためには何でもやりたい。幼馴染で、可愛い同級生のためだ。なんとかしよう。

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