第23話「JKを救いたい」
「とはいえ、どう切り出せばいいと思う?」
「どうって……俺は知らん、自分で考えやがれ」
「っ——おい! 提案したのは西片の方だろぉ!」
「提案はしたけど別に導いてやる義理はねぇ。だいたい、俺が最もリア充に近いお前に言えることなんてねえよ!」
「いやぁ……ひどいなぁ、おい」
「うっせ、クソッたれ種族め」
さすがにそこまで言わなくてもいいだろう。
まぁ気持ちは分からなくはないがもうちょっと言い方っていうものがある。とはいえ、俺も西片との関係は短くはない。こんな風に忌み恨みモードに入った西片を説得するのが難しいことは知っている。
とりあえず、言ってみるだけでも悪くはないのかもしれない。自分で出来るところまではやってみよう。
それから色々と偵察をしつつ、とは言っても様子を見つつなのだが焦らず時を待つこと一週間。俺たちの方も本格的に文化祭の準備が始まったり、久遠の高校の文化祭のチケットを貰ったりなど色々と事が進んできて、一緒にお互いの文化祭に行くことが決まった翌日。
俺は夕飯を食べた後、片付けを終えた久遠をリビングに呼び出してそれを告げることにした。
「あの……なん、何ですか? 急にかしこまって……」
「いやぁ、別に大した話じゃ——ないこともないか」
「ん?」
はて? と首を傾げる久遠の顔を見て、俺はすぐにやり方を変えることに決める。さすがに前置きとか考えてる場合じゃないし、余計な説明を付けて久遠を困らせるのも嫌がらせることもしたくない。
まして、俺の気持ちはまだ半分半分だ。
好きと言っていいのか、それが本気の意味で好きなのかもあまり分かっていない。
考えても仕方ない。その話は付き合って彼女の周りを排除してからだ。もしもその気持ちが本当だったらしっかりと話をしよう。
パチンと頬を殴って俺は気合を入れる。
「えっ、何してるんですかっ! だ、大丈夫―—」
「大丈夫大丈夫、気にしないで、こっちのこと」
「でも——」
「あぁ、いやほんと何でもないから。それより、聞いてほしい話があるんだ」
「は、はい……」
「久遠、付き合ってくれないか?」
「へ?」
10秒ほど固まった上で彼女は目を丸くしながら気の抜けた声でそう言った。言ったというよりかは放ったに近い。まるで意味もない1文字が鼻から抜けるように出てきて、俺の耳まで伝わってくる。
「いや、久遠と付き合いたいってことだ」
「……えっ⁉ わ、わわわわわ、私とよ、義隆君がつk、つきあ、付き合うっ⁉」
驚きのあまり久遠はその場から立ち上がった。無理もない。やはり色々と説明する必要があるかもしれない。
「あぁ、いや——その、久遠って今色々ともめてる事情があるだろ? だからその、せめて寄ってたかってくる変な男は追っ払えるんじゃないだろうかって……お試し、というか文化祭期間だけでいいんだ」
補足で付け加えると彼女はハッとして胸を撫でおろしながら腰を落とした。
「え……っあ、あぁ。な、なんだぁ……び、ビックリしましたよぉ」
「すまん。こればっかりは。驚かせて」
「驚いたも何も、急に告白されたのかと……こういうのは心の準備がいますよ」
「ははっ……ごめんな」
「はぁ……はい、大丈夫です」
呼吸を整えて、落ち着いた。笑みで誤魔化したがとりあえず変に捉えられることはなかったらしい。ひとまず、安心か。
「で、その……付き合うってな、何したらいいんですか?」
「あぁ、いや。別に何かするってわけじゃないけど……ほら、どうせ文化祭とか一緒に回ってたらそう勘違いされるだろ?」
「勘違い……あっ。そ、そうですね」
「あぁ。だからこそ、最初からそれを演じてしっかりと根こそぎ追い払うんだ、その男だけでも。ちょっとその、まだ生徒会長候補の女子生徒についてはよく分からないから考えてないけど……ひとまずはだ」
久遠はこくりと頷いた。しかし、すぐに言い返す。
「——いや、でもそんなんで追い払えますかね」
「その男たちは久遠が嫌がったら手を引いたんだろ?」
「まぁ、そうですけど……」
「なら、常識はあるはずだ。好きな―—いや、その感じじゃ好きっぽくはないけど……とにかく狙ってる相手に彼氏がいるなら諦めるはずだ」
「……そう、ですかね」
まだ腑には落ちていない。俺もだが勿論予想だ。聞くところによればではあるけど、可能性は高い。いじめの一案は消えるだろうし。
「まあ、もちろん一案だ。絶対に成功する保証はないけど……ただ、変な嘘つかれるよりはいいかなと」
「変な、嘘?」
「いや、ほら、付き合ってない男と一緒に歩くのってネタになりそうだし。それならいっそのこと付き合ってるって言えば大丈夫かなぁと」
「……そっか」
すると、少し黙った。色々と考えているのだろうか。
さすがに前に出過ぎた気がするけどまぁ、今回は仕方ない。
数秒ほど経って。
「なら、付き合いましょう」
「いいのか?」
「言い出したのはそっちじゃないですか」
「まぁそうなんだけど」
「しっかりしてくださいよ……」
「ははっ、すまんな」
そんなこんあで俺たちは付き合う(仮)ことになったのであった。
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