番外編「JKの思い出」
・久遠有希花の視点
私は昔から可愛い可愛いと褒められて生きてきた。
正直、自画自賛でもナルシストでもないが私にもそういう自覚はある。理解はしている。世間体で客観視しても私は容姿が整っている。
決してナルシストではないが。とにかくここは強調させてもらいたい。
母親が役者で、父親が医者というハイブリットな環境で裕福に褒められながら育てられた私はいつも勘違いしていた。
勿論、今は立場を弁えている。人間、容姿がすべてではない。女性は顔が大事だと言う人もいるが、そうではないことくらい知っている。
だが、昔は自らを凄いんだと思い込んでいた。
たまにヤンチャして花瓶を割っても「もぅ、可愛いんだから」と許され、父からは「可愛いねぇ、買ってあげるよ」といろいろなものを買い与えられていた。忙しい二人の代わりに育ててもらった家政婦のおばさんにも優しくされてもらっていた。
幸せそのものを生きてきた私は其れが普通だと思っていた。それに加えて私は友達にも恵まれていた。
小学生の時にできた友達。幼馴染の星くん。フルネームは
まぁ、幼馴染と言うのは少し違うかもしれない。というのも父親の仕事の関係で北海道の田舎町にやってきていた2年の間に、その場所でできた友達だからだ。
あっという間だったけど、色濃い時間でどんなものにも代えられないものだった。何も知らない自慢げに話す私にいろんなことを教えてくれたのは彼だった。
クラスで足も速い、医者の家系で勉強もしていて頭もいい、何より顔も可愛い。
だけど、彼にはかなわなかった。本を読むのが好きで、スポーツ万能。俊足で、頭も私よりも良くて、たまに見せる表情がカッコよくてたまらなかった。
しかし、彼との関係はすぐに終わった。
小学6年生で転校し、都会にやってきて、私はまた元に戻った。色々な関係で頭脳の振れ幅もある私立中学に入学したのだ。顔は可愛いから男は寄ってくる、頭もそこそこいいから先生にも好かれる。
そこで、私は同年代の女子に嫌われた。
最初は馬鹿なことをするもんだと思ったがそれは次第にエスカレートして、遂には学校にも行けなくなっていた。その嫌がらせも色々と変わっていき、高校生になるまで耐えてきた。
だが、私は高校生になった時には事切れていた。一人暮らしを始めて、親から離れるようになった。弱いところを見せたくない、きっとそう思っていたのかもしれない。
自殺も考えるようになった。喉にものも通らないし、いっそのこと餓死でもしてみようかなとも思った。結局できなかったけれど、私は崩壊していた。
そんな真っ逆さまな私を救ってくれたのは学年が一個上の先輩だった。優しくて、カッコよくて、ちょっと馬鹿だけど凄く誠実な人————だった。
だったのだ、あくまで過去の事。
純粋な私は騙されたのだ。初めてを奪われ、汚されて、一人残された。
簡単に言えば、「ヤリ捨て」だ。
辛かった、悲しかった、絶望して死ぬ決心がついて、最後に遺言でも書いて死んでやろうと思った日の夕方。
私は彼に出会ったのだ。
昔、好きだった星くんに。優しかった星くんに。
話しかけられた日は気づかなかったけど、でも彼は何も変わっていなかった。少し雰囲気は落ち着いていて、昔ほどのカッコよさはなかったけど……。
それでもっ、私を受け入れて、考えてくれた。
助けてくれたのだ。
ただ、それだけが嬉しくて、頼もしくて、同時に悲しくて、無力で……どうしようもなく悔しかった。
だから、私は見繕ってご飯まで作ってあげたのだ。
優しい彼に報いながら、自分を立て直そうとしていたのだ。
「好きだなぁ……」
高校から帰ってきて、勉強をして寝ている彼にブランケットを掛けながら私は呟く。
きっと私はずっと、星くんのことが——義隆流星くんのことが好きだったのだろう。
「美味しいな、これ」
「頑張ったからねっ」
「さすが……ありがとな、久遠」
「うんっ!」
星くんは優しくて、大好きだ。
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