第14話「JKと好み」
朝、10時30分。
俺はいつも以上に気合を入れて髪をセットし、普段は着ることのないようなお洒落な服に身を包んで久遠の部屋の前で待っていた。
「ふぅ……」
しっかりと固めた前髪が横風に靡かれ、ため息が流される。
久遠に出会ってから……いや、再開してからか。まぁ、とにかく顔を合わせてからかなり時間が経ったはずなのだが、どうしてか俺は緊張していた。
あまり出かけてなかったか、それとも女子と初めて行くデートなのか……おそらくどっちもだろうけど、にしても心臓がドキドキしてままならない。
西方のやつは「適当に行けばいいじゃん、ゴミリア充」といらない一言を付け加えて言ってはきたがこれをクリアしたことがあることを考えると普通にすごい。
昔の俺も、よくもまぁ久遠みたいな美少女と二人で遊んでいたわ。我ながら、尊敬する。
ただまあ、弱音なんて吐いても変わらない。自分から誘ったんだ。このくらい、やってやらなければ男としての面子も立たないな。
「ごめんなさいっ! 遅れました〜〜っ」
数分後、ガチャリと扉が開き、久遠が部屋から出てきた。
「あぁ、大丈夫ですよっ。俺もさっき出てきただけなんで……」
「ほんとですかっ、ごめんなさい……ちょっと準備してたら時間かかっちゃって」
「いやいや、女性が大変なのは知ってるんで……とにかく行きましょ?」
「はいっ!」
俺の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべて、久遠はコクッと頷いた。
現在、俺の隣を歩く頭一つ分小さい彼女の名は「久遠有希花」。
高校1年生で、俺の元同級生で幼馴染。小学生の時に親の都合で引っ越してしまってから顔を合わせることがなかった彼女を俺は先日、たまたま拾うことになった。
まぁ、ちょっとそこら辺は曖昧だし、一線越えそうにもなったがなんとか踏みとどまっている……そう思いたい。とにかく、そこには触れないでほしい。
彼女の性格はというと昔と同じ、少しだけ周りが見えていないところがあるが人よりも努力家で頭も良く、スポーツもそこそこできる。容姿は美少女、似ている動物はと聞かれたら、黒猫というのが個人的には一番しっくりくる。
猫耳なんかつけてくれたら卒倒するレベルでそこらへんのアイドルなんかよりはかわいい。というか、いつかまじでコスプレしてほしい。ラノベのヒロインみたいに、猫耳メイドやってほしい。膝枕で耳かきなんかしてくれたら俺はもう惚れちゃう。
とまあ、そんな容姿も相まって、最近まで女子からはいじめられていた。女子は怖いというが本当にそうだと思う。嫉妬心というか、ハズレものだというか、日本の国民性も相まって余計に辛い。
ただ、そんな久遠も最近は頑張っていて、俺は彼女とほぼ毎日一緒にいる。
それに久遠が昼食のお弁当も夜ご飯も作ってくれるので悪い気がしてままらないが彼女に言ったら「私が言ったんですから、やらせてください」と一蹴するしなんとも言えない気持ちに駆られている。
そして、俺は今日。
彼女と初めてのデートというわけだ。
今回のおでかけで何かを返せたらいいけどと模索最中だ。
「今日は案外、寒いですね……」
俺が頭の中でぐるぐると考えていてると、隣を歩く久遠がそっとつぶやいた。
「えっ、あぁ。確かにそうですね。予報では晴れだったんですけど」
「あれ、曇りだった気がしますけど?」
「え、まじですか?」
「ANAPPLEの天気アプリにはそう書いてたきがします」
「あぁ、そっか。俺はYHHOOの天気みてたからですね」
「まぁでも、天気予報はあくまでも予報なので大丈夫ですよ、きっと」
「そう思いたい、な」
「でも、それにしても寒いです」
むぅと唸る久遠。
手さげバックを肩にかけ、両手を組むように体に巻きつける。
確かにな、と俺も頷いた。
もう少し厚着できてもよかったかもしれない。それに慣れない格好で来たのが仇になったとも思う。
「確かにな」
「ちょっと、服……変えてきたほうがいいですかね」
「えっ。さすがに、もう帰れる距離じゃ……」
「ですよね」
ちょっと頬を赤らめながらがっかりする。あはは……と苦笑いしていると、突然久遠が足を止めた。
「あのっ」
「えっ?」
「あの、き、気づかないんですか……」
「……な、なんですか?」
急にそう言われても、と思いながら俺は一生懸命模索する。恥ずかしそうに上目遣いでしたから俺の目を見つめる。
「……ん」
くいっと顎を出す。
え、なに? と不思議に思ったのも束の間。
数秒ほど考えて、俺はハッとした。
そういえば、家を出てから触れてなかった。容姿を誉めていない。彼女になったわけではないが、女性とデートに行くのにそれを言わないのはさすがに失礼すぎる。
むぅ……と頬を膨ませながら俺の袖をきゅっと袖を掴んでくる。
制服を着ているとあんなにも清純派に見えるのに、久遠が今日きている私服はまったく違っている。
肩が丸見えで、首から胸の上あたりまではレースで透けている真っ白な服。したはミニスカートで下には網目の薄い黒タイツ。靴は少しだけそこが暑くなっているシンプルなもの。
控えめに言っても男心をくすぐる「地味……だけどそれがいい! ちょっぴりえっちだし!」系のファッションだった。
俺がそっと見つめると彼女はタイツを擦り合わせて内股になり、思わず鼻血がぽろっと出る。
じゅるじゅると啜って、持っていたハンカチで鼻をつまみながら俺は一言。
「えっとぉ……その、か、かわいいですね」
「っあ、ありがとうございますっ」
えへへ……と嬉しそうに頷く彼女。
そんな姿に俺も笑みが漏れて嬉しかった。
赤面しつつも、久遠は俺の方に半歩近づきながら説明する。
「その、昨日……義隆君がトプ画にしてた子見ちゃって。それで、その子を意識しました」
しかし、俺はギョッとして固まった。
「えっ」
「ちょっと、寝てる時に見えちゃって……」
「……ま、まじすか?」
「まじですっ……」
トプ画にしていたのは確か、
しかし、そう言う話ではない。
今まで誰にも明かさずなんとか隠していたはずの俺の隠れ推しがその瞬間、ばれたのだった。
「あ、あの……このことこは他言無用で」
「え?」
「ほんと、まじで……恥ずかしいので誰にも言わないでくださいっ」
「は、はぁ……」
やや呆れ顔で頷く久遠を見て、俺は少し悲しくなった。
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