番外編「JKとDK~3月9日~」
中学二年の終わり、この頃の俺はまだまッカー部に所属していた。
って、いやなんだよ、まっかー部って。
訂正しよう。
中学二年の終わり、この頃の俺はまだサッカー部に所属していた。
まだ、とは言ったが。そこまでの強豪校ではない俺の中学では三年生が引退するのが五、六月あたりで、そう考えれば残り数ヶ月である。
来年には高校受験を控えていて、そろそろ終わりなのかぁ……なんて、時の流れが早いのを感じていた。
受験って別に嫌じゃないけど、今のこのそれなりに充実していた生活がなくなることを考えると少しは寂しくなる。
そんなことを考えなら夕暮れ色の陽を見つめていると、脇から後輩がニョキっと飛び出してきた。
「……先輩ぃ、今日の部活ってまた外周っすか?」
「あぁ、そうじゃないか? 練習後に多分あると思うよ」
「うげぇ……」
「ははっ、そんなんで根を上げてたら何もできないぞ?」
「……先輩は試合に出てるから良いっすけど、俺たち出れないんですよ? というか、今年の一年って例年よりも弱いらしいし」
「う〜〜ん、そうかな? まぁ、いつも通りじゃないの?」
「それを先輩が言うんですか?」
「ははっ、んなの個人の努力次第だ。俺らがいなくなったらできるだろ?」
「……立てる顔がないっすよ」
「まぁ、頑張れ」
口調は男、体は女。やたらとベタベタしてくるのは後輩の
しかしまぁ、彼女は男受けがあまり良くない。特にサッカー部員からだ。理由はいくつもあるがとにかくビジュアルとのギャップが凄すぎるからだと言う。
「うぅ」と漏らしながらスパイクに履き替える林を見かねて、俺は背中を叩く。
「うげっ」
「頑張れって、応援してやるからっ」
「痛いっすよぉ……応援は声でしてくださいっ!」
「ははっ、林次第だな」
「ひどいっすぅ!」
まったくもってだらしのない言葉が漏れたが少しは頑張ってくれそうだろうか。それにこういうのは自分で解決しなきゃ意味がない。俺はスパイクの紐を閉めてグラウンドに向かうことにした。
基礎練習から始まり、パス練習、シュート練習、攻撃の連携や守備の連携、そしてゲーム(試合)とそうそうに3時間がすぎていく。練習が終わると外周があるため、皆いやいやランニングシューズに履き替え、顧問の合図とともに始まった。
それなりに体力に自信がある俺は結果、40人中4位の速さでゴールイン。ちなみに弱音を吐いていた林は10位と女子の割には好成績だった。正直、彼女は才能もある。未来のなでしこジャパンに入る可能性がある。
そんなこんなでヘトヘトになりながらも練習を終えた俺はスパイク磨きを終えて1人で帰路に着く。
「はぁ……今日も疲れたな」
帰り道。1人で呟く俺。
いや、決して友達がいないわけではない。たまたまスパイクの掃除が今日だったのだ。
聞こえぬ声に言い訳をしながら、歩いていくと前からこちらに歩いてくる高校生の2人が目に入った。
「ねぇ、それでねっ! あいかがさ、もうめっちゃくちゃ面白くて!」
「はははっ! それはちょっとやりすぎだな!」
「でしょ!」
仲睦まじく話す二人。
一人は男子で、もう一人は女子。肩を組んでいる姿を見る限り、おそらくカップルなのだろう。
そんな二人の会話をききながら、羨む俺。まったくサッカーばっかりやっていてこんな季節になっても彼女ができないなんて……と頭の中の悪魔が俺を罵倒する。
「はぁ……」
ほんと、何やってるんだか。
そう思っていると俺はとある情景を思い出した。
確か、四年……いや五年前か。正直、記憶は定かではないが小学生の頃だった気がする。決して栄えてもいないこのまちに越してきたとある少女。親は裕福で、とある一件を境に何も知らない少女に好かれた俺は雪解けのこの季節にこんな会話をした気がする。
「……もう、春なんだね」
少女はいう。
「そうだなぁ……意外と、早いもんだ」
夕暮れの雪解け道を背に歩みを止めた少女に俺は頷いた。
少女と知り合ってはや一年。もうそろそろ中学生になってしまうとなんとも言えない気持ちに駆られ、心が落ち着かなかった。
「でも、私たちって一緒だよね?」
少し黙って少女は後方で立ち止まった俺の腕を掴むと真面目な顔でそう言った。
最初、何を言っているのかがわからなくて俺はすぐにコクっと頷いて答えた、
「……だよね」
しかし、返ってきたなんとも言えない表情に俺は気がついた。
「寂しいのか?」
「えっ……うん」
聞き返すと彼女は驚いてから頷いた。どうやら図星のようで、目には少しだけ涙が孕んでいた。
「……だって、さ。もうすぐ大人になって、いつのまにか働いて……友達とも会えなくなるんじゃないかなって思って」
なんとなく意味はわかった。
空を仰ぎ、呟く少女の目は本当に寂しそうで今にも消えてしまいそうだった。
「怖いなって……」
「お、俺は……ずっと一緒だぞ」
恥ずかしがりながらも、本心を呟く俺。
「……ほんとに?」
「あぁ、ほんとだ」
「もし、私が転校しちゃっても……友達でいてくれるの?」
「て、転校?」
「うん。もしもだけど……」
真意はわからなかった。
だが、気持ちは変わらない。
「もちろん、ずっと友達」
「……あ、ありがとぉ」
まっすぐ言った俺を見て恥ずかしくなったのか、少女は頬を赤らめながら瞼を閉じた。
「なんて……あったなぁ」
甘い話だ。
男まみれのサッカー部でサッカーしかしていない俺からはもう感じ取れない話だ。まったく。
少女か。
名前が出てこないけど、かわいかった気がする。意地っ張りだけど寂しがりやで……頭がよかった気もする。
「何やってるのかなぁ」
何気ない会話だったけど、伏線だったのか。と俺は思う。瞼を閉じれば出てくる思い出だが、転校するならもっと仲良くなって、好きだったって言えばよかったなぁ。
「……あっ、先輩!」
カップルと通り過ぎ、一人で歩いている俺の後ろから聞き慣れた高い声がする。ぱっと振り向くとそこにいたのは林だった。
「林か」
「林ですっ!」
「……元気だなぁ」
「もちろんっす!」
「生理とかないのか?」
「そんなの捨てましたよ〜〜って、女子にそういうこと言っちゃいけないですよ!」
ドカンっと一発。
女子じゃないと思っていたが彼女もどうやら、女子だったらしい。
PS:DKっていうのは決してドンキーなコングではないからね?
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