第31話 少女達の戦い

 ベリーボリスへ向かう馬車の中。

 女性8人でほとんど女子会のノリ。賑やかな一時を過ごしつつ、コミリア達『竜の息吹』とフィア達『紅い牙』は、それでも仕事として護衛の確認や交代のタイミング、組み合わせや配置等、細かく打ち合わせていた。


「じゃあ、直接戦力として私とリルフィン 、それにラナ。マッキーとフィアは魔法で攻撃及び援護。ソニアは弓で攻撃と牽制、後ミリアと一緒に探索もね。ドリスは回復役として待機。役割に関してはいい?」


 コミリアの言葉に頷くメンバー。


「で、メンツの組み合わせだけど私とマッキー、ラナにミリア。もう一組がリルフィンとフィア、ソニアにドリス」

「待って! それじゃコミリア達の組に回復役がいないわ? 私とミリアを入れ替えたら?」


 ソニアが組み換えを提案する。

 精霊魔法を使うソニアは、光の精霊の魔法による回復呪文を持つ。無論プリーストのドリスが持つ神聖系回復呪文程の威力は無いが、それでも回復呪文には変わりがない。


「そうね。こうしてみるとロックが居ないのが地味に痛いわ。彼奴と従魔のスライは高位の神聖系回復呪文を持ってたから」

「不思議です。何故スライムが神聖系呪文を使えるのか? ナイツスライムもですが、ヒールスライムという回復に特化したスライムもいますし」

 ドリスの素朴な疑問。

「女神ルーシアン様の気紛れかしらね」

 魔法使いらしからぬ非論理的推測。マッキーの言葉に呆れつつ、

「そういうのは教会での論議でお願い。この組み合わせでいくわよ?」

 決定しようとするコミリア。

「コミリアさんと私が同じでいいのでしょうか? 剣士が2人とも同じと言うのは?」

「リルフィンも直接戦力組よ? この子レンジャーだけど私より遥かに強いから。ランクBは伊達じゃあないのよ?」

 コミリアの言葉に固まってしまう『紅い牙』。


 どうしても見た目に左右されてしまう。

 リルフィンは一見幼い女の子だ。

 実際、11歳とメンバー最年少であり体格も年相応でしかない。


「『魔狼族』のリルフィンは力も魔力も敏捷性も大人顔負けなんだから。獣人なのに私より魔力高いよ?」


 コミリアの言葉に、やっぱり驚く少女達。獣人の魔力は千未満がほとんどだ。剣士とは言え人族より多いとは?

「まぁ、ロックといると色んな目に合いますし…。お蔭様で貴重な体験、過ごしてます」


 てへペロ。

 可愛らしい幼い仕草だが、リルフィンの言ってる事はとんでもない。ロックの配偶者に求められるハードルの高さに、驚嘆と同情をかってしまう。


「いいかな? 明日はベリーボリスよ!」

「はい!」


 8人は何事もなく、楽しげにベリーボリスへ到着した。


 ベリーボリス・ギルド訓練所。

 少女達が模擬戦を行っている。


「ハッ!」

 キィン!。

 短槍に跳ばされるロングソード。勝負あり!


「流石ランクBね。全く歯が立たないわ」

 納得の爽やかな表情の剣士フィルミナ。


 噂に名高い『竜の息吹』がやって来た。

 コミリアは『紅い牙』と軽く手合わせを行うつもりでベリーボリス・ギルドに立ち寄ったのだが、訓練所にいた剣士やレンジャー、シーフからこぞって手合わせを求められたのである。


 勿論主戦力のロックがいない事に落胆はされたものの、コミリアですらランクC。中堅よりもやや上の冒険者との手合わせは、そうそう出来る事でもない。ましてやリルフィンはランクBのレンジャーだしソニアもランクBのレンジャー兼精霊魔法使い。充分実力者の集まりのパーティーなのだ。

「ランクCの魔法使いたる私が一番平凡な訳」

 マッキーは笑い飛ばすが、フィア達『紅い牙』にはランク1つ上とは中々高い壁である。そして、若手の冒険者のほとんどがDやEのランクなのだから。


 やはり、ここでもリルフィンは大人気となる。

『銀竜の魔槍』を手にしたリルフィンは無敵とも思える強さであり、「訓練だから」で練習用の棍に持ち変えた後も無双状態を続けたのだ。

 とにかく力と敏捷性が半端無く、薙ぎ払う棍を払い流す事は勿論受け止める事も厳しい。必死に撃ちかかっても避けられる。場合によっては転移呪文『ワープ』で後ろに回り込まれたり、間合いを外されたりしてしまう。

 訓練所にいた冒険者達の、特に男性陣が晴天の霹靂とも言える表情を見せた。リルフィンの強さが、実際目の当たりにしても信じられないのだ。


「また腕を上げてるわ、もう! 剣士で義理姉の私の立場を考えてよね」

 そうは言っても笑いながらのコミリアに、

「だって、練習相手がロックとかスライです。こないだのヒューダは私、死ぬかと思ったんですよ?」

「は? あぁ…、ヒュドラーと模擬戦したのね? 何?死ぬって穏やかじゃないけど?」

「結構実戦的なんです、その、従魔と模擬戦するの。スライはまだ理知的に相手してくれますけど、ドランやヒューダ等だとマジで死にそうなんです。私、こないだは右肩かじられちゃうし。いくら『ファイナル・ヒール』で元に戻るからってあんまりだと思いませんか?」

「ロックのお嫁さんパートナーって、やっぱリルフィンしか無理だよね。って言うか、リルフィンが出来ちゃうからロックが求める嫁のハードルが上がるんだと思うわ」


 ランクAの魔物相手に模擬戦。

 確かに死なない限りロックは治療出来る。いや、死んでも蘇生すら出来るから始末が悪い。

 そこまでやらないのは、蘇生呪文がどれだけ高い魔力を使おうとも確実性が無いからである。そして何度も試す…、使える呪文でも無い。同じ肉体に何度も使えないのだ。数回蘇生に失敗すると『蘇生不可状態』になってしまうのだから。ステータスボードで『生命力0』と表示されてしまう。こうなるとどんな高位の司祭が蘇生呪文を唱えても効かなくなる。何故こうなるのかは不明だが、結局生死は女神のみぞ知ると言う事なのだろう。


 コミリアは呆れただけだったが、他の冒険者のリルフィンを見る目が変わってしまったのは、ここだけの話。


 2日後。

 港に入港してきた船から降りてくる女達。船主と話しているのが奴隷商人ガルシア。悪人顔でもなく至って普通の商人に見える。他商人仲間? 小間使?が、女達を誘導し港の広場に集まりつつある。

 リルフィンの時と違い、奴隷女達は普通に着衣していた。一様に『契約の首輪』がなければ奴隷とは見えない位に。


 港に大型の馬車が3台到着する。

 女達を降ろした船は、次は荷物を色々積み始めた。どうやらこのベリーボリスまで貸切で女達を運んできたみたいだ。


「あんな大きい船を貸切で? 流石王族御用達ね」

「女性達も健康そうです。もっと悲惨かと思っていました」

「大事な商品です。不健康そうだと不良品と思われますから。私の時も、下着姿ではあったけど食事は悪くなかったし量も充分でしたよ」

 リルフィンの言葉に頷くメンバー。と、

「私の時も?」

「私も借金奴隷でした。オーク襲撃事件の謝礼として、奴隷商人がロックに譲渡したんです。その際ロックは証文を破り捨てて、その…、お嫁さんにしてくれたんです」


 ボン!

 言ってる側から赤くなっていくリルフィン。

 悲惨な奴隷体験かと思えば只のノロケ話だ。


「ま、リルフィンのサクセスストーリーはおいといて、依頼主に挨拶するわよ?」

 コミリアの号令一過、並んで待つ少女達。


「護衛の方々ですね。王都までよろしくお願いします。商人のガルシアです」

「剣士コミリア以下『竜の息吹』と魔法使いフィア以下『紅い牙』が護衛として王都まで付きます。よろしくお願いします」


『竜の息吹』!

 ライカー王国で1番人気と言える冒険者パーティー。商人は勿論、女達もざわめき、誰かを探しているようにも見える。


「ロックは今回別行動をとっています。その、女性のみの馬車の護衛という事で、指名依頼を受けていますし彼も男性ですので」


 女性達が見るからに落胆する。

 噂の凄腕テイマーを一目見たかったのか? あわよくば関係を持とうとしたのか?


「頼みます。私と商人が各馬車に分乗。御者は馬車におります。女達は馬車に10名ずつ。貴女方護衛は各馬車にお一人と残りは自分達の馬車でお願いします。では王都へ出発します。本日の最終目的地は宿場街ハインガッド。夕刻、そう17の刻には着ける筈です」

 ガルシアが宣言する。

 行程に無理は無い。むしろ少しゆっくり目だ。


 この行程だと、ハインガッド、アゥゴー、エルンスト、ポルト、サリアナ、サーバルグ、王都ライドパレスという所か?


 本来ベリーボリスとアゥゴーは隣街と言える位置関係に地図上ではある。直線で結ぶとだが。少し曲がるが、両街の間にハインガッドは存在する。どうしても徒歩で動く旅人がいる為に宿場街として栄えてきた。何せ馬車で2日の行程、ハインガッドがないと野宿しか手は無いのだから。


「これ、2週間くらい掛かりそうですね」

「コミリアさん、エルンストとポルトの間がヤバイかもしれないです」

 リルフィンがコミリアに耳打ちする。

「オーク出没の噂? ギルドでは噂の域を出てなかったけれど、リルフィンは何処で聞いた?」

「テイマーズ・ギルドです。新人テイマーのエフィメラさんがポルトの手前の『ゴーダの森』で行方不明になってるんです。従魔のホーンラビットだけが傷だらけで見つかったんですけど、後ろ足の噛み傷が明らかにオークだったと。アゥゴーとサリアナのテイマーズ・ギルドが合同で探索してるって」

「そっか。リルフィンはあっちにも顔出してたわね」

「ロックの付き添いですけど。受付の獣人の娘、レムシアさんとも友達だし」


 馬車に10人ずつ女性が乗り込んでいく。

 それに馭者と商人や部下のスタッフが乗り込み、最後にコミリア達が一部分乗する。

 今回ラナとミリア、マッキーがやって来た馬車に乗り、付いていく。本来はコミリアもなのだが、最初という事でガルシアが乗る馬車に同乗する事になったのだった。


「よろしくお願いします。いやぁ、今評判の『竜の息吹』の方々に護衛して戴けるなんて、私はなんと幸運なんだ」

 単純に喜んでいるように様に見えるガルシア。

「いえ。ロックがいないのでご期待に添えるかどうか。勿論精一杯の事は致します」

 事情が事情とはいえ、やはり主戦力がいないのが心細く、また申し訳なく思ってしまう。

「貴女もランクCですよね。充分です。それに、リルフィンさん? そちらはランクBだとか」


 ロックと共に、ライカー王国で有名な冒険者と言えるリルフィン。確かに背にある短槍と身に付けているレザーアーマーは見た事のない一級品だ。『魔狼族』という稀少種の獣人というのもあり、どうしても皆の注目を集めてしまう。そして、幼く可愛らしい少女である事に、ランクBの冒険者という事への違和感を感じる事となる。

 何せランクBと言えば街クラスの護衛兵団と単騎で互角に戦える強さだからだ。実際リルフィンは従魔2頭が共にいたとは言え、4頭の飛竜ワイバーンを倒している。戦争での実績なので誰も疑う余地はない。

 噂や誇張ではないのだ。

 なのでガルシアは勿論、同乗したいる商人やスタッフ、奴隷の女性達もリルフィンの強さを疑ってはいない。

 いないのだが、何処かで信じきれない。それくらいリルフィンの容姿は幼き美少女なのだった。


「よろしくお願いしますね、リルフィンさん。その、こういう女性達を見る事にショックを受けるかもはしれませんが。その…」

「あ、大丈夫です。その、私も借金奴隷上がりですので。私の時は、その…下着姿でしたし。だから、待遇、凄いいいなって思っています」


 リルフィンを見る目が変わっていく。

 この幼さで、世間の辛さを知っている!


「借金奴隷? 貴女が? 冒険者としてこれ程名声を得ているのに?」

「私はイーノ村の出身です。両親が山奥で山菜収穫作業中に魔物に襲われ亡くなってしまったので、奴隷商人に身請けされたんです」

「成る程。それなら確かに区分は借金奴隷だが、実際は何の借金も無い。未来の生活の糧で興るであろう借金の為に奴隷として生きる事になった」

「はい。で、オークに隊商が襲われロックに助けてもらい、奴隷商人のタークさんが私を謝礼としてロックに譲渡したんです」

「フム。元々借金の無い奴隷1人、隊商の護衛料として渡す。何と安上がりな。ターク氏の事は知っています。彼も合法的な奴隷商人ですので、何らかの伝がありますから。そうか、彼の所か。下着姿とは、春先だったのですか?」

「はい。あ、じゃあ今の季節ならば服が着れた?」

「えぇ。私も春先から秋口までは下着です。馬車内が汗で酷い臭気になるので身体を拭きやすくする必要があるのですよ。着替えを大量に用立てる事など出来ませんからね」

「あれ? じゃあロックと出会った時は?」

「です、コミリアさん。私、下着姿で…、ロックが紅くなって目を反らしたので自分の姿を思い出して…」

「中々強烈な出会いだったのね。紅くなって目を反らした…か。ロックらしいわ」

 クスクス笑うコミリア。

「その辺り、やっぱ11の子供だよね、彼奴」

 女性の下着姿…半裸を見て、ガン見ではなく紅くなって目を反らす?

 純情な少年の幼い仕草。女性達のロックの好感度がどんどん上がっていく。


 そして隊商は無事にハインガッドへ、翌日も何事もなく道中は進み、夕刻にはアゥゴーに着いた。


「は?」

「兄様から笑劇の連絡! ロックがヤラカシたみたい」


 ディックから聞かされた、ロックの「交渉力ポンコツ事件」の顛末。流石の酷さにコミリアも絶句してしまう。


「リルフィン?」

「ロックがまともに話せるの、私達『竜の息吹』にアゥゴーの冒険者仲間と御領主アルナーグ辺境伯。それにウィリス王太子殿下位です。初見の方とは全然」

「まさかギルドカードの提示すら思い付かないなんて。こんなにポンコツだった? 」

 姉としては嘆くしかない。

「彼奴が交渉事に全く入ってこないの、このせいなの?」

「半分は無頓着です。1人で森で護衛してアゥゴーに届けていた時は、銅貨2枚でやってたみたいだし」


 隊商護衛の相場は、普通銀貨数枚である。

 ロックは1/10以下で、嬉々として、その謝礼を受け取っていたのだ。

 尤も自給自足出来ていたロックにとって、駄賃が貰えれば越したことはないというレベルの話であり、隊商の商人達には有難くも有り得ないお伽噺となっていたのだが。


 リルフィンと出会い、その後特例で冒険者ギルドに所属する事になった。とは言えリルフィンも依頼料の相場など知らず、翌日にパーティー『竜の息吹』に加入し、初めて相場を理解したのだ。


「自給自足が出来てるって、意外なデメリットがあったのね」


 と、そこへ、

「何の話ニャ? あれ? ロックは?」

『竜の牙』の明るいシーフ、ミーナかやって来る。


「ロックは別の依頼でデルファイなんだけど、久々の1人でヤラカシた話が伝わってきてね」


 1人で森に住んでた引き籠り状態のロックを知っていると思ったので、コミリアもリルフィンも深く考えずロックの交渉力ポンコツ話をしてしまう。


 依頼人の秘密ならば流石に固く守秘義務を守るミーナも、仲間内のポンコツ振りは生来のおしゃべり好きが出てしまう。そして、こういう時のミーナは下手な拡声魔法より回りに伝達してしまうのだ。

 結果、ギルドの笑い話として広まっていく。


 ハーレムパーティーの唯一の男性として怨嗟の対象になっていた少年。もう遊んで暮らせる位稼いでいる高ランクの少年。羨ましい勝ち組の頂点とも言える少年のあまりにもポンコツな話に、アゥゴー・ギルドの男性冒険者が祝杯を交わしたのはここだけの話である。



 エルンストまで順調に来て、コミリアは再度オークの噂について情報を共有する。


 アゥゴー・ギルドで再度確認した時、冒険者ギルドでも注意喚起していた。テイマーズ・ギルドでは実際捜索活動も行っており、残念ながらまだ見つかっていないとの事。

 この隊商は9割近い人員が女性であり、オークにとっても喉から手の出る状況だという事を改めて注意を促したのだった。


「来ますかね?」

「何とも。一縷の望みは、オークの群れが小さいという事です。エフィメラを襲ったであろうオークの足跡、痕跡が少なかったみたいなんです。とすれば、多分リーダー格の者が、キングは有り得ません。ジェネラルもどうでしょう?アーチャーは論外だしメイジ位かな?と思っているのですが…。仮にジェネラルだとしても私達は対処出来ます」

「流石B-のパーティー。頼りにしております」


 ヒィヒヒヒーン!


 馬の鳴き声が響く。


「どうしたの? 敵襲?」

「いえ! 罠です。馬の足がとられるような罠が仕掛けてあって、先頭の馬車の馬が転びかけたんです」

「罠? まさかオークに偽装した盗賊団? 全員出るわよ!!」


 隊商が止まり、各馬車及び付き添いの馬車から出てくるコミリア達。


「コミリアさん!」

「オークの面構えとあんまり変わんないわね!確か『ゴブリンの涎』だったかしら?」


 隊商を囲む冒険者崩れの様な男達。


「誰がだ! 俺達は『獣牙団』だと言ったろうが! コミリア!! テメェがいるとはなぁ! 丁度いい! 奴隷達含めて、お前らも売り飛ばしてやるよ!!」

 激昂して唾を飛ばす脂ぎった男 ~ 剣士崩れのゲドン。


「出来るかしら? 昔の私達とは違うのよ? 皆! あのオッサンは元Eランクの剣士ゲドン。実力は兎も角素行の悪さが災いしてランクアップ出来なかったワルよ!腕はCにも匹敵って言われてたけど、賭博と酒で身を崩したバカ。ね、剣先震えてない? あ~あ、かなり腕も落ちたみたいね」

 ケラケラと笑いながら剣を構えるコミリア。

「上等だぁ! コミリア!! テメェだけは売り飛ばす前に可愛がってやるよ!! テメェなんぞには勿体ねぇ、そのデケェ乳をな! たっぷり揉んでやるから悶絶しな!! オメエら! やっちまえ! 捕まえた女の2人までは好きにしてイイゼ!!」


 囲んでいる男達は数十人。ニタニタと笑って剣を構えている。


「させません!」

 言うか早いか! 先ずは左手にいる6人程の集団に飛び込むリルフィン。短槍を持ち変え、柄の部分で叩きのめしていく。

「大地よ、その顋に我が敵を捕らえよ『ガイアバインド』」

 ソニアの精霊魔法が炸裂! 盗賊達の足元が割れて地面が足首を捕らえる。

「な!? チッ!くっそ!!」

 動けなくなった盗賊崩れ等、ランクDの『紅い牙』にすら敵にならない。只の的だ!簡単に倒され、捕縛されていく。


「バカな! 俺達『獣牙団』が女共なぞに…。こうも簡単に捕らえられるというのか?」

「私達ランクBやCなの! あの娘達もDなの! E崩れのアンタ等に負ける訳ないでしょう?」

 コミリアが言い終わる前に、踵を返し逃げ出すゲドン。だが、

「何処へ行くんですか?」

 リルフィンが回り込む。

「退け! このガキ!!」

 剣を振り回しながら突き進むゲドンに、避けもせず短槍で剣を叩き落とす!

「がっ!く、くそ、このガキ!!」

「エフィメラさんは何処ですか?」

 槍先を突き付け、冷たく尋ねるリルフィン。

「あ? あぁ、あのガキか…。へっ、おっ死んだよ! ったく! 1回しか回せなかったぜ。全く楽しめねぇ」

 悪びれずニタニタと応えるゲドンに、少女達は嫌悪感しか持てない。

「1回しかって…。まさかあの娘を全員の相手させたの? まだ成人前だというのに!」


 テイマーズ・ギルドでコミリアはリーリエと会った。

「エフィメラは13歳の新人テイマーです。水色の髪に鳶色の瞳を持つ、少し小柄な少女です。ホーンラビットはこちらで保護してます。なので、あの娘には相棒たる従魔はいません。最悪の事態になる前に見つけ出したいんです」

 必ず見つけ出し、連れ帰ると約束したのに!

『ごめん、リーリエ。間に合わなかった…』


「見つかった従魔にはオークの歯形、噛み傷があったと聞いているけど、どうやったの?」

「へ? ひ、ひぇへへへ。そうだよ、あれが有ったんだ。あぁ、教えてやるよ!! こいつを使ったんだ!」


 ゲドンは懐から小さな笛をだす。


 ピィー! ピィー! ピィー!


 空間が歪み、そこからオークが出てくる。しかも3頭。


「召喚の魔笛? なんでそんな物を?」


 召喚の魔笛。

 特定の魔物を、空間を無理矢理つなげて強制的に連れてくる魔道具。しかも呼ばれた魔物は笛を吹いた者に従順になる。

「この女共、好きにしてイイゼ!!」

「ブゥギィイイイ!」


 急に無理矢理連れてこられ、オーク達は怒り心頭!

 暴れ回り、全てを食い散らすつもりでいた。だが、目の前にいる女達を見て気が変わる。そこへ『好きにしていい』という命令!!


「逃がしません! 3頭位ならば!!」


 転移呪文『ワープ』を使いオーク達の後ろを取ったリルフィンは、そのまま『銀竜の魔槍』で薙ぎ払っていく!


「ブッギャアアアァァ」

「ピギィ~」

「ブゲッ!」


 首を跳ね、袈裟斬りにした後喉元に突き刺す!

 電光石火の一撃!! あっという間にオーク達は倒されてしまう。


「な、こんなガキが?」

「私、ランクBです。オークキングともサシでやり合えるんです」

 幼く可愛らしい微笑みを浮かべながら、ある意味ドン引きの事を言うリルフィン。


「ちぃっ」

 踵を返し逃げようとするゲドンの足元にリルフィンが魔槍を投げつける。


「て、だっ。く、くそ」

 柄が足元に当たり、ゲドンは揉んどりうって倒れる。

「は、得物を投げるなんてバカなガキだ! この槍はもらっちまうぜ!」

 目の前にある一級品の短槍。とんだ拾い物だ!

 ゲドンはニヤケながら短槍を拾う。だが、

「な、え? く、くそ。なんだこれ?」

 持ち上がらずつんのめってしまう。


「獣人の私はオジサンよりずっと力持ちなんです。尤も、それ、持ち主の魔力を識別して軽量化の魔法が掛かる様になってますけど。それに、持っていけなくなってます。『戻れ!』」

 リルフィンの一言で短槍は手元に戻ってくる。


「な、は?」

「槍ですから投げる事もあります。だから自分で帰ってくる優れモノなんです」

 改めて槍先を突き付ける。もはやゲドンには逃げる気力も無い。


「アジトへ、エフィメラの処へ案内してもらうわ」

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