第5話 オーク討伐作戦
高級宿『至高の楽園』。
ここアゥゴーの街で1、2位を争う高級宿であり、裕福な商人や本宅・別荘別宅をこのアゥゴーに持たない貴族の常宿となっている。
付随する食堂もまた、貴族の食事に対応出来るレベルであり、その味の評判も高い。
そんなご馳走を、目を輝かせてバクついている子供達は、年相応でとても微笑ましく、ミーナやリラの母性を擽りつつあった。
涙目のシオンはこの際置いといて…。
リルフィンもポロシャツとスカートという、ローブ姿から年相応の少女らしい姿になっていた。
「本当に服だけでいいのかニャ?」
「はい。その、ロックが、家に帰ればあるからって」
「ニャ?」
「あの、ジッチャンが作った武器、あります。さっき聞いたら、短槍使いって言ったので」
「『黒き大賢者』が作った武器? 羨ましいな」
デガンがボソッと呟く。
「すみません、斧は無い…です」
食事の手を止めて、すまなそうに呟くロック。
「あぁ、すまない。そんな意味ではないよ。私は魔法の斧を、『電光の斧』を持っている。コイツは敵を痺れさせ、持ち主の体力回復も出来る優れ物だ」
背に背負ってるバトルアックスを指してニヤリと笑う。
「たから気にせず、さぁ、食べた! 食べた!!」
ある程度平らげ、場も和んできた処で、
「ロックに1つ聞きたい事があったんだ。ホラ、従魔の中にビッグスライムがいるだろ? どうやって従魔契約したのかと思って」
興味津々という雰囲気でシオンが尋ねる。
「それ! 私もとても気になっていました! あの」
隣のテーブル。冒険者のパーティーが座っている。
その中の1人、リーリエ=ザリナス。
金髪紅眼のテイマーの少女。苗字付きなので貴族階級か、それに類する者だ。
「えと、もしかしたらリーリエさん? ですか? 同じテイマーの?」
「はい。その、私を知っているのですか?」
「すまん。さっき話したんだ。この街の凄腕テイマーとしてね」
シオンが笑いかける。
「そんな。私なんて。それよりビッグスライムです」
「えと、何故?」
「ビッグスライムは従魔契約出来ない魔物なんだよ。俺達の知る限り君が初めてだ」
ポカン。
そんな雰囲気のロック。どうやら知らなかったようだ。
「リーリエさんは、スライムを従魔にした事は?」
「初めて契約したのがスライムです。これは大概のテイマーがそうだと思います」
「何処まで育てました?」
「はい? いえ、今の相棒と言うべきワンガンコをテイムする時に…。どうしても弱いので、テイムの初歩位のイメージしか」
「スライム、ある程度育てると、仲間呼ぶようになります」
ロックの最初の従魔スライ。『体当たり』と『粘液飛ばし』しか持っていなかったが、ロックやドランと共に戦い、確かに足手まといに近かったものの、敵の注意を牽き隙を作る事に役立った。
そうして一緒に戦っている内に『仲間を呼ぶ』を覚える。スライムとは言え10数匹いれば其なりに戦力になる。やがて、呼んだ仲間を支配に置くようになる。
「成る程。スライムが結構群れているのは、そういう事か?」
「支配出来るようになると、そのスライムを核として合体します。これがビッグスライムです」
「何だって? じゃあ、あれは?」
「10匹~15匹程の集合体なんです。僕のスライは『捕食』持ちです。支配したスライムを文字通り喰って一体化し、ビッグスライムに進化しました。従魔契約は生きていますので」
「成る程。スライムからビッグスライムに進化させる。そこまで育てたということか」
「集合体。だから、従魔契約出来ないのですね?」
我が意を得たり。頷くロック。
「従魔契約は1対1が絶対原則。集合体だと1対多数になってしまう。こんな簡単な事だったの?」
茫然とするリーリエ。
ビッグスライムの従魔契約不可は、テイマーにとって納得できない不思議な現象だったのだ。
「確かに、普通スライムを育てたりしないものな。GランクのスライムをDランクのビッグスライムまで育てたのか」
「ビッグだけじゃありません。全てのスライム種は、スライムから進化します。僕のポイズンスライムは、元々スライが集めた仲間のスライムの1匹です」
「何? そう言えば、あの森にはポイズンスライムはいなかったよな」
「森の奥の『毒蛙の沼』でポイズンドートの毒にやられました。それを乗り気って生き残った奴が進化したんです」
「スライムの内に従魔契約しておく。進化するまで育てる。目からウロコだな」
納得いったのか、感心して頷くシオン。
「そうですね。スライムをそこまで育てるなんて、今まで聞いた事ありませんでしたし」
「どうしても主戦力を得るまでの繋ぎだったり、補助的だったりになりますので。僕も主戦力はドランですし」
「あぁ、まぁ、トライギドラス以上の戦力は中々無いだろうから」
何せA+ランクである。
夜も更ける前、街の門が完全に閉まる前にロックとリルフィンは森の奥の村跡地に帰っていった。リルフィンの装備の事もあり、結局街に泊まらず帰る事にしたのである。
翌朝。
街門の前に、少し大き目の馬車。ギルドが所有する魔法の馬車であり、客室は2部屋あって、結構な人数がゆったり出来る仕様になっている。
依頼が女性の救出とオーク討伐である以上、女性運搬の手段が必要である為ギルドが貸し出したのだった。
シオン達『竜の牙』4人と『紅き閃光』の5人。4人の戦士と1人のレンジャーの少年達のパーティー。
そしてロックとリルフィン。
リルフィンはレザーアーマーと、背に銀色の短槍を身に付けていた。
「それが『黒き大賢者』が作った武器?」
「です。とても軽くて使い易いんです」
「どれどれ? うニャ?」
興味津々とばかりリルフィンから短槍を借りるミーナ。受け取った瞬間、驚き落としてしまう。
「メチャクチャ重いニャ! 何処が軽いニャ?」
ヒョイ、と手に取るリルフィン。
その仕草は、全く重そうに見えない。
「凄い力持ちニャ!」
「うん? どれ? ほう、成る程。確かに重い」
今度はデガンが手に取る。
「持ち主、認識します。リルフィンには軽くて使い易くなる魔法かかった短槍です。その、僕が背負ってる剣も同じです」
「ほう、流石は『黒き大賢者』作の武器。凄いな」
感嘆符が見えてしまいそうな雰囲気。特に、『紅き閃光』の少年達には羨ましがられた。
「と、急がなきゃな。それじゃ行くぞ」
ロックの案内で、レトパトが突き止めたオークの集落の近くまでやって来る。
「あれです」
「結構大きいな。成る程。確かに真ん中に大きな館。フム、女達がいるのは右側の小屋か? よし!このまま待機。夕刻を待って奇襲をかける。オークは夜行性じゃないからね。昼間の方が動きが良いんだ」
「女性の救出には私とミーナが行く。で、護衛にテオ君とアレク君、お願い出来る?」
「構いませんが、リラさんに俺達の護衛なんて要ります?」
「オークは女を見ると、捕まえようとがむしゃらに襲ってくる。私とミーナだけではオークに集中的に迫られてしまう」
成る程。頷く『紅き閃光』。
「うん。リラさんにミーナさんならオークならずとも俺達も迫るし」
「ニャ? お姉さんに迫ってみるニャ?」
「馬鹿言ってないで行くわよ」
「ビルはデガンと右手の入口を塞ぐ形で、俺とマックスは左の高台から掩護射撃。そしてロック君とリルフィンさんは正面入口から攻める。オークキングがもし居たら」
「ドランがぶつかります。スライ…ビッグスライムとリント…ポイズンスライムに遊撃させます。レツ…レトパトに見張らせますので逃がす事は無い筈です」
少し体制不足か? だが、シオンはロックを高く評価していた。
「何とかなる! よし、しばらく待機」
だが、女性が囚われている小屋から、絶望的な叫び声が聞こえてくる。
「助けて。もう止めて。これ以上私を汚さないで!いやぁ!! もう殺して!! 死なせて…」
3人の、悲しい叫び。
「おい、シオン?」
「ダメだ! 助けるぞ! 突入!!」
夕刻を待たず、突入する事に。
「モンスターハウス、オープン! ドラン!彼奴らを蹴散らせ! 喰ってしまえ!!」
空間が開き、トライギドラスが大空に舞う。
「パルルルル【大人しくしろ! 『竜の威圧』】」
オークどもの動きが止まる。
「しめた! 食らえ!!」
広場にいたオークに斬りかかるビル。デガンも魔斧で粉砕していく。
高台からマックスの弓矢が、シオンの魔法が襲う。
小屋の扉を開けて、
「助けに来ました!」
ミーナとリラが突入する。
「ブッ? ブギャアー!」
女を襲おうとしていたオークがリラの剣で袈裟斬りにされる。ミーナの短剣で首を切り裂かれ、オークが血の泡を吐きながら倒れていく。
そこに裸の女が3人。それにマントを被った者が1人。
「大丈夫? 早く出て! あなたは? 前に捕まっていた方? 貴女も早く!」
「あだじば、いびわ…。いぎなざび…」
声が掠れ、割れているが女性には違いない。
「何言ってるニャ! 早く!!」
そう言って、マントをとるミーナ。
「え? 貴女は?」
そこにいたのは下着姿の女性。
だが、殴られ、爪で裂かれたのか、顔が歪み、右目が少し飛び出ている。髪の毛の左1/4が無く、大きな傷痕が赤いミミズの様に頭皮から喉元へ伸びている。左の乳房にも噛み傷があり、また、右足首から先が無い。
「いつから…。胸の噛み傷…。オークを産んで授乳したのね」
「…だがら、いびのぞ。あだじびがまばず…、ばやぐいぎなざび」
最早人間社会には復帰出来そうも無い女性。
だからと言って、置いていくのも躊躇われるのだ。
「リラ? どうするニャ?」
斬りかかってきたオークジェネラルの大剣を避け、スムーズな所作で斬っていくロック。周りの目からも、『黒き大賢者』の弟子と納得出来る剣筋で倒していく。その取り巻きのオークを短槍で切り裂き、突いて倒していくリルフィン。こちらも女の子の槍術では無い!
勿論、竜の威圧のせいでオーク達の動きが悪いのもあるのだが。
「新手?」
オークが群れを成して向かってくる。
「伸びろ!」
リルフィンの声に応え、短槍から通常の槍の長さになると、
「エエエィ!」
渾身の力を込めて投擲するリルフィン。
「ブギャア! グワッ!?」
銀色の魔槍はオークを貫き、頭を粉砕すると、そのまま後ろのオークに突き刺さり、3匹纏めて串刺しにしていく。
「戻れ!」
リルフィンの声に応えて、その手元に瞬間的に戻る魔槍。
「な、何それ? 凄い!」
信じられない性能に、皆呆れ返る。
「縮め!」
短槍に戻る魔槍。天才と呼ばれた『黒き大賢者』の渾身の作。ってなっているが、実はロックに頼まれた女神ルーシアンが作った武器だったりする。勿論ロックの大剣も同様だ。
流石は神の作りし魔法の武器。
(反則だよね、コレ)
苦笑しつつ、でも黙っていようと誓うロックだった。
「ブッギャア! ブヒブヒィ!」
威圧が解ける。
オークジェネラルよりも数倍デカイ個体。
「やっぱりいた! オークキング!!」
怒り浸透たるオークの王! そして、それに向かって飛び込んでくる3つ首竜。
「パルルルル【肉の王!覚悟!!】」
「ピルルルル【俺、相手!】」
「プルルルル【俺、倒す!】」
「ブッギャア!ブギャア!!」
自分より格上と理解した? 慌てて魔法で土壁を作るオークキング!
「アースウォール? そうか! 土魔法を使えるんだ」
「パルルルル【あまーい!】」
「ピルルルル【無駄無駄!】」
「プルルルル【ドカーン!】」
壁をぶち抜き、そのままの勢いで、オークキングに前足を叩き付けるトライギドラス。
「ブギャア!! ギャアアア!!」
オークキングの首がおかしな方向に曲がる。
たった1撃! 呆気ない程に勝負がつく。
「は? 1撃かよ? 」
「今のは?」
「パワークラッシュ! オーガを喰って覚えたんです」
力を溜めて両腕で叩き付ける怪力攻撃スキル。
それを竜種が、急降下しながら放つ!?
得意気なロックの表情。
回りはA+ランクの攻撃力の凄まじさを見せ付けられ、味方で良かった、としみじみ思っていた。
一方、王を1撃で倒されたオークのパニックは頂点に達してしまう。
慌てふためいて逃げようとするも、再び竜の威圧を食らい、動けなくなったオークを殲滅するのは、それほど難しい作業ではなかった。
ロック達は、無事オーク討伐の依頼を完了した。
だが、女達の救出作業にて難題が待っていたのである。
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