第4話 ロックの実力

 いつものように狩りをするつもりで、ロック達は森に出ていた。トライギドラスに乗って、上空から獲物を探していた時に、馬車を襲うオークの群れを見つけたのだった。


「ブヒィ! ブモゥ! ブヒブヒ!!」


 オークジェネラルに率いられた群れが馬車に殺到する。

「キャアアア!」

 女にとって、オークは最悪の魔物と言っていい。

 エサにされるのは勿論だが、繁殖に使われてしまうからだ。

 オークやゴボルト、ゴブリンにオーガ。

 この種類の魔物にはメスがいない。他種族のメスを使って繁殖するのだが、ゴボルトはやはり犬型の魔物のメスを使う事が多い。オーガもその体格上、あまり人間の女を使わないし、それほど繁殖期も来ない。ゴブリンに至っては、メスなら何でも可であり、為に爆発的な繁殖力を持つ。

 だが、オークは好んで人間や亜人の女を使う。また、オークは性欲が異常に強く、女達は身も心もボロボロになってしまう。

 そんな女達が一杯いることに気付いているように、オーク共は馬車へ殺到したのだった。


「ブヒヒヒヒィ! ブモゥ!」

 馬車の扉がこじ開けられ、中の女達を確認し奇声をあげるオーク。奴隷商人と護衛の戦士も必死の抵抗をするものの、絶対的に数が不足していた。

 結界がなくなった事がまだ知られていない。

 以前ならばこれで、充分といえる位の低ランク魔物しか現れてなかったのだから。

 Cランクのオークジェネラルが出てくるなど予想外であり、群れの数も予想外だった。


「キャアアア! 嫌アアアア!」

 女達も借金奴隷の身であり、娼館に売られる事もあるのは納得していた。犯罪奴隷では無いため、ある程度の人権は保証されてはいる。

 まさか、オークの群れに襲われるなんて!?

 殴られ、気絶させられてオークに担がれていく女達。

「えぇい!」

 そんな中、銀髪の獣人の少女が抵抗し馬車からの脱出に成功する。が、馬車の回りには嘲り笑うオークの群れがいた。

「そんな…」

 まだ10歳位の少女だ。

 見ると、中にはいきり立つものを露出させて迫るオークもいる。

「うげ…、気持ち悪い。でも、ここまで絶望的?」

「伏せろ!」


 やや遠くから聞こえてくる声に反応する。

「誰?」

 伏せた少女の上を、風魔法ウィンドカッターの煌めく刄が飛び交っていく。

「ブッギャーアアアア!」

 オークが切り刻まれていく。

「大丈夫?」

 少女の横に、緑の髪の少年が降り立った。



「ドラン、助けよう!」

「パルルルル【オークは?】」

「ピルルルル【食っていい?】」

「プルルルル【旨そう!】」

 首の根元? を擦って指示するロックに、ドランがオークを食べていいか聞いてくる。

 群れの為にD+ランクとなっているオークなので、Cランク位のパーティーでないと本来は太刀打ち出来ない。が、ギルドに行ってないのでランク外評価となっているが、実際はかなりの高ランクといえるロックと、A+ の可能性があるドラン。全く問題なかった。

「いいよ! ドラン、肉祭り食べ放題!」

「ピルルルル【お肉♪】」

「プルルルル【お肉♪】」

「パルルルル【食べ放題♪】」

 オークは、狩る側から狩られる側になった。


「ブッギャーアアアア!!」

 ガブリ! バキバキ! ゴックン♪

 爪や噛み付き、尻尾の攻撃で、どんどんオークを倒していくドラン。そのまま食らい付いていく。

 ロックも背の大剣を抜いて攻撃する。

 コルニアスの剣技を意識に刷り込まれている為、剣がスムーズにオーク共を切り裂いていく。


「ブーギ、ブッギャーギャー!」

 オークジェネラルが1声吠える。すると、ほとんどのオークが一目散に逃げ出す。

「助かった? でも? 皆居ます? オークに連れ去られた方がいますか?」

 破壊され、蹂躙された馬車に尋ねるロック。

 と、横に銀髪の少女が来て、

「3人足らないです。ここに、私含めて10人の女性がいました。でも」

 ケガしているのを含めて6人しかいない。

「3人? うわ?」


 ここでロックは女達の格好に気付く。奴隷だからだろうか。皆、下着姿だったのだ。

「助けてくれてありがとう。貴方、凄く強いんですね。格好良かった。本当にありがとう。あの?」

 銀髪の少女も気付く。

 目の前の少年が、真っ赤な顔で外方向いている事を。

「あ!」

 自分が下着姿だという事を。


 もう1台の馬車は無事だった。

「君? 本当にありがとう! お陰で助かったよ。お礼もしたいし、どうかな? このままアゥゴーまで一緒に」

「あ、あの、お礼はいいです。あの、ドランが上で睨んでるし、多分もうオークは来ないとは思うんですけど、念のため街まで送ります」

 上空には、オークを腹一杯食べて満足げなトライギドラスが飛んでいる。

「パルルルル【お肉何処だ?】」

「ピルルルル【お肉何処だ?】」

「プルルルル【出てこい 、お肉♪】」

「後、オーク達の巣が何処か、僕の従魔のレツ…、レトパトが追い掛けています。わかったら教えます」


 そう言うと森の出口まで送り届けたのだった。



 街の入り口前の広場。森の出口。

 奴隷商人2人と馬車1台の中から出てくる10人の女達。そして外にいる6人の女。


 アゥゴーの街より警備員が近付き声をかける。

「大丈夫か? 皆さん無事か? ケガ人とかは?」

「ケガ人はいません。3人の女がオークに連れ去られましたが、残りは無事です。あの子のお陰です」


 森の出口に1人の少年。

「あの子!」

「ロックニャ!」

「まさか、あの子が1人で?」

「えぇ。あの子も信じられない位強かったのですが、あの子の従魔が! トライギドラスが片っ端からオークを平らげてしまって」


『信じられない位強い』『従魔のトライギドラス』


 街の入り口。そこにいる冒険者や商人、ギルドや警備の人間が不思議そうに森の出口の少年を見る。

 身の丈近い大剣、不思議な素材のバンディッツメイルを見に着けた少年。まだ10歳前後にしか見えない。

 しかも、従魔にトライギドラス?

 Aランクの3つ首竜。アゥゴーの街位なら壊滅出来る程の天災的魔物。それを従魔に?


「ここにいるシオン達も確認して報告を受けているわ。ギルドはあの子を凄腕のテイマーと認識しています」


 ギルドマスター・ルミナの言葉に、回りの雰囲気が変わった。

 ギルドが凄腕のテイマーと認めた? とは言ってもまだ子供。楽にとり込められるだろう、冒険者にそんな気配が漂いだしたのである。


「ロック君、ありがとう。お礼もあるし、色々話もしたい。街に来てもらえないかな?」


 シオンが話し掛ける。

「シオンさん、でしたよね。あの…、お礼…貰いました。その…、僕に…話無いです。後は、お任せします」


 興味なさそう? というより人付き合いが下手過ぎ?


「えと、うん。まぁ、そうかもしれないけど、その」

「シオンも同レベルニャ! 話下手ニャ! ね、ロック君。大変? 面倒? ニャんとニャく分かるけど、世捨人は早すぎるニャ! もう少しお姉さんたちと関わってみるニャ。とりあえず食事! 一緒にどうニャ?」

 会話が続かないシオンを見かねて突っ込むミーナ。

「はい? え? 食事!? ですか?」

「このお兄さんが奢ってあげるニャ!」

 シオンの肩を叩くミーナ。呆れるパーティーメンバー。

「どうニャ? 街1番の宿の食堂でお腹一杯食べてみニャいかニャ?」

「俺の奢り? 街1番って『至高の楽園』のか?」

 慌てるシオン。ランクC冒険者として稼いではいるが、『至高の楽園』は街1番の高級宿だ。食堂もそれに付随した味と価格になっている為に2つ返事で、とは言い難い。


「ロックさん、シオンさんも。その食事は私がお礼として出させてもらいますよ。どうでしょうか? ロックさん!?」

 奴隷商人の1人、代表であるチャイ=タークが話し掛ける。こっそりホッとするシオン。

 ロックも断り切れないかな? と思い始めた。

「そう…ですね。あぁ、君の服とかもあるし買い物、必要だよね」

「あ、少しは持っているのです。馬車の中に…」

「馬車、壊されて、荷物ボロボロにされてた。それ以外だったの?」

「うーん、あれだけど…」

 ロックの後ろ、よく見るとローブ姿の銀髪の獣人少女がいる。

「あれ? あの娘は?」

 すると、奴隷商人タークが

「お礼として、あの獣人の少女を彼に譲渡しました。南の山村で魔物に襲われて両親を失ったんです。身寄りが無いため私共の処に来たのですが、犯罪も借金も無いので。丁度歳も同じ位ですし。彼に尽くす事を彼女も了承したので」

「じゃあロックの所有奴隷?」

「いえ。あの子は直ぐ奴隷証文を破り捨てました。尤も譲渡した奴隷をどうしようと、あの子の自由ですが」

「じゃあ、あの娘は自由民ニャ?」

「ですね。もはや私共は関知致しません」


 そんな話をしている最中、ロックが何かブツブツ言い出す。

「ここは? 森から外れて、川向うの岩場の先の広場? 川縁で村が出来つつ…、あれ? 数が倍以上? ジェネラルが2匹? 」

「どうしたニャ?」

「多分レトパトだ。偵察する時、レトパトは見た物を従魔の絆で結ばれた主に、そのまま送れる能力を持っている。手紙を運ぶだけが能の鳥じゃないんだ。攻撃力はあまりないけど、かなり使える魔物なんだよ。尤もメチャクチャ人間嫌いで中々慣れてくれないし、テイムしにくい魔物ではあるけど」

「それ、凄いニャ!」

「凄腕のテイマーだな、本当に」

 シオンの呟きに皆頷く。

 と同時に、何としても自分達のパーティーに入れる! やや黒い雰囲気が漂ってきた。


 通信が終わったのだろう。ロックはシオン達を見ると

「オークの村、行先わかりました。森から出て岩場の広場の川縁。只、数が倍以上です。ジェネラルも2匹いました。村の真ん中に大きな家あります。ひょっとしたら…」

「王クラスが、オークキングがいるかもしれない訳か」


 オークキング。ジェネラルの上位種。ランクB。

 その力は強大で、中レベルながら大地属性魔法すら使う魔物。

 回りが騒ぎ出す。

『紅き閃光』の少年達も、

「シオンさん、キングがいるとなるとE+の俺達じゃ」

「厳しい、か。Cの俺達もチト厳しいな。ルミナ、盗賊討伐隊はいつ帰ってくるんだっけ?」

「明後日よ。そしたらB+の『電光の大斤』やA+の『悠久の風』が帰ってくるわ」

「くっ! オーク討伐だけなら兎も角、女達の救出を考えると、明日には出発したい。だが…」


 ランクの差は、ある意味絶望的な壁だ。1つ上位なら巧くいけば、という状況なのだ。


「あの…、オークキングは任せて下さい。ドランなら大丈夫だし、その、僕も…、前、オーガキング倒した事、あります」

 ロックが、自分を指して言う。


 オーガキングもランクBだ。つまり、この少年はランクB並みか、それ以上の戦闘力を持つ事になる。


「そうか? 本当に君は凄いな。ルミナ? 俺達とこの子。それに『紅き閃光』で明日出発する。確かに、トライギドラスがいれば、オークキングも何とかなる」

「そうね。貴方のトライギドラスは『捕食』持ち?」

「え? あ、はい。ドランとスライ…僕のビッグスライムは『捕食』を持っています」

 これで、トライギドラスのA+は確定した。


「A+?」


 ざわめきが大きくなる。ランクAで充分天災的な魔物なのだ。

「あいつらだけで、小国位なら潰せるんじゃ?」

 場の雰囲気が変わる。パーティーに入れる事よりも、この子を怒らせない、関わらないっていうものに。

 そして、ミーナは勿論シオンも理解する。この子は1人で生きざるを得ないのだと。こんなに腫れ物のように思われていたら、とても街で一般の者とは暮らせない。雰囲気に居たたまれなくなってしまう。ましてや多感な少年の時期では!


「明日…ですね。また、明日の朝、ここに来ます」

 雰囲気を察し、帰ろうとするロック。


「待つニャ!」

 ミーナに捕まって抱きしめられてしまう。

「ふぁ? み、ミーナさん?」

「だから、世捨人にニャるには早すぎるニャ!」

「いえ、あの…1人じゃ…無いです。その、…お嫁さん、貰いました」


 ボン!

「ニャ?」

 見ると銀髪の少女が瞬間ボイラーに早替わりし真っ赤になっている。

「お、お嫁さん…」

 焦って照れて、呟く少女。言った少年も真っ赤になっている。それを生暖かな目で見るミーナ。

「それは結構な事ニャ。だとしても、ご飯の約束したニャ。この娘の買い物もあるニャ? 今夜はこの街に泊まるニャ! ところで、貴女の名前は何ニャ?」

「お嫁さん…、え? あ、名前? その、リルフィンです。あたし、リルフィンと言います」

「ふーん、犬族、いや狼族ニャ?」

 ビックリするボイラー。コクンと頷く。


 奴隷商人に聞こえていない。ミーナも、そう見てとったので頷き返すだけで済ます。

 犬族なら一般的だが、狼族となると希少価値が出る。無償で譲渡しているだけに、「いや、やっぱり…」ともめるかもしれない。そうミーナも察した。


「よし! じゃあ、お姉さんと買い物するニャ! 服とか選んであげるニャ。その後、シオンの奢りでパーティーニャ!!」

「何でだ?」

 反論? とまではいかなくても、ミーナに確認するシオン。だが、ミーナは勿論、リラやデガンにとっても既に既成事実となっていた。


「何でだよ?」

「ま、諦めろ」

 他人事、と呟くデガンに、仕方ないよ、というオーラ全開のリラ。

 シオンも忘れていた。奴隷商人のタークが出すと言った事を。しかし、こうなるとタークも話の流れに任せてしまう。出さずに済むのなら越したことはない。


 なので、本当にシオンの奢りになってしまうのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る