転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ

プロローグ

第1話 異世界転生

 地域総合病院。

 寝たきりの少年が今、命尽きようとしていた。


 少年の名は田中六朗、18歳。

 原因不明の発熱が続き、身体が思う様に動かせない。10数年前に発症し、以来発熱と小康状態の繰り返し。年々それがひどくなっていく。

 結局膠原病の一種では? との診断された。


 六朗は孤児だった。

 孤児院前に捨てられており身元不明。普通ならばそんな子供がこのような病気で生きてはいけない。

 幸か不幸か、この孤児院が総合病院の経営するものであり理事長の田中吾朗に子供がいなかった。

 寝たきりとは言え18歳まで生きていられたのは吾朗の必死の看護と養育のお陰だった。


「父さん、ごめん」


 六朗は、そう言って力尽きた。




 白い、何も無い世界。

 気が付けば六朗は、そんな所にいた。


「え~と、あの世? 僕、死んだよね? まさか、ライトノベルのテンプレ? マジで?」

「あの、ごめんなさい!」


 目の前に、いつの間にか女神がいた。

 最敬礼と言っていいくらいに頭を下げた姿で。

 金髪碧眼に白いドレス。銀のティアラに金色のオーラ。白銀の輝く杖を持つ、たおやかな女性。


「マジでテンプレ?何?この病気何かの間違い?」

「はい、あの、私は女神ルーシアンと言います。貴方は本来私の世界、ルーセリアに生まれてくるはずでした。でも地球の女神テロンガイアとのやり取りの際に間違えて貴方が地球に生まれてしまったの」

「えーと、生まれが間違い? 病気じゃなくて?」


 申し訳なさそうに頷く女神。


「貴方は病気ではないの。魔力過多。多すぎる魔力が身体を蝕んでしまっていたの。私の世界ルーセリアなら魔法を使うから適度に使用するので蝕む程魔力が貯まらないのだけど、地球では魔法を使う事が無いわ。元々多かった魔力が使われず蓄積されていき、身体の許容量を超えてしまった。それが貴方の身体に負担をかけ、ついには燃やし尽くしてしまった」

「だから発熱を繰り返した? そういう事か。で? お詫びにルーセリアって世界で生き返らせてくれるって事?」

「はい。その通りです」

 再び頭を下げる女神。

「多すぎる魔力…。それって魔法使い放題?」

「そうですね。此れだけの魔力ならばそうそう魔力枯渇にはならないと思います。どの属性の魔法が使えるかは個々の魔力属性になりますが」

「それ、選んでもいいの?」


 ワクワクが止まらない!

 六朗の明るい表情に女神ルーシアンは困惑していた。理不尽な死因に怒りをぶつけられても仕方がない事なのだから。

「私に怒りを感じないのですか?」

「あぁ? うん、そうだよね。あんたの間違いで酷い人生だった訳だし。でも、隠さずこうして謝罪してくれたし。地球で生き返らせてくれるのは、ややこしい事態になりそうだし。うん、怒ってないと言ったら嘘だ。『ふざけんな!』って当たり散らしたいし。でも、それ以上に魔法の使える世界に行ける事がワクワクするんだ。だから、もういいよ、謝罪。その分加護? チート能力たっぷり貰うから。それくらいいいんだよね?」

「勿論です。それで、生まれからやり直しますか? それとも…」

「そこも選べる? じゃあ、ガキの…、10歳位からスタートでいいよ! 赤ちゃんからだと直ぐに魔法とか使えなさそうだし。あ、記憶はそのまま?」

「勿論です。貴方のこの18年を無くす事は出来ませんので。その知識もルーセリアをより良くしてくれると思いますし。それらをも使い、神や魔王になる事も構いませんが…」


 あまり勧めません。そんな雰囲気ではあるものの六朗のやる事を止める気は無い女神ルーシアン。どうしても謝罪の意識が強いのだ。


「もう謝罪は無し! 僕は納得した! やり直すんだからさ。それで魔法なんだけど? 攻撃出来る奴と回復出来る奴でお願い出来る? あ、後従魔法はある? 」

「それくらい全然大丈夫です。何なら全属性でも」

「それだと1人で出来ちゃうじゃない。仲間が要らなくなる。フォローしてくれる仲間も欲しいし。あ、それ、可愛い娘ってのもO.K.かな?」

「ある程度は希望に沿えると思います。貴方の言う可愛いが、どの程度のものかにも依りますけど」

「ヘエ? エヘヘ、じゃあ、それ楽しみにしとく!」


 六朗は敢えて具体的に言わなかった。女神が考える可愛い娘をワクワクして期待する事にしたのだ。


「それでは転生を、新たなる身体作りを開始します。基本はそのままでも?」

「うーん? それだと日本人…、異世界には違和感ないですか? うん、髪と瞳は緑で。後は任せます。よろしくお願いします。そうだ! 名前はロックで」

「わかりました。では、今度の人生が充実されん事を」


 六朗の身体が小さくなっていく。

 18歳にしては痩せて小柄だった身体が、小さな、でも健康的にガッシリとしたものに変わっていく。

 髪が黒からやや濃い緑に、瞳がライトグリーンへと。

 白い肌が、少し日焼けした健康的な色に。


 痩せて病弱だった少年六朗が、元気一杯腕白小僧のロックに生まれ変わった。


 そして、光に包まれて…。

 世界もまた輝いて見えて…。



「ロック。貴方は貴方のままで。課せられる使命等ありません。思うがままに生きて、生きて、人生を謳歌して下さい。私の世界ルーセリアで、貴方が素晴らしい人生を送ることを願ってやみません」





 三つ首竜の森。

 奥深くにはその名の通りに三つ首の竜が住むと言われる森。中程から急に出現する魔物のランクが上がる為、街道筋から奥深くは誰も入り込まない。逆に街道近くでは低ランクの魔物しか出てこない不思議な森。


 転生したロックが女神ルーシアンから送られたのは森の中程の川の畔だった。


「ここが異世界ルーセリア。如何にもっていう森だなぁ。確か、この川の向こうから魔物のランクが上がる。魔物か…。女神様の言う通りなら、今の僕でも勝てる魔物しか出てこないはず」

 とりあえず辺りを見回す。特に魔物が出そうな雰囲気はない。

「うん、あ、いた。 あはは。定番の鉄板だ!」


 ロックの目の前にいたのはランクGの魔物。最弱の生き物と呼ばれる存在。


 スライムが現れた。


「ドラゴン素材のバンディッツアーマーと剣。レベル1の10歳児が持つ装備じゃないよね。スライムだとオーバーキルかな? うん、手加減のスキル使って、瀕死にした後『テイム!』巧くいったかな?」


 ヒクヒク。

 死にかけのスライムが、やがて此方を覗き込む。何かを訴えている。

「おいで。お前の名前は『スライ』だ!」


 パチン!

 そういう音が鳴った感覚。ロックとスライムにしっかりと絆が結ばれる。

「傷を癒せ『ヒール』」

「ピキー! ピキ!!」

 元気になるスライム。

 緑色のゼリー状の身体に目と口があるだけの魔物。何となく喜んでいるように見えた。

「そんな訳ないよね。でも、この世界のスライムは目と口があるんだ」

 ベッドの上で散々やったRPG。その代表格な奴に出てくるようなスライムのタイプにちょっと笑ってしまうロックだった。


「ところで街はどっちに行けばいい? お前わかる?」

「ピキー!」

 プルプル震えながら、川の畦道の西の方向にピョンピョン跳ねるスライ。

「こっち? へぇー、僕の言う事を理解してるんだ! テイムすると知能が上がる? それともこの世界の魔物は実は頭がいい? って、そんな訳無いよね」


 川に沿って跳ねるスライに着いていくと、ある程度歩いた後で街道筋にたどり着く。川に橋が架かり多少の轍もある街道。

「これは馬車も通っている道なんだ。結構大きな街道なのかな? ありがとう、スライ。えーと、橋を渡ると魔物のランクが上がる訳だし。左に曲がって街道を進めばいいんだよね?」

 橋を渡った奥は木々が鬱蒼と生い茂り深くなっていっている。誰が見ても街はその逆方向だろう。

 まだ日も高いし、このまま進めば昼の内に街へ着けるかもしれない。とは言え、

「お腹すいたね。何か食料は、もらったザックの中にあるかな?」


 この世界に来た時、ロックはバンディッツアーマーと剣を身に付けザックを1つ持っていた。見た目は古ぼけた、年期の入った代物に見えるそれは女神の謝罪の品であり、持主の魔力に反応して内容量が決まる『魔法の袋』というレアアイテムだった。


「僕の魔力で内容量が決まる、か。あはは、お陰で無限に近い収用能力だ。えーと、あった! これは、オーク肉? やったね」


 ザックから出したのは、俗にマンガ肉と呼ばれる骨付き肉。魔法でしっかりと炙る。

「おっ! いい匂いしてきた。あぁ、スライは生がいい? 炙る?」

 ザックからもう1つ出すと、スライはそのまま飛び付こうとする。

「うん、生が良さそうだね」

 そのまま地面に骨付き肉を置くと、スライは嬉しそうに口を開け覆い被さるように肉を食べ始めた。

「ピキ! ピキー!」

「丸呑み? いや、溶かして吸収するんだ。だよね。うん、スライムが他の食べ方だと逆に変か?」

 ザックに付いている水筒を取ると、中の水を飲む。

「あー。スライも飲む? あれ?」

 聞いた時にはスライは川縁まで降りて行き川の水を飲もうとしていた。

「落ちるなよ? スライ。あ?」


 ポチャン!


 お約束か? スライは川に落ち流されてしまう。


「マジで? 待ってろ!」


 川岸の草に引っ掛かり、何とか止まっているスライ。いや? 掴まっている?

 ちょっと脱力してスライを拾い上げるロック。

「世話が焼けるよ。フフ、楽しい毎日が過ごせそうだなぁ?」

「ピキー!」

 笑い合う2人、もとい1人と1匹。



 神界より、優しく見守る眼差し。

「楽しそうですね。ホッとしていますか? ルーシアン」

「テロンガイア? 貴女神も今少しフォロー出来なかったのですか? 間違いに気付きながら何故放っておいたのです?」

「私は貴女神より制約が多いのですよ? 苦痛軽減が精一杯。私は神というより管理者に近いのですから」

「何故信仰の力を得ようとしないのですか? 地球人に信仰心がない訳ではないのに! 貴女神を信仰する者がいれば…」

「地球人類は自ら信仰の対象を、神を造り上げました。文明や精神の発達もそれに準じています。今さら私の都合で変える訳にはいかないのです」

「それはわかりますが…」


 テロンガイアは放任主義だ。

 その世界をどう管理するか、個々の管理方法に口を出す訳にいかない。全ての創造神たるダイナガインですら、全く口を挟む事はしないのだから。


「後をお願いしますね、ルーシアン」


 自分の世界に帰るテロンガイアを見送りつつ、ルーシアンは、優しくロック達を見守るのだった。


「今度こそ思うがままに生きて下さい、ロック」

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