第35話  悪しき錬金術

 パレアナ王国、ゴゥバルド城塞。

 ロックの偽物を使い、魔物…大蜘蛛等の素材を大量に集め、今、地下の秘密工房に運び込んでいた。

 その作業を見守る者。

 城塞司令官マズナ=ターキン伯爵。傍らで錬金術師らしき男が何やら説明をしている。

 渋面なのはイレギュラーが多いからだ。


 ターキン伯爵は予定通りに事が進まないと気がすまない。スケジュール通りに1日が過ぎる事を無上の喜びとする男であり、時計の如き正確さで行動していた。

 そんな男が司令官なのは、部下にとって災難以外の何物でもないのだが…。


 だから、これからイレギュラーな事を報告しなければならない副官であり城塞防衛指揮官のジム=ライナス上級騎士は、胃にキリキリと来る痛みに悩まされながら秘密工房へ急ぎ向かっていた。


「テイマーの女性を拉致した? 今日、そのような報告を受ける予定等ないのだが!?」


 案の定ターキン伯爵はにべもなく吐き捨てた。


「状況から考えてやむを得ない事態とは思います。問題なのは、ロックをどこまで知っているのか、です。ライカー王国王都の冒険者ならば、噂等ではなく直接見聞きしているやもしれず、万が一個人的にも交遊がある場合なら…」

 そこで再び遮られてしまう。

「君は何回同じ事を言わせるのかね。それすらも本日の予定ではないのだ!!」

「…分かりました。では司令官はお聞きにならなかった。ご存知無いということで私が対処します。では」

 一礼するライナスが頭を上げた時には、ターキン伯爵は立ち去りつつあった。なので、ライナスは直ぐ様、同じ地下の一室へと急ぐ。


「で、ですが!」

「責任は私が取る。彼女は一時監禁、ほとぼりが覚めた頃にお帰り戴く」

 反対する工房の作業員と工作員の男性。リーリエを拉致監禁した実行犯の2人。

「帰すのは非常に不味いです。そもそも母胎はまだ必要ですし、冒険者が行方不明になるのはそれほど騒ぐ事態とはなりません」

「他国で作業している事が国際問題になるやもしれません。彼女は留め置くべき…、いや本来は消すべき存在なのです」

 だがライナスは頑として首を縦に振らない。

「スライムを取り逃がしたらしいな。それでライカー王国のテイマーズギルドが動き出している。事がロック本人に届いたら何とする?」


 ライナスもまだ可能性の問題としか思っていない。

 それだけに駆け込んできた伝令に愕然として対処しきれなかったのだ。


「こちらにいらっしゃいましたか。緊急事態です! 城塞前面にトライギドラスが現れました!!」


 そう。ロックは真っ正面から攻めて来たのである。



 時は1時間程遡る。

 バークタランドの先の『南の森』。そこでリーリエが何者かに拉致され連れ去られた。ロック達『竜の息吹』はバークタランドのテイマーズギルドからリーリエ探索の依頼を受け、リーリエの従魔…ではなく従魔ビッグスライムの一部?であるスライムとギルド内の保護区で会う。普通ならばテイマーと言えどスライムと意思疎通等不可能なのだが、ロックにはスライがいる。スライム同士意思を伝えあい、それをスライが人間の言葉で伝えてくる。尤もランクGのスライムに高度な意思は無かったのだが…。

 それでも『あっち…』位の意思表示があり、リーリエと一部と言え絆を持つスライムから大体の方向を割り出したスライが、その方角に探知魔法を使った処ゴゥバルド城塞の中に反応があったのだ。

 だから、最初は依頼を受けた冒険者として城塞前の受付管理所に話を持っていった。

『行方不明のアゥゴーギルドのテイマー、リーリエを知らないか』

 事務的とは言え、本当にリーリエの事等知らなかった受付はコミリア達の確認要望を突っぱね、「後悔するわよ?」と脅して? 管理所を後にしたのである。


「もう少し状況を確認して…、レツ、庭とか城塞内を上から見てみて」

 レトピージョに進化したレツは視力等軒並能力がアップしている。その視力を共有しつつ、ロックは改めて探知魔法を行使する。


「庭には居ない…、見える範囲には無し…。すると地下かな? うん、いた。地下で…、寝てるだけ…、拘束されていない…、えーと、あ、起きた? よし! レツ、この手紙を、彼処の窓に投げ込んで!」


 一端ロックの元に戻り手紙を咥えるレツ。そのまま空へ飛び立つと、リーリエが監禁されている場所の小窓へ手紙を落とし込む。採光の為か、地下室にも関わらず小窓が1Fの場所にある。異様に天井が高いのは一応監禁の為の部屋だからなのだろうか。


 コトン。


 音のする方を見るリーリエ。

「これは? 手紙? …ロック?」

『助けに来ました。ドランを中心に従魔全員で暴れます。自分の従魔と共に身を守っていて下さい』

 窓は高く通常あるべき場所には無いものの、ドアは普通に見える。確かに外から施錠されているが、自分が寝かされていたのはごく普通のベッドであり、机には水差しとコップも用意されていた。

「助けに?…あぁ、そうでした。私、捕まって監禁されたのですね」

 牢獄に見えない上に拘束もされていない為、それほど緊張感はない。どちらにしろテイマーは『モンスターハウス』内に従魔を入れておける。手ぶらに見えて魔法異空間に手勢がいるのだ。駆け出しならばスライム位しかいないだろうが、ランクFのホーンラビットですら拘束縄なら噛み切る事が出来る。そういう意味でもリーリエに焦る感じはなかった。

「では、出て来て下さい、『ガンちゃん』」

 異空間から出て来る、最早大型の狼にしか見えない魔物。大地属性犬型魔物ワンガンコの進化型、ランクCのイワンガロン。変わらず水属性スキルを持つのでC+で登録されている。そしてランクDのビッグスライム。

「スラリンもお願いしますね。それにフレイちゃん」

 ランクD炎属性フレイムファング。ロックの処にもいる山猫型魔物。鬣の色で属性が分かる。赤ならフレイム、青ならアクア、緑ならばウィンズ。何故か大地属性の種類はないが、多種属性進化を遂げる珍しい魔物~無属性猫型魔物ニャルファングの進化型だ。

 自身の戦闘力は兎も角、従魔は直接・間接の攻撃力を持ち、盾役もいる。アゥゴーのテイマーズギルドを代表する凄腕テイマーの1人であり、ロックの先輩でもあるリーリエは、お嬢様風の見た目に反して手強い冒険者なのだった。

「こちらの準備はO.K.ですよ、ロック」


 その声が聞こえる事は無い。

 そこまで表情や仕草が見える筈も無いのだが、何となくロックは「頃合いかな」と思い、城塞を攻撃する為の従魔を呼び出す。

「行くよ? 『モンスターハウス』皆出て来て! あの城塞に総攻撃。リーリエさんを助け出す!!」


 ゴゥバルド城塞にとって最悪の日となる。



 城塞正面にトライギドラス。

 その報を聞かされた時、ライナスは何の冗談かと思ってしまった。タニアの推測通り、パレアナ王国にはロックの従魔の種類…、詳細等正確に伝わってはいなかったのだ。

 ライカー王国は勿論、先の戦争当事国ならばロックと共にミルザー法王国軍相手に暴れまわり、獣化兵器や飛竜騎士団を蹂躙したトライギドラスの存在を知らぬ者等あり得ないのだが…。


「何故そんな竜種が…。近くに生息していたと言うのか?」

「背に冒険者の姿があります。先程訪ねてきた少年と思われます」

「冒険者…、まさかロック? 彼のテイマーの従魔だと言うのか? 」

 まだライカー王国以外ではテイマーは不人気職だった。従魔にしてもランクD程度のモノが主流であり(これは実はライカー王国でも変わらないのだが)、ランクAの竜種が従魔だと言うのはライナスにしても想像すら出来ない状況だと言えた。

 と、風属性魔法なのか? トライギドラスの背に乗る少年の声が聞こえてくる。


「ライカー王国、アゥゴーギルドのテイマー、ロックです。同じアゥゴーギルドのテイマー、リーリエさんを返してもらいます!」


 門横の受付管理詰所から悲痛な声が響く。

「だから、そのような者は知らぬと言っている!」

「僕の探知魔法を誤魔化せると思わないで下さい。地下室に監禁しているのわかっています」

 ロックの有無を言わせない響き。

「魔法? 彼はテイマーではないのか? 高位の魔法使いだと言うのか?」

 テイマーにしては剣士顔負けの剣技の使い手という評判は聞いていた。だが魔法は?

 ライナスは情報の確認不足をこの時程痛感したことはなかった。

「…見誤っていた…? あの少年の実力は…。『輝竜』…、あぁ、閣下!」

 予定では地下工房で、作業の確認・進捗状況をチェックしているはずの城塞司令官ターキン伯爵が怒り心頭の真っ赤な顔で指令室に来る。

「どういうことだ! 何が起こっている!?」

「例のテイマー、ロックが先の報告にあった女性テイマーを奪還しに攻めてきております」

 最早頭の回線がパンクしてしまったのだろう。ライナスは他人事の様に呟いてしまう。

「予定外の事をするからこうなるのだ。子供が攻めてくる? 馬鹿も休み休み言い給え。さっさと追い払え」


 バリバリバリ!

 ズガガガガァーン!


「な、何だ?」

「魔物達の攻撃です。門を含め外壁が破壊されました」


 阿鼻叫喚!

 城壁を破壊してトライギドラスやヒュドラー、アイスフォックスが入ってくる。それを見た兵士達の混乱!右往左往してまともに立ち向かってくる兵士がいない。

「パルルルル【やっちまうぜ】」

「ピルルルル【覚悟しな】」

「プルルルル【俺様つおい!】」

 城壁を『パワークラッシュ』でぶち壊したトライギドラス~ドランが再び空へと舞い上がる。

「パルルルル【喰らいな】」

 ボゥッ! ボゥウウワァァァ!

 上空からファイヤーブレスを見舞うドラン。

 真竜の業火は全てを焼き尽くし灰すら残らない。

「ヒィイイイイ!」

 兵士は逃げるしかない。そもそもランクAの竜種に立ち向かえる者等そういる筈もないのだから。


「トライギドラス…、ファイヤーブレスを持っている? 電光ブレスではないのか? 私の知識は間違っていたのか?」

 ライナスは現場上がりの指揮官として兵士の信頼も厚い。その彼にしても従魔が持つ『捕食』というスキルの事は聞いた事が無かった。冒険者ギルドならばギルドマスターは流石に知っているだろう。だが国境警備の兵士達の相手は他国の人間~兵士であり魔物ではない。これはパレアナ王国のみならずライカー王国であってもさして変わりはしない。

 どちらにしろ逃げ回る兵士達の混乱を見てターキンは勿論ライナスもまともに指揮系統を整える事はできなかった。

 そして気付く事もなかった。

 あれだけ暴れまわり炎を吹いているトライギドラスを前にして、兵士達に死傷するものがいないという事を。幼い言動で、只暴れまわっているかの如く見えるドランだが、ロックの命令を正確に理解し、間違いなく実行出来るだけの知恵と能力を持っている。虚空に炎を吹いて相手をビビらして誘導し、逃げ惑う兵士達の前方に炎がいかないように気を配っていた。

 またアイスフォックス~ジンライの電撃やブリザードブレスも同様に兵士達を追い立てる事のみに使われ、ヒュドラー~ヒューダも吼えて追い掛け回す事しか行っていない。

 その間に城塞内に侵入したロックは、いつの間にか同行する者に気付く。

「あれ? バーンズさん?」

「少し我が家の不祥事があってね。正したいのでご一緒させてもらえると有り難い」

「別に、僕の目的はリーリエさんの救出。そのドタバタの間に貴方が何をしようと僕は知らない」

「フム、目的地は同じ所の様だ。我がバーンズの手になる錬金術の悪用。君の知り合いを実験台にする訳にもいかぬ。こっち…、その先だ」

 バーンズが指す方向のドア。ロックの神竜牙が煌めく。


 ドーン。ガラガラグヮシャン!


 ドアが真っ二つになり吹き飛んでしまう。


「ロック」

「リーリエさん、大丈夫ですか?」

「ええ」


 リーリエの横に守護騎士ナイトよろしくイワンガロンが控え前方を睨み付けている。

 見るとビッグスライムが変形し周りを囲むようにウニョウニョ動いていて、その横でフレイムファングが炎をチラチラ吹きながらビッグスライムに拉致されている2人の男を威嚇していた。


「カーン。我が技をよくも悪用してくれたな」

「ぼ、ボーデス様。あ、悪用等と…、わ、私はより発展させたのであって…」

「発展? あれがか。錬金術を人命を使って行う事がか? 確かにバーンズはアリアスと張り合っている。勝つ為に色々術も磨いた。だが、アリアスの、『黒き大賢者』の唱える『人に役立つ、人を幸福にしてこその錬金術』を否定したことは無い。我がバーンズの錬金術も目指す処は変わらないのだよ。その上で彼の術に勝たねば。安易な手法に頼り、理想を追い求める事を蔑ろにする貴様には分かるまい」

 バーンズはそう言うと、部屋の壁を薬剤を投げて爆破する。

「発破薬? 随分コンパクトに出来てるんですね」

「火薬に関してはバーンズに一日の長がある」

「一日? 人を治さない薬をジッチャンは認めなかった…。火薬はバーンズの方が数年進んでる…、何あれ? うげ」

「キャアアアァァ!」

 破壊された壁の向こう、何かの工房?がある。

 そして、おぞましい人体が!


「魔核? 女性? に魔核を埋め込んで、これ…、獣魔兵器を産み出す母胎にしたのか?」


 そこにあったのは女性の胴体が2人分。

 胸に魔核が埋め込まれ、そこから緑色の血管の様なモノが拡がっている。胴体は妊娠している如く膨らんでいて、微かな胎動が見える。

 また栄養補給の為か、首の部分に数本のパイプがあり後方のタンクに繋がっていた。


「本来は死せるヒルジャイアントに頼まれて、死した後でも胎児を生かし出産させる為の錬金術だった。我が祖父と親しいヒルジャイアントがいてね。君の様な遺失回復魔法を使えるのならば兎も角、彼女のケガは我々には手の施し様がなかった。祖父は必死で禁断とも言える術式を作り出し胎児を生かす事に成功した」

「それを応用して魔核から魔物の特性を持つ人間を造り出そうとした…。魔物の素材…、魔核が大量に必要だった。…そんな…、そんな事の! そんな事をする為に僕の名前を語った!!」

「ひっ、ヒイィィ…」

 ロックの凄まじい殺気を受けてカーンは生きた心地がしない程の恐怖を味わってしまう。

「魔核がどうしても使い捨てになる。魔石化出来れば状況は変わるだろうが、それは秘中の秘だ。君の様な俄弟子にはとても教えられない」

「そ、そうだ! 魔石化出来れば!!こんなに何度も魔核を胸に埋め直さなくてもよかったのに。私が造り出した獣魔兵器が世界を席巻する筈だったのに」

「終わりだよ」

 そう言ってバーンズは再び発破薬を放る。


 パァーン。


 威力はそれほどでもない。が、女性の胴体を破裂させるには充分な威力であり、しかも時間差で発火し燃やし尽くしてしまった。


「あ…、ここまで、ここまでやっと育てたというのに…。だが…」

「ノートは撤収した。そして君の記憶も…、いや人生をも消させてもらうよ」

「え、は? 」

「時は来たれり。我が意を受けて目覚めよ、そしてこの地に芽生え育て。『グロゥ・トレント』」


 バシュッ。

 音を立ててカーンのうなじから芽が出てくる。

「ひ、ギャアァ…、あ、あ、あぁ~」

 苦悶の表情を浮かべた顔が、そのまま幹と化していく。うなじから伸びる芽が葉を生い茂らせて上に上に伸びていき、腕や脚から根が伸びてきて城塞の床を侵食、やがて床を…、地面を割って根を張り巡らせていく。

 伸びていく芽や生い茂る葉が天井や壁を破壊していき、根が床をどんどん凸凹にしていった。


「わかっている。これも非道の術だ。強いてあげれば城塞の様な人工物ではなく、森の如く生い茂る木になるであろう事が救いと言えるかな」

「いつからトレントの種を仕込んでいたんですか? 今植え付けた訳じゃないですよね? …まぁ、これで城塞も終わり。うん、リーリエさん、ここから脱出します。えーと、ごめんなさい」

 リーリエは放心状態だ。


 目の前に存在した歪な女性の胴体。

 もう少しロックが来るのが遅ければ、自分もあの様な歪な母胎になっていた! 基本的に性善説の信奉者であるリーリエにとって、ここまでおぞましき悪意にさらされた事はなかった。思考停止状態のなるのも無理無い事だったが、ロックにしっかりと手を握られ、違う意味で思考が止まってしまう。

「え、は? ロック?」

 手を引っ張られ、自分の従魔に急かされる形で動き出したリーリエは、しっかりと繋いだ手に身体中が熱くなってしまう。

「あ、あの、大丈夫です。ロック、もう大丈夫です。私、走れます」

「こっち! あの部屋からどんどん崩れていってる」



 ズズーン。

 ガガガーン。ズガガガガァーン!

 ドドド…。


 揺れと騒音が響く。ロックの従魔が暴れまわっているのだ。

 基本的には威嚇とロックは命じていた。逃げ惑うだけならば脅すのみで、と。

 だが、向かってくる兵士がいたら?

 ロックも無抵抗主義等考えてはいない。自分の従魔~仲間が傷付く事等納得しない、出来ないのだから。そして元々従魔、と言うより魔物達に抵抗せずという頭はない。だから

「やられたらやり返していい。逃げ惑う兵士を嬲るのさえ止めてくれれば。いいね」

 元より攻めこんでいるのはランクAやBの従魔だ。弱いもの苛めを嫌う位のプライドは持ち合わせている。

 とは言え、全く向かって来る者がいないのも面白くないと考えてしまうのだ。

「パルルルル【つまんねぇな】」

「コーン、コ、コーン?【ロックの命令はわかっているだろう?】」

「シャアアア【だが、骨がない】」

 先輩格? 年長?のアイスフォックス~ジンライがたしなめる。確かに先輩という点ではドランの方が先だ。スライと共に最初の従魔と言ってもいいのだから。だが経験という点ではジンライが遥かに上だ。ドランもヒューダもまだまだ若い。

「コーン?【何だ?】」

「パルルルル【トレントだ】」

「ピルルルル【新手だな】」

「プルルルル【らっくしょー♪】」

 そこへ上空より全てを見ていたレツが降りてくる。

「クックルー、クルッポー【人間が木になった。ロックに敵対してたのが木になった】」

「コーン?【人間が木に?】」

「パルルルル【只の木だ】」

「ピルルルル【でっか】」

「プルルルル【スゲー】」

 城塞の端から生えて来た木は、みるみる内に生い茂り、枝が拡がる程に城塞を崩していく。兵士達の混乱はピークに達し、もはや防衛兵としては全く機能していない。


 そこにロック達が飛び出してきた。

「皆も大丈夫?」

「パルルルル【勿論】」

「コーン【手ぬるい】」


 少ししてターキンやライナスもフラフラと出て来る。

「お前がロックか?」

「僕の名を語って酷い事した!許さない」

「わかっているのか?お前は国家を、パレアナ王国を攻めたのだぞ」

「だから?今の僕達は、その王国を滅ぼす事も出来るけど」

「ぐっ。そ、それがライカー王国の意思だと言うのか?」

「違う、僕は只リーリエさんの捜索を依頼されて果たしただけ。そっちが隠さなければすんだ事。しかも悪魔の錬金術を使ってた」

「見られたというのか…」

「これはバーンズの術だ。人に使ってはならない禁断のな。パレアナ王国は法王国以上の悪名を広めるが、それこそ王国の意思と言う訳なのだな」

「バーンズ…。すると…。そんな事は…、だが、このままでは…。いずれ正式にライカー王国に抗議させてもらう」

 言っているライナス本人も『負け犬の遠吠え』と自覚していた。が国家としては抗議せざるを得ない。


 そのライナスの叫びが聞こえない感じで、ロックは従魔達を『モンスターハウス』へと格納すると城塞の惨状をスルーして仲間達と帰っていった。


 後日、パレアナ王国から抗議の使者が来たものの、アルナーグ辺境伯より陪臣の娘を拉致した事を詰られ、這々の体で退散したとの事。

 ロック達の戦闘力、ゴゥバルド城塞を壊滅させた事実が世界中に広まってしまったのだった。

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