第34話 偽物出現!

 ロックの名を語る偽物が現れた!


「でも、どうやって?」

 ギルドカードは偽造出来ない。

『神の御手』と呼ばれる器具で製作され、名前とランク、職業に所属ギルドが書き込まれている。持ち主の魔力に反応する為成り済ましは不可能。女神の力で書き込まれていると言われ、その為プロフィールの偽りは有り得ない。だから『神の御手』であり、国家公認の身分証となっているのだ。


「そうね。まず、その子も本名が『ロック』なんだと思う。テイマーも事実かな? ランクはそこまで知られていないかもしれない…」

「マッキーさん? でもロックの従魔で1番有名なのは『ドラン』…、トライギドラスです。そして『スライ』ナイツスライム…。偽物が簡単にテイムできる魔物じゃありませんよ?」

 マッキーの推理にリルフィンが異を唱える。


 王都での曲芸飛行の為に、ドラン…トライギドラスはテイマー・ロックのある意味代名詞とも言える。

 元々ランクAの魔物であり、街処か小国程度ならば滅ぼせる災厄級の竜種魔物。テイムする処か2頭目の存在すら現在確認されていない。何せ『3つ首竜の森』に住むタラム村 ~ 辺境の守護神竜、人々に神と崇められている竜種だ。唯一無二とまでは言わないが、そうそうランクAがホイホイ出てこられても世界が困る。

 その意味ではランクAのヒュドラーが群れを成すのは稀有な例と言えるが、飛べない=移動範囲が狭い為か、殆ど自分の縄張りから出て来ない。わざわざ会いに行かなければ出会う事は無いのだ。


「ね、ロックは? どう思っているの?」


 何かが引っ掛かっている? 考えこんでいる表情のロック。やがて、

「思い出した! ボーデスって、以前ギルドにバカな依頼を出した貴族の副執事だ」

 納得顔のロックは、周りの不思議そうな顔にキョトンとしてしまう。

「あれ? コミ姉ェ?」

「何の話してんの?」

「いや、ボーデスって他にも何処かいたよなぁって。何か気になっちゃって…」

「テイマーになりたい貴族の息子を鍛えてくれって依頼だったよね。ギルマスのルミナさんが『蹴っていい』って言ってくれたヤツ」

 リルフィンも思い出す。


 依頼を出したのが実に高圧的な副執事でギルドとも揉めた事が度々あり、領主アルナーグ辺境伯も流石に苦言を呈した『中立派』の貴族の家臣だった。


「北の方の出身なのかな?」

 その名は北方に多い。

 北は大地の恵みが少ない。どうしても大地が雪に覆われてしまい、凍り付いて作物が育つ環境ではなくなってしまう。ルーセリア北方で育つのは『ジガポタト』という、地球で言うところのジャガイモに近い作物なのだが、氷土となるとそれすらも収穫が厳しい。その為に『大地の使途』にあやかろうと、その名を子供につける者が多い。『使途ボーデス』の名を。


 女神ルーシアンに付き従う『使途』。

 風の使途・ゼラーム。

 炎の使途・エグゾフラム。

 水の使途・ワラーム。

 大地の使途・ボーデス。


 神代の昔、人々を導いた4人の大賢者。

 彼等は死する事なく天に上り女神の使途になったと伝えられている。



「だから、な・ん・の・は・な・し・し・て・る・の・よ!?」

「そうか、ロックの偽物の話よね?」

 イラつくコミリアに、落ち着いた声でソニアが話を元に戻す。その落ち着き振りがまたコミリアには腹立たしい。


「多分、他国の者よ。『南の森』はライカー王国の南端。パレアナ王国との国境にもなっているわ。戦争当事国でも無いあちらでは、凄腕テイマー位の噂しか流れてないと思う。ロックの噂…、表舞台に出てきたの、ここ1年ちょいだよね。戦争当事国の4ヶ国は熟知している筈。でも、それ以外はまだその程度よ」

 話に加わってくるタニア。この辺りは矢張り『黒き大賢者の弟子』と言える。理論的思考では1番弟子と言っていい。


「そうか、なら辻褄も合う。ロックの噂、私達は十二分に知っている。実体験として…。それを全ての者が知っているって思い込んでしまってるんだ」

 マッキーも頷く。

 なまじ側に居るだけに、ロックの規格外さが身に染みている。強烈な印象、噂は全国的に知られていると思ってしまっていたのだ。


「パレアナ王国…。あの辺だと街じゃなくてゴゥバルド城塞。ライカー王国が攻めて来ない様に、とか言って作られた国境拠点…。うーん…。あそこ、一介の冒険者が立ち寄れる処じゃ無いわ」

「先ずは『南の森』。そしてバークタランドの街で情報収集ね。何の為にロックの名を語るのか。パレアナが妙な動きするって、考えたくは無いわ」

「一応、辺境伯にも伝えておく。明日…、もうすぐ今日になっちゃうけど、アウローラおばさん処にご飯呼ばれてるから」


 さりげなく爆弾発言のロック。


「えと、アルナーグ辺境伯の叔母上であるアウローラ様? えーと、ご飯?」

「うん。僕とリルフィン、珠にご飯呼ばれるから。アウローラおばさんの料理、凄く美味しいんだ」

「お料理、珠に教わるんです。お蔭でレパートリー増えました」

「は? 珠に行く? それにおばさんって…」

 戸惑いを隠せないコミリア。

「そう呼んでって…、何度も言われて。王都で会った時にそういう話になって、それから何度か」

 状況説明の下手なロックに呆れつつ、コミリア達はリルフィンに捕捉を求める。


「戦争終わって王都のパレードの後、辺境伯の館にお世話になりました。その時にアウローラ様に再び会ったんです。それでご飯呼ばれる事になって…」

「あぁ、成る程」


 王都での戦勝パレードの後、ロックとリルフィンはアルナーグ辺境伯の王都別宅を宿とした。貴族闘争のやり取りでの一幕。『貴族派』のアルナーグ辺境伯が、自分の手駒と内外に示す為の策略だったのだが、館の中では、当の辺境伯もロックも年齢差はあるものの親しい友人の如き気安さの中で過ごした。それもあり、辺境伯の叔母でロックに色んな面で救われたアウローラが、お礼も兼ねてロック達を、アゥゴーにある自身の離に招待したのである。

 オークを産み育てているだけに、アウローラには子育ての良い思い出は無い。逆に多少のトラウマもあったのだが、アウローラにとっても自分に懐く11歳の子供達は母性愛を沸き立たせ、楽しく充足感のある母親体験を過ごさせたのだ。


 アゥゴーに戻ってからのアウローラは、オークに凌辱され出産までしていた事の引け目もあり、館の離に居を構えた後、殆どの社交的な場を断っていた。古くからの辺境伯陪臣は兎も角、仕えるメイドや家臣達も多少腫れ物扱いの様相が見えたのである。

 だがロック達が訪ねる様になり、アウローラは本来の明快闊達な性格を取り戻しつつある。ケイン=アルナーグ辺境伯も胸を撫で下ろし、改めてロック達に感謝したのだ。

 また、珠にとは言え辺境伯の館を訪ねる凄腕冒険者の姿は、アゥゴーの貴族街にも知られる事となり、他家他派閥の貴族に蜜月振りを知らしめる結果となった。その意味でもケインは笑いが止まらない。


『王家の友人』の称号を持つロックが、アゥゴー・ギルド所属である事。アルナーグ辺境伯の優れた手駒である事を改めて知らしめるのだから。


 尤も、ロックは勿論ケインにも優れた手駒という意識は無い。噂は兎も角、館の中ではケインはロックに対し年下の友人という対応しか見せなかった。

 ロックも辺境伯の気遣いに感謝し、アゥゴーメインの態度を全面的に押し出している。

 また、アウローラの元へ行く時の2人はご馳走にありつく子供の一面しか出していない。アウローラも、自身の手料理に喜んでバクつき満腹感で至福の表情を見せる子供達と過ごす事は、幸福で十二分に満足出来る一時と言えたのである。




「フム、そういう事か。私も君達の動きを完璧に把握している訳ではないから、最近南に行ったんだと思っていたんだ」


 翌日。

 ロックとリルフィンはアウローラの離でご馳走をたらふく平らげた後、偽物の事についてアルナーグ辺境伯に面会を求めた。

 ケインも、領主として多忙ではあったのだが、それでも子供達と会う時間を捻出した。


「タニアバ…姉が言うには、他国の、多分パレアナ王国が絡んでるって」

「ふーむ。そうだね。可能性は1番高そうだ。但し、その意図が不明だ。我が国に何か工作するにしても、君の偽物を作るのはね。こっちの出方を見るにしても、あまりにも下策だよ。下手をすれば只君達の怒りを買うだけで終わる」

 考え込むケインに、おずおずとロックは聞いてみる。

「怒り…、僕が怒りに任せてパレアナに攻めこんだら? ライカー王国は?」

「何も関係無い。この国の冒険者だが、君にこの国が負わす責任は無いよ。君とドランがパレアナを攻め滅ぼしたとしても、ライカー王国がどうこう言う事は無い。まぁ、現実問題として君がそこまでするとは思ってないけどね」

 苦笑するケインに、こちらも苦笑で返す。

 実際問題、今のところロックに実害は無い。

 名は語られているが、偽物も悪い事等して無い。むしろ感謝される事をしていて、ロックの評判は上がっているのだ。

「とりあえず会いに行ってきます」

「フム、こちらでも問い合わせてみよう。バークタランドはタイラー子爵の領土の街だ。彼は『貴族派』だからね。懇意にもしているし。一応気を付けて。今のところ悪意を感じないが、只の善意ならば名を語る必要は無い。名を謀る以上何か邪な企みが有るのは、残念ながら間違いないと思うよ」

「…ですね」


 その日の夕刻。

 コミリア達『竜の息吹』はギルド内の酒場に集まる。

 ロックとリルフィンが、アルナーグ辺境伯と会って話した事を皆に伝えている。


「名を謀る以上何か邪な企みが有る…。ロックの名で魔物を討伐して、いったい何を企むと言うの?」

 マッキーの呟きに誰も答えられない。

「『南の森』はランクD。魔物も殆どD…。討伐にそれほど苦労はしない…。D…、ビッグスライム、ロックウルフ、大蜘蛛、ウォーターベア、そしてワイバーン」

「最後の奴が厄介ね。曲がりなりにも竜種だし、空飛べるし」

「あぁ、でも『飛竜の谷』みたいに巣が確認されてないし。あまり南では見ないのよね」

「竜種…。氷属性魔法やスキル攻撃が弱点なのに、北の方に住みかが多いのって不思議よね。『飛竜の谷』って王国北端だし」

「エサのせいみたいね。一番の好物が『ボルビー』って話だもの」

「そっか。『ボルビー』寒い処好むものね。『3つ首竜の森』が南限」

「コミ姉ェ、話ズレてねェ?」

 酒場に合わないミルクを飲みながらロックが疑問を呈する。会話に突っ込み入れているのだが、トリ肉の串焼を頬張りながらなのでイマイチ真剣味が薄い。

「あら? うん。辺境伯も問い合わせてくれるのよね?ギルドもそうだし、明日くらいには返事が来る筈。それを擦り合わせて、とりあえずの仮説を作り大体の方策立てるしかないか」



 そして翌日。

 辺境伯経由で得た情報によると、偽物は森でかなりの魔物を討伐したとの事。最近大蜘蛛が増えてきており、ギルドは勿論領主たるタイラー子爵も大蜘蛛討伐の依頼を出そうとしていた矢先だったらしく、その意味で大そう感謝されたのだと。

 ギルド経由によると、討伐した魔物の証明部位は提出したものの、素材等は全く持ち込まなかったらしい。

「従魔のエサが欲しいんです」

 そう言って自前の荷馬車に大量の魔物を積んで、どうやら国境を出たと。

 国境警備の詰所、番兵も「依頼だから」と言われ素通りさせたとの事。ロックのギルドカードは確認していないものの、依頼人である魔物の引取り手の商人 ~ トマスの商業ギルドカードは確認・照合していて、そこに何ら疑問点はなかった。

 トマスはパレアナ王国との交易を主要取引とする商人であり王国南端の国境詰所の番兵とも顔馴染だった。


「ギルドには従魔のエサと言って、国境では交易取引の品にしているんだ。パレアナに魔物の素材を大量に持ち込んでいる…。何の為に?」

 エサにする、と言うのは判らなくもない。実際ロックもエサ代は結構かかっているし、ドランとヒューダに至っては自前で狩りをさせて獲物を確保している。

 毎日食べる訳ではないのがせめてものの救いだ。確かに1回に食べる量は凄まじいのだが、基本竜種は食後3日くらいは寝て過ごす。消化にかなりの時間がかかる為、必要がなければ動かないのだ。


「魔物の素材、何か武器防具を作るのかしらね? 確かにパレアナ王国は武具、マジックアイテム作りが主産業だけど」

「そうね。亜人の中で特にドワーフを優遇してるしね。ダイザインからかなり流れたんじゃなかったっけ?」

 コミリアの呟きにマッキーが返す。

「でも『錬金術師』が多い訳じゃないし、レベル高い訳でもないし。鍛冶屋だけで魔導武具が造れるもんでもない…。『魔法使い』というより『付与魔導師』がメインのマジックアイテムの方が多かったわ。どうしても『錬金術』はミルザー法王国に1日の長があるもの」

 話に割り込んでくるタニア。

「あれ? タニアバ…姉……」


 すぱぱぱぱーん!


 確かに言い直した。

 それでもタニアはロックの『バ…』に反応し、間髪入れずに往復ビンタを炸裂させた。

「何て言いかけたのかなぁ? 最近聞き取れないのよねぇ」

「イッテェー! それ、年のせいじゃ…」


 すぱぱぱぱーん!


 どう見てもロックに学習能力が無い。

 だからコミリアは勿論リルフィンもビンタ喰らって後ろに吹っ飛んだロックをスルーする。


「魔物の素材…、『錬金術』。あー、もう! タニア姉!今回は私達に同行してもらえないかしら? こうなると腕利きの『錬金術師』が必要かもしれない。性格は兎も角、腕は姉弟子を尊敬出来るからね」

「貴女に性格を言われたくはないわね」

 誘ったコミリアに苦笑して返すタニア。ふと見回すと『竜の息吹』全員が頷いている。

「ちょっと? 何? は? 私、性格悪い?」

「むしろ、良いと思ってるコミ姉ェにビックリ」

「何だとー!」

 ほっぺた押さえて涙目のロックの、小さな、本当に小さな呟きだった。それでもコミリアにはしっかりと聞こえ、瞬間頭を掴んでいた。


 グリグリ!


「だ、痛、イッテー! コミ姉ェ、痛い!」


 矢張りロックに学習能力は無い。


「じゃ、皆準備して。11の刻にバークタランドへ出発するわ」

「急ぎよね。転移呪文『テレポート』使うわ。何回か行っているから、『バークタランド』の入口にある『転移検問所』を登録してる」


 タニアは『魔法使い』としてもそこそこの力量を持つ。ロックは勿論マッキーにも修得呪文は及ばないものの、エルフ王族の魔力は伊達ではない。またエルフなので『精霊魔法』も使える。冒険者ランクはDなのでとりあえずベテランという域だが、これはギルドを通しての依頼を受ける事が少なかったから。凄腕の『錬金術師』であるタニアは個人で依頼を受け、各種魔導具を作製する事が多い。魔導具造りならばランクSとの評判なのだ。


「それじゃ…」

「コミリアさん! ちょっと!!」

 ギルド受付嬢のリリアが呼び止める。

「ロックさんの偽物調査ですよね。待って下さい。それ、アルナーグ辺境伯とギルドマスターの連名での依頼とするよう聞いていますから」


 書類は作成されていた。

「これにサインを。はい、それでO.K.です。依頼受諾を確認しました。『竜の息吹』+ タニアさん。よろしくお願いします。ギルド併設の酒場で確認されてて本当に良かったです」

「向こうのギルドからの情報を待っていたし。辺境伯ケイン様とギルマス・ルミナに感謝ね。それじゃ、行きますか。タニア姉、お願いね」


 街中で呪文を発動させるのは、非常時でもなければ非常識と言える。なので『竜の息吹』はアゥゴーの街正門で出街の手続きをし、街道筋の『3つ首竜の森』に入ってから転移呪文『テレポート』を発動させる。


 瞬間、『竜の息吹』とタニアは南の交易街『バークタランド』に到着した。

「早速ギルドに行くわよ」


 バークタランドは交易で成り立つ、王国の南玄関口だ。その為、ここは冒険者ギルドより商業ギルドの方が大きく、商業ギルドの建物の中に冒険者とテイマーのギルドが併設されている。とは言え、ここも冒険者の価値をしっかり判っており、決して商業ギルドが上から見ている訳ではない。同じ敷地内なだけで、冒険者もテイマーも、完全に独立したギルドとして存在していた。

 入ってきた美少女軍団に、冒険者は勿論、商業やテイマーのギルドの職員・構成員が注目する。

「アゥゴー冒険者ギルド所属の『竜の息吹』5人と『錬金術師』タニアです。アルナーグ辺境伯及びアゥゴーギルドマスター・ルミナの依頼を受けて来ました」


 ざわざわ。

『竜の息吹』は、B-の高ランクパーティーだ。その名はライカー王国中に知られている。

「じゃ、じゃあ、あの少年が…、ロック?」

 美少女の中に1人混ざる少年。見た事の無いバンディッツメイルを身に付け、身の丈程の大剣を背に持つ緑の髪の子供。


「えと、あ、はい。確認しました。ようこそ、バークタランドギルドへ。『竜の息吹』の皆さん」

 コミリアの提出した依頼文書と6人のギルドカードを確認したギルド受付嬢プリシアが、歓迎の意を述べる。

「この子の…、ロックの偽物が現れた件で調査に来ています。先日までこの街に居たらしいけれど?」

「そうです。ですが、ロックと名乗った少年は1度もギルドに立ち寄りませんでした。代理人が手続きに来ていたんです。何でも、あまり人と接する事が苦手という事で…」

 思わずロックを見てしまう『竜の息吹』の少女達。そしてクスクス笑い出すタニア。

「容姿やランクより、人見知りの噂の方が有名になってるわね」

「何か…不本意」

 ロックは少し不貞腐れてしまうが、コミリア達に言わせたら決して間違ってはいない。

「?」

 回りが何か注目している? ロックが子供過ぎ? ではなくて…。コミリア達も気付く。ロックの隣でクスクス微笑んでいる少女に注目が集まっている。

 そう、アゥゴー1の『癒しの微笑み』と言われる銀髪の美少女獣人 ~ リルフィン。


「あれが、リルフィンちゃん…。はぁ~、まぢ可愛い…。本当に女神の微笑みだ…」

「『竜の息吹』って、こんな美少女の集まりなのか? くっそー! あんなガキのハーレムパーティーだなんて!! ランクが高いからって、あんなの有りかよ」


 そんな怨嗟? の声の中で、情報収集を図る矢先だった。


「ロックさん! すみません! テイマーズギルドから緊急依頼です。その、アゥゴーギルドのリーリエさんはご存知ですよね」

「はい。同じテイマーズギルドの先輩テイマーです」

 テイマーズギルドの受付嬢ライザが駆け寄ってくる。

「その、リーリエさんが行方不明です。従魔のスライムだけ見つかったみたいで。何か、ロックさんの偽物に声をかけて…、未確認ですけど拉致されたみたいで」


 ざわざわ。


 少し自信無さげの少年という雰囲気が180度変わる。

「ロック?」

 殺気とも言える怒りの気配が、回りを支配したのだ。


「ロックは自分の事は無頓着だが、従魔や仲間を、友を害されると容赦しない」

 噂の一端が真実である事を、バークタランドのギルドはまざまざと見せつけられたのである。




 パレアナ王国、ゴゥバルド城塞。

 その地下にある1室。監禁された部屋で、リーリエは眠らされていた。まだ拘束はされておらず室内のベッドに寝かされているだけだ。


「どうする? というより何故ここへ連れて来たのだ」

「ですが、この女、ロックを知っていたんです。あのままじゃ偽物だと大声で喚きそうだったので…」


 部屋の外。中廊下から窓越しにリーリエを見ている2人。


「まぁいいか。母胎は幾らいても足らぬ。だが、おおっぴらに増やす訳にもいかんしな。どうせ帰す訳にもいくまい。冒険者が行方知らずになる事は、そう珍しい事ではないからな」


 この時、彼等にとって不幸だったのは、リーリエの事を、冒険者として噂を知っているくらいのつながりだと思ってしまった事と、一緒にいたスライムを逃がしてしまった事だった。

 個人的に仲の良い、同じギルドに所属する女性と知っていれば、別の対応、あるいは処置? があったかもしれない。また、見逃したスライムと意思疎通が出来る存在がいた事も致命的と言える。


 これが、ロックの怒りを買う事になるとは、思いもよらなかったのだ。



「無事でいて下さい、リーリエさん…」

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