野望の錬金術

第33話 やって来た2人

『毒竜の森』の『結界の祠』。

 ロックは、そこで1人の男に出会う。


「アリアスを継ぐ者? その言い方! 貴方はバーンズさん? バーンズ家の人なのですか?」


 言われて笑みを浮かべる男。

「良かった。私の事は師匠から、コルニクス=アリアスから聞いていたのだね。要らぬ説明が省けたよ。うん。その通りだ。私の名はボーデス。ボーデス=バーンズという」

 銀の長髪。整った顔立ちに、やや長く尖った耳。エルフ? それにしては?

「あぁ、私はハーフエルフだ。アリアスに対抗するためか、父はハイエルフにも関わらず敢えて人間である母に私を生ませた。お蔭でエルフらしからぬ強靭な身体と、ハイエルフの森での過酷な仕打ちを経験したよ」


 ハイエルフ。

 エルフの上位種。魔法の特性と耐性がずば抜けており魔力も竜並みに高い。その分筋力と生命力が非常に低い種族である。

 人間に子を生ませた事により低い適性値を修正してきた? ボーデスはそう言っている。


「ジッチャンはダークエルフ。だからか!」

 魔法特性や耐性はずば抜けていないものの高い事には変わりない。魔力はかなり多く、またエルフやハイエルフと違い、筋力・生命力も人間にそこまで劣ってもいない。つまり身体的特性では、ハイエルフがダークエルフに対抗するのはかなり厳しいものがある。

 何事もなければ倍以上、1,000年程の寿命を持つが、これも森で安らかな暮らしを営めば、という話になる。

 そのダークエルフに対抗するためにハーフエルフを生ませた?

 ハイエルフはかなり排他的だ。

 ある意味、ミンザ主義に近いものがある。他種族と交わる事を好まず純血主義なのだ。ハーフは誰の手も借りずに生きていかざるを得ない。生ませた父ですら嫌悪して全く面倒をみない事すらあるのだ。


「ダークエルフに対抗するための身体だというのに、相見える前に病没するとはね。しかも、その後継者が人族の子供!? 危うく人生を悲観する処だったよ。まさかハイエルフ以上の魔力を持つとは!」


 楽しくて仕方がない。にこやかな笑みは全ての者を魅了しそうな程だ。


「しかもテイマーだってね。本当に、君という存在に感謝するよ」

 ボーデスの後ろから現れるヒュドラーが2頭。

 テイム? いや、何かおかしい? ロックに伝わる苦痛の表情。

「テイムじゃない! まさか使役ギアス?」


 魔物を使うには2通りの方法がある。

 普通は絆結テイムを使う。魔物はテイマーをマスターと呼び、共に過ごせば過ごす程従属していく。テイムされた魔物を従魔と呼ぶ所以である。


 一方使役ギアスは、魔物の意思に関係なく無理に従属させる。魔力の強さで、どのランクの魔物を使役出来るかが決まる。魔物に絶対服従を強いるこの呪文のせいで、「ここで待ってろ」と言われた魔物は、数年間ほおっておかれてもその場で待ち続け、飢え死にさえしてしまった事もあるのだ。

 テイマーにとって存在さえ許せない呪文。それが使役ギアス


「さぁ! 彼奴等を倒せ!食いつくしてしまえ!!」

 向かってくるヒュドラー。


「シャアアアア【もう彼奴等を救えねェ。殺ってくれ】」

「パルルルル【わかった】」

「ピルルルル【ウインドストリーム】」

「プルルルル【燃え尽くせ】」


 ヒュドラー2頭を包み込む竜巻の如く吹き荒れる気流。ヒュドラー達が身動き取れなくなり、終いには巻き上げられてしまう。


 ボッ!ブォアアアア!!

 その気流に竜の真なる炎が載っていく。


「シャアアアア!【ギャアアアア、た、助けて!】」


 断末魔の叫びが轟く!


「ほう、再生させない火力を持った竜巻。素晴らしい。成る程、噂に聞く『業火の竜巻』とは、フム、良く言ったものだ」

 微笑みながら頷くボーデス。にこやかに、只感心している如く。

「では、これは? 『ギアス』」

 巨大な魔力が、ドランやスライ達従魔に飛ぶ!


「な! 何するんだ!!」


 魔力が紅き鎖の形となって従魔を縛っていく。その鎖を断ち切ろうとロックも魔力を紡ぐ。

「大丈夫です。必要ありませんよ、ロック様」

 見ると、スライとドランは容易く鎖を引き千切ってしまう。ジンライも多少苦しんだようだが、やがて引き千切る。

「ジャ…、ジ…、シャアアアア!【く、くそ、…ふざけんな! オレは『ヒューダ』!】」

 そしてヒューダも鎖を千切り、紅き鎖は霧散霧消していく。


「私達従魔をバカにしていますね。貴方如きの魔力が、ロック様との絆に勝ると?」

 静かに語るスライ。他の3頭も嘲る様に笑う。いや、笑ったように喉を鳴らす。


 まだボーデスの笑みは消えない。

「ほう。トライギドラスやナイツスライムは判るが、まさかヒュドラーが、人との絆を切らぬとはね」


「絆の力は、種族や時間に左右されませんよ。我等は全て、ロック様の従魔であることに誇りを持っています。喜びですらあるのですよ」

 スライの言葉に、同調し尚且つボーデスを嘲笑する様に再び喉を鳴らす3頭。

「パルルルル【一昨日来やがれ】」

「シャアアアア【失せな!】」

「コーン【つまらぬ奴】」


 ロックの様に従魔の声が、内容が判る筈は無い。

 だが、嘲られている事は伝わってしまう。


「フ、フフ、クククククク、アハハハハ。こうも、ここまで嘲られ、貶められるとはね。本当に君に会えて良かったよ、ロック君。生きる糧が、意味がやっと持てた。では…、フム、あぁ、確か君達はあれを探しに来たのだよね」


 ボーデスが指差す方向。

 首の無い鎧騎士がフラフラ歩いている。


「流石に依頼の邪魔をする気はないよ。またいつか相見えよう。『テレポート』」


 何か、まだ言いたそうだった? それでもボーデスはにこやかに去っていった。



「デュラハンではないか。ゾンビだ。あの鎧は近衛騎士か…。怨み? 心残り? どんな強い想いがあるの?」

 フラフラ歩いている鎧騎士に近付いていくロック。


「う、うぅヴぁああ!」

 だが、ロックに気付いたゾンビは只襲い掛かってくる。フラフラとだが。

「想いは消えたのか。だよね。残っていればゾンビにはならない。リッチとかになる筈だし。デュラハンじゃないのなら…。サヨナラ、『ターン・アンデッド』」


 ロックは神聖魔法で浄化を図る。

 只のゾンビに、その神聖なる光に抗う術はなかった。一瞬で灰化し、塵芥となって散り失せていく。

「他は? コイツだけかな?」


 確信を得る為に、ロックはそのまま夜の森を見て回るのだった。

 そして3日程夜の森を彷徨い、適当にアンデッドを浄化して依頼達成・完了とデルファイ・ギルドに報告し、アゥゴーへと帰っていった。



 その毒竜の森から遠く離れ、今はミルザー法王国との国境近い『飛竜の谷』。

 ボーデスの顔に浮かぶのは自嘲気味の笑み。

「全て!そう、全てにおいて劣っている! 俺は、彼奴に何一つ勝てるものが無い! 何の為に人とのハーフで生まれた? ハイエルフの弱点である力、耐性、持久力。補う為ではなかったのか?何故人間に負ける? あの魔力は何なんだ!? ったく、本当に人生、退屈しないもんだ。クククククク、アハハハハ 」

 筋力・体力は仕方がない。それでも魔力や魔法は勝っていると思っていた。

 だが、ロックのステータスは最早『亜神』の域にある。ハイブリッドとは言え所詮人類の域を越えられないボーデスに勝てる見込み等なかった。


「さて。とりあえず、うさを晴らさせてもらおうかな? 邪神教の諸君!」


 森の木陰に窺う影。

 数名の冒険者風の男達が姿を見せる。


「探したぜ。わざわざ消されに戻って来るとはなぁ」

「観念するがいい、『法敵ボーデス』」


 ミルザー法王国の騎士だ。


「消されに? まさか。そろそろ存在が鬱陶しくてね。この辺りで綺麗にさっぱりしたくてね」


 ボーデスに再び、人の良さそうな笑みが浮かぶ。


「ほざくな! 死後の世界でも法罰で苦しむが…」

 言い終わる前に身体が麻痺してしまう。

 いつの間にか、足下に半透明の蜘蛛の巣が拡がっている!?


「これは『バインド・ネスト』というモノでね。大蜘蛛の上位種『マージスパイダー』の巣を改良したのだが、フフ、意外に使えるな。さて愚か者よ。君達の麻痺は1日経てば解けるけど、夜が明ければどうなるか、判るよね」


「あが…、ぐ…」


「やって来るのはワイバーンかな? それともアースドラゴン? ここの夜明けは美しいよ? 死にゆく者への手向けだ。フフ、私の慈悲に泣いて感謝したまえ。アハハハハ」


 楽しそうに去って行くボーデス。

「フフ、少し溜飲が下がったか? 私も単純な俗物だな。それにしても、ナイツスライムもだが、やはりトライギドラスは厄介だな。せっかく水路に細工して生まれ出ない様にしていたのに。ロックに修復されるとはね。あのガキが村に居続ける可能性。私もまだまだ未熟だ」

 1年数ヶ月前。3つ首竜の森の祠を壊し核の水晶を手に入れた。そのついでに、村の水路と祭壇の仕組みに気付き、面倒事と思い破壊したのに。人がまだ住んでいる等と思わず、その確認もしなかった。今となっては後悔でしかない。


 元の、コルニクスの住んでいた町外れの家しか見なかったのだ。蔵書をギルドに移されたその家は廃墟でしかなく、病気で焼き滅ぼされた村の姿にしか見えなかった。

 だが、石造りの住居は多少焦げ付きはあったものの、ちょっとした手直しで住居として耐用出来た。今ロックとリルフィンが住んでいるのは村の中心部。とは言え従魔の事もあり、ロックは家の前の広場の存在を鑑み生活の拠点にしていた。

 女神ルーシアンの後付けは兎も角、実際は村に来た時にはスライがいて、村に来て直ぐドランが従魔になった。家探しも従魔の存在が先であり、ロックも、どうせ独り暮らしだからと、従魔と過ごす事を優先したのだ。

 たまに『竜の息吹』の面子が訪ねる事もある。確かに、まだ住みやすい家は村の中にはあったのだが水路近い中心部で家も広く水汲みも楽であり、一応住みやすい住居になっていることに感心されたのだった。

 そのせいか? 家事を一手に引き受けているリルフィンもロックとの同棲生活に不満は無いらしい。11歳の、若夫婦と言うには若すぎる2人の暮らしは幸せそのものだった。



 アゥゴーへ向かう馬車の中。

 5人の女性が語らっている。中心にいるのはエルフの女性、タニア。『黒き大賢者コルニクス=アリアス』の弟子。中でも錬金術師としては最後の弟子である。竜の鱗で創られたスケイルアーマーを身に付け、腰にはポーション類が入ったポーチがあり、馬車が揺れる度にカチャカチャ鳴らしていた。

 只、アーマーは肩と胸の谷間が露出している。

 その為エルフにしては豊満な胸を強調した形になっている。また錬金術による陣の作成や錬成の為の複雑な手の動きを妨げない様にであろう。肩部アーマーの不在は、自在な錬成陣の作成ととてつもない色気を作り出していた。

 錬金術師としては物凄く優秀であり、コルニクスも自分を超えるであろうと、常々誉めていた愛弟子だが、人間的に、そして女性としてはあまりにもだらしなく多少常識外れな一面を持っている。なので、コミリアにとっては苦手と言うよりも嫌っていると言っていい相手だった。


「とまぁ、私の方はこんな感じだったけど。コミリアは? 最近随分羽振りがいいみたいね」

「お蔭様でね。ロックが大活躍してくれるから」

「は? あの子、まだこんな小さかったじゃない?」

「何時の話? ひょっとしてタニア姉が出奔した頃? もうあれから8年も経っているの!」


 元々長命のエルフは、それ故に年月の観念が薄い。10年程前の事も『この間』位の感覚になる。確かに極端な話なのだが、この辺ソニアもあまり変わりはないのでエルフ一般的な感覚なのだろう。


 8年も前ならばロックは3歳であり『こんな小さかった』と言われても仕方がない。しかもエルフならば、その位の年月では容姿に全く変化は無いのだから。


「人族の成長はエルフとは違いますよ、タニア。もうロックはランクAの凄腕冒険者なのです」

 ソニアが少し呆れた感で話す。タニアは人族の村に来て100年以上経っている筈なのだ。エルフの慣習で物事を考えるのは無知と断言されても反論出来ない。


「あぁ、確か『輝竜』って異名も持ってるのよね」

 感心したように頷くタニア。流石に法王国との戦争の事位は頭にあるらしい。

「で、大活躍って事はあの子もパーティーメンバーなの?」

「ウチの主力。稼ぎ頭のテイマーで唯一の男性メンバーよ」

 コミリアのどや顔。頷く3人。

「唯一? 『竜の息吹』って女性だけじゃ?」

「今はロックのハーレムパーティーなの。本人のみが否定してるけどね」

 コミリア始め他のメンバーもクスクス笑い出す。

「ふーん。成る程。やっぱりあの師匠の弟子な訳だ」

「あのセクハラジジイと一緒にしないで! ロックはまだ純情な子供なんだから」


 ハーレム=女好き。

 流石はコルニクスの弟子。


 タニアのそういう想いにむきになって反論するコミリア。タニア自身もコルニクスに師事した女性として散々なセクハラに合ってきた。その結果がエルフらしからぬ巨乳となっている訳なのだが、只タニアは自分が性的嫌がらせを受けていた自覚が全く無く、本来の性格もあり性的に奔放であった。


 同郷のコミリアやマッキーが嫌う理由もここにある。


「ま、いいか。ね、私もパーティーに入れて…」

「嫌よ!」


 一呼吸も考える事無く、更には被り気味に拒否の意思を示すコミリア。


「姉弟子相手につれないわぁ~」

「姉妹弟子として、錬金術師としてはとても尊敬してる。でも、女としてはタニア姉に嫌悪感しかないから。ロックにも悪影響ありそうだし。って言うか、タニア姉、ロックにメチャクチャ嫌われてなかった?」


 そうだったかしら?

 何気に昔を思い出すタニア。


 コルニクスの悪ふざけに近い教育のせいか、タニアの事をロックは「妖怪年齢詐欺ババァ」と呼んでいた。

 確かに3歳児にとって150歳超えは「ババァ」以外の何者でもないだろう。だが、エルフ基準ではまだ若輩であり、見た目もまた妙齢の婦人であるタニアは「ババァ」呼ばわりを納得出来る筈も無い。為に往復ビンタを噛ましていたりしたのだが、そうなると3歳児が懐く筈が無く、結果ロックからメチャクチャ嫌われてしまう事となる。


「あれこそ師匠の悪ふざけでしょう? 私、ある意味被害者よ?」

「あんだけマジで引っ叩いておいて? 3歳児にする事じゃないわ」


 くどいようだが女神ルーシアンの後付けである。

 だがコルニクスの弟子達のやり取りとして、彼女達にしっかり記憶となって残っているのだ。

 コルニクスの根性曲がりのせいではあるのだが、こうなると女神ルーシアンの性格も本来誉められたものではない。


「もう。女神に何やらせるのですか?」

「カッカッカ。しっかり楽しんでおりますがな、女神様」

 天界での、どうでもいい一コマ。

 って言うか、いつの間にかコルニクスは傍観者よろしく天界に居着いてしまっている? 神の使途は確かに、天界にて女神の手助けする者の役割もある。女神が一神で全てを行う訳では無い。この世界に天使という有翼の人型の存在は無いが、相応の神の意思を告げる者、代行者はいるのだ。

 女神の相方というのはいないと思うのだが…。


 そうこうしているウチに、馬車は無事アゥゴーへ戻った。その頃にはロックも『毒竜の森』のデュハラン探しの依頼を終わらせ、アゥゴーへ戻って来ており、コミリア達と合流するべくギルドで待っていたのである。


「リルフィン! コミ姉!!」

 合流したコミリア達と共にいるエルフの女性に気が付くロック。

「出た!妖怪年齢詐欺ババァ!!」


 すぱぱぱぱーん!


 言うか早いか! ほぼ同時にタニアの往復ビンタが炸裂したのである。

 ビンタを喰らい、頬っぺた赤くして涙目になり、「何すんだー!この妖怪ババァ! 」と叫んでは再びビンタを喰らうその姿は、ランクS相応の戦闘力をもつランクAの冒険者ではなく只の悪ジャリにしか見えなかった。

 ギルド職員含めそこにいた全ての冒険者により、ロックのポンコツレジェンドがあっという間に広まったのは、これまたどうでもいい一コマ。


 初めて見るロックのジャリな一面に、リルフィンも思わず、

「えーと、コミリアさん?」

「あれもロックだから…。あたま痛…」

 姉の頭痛の種がまた増える。


 そしてその夜。

『タニアちゃん!アゥゴー帰還おめでとー』という訳のわからんパーティーがギルド併設の酒場で開かれる事になる。


「タニア! タニア!!」


 皆のコールの中、酒場の真ん中でテーブルの上に立ち上がったタニアは、

「分かった! みなまで言うな! この私が一肌脱ごう!!」

 文字通り上着を脱いでしまう。

 下着…というよりタンクトップと言うべきそれは、エルフらしからぬメロン大のモノに押し上げられ、上からも下からもプルプル躍動するのが見えており、テーブルの周りにいる男達の大喝采を巻き起こした。


「えーと、コミリアさん?」

「あれが無ければ良い姉弟子なんだけどね。あのセクハラジジイが変に仕込んじゃったの」

 コミリアのため息。勿論ロックも見てない。カウンターで炭酸飲料を飲んでいる。


「ロックが年上の女性を苦手にしてるの、コミリアさんだけが原因じゃなかったんだ」

 リルフィンの想いに苦笑しながら頷くマッキーとソニア。特に同じエルフだからか、ソニアのタニアを見る目はキツい。

「ソニアさん?」

「タニアは、…タニラルシアーナ=パルシラムは西の世界樹、ユグドパルシラムリーフという森にある古いエルフの王国、パルシラム王家の出よ。ハイエルフも一目置く名のある王家なのに」


 ハイエルフ。その言葉でロックも思い出す。

「そうだ。実は『毒竜の森』でハイエルフのバーンズ家の者に会いました。ボーデス=バーンズと名乗ったハーフエルフです」

「ハーフエルフ? ハイエルフのバーンズ家に? は? そこまでしてダークエルフのアリアス家に対抗したと言うの?」

「みたいです。僕を知って『人生を取り戻した』みたいな事、言ってました」

 納得出来るソニア。

「そうね。ハーフエルフ…。さぞ辛酸を嘗めたと思うわ。それだけの想いで力を蓄えて、対するのが只の人族ならば彼のこれまでの人生は無駄となってしまうもの。神竜に匹敵する魔力を持つロックが相手ならば、 それは無駄にならない。ううん、もっと研鑽し自力を高めないと太刀打ち出来なくなる」

「そんな大それた者じゃないと思うけど」

「はぁ…、もう少し自分が規格外という自覚を持ったら? 魔力10万超えなんて、もう人外なんだからね」

 マッキーが呆れた感じで突っ込む。


「バーンズ家の者が来た…、か。また面倒になってきたわね」

 コミリアもため息をついてしまう。

 アリアスにとってバーンズの者は因縁の相手、というよりは面倒・厄介な奴としか思えない。


 と、その時だった。

 ギルドに入ってきた冒険者が、ロックを見て驚いたのだ。

「あれ? ロック! お前、バークタラントの街にいたんじゃなかったのか? そこんとこの『南の森』で大活躍したって聞いたぞ?」


「はい? 行った事無いですよ、僕」

 言われたロックもビックリ。


「それって、ロックを語る誰かがいる訳?」

 コミリアもマッキーも顔を見合わせる。


 話を聞いてみると、少年テイマーが魔物討伐で大活躍したらしい。

「『南の森』って、ランクDの森よね。偽物でも何とかなる? でも、ロックの名を語れる程の少年って事よね? ランクDでも普通なら命懸けの筈よ」


 この辺はコミリアも流石はパーティーリーダーだ。

 魔物の分布図や森のランクが頭に入っているのだ。

「行ってみるしかないわね」

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