第32話 正義の価値観

 オーク出没の噂。行方不明の少女。

 隊商の護衛依頼をこなす傍ら、丁度噂の森に差し掛かった時、現れたのはオークではなく、オークの仕業にみせかけた盗賊団『獣牙団』だった。


 奴隷商人ガルシアの隊商が山合の山村『ポルト』と鉱山都市『エルンスト』の間にある『ゴーダの森』に差し掛かった時、ランクEの剣士崩れゲドンに率いられた盗賊団に襲われてしまうが、コミリア達『竜の息吹』とフィア達『紅い牙』によって撃退、逮捕・拘束される。

 その際、ゲドンが『召喚の魔笛』を使いオークを呼び出して来た。

 この森で行方不明となった新人テイマーのエフィメラの、『オークに襲われて行方不明』との噂は、これが原因だったのだ。

 そのエフィメラは盗賊団に輪姦され、既に死亡しているとの事。

 コミリア達はエフィメラの処へ案内させようとしていた。


「アジトは近いのかしら? そこにエフィメラもいるの?」

「この『召喚の魔笛』は何処で手に入れたの?」


『捕縛の縄』で拘束されたゲドンに、コミリアとマッキーが問い詰める。

 マッキーの手に、先程までゲドンが持っていた『召喚の魔笛』があった。『鑑定』の結果、オークのみを召喚できる魔笛と分かった。


「言えば減刑してくれんのか?」

「は? アンタ死刑よ! って言うか、私達が執行して事後報告したいの!」

 コミリアが剣に手を掛ける。


 襲われた事と、ゲドンが叫んだ事は依頼主のガルシアも聞いている。その場で斬り捨てての事後報告でもギルド及び王国の法治管理官は納得し報償が出る。

 だが、どんなに非道で鬼畜に等しい犯罪者でもコミリア達は逮捕・拘束し、王国の警察機構『法治管理兵詰所』に引き渡していた。


 ライカー王国では、犯罪者の逮捕・拘束は誰でも出来る。だが裁くのは本来『法治管理官』のみしか出来ない。自警団であろうが領主の近衛兵だろうが。そうは言っても、状況や信頼のおける第3者の確認・証言があれば、依頼を受けた冒険者が刑の執行を事後報告で代理する場合がある。この辺、管理官も現実的だ。

 尤も、これは平民及び下位貴族の犯罪者についての話だ。上位貴族は王族しか裁けない。


「なぁ、そう言わずに。それな、とある貴族にもらったんだ。へへっ。繋ぎを通じてお貴族様から依頼を受けてな。そん時の報酬だ。略奪して報酬もらって、スゲェ美味しい話だったんだ」

 得意げに話出すゲドン。

「ミルカナの村でよ、反抗的な村という事で見せしめってよ! 領主の言う通りにしてねぇと賊に襲われても警護衛兵は動かねぇって。自警団だけじゃ回んねぇ事を示すんだって言ってよ! ジジイ共の自警団しかいねぇ村で略奪し放題。へへっ、ホント旨い話でよ。尤も金目のモノはあまり無いし、女も年増やババアばっかりだったし。実入りにはちと欠けたけどよ」


 ミルカナの村。

 王国の北部にあるリーオー王国の国境に近い村。

 半年程前のミルザー法王国との戦争の時は補給の拠点としてライカー王国軍の食糧庫の役割を果たした村である。

 確かに1年前、盗賊団に襲われ滅亡と言える被害を受けた。丁度王都で宰相ラーデウス公爵の孫、マリア=ラーデウスの誕生パーティーがあり、領主たるシド=パイカル子爵は祝いの為パーティーに参列していた。村の警護衛兵も領主の護衛の為に王都へ赴いており、これは各町村の警護衛兵が持ち回りで領主の護衛を行っていたからである。偶々その時はミルカナ村の警護衛兵が当番だったのだ。

 パイカル子爵領は領都のパルカラの街と周りの村3つで成り立っており、ミルカナ村は国境が近い為に警護衛兵も精鋭が揃っていた。だからこそ領主の護衛の任を任された訳だが、その警護手薄の隙をついた盗賊団の犯行という事で、自警団の若者が手引きしたとされ、盗賊団に裏切られ口封じに斬殺された事になっている。


「自警団の中に内通者がいたんじゃなくて、領主が企んだ襲撃だったの? あれ、悲しみに耐えて村の復興を目指すって、パイカル子爵は私財を投じて村を再建したってなってるけど」

「全部子爵の計画通りさ。あん時俺達の襲撃を免れた村人って、襲撃の事知ってて、あの晩村を離れてたんだ。そこにいる奴は反抗的だから何やっても構わねぇって、お墨付きまでもらってよ」


「そんな…」

 剣を落としてしまう剣士ラナ。

 そう、彼女はミルカナ村の出身で、両親は健在だ。あの襲撃の日、商人である両親は仕入れの為村を離れていた。子爵も懇意にしており、色々子爵家に用立てている商会で、村の再建の時も復興物資を必死に用立てていた。

「ラナ?」

「お父さんは領主側の立位置だった。だから、あの時助かったの?」

「商人が仕入れの為に村を離れるのはよくある事よ。それにパンタンさんはあの日だけじゃなくて1週間不在だったじゃない!」

 フィアとドリスはアゥゴーの出身だ。ミリアがベリーボリスの出であり、3人がアゥゴー付近の南部の出なので冒険者ギルドの大きなアゥゴー・ギルドに所属している。


 呆然としているラナにフィア達は慰めの声を掛ける。不幸な偶然の一致かもしれないのだ。いや、そうであってほしいと願わずにはいられなかった。


「でも…」

「ラナ。パンタンさんは結構やり手の商人よ。だからパイカル子爵が命じた可能性があるわ。ここの1週間村を離れる様にって。訳を知らなかったかもしれないし、薄々勘づいていたかもしれない。だとしても、貴女が信じるのは復興に必死で頑張ったお父様の姿でいいと思うわ」

 機知に富み、心情や空気を良く読めるマッキーが、それとなく諭し、ラナも少し安堵した表情になってきた。


「この話、法治管理官に伝える? 子爵は下位貴族だから、私達や領都パルカラの法治管理官の裁断で裁けると思うけど」

「内密に伝えましょう。もし管理官がスルーしても異議なしって事で。王国は子爵のネタを手に入れる訳だし。まぁ、消されずに実を取る方向で話つけましょう」

 ソニアの問いに、コミリアはスルーありきで応える。子爵の罪を問うべし。強く訴えてもスルーされればそれまでだし、スルーをゴネたら場合によっては王国から刺客が来るかもしれない。報酬をもらい『私達は口を噤みます』という態度を通すのが利口だ。

「納得出来ない? ラナ? ドリスもかな? うん。貴族相手だと、とにかく理不尽な目に合うのよね。妥協を貴女達に勧めるつもりはないし、その理不尽に対する怒りを無くせって言うつもりもない。でもね、冒険者って生きていればこそ!な訳」

 そう言うコミリアの表情は冷めきっている。自身も決して納得してはいないのだ。

「管理官の耳に入れるって、細やかな抵抗なの。そして王国への義理」

 マッキーも匙を投げた感で応える。


「ロックさんがいても同じですか? 彼なら、王国からも消される事なんてないですよね? そこまで力を持てるようになれば理不尽な事も…」

「同じよ。確かにロックは消される事は無いわね。彼奴と従魔は今なら国軍すら相手に出来る。Aランクが3頭いるしBやCも揃ってる。何よりロック自身がSランク相当の戦闘力を持ってる。だから貴族に逆らえるかというと、また別の話よ」

 まだドリスは納得出来ない。

「ケースバイケースだけどさ。従魔を使って我を通すのであれば、ロックは最強最悪の魔王になる」

「ロックの一番嫌いな存在に彼自身がなっちゃいます。その、ロックは…自身の力が桁違いなの気にして…その…目立つの苦手な人なんです」

 リルフィンの話に、少し呆れてしまうメンバー。


 確かにロックは表に出たがらない。しかも物欲がかなり少ないらしい。

 報償金は受け取ったが、貴族の身分も王都の大邸宅も拒否したのは最近の話だ。フィア達も聞いた時は信じられなかった。

 だが、現にロックは、普通に依頼を受け冒険者の日常に戻った。例え依頼が王族だったとしても。


「ね、理不尽だからって、国の根幹、貴族の成り立ちを否定出来る? 確かに、その事と正義の基準と、どっちが重いのか? 正義!って言う気持ちはよくわかるの」

 諭す語り口。論理的な話になるとマッキーの出番。

「でも王国で貴族を否定するのは、ある意味反社会的行為よ。国家に歯向かう? 王政を転覆させる? それなら国を出奔して理想の国を創るべきよ。自治区にある『市民共和制』がそのモデルだと思う」

「それも貴族じゃないだけで街の有力者、豪商が政治を行ってるって聞きました。爵位がないだけで市民の政治か、甚だ疑問です」

 ドリスも自治区の市民共和制政治は知っている。その実情も…。

「結局、それが世の理。であるならば反社会的行為は悪と断罪されるわ。理不尽なモノへの怒りが発端の筈なのに」

 ソニアが言葉を引き継ぐ。下級騎士爵位とはいえ貴族階級のソニアが言うと『貴族社会を転覆させる?』と聞こえなくもない。

「多分答は出ない。でもね、理不尽を納得せずに尚且受け入れるの。スッゴい矛盾。ランクが上がれば上がる程考える事になる。先輩の押し付け理屈。これも理不尽かな?」

 やや悪戯っぽく話すマッキーに、ラナもドリスも受け入れざるを得ないという表情になってきた。

「後はウチのリーダーみたいに『知~らない、気にしな~い』って考えも有るけど?」

 マッキーの言葉に憮然とするコミリア。

「だから私が考え無しの脳筋みたいに言わないで!」


「「「違うの」ですか?」」


 ビックリ仰天。

『竜の息吹』のメンバーは目を丸くする。それがまたコミリアを憮然とさせる。

「も少しリーダーを敬ってもいいと思うけど? って、リルフィンからもそういう扱い? 何時の間に?」

「え? だってロック、何時も言ってますし。『コミ姉ェ、何も考えないから』って」

「相変わらず生意気な弟弟子ね」



「ここだよ」


 貴族社会の理不尽さを語る間に、隊商は森の奥、盗賊団が根城にしていた場所に着く。元は炭焼小屋か?倉庫とも言えそうな建物もあり、その前に、首をロープで、地面に埋め込まれた杭につながれている全裸の少女が倒れていた。


「エフェメラ!?」


 声に反応した? 動く。起き上がろうとしている?


「エフェメラ、生きて…、あ、そ、そんな!」


 起き上がったエフェメラの眼は紅く異様な光を放っていた。


「ガァアアア! ま…たぁわだしぃを…、犯しにき…たなぁ。グググルゥ! ガァアアア!!」


 傷だらけの身体はどす黒く、一部は腐敗し始めている。


 ゾンビだ!


「ドリス!」

「はい! 亡者よ、女神の光に滅して!! 『ディスペル・ライト』」


 ドリスの手から、青白く輝く光が生まれ、ゾンビに向かって飛んでいく。


「ギャアアアア!」

「ダメ、私の魔力では! エフェメラさんの怨みのほうが強い!」


 ロープにつながれ、そこまでしか前に進めない。だが、ズルッズルッとそれでも前に進もうとしているエフェメラのゾンビ。浄化の光は力量不足もありゾンビの全てを包み込む事は出来なかった。右腕を消し去る事しか出来なかったのだ。


「エフェメラさんの怨みは晴らしました! 盗賊団は潰滅です。後、従魔の『フィル』もテイマーズギルドが保護しています。お願いします。これで心安らかに、人として女神様の御元へ!!」


 銀竜の魔槍が煌めき、ゾンビの胸を貫く。

 槍先から白く柔らかな光が溢れていく。

 と、エフェメラの瞳の紅い輝きか消え、元のライトグリーンに戻った。


「あ、…リルフィン? わた…し…。あ、ありがとう…。ひ…人とし…て、死なせ…てく…れるの…ね」


 やがて瞳から光を失い、閉じていく。身体かゆっくり朽ちていき、ボロボロと崩れ、最後は灰のようになり消え失せていった。


 カラン。

 貫いていた魔槍が地に落ちる。


「良かった。エフェメラさん、怨みを無くして、人として女神様の御元へ赴いてくれた」

 魔槍を拾い上げ、天空に祈るリルフィン。


「リルフィン、今のって?」

「この短槍はロックの神竜牙と同じく、神竜ゼファーの牙や爪で創られています。破邪の追加特性を持っているんです。だからアンデッドには攻撃力3倍+浄化付き」

 短槍を煌めかせ、少し得意げに話すリルフィン。

「相変わらずのビックリ性能ね」

「ですね。とても片手間の冗談で創られてるとは思えないです」


 背に戻しながら、リルフィンも多少呆れ気味に語る。


「片手間の冗談って? こんな神業のような短槍が?」

 ドリスやラナが興奮気味に詰めよってくる。

「ロックの神竜牙を創った後、残った素材で『こんな槍面白いじゃろう?』って、面白半分で創っちゃったみたいなの。まぁ、あのセクハラジジィならやりそうな事ね」


 コミリアも呆れ気味に、自分の師匠の事を語る。

 そう、コミリアがセクハラジジィと呼ぶのは、それでも敬愛する師匠『黒き大賢者:コルニクス=アリアス』しかいない。


「凄い方なんですね。ロックさんやコミリアさんのお師匠様」

「うーん、まぁ、ね」


 確かに、コルニクスは武芸全てに優れ、ほぼ全属性の魔法を駆使し、創る武具防具魔導具は神器と言える程。『神竜並み』という2つ名も納得出来る人物だった。姓も有るので、これでも騎士爵位持ち ~ 貴族の端くれだ。

 なのだが、タラム村の人間にとっては、弟子苛めとおっぱいが大好きな、実に根性・性格の悪いスケベなダークエルフの老人でしかなかった。

 直近の愛弟子で姉弟弟子のコミリアとロックへの仕打ちは、コルニクスがどういう人物だったかの語り草になってしまっている。

 まぁ、ロックの場合は女神ルーシアンの後付け記憶ではあるのだが、どちらにしろタラム村の人間にとって、魔法の脳転写による子供の叫び声と老人の高笑い声は日常茶飯事であり、コミリアとマッキーの脳裡から消え去る事は無い。


「さぁ、一先ず護衛依頼に戻ります」

 そう言いながら、コミリアは崩れ去ったエフェメラのギルドカードを探し出す。棄てられた衣類の中、偽造不能の金属製のカードは失われずそこにあった。

「エフェメラ、一緒に帰ろう、私達のアゥゴーに」


 理不尽な想い、多少の悔しさや後悔を残し、コミリア達は護衛しながら隊商を王都まで送った。



 その後は何事もなく隊商は王都ライドパレスへ着いた。王都の通用門でガルシアより『依頼完了証書』を受け取るコミリア。

「護衛ありがとうございました。また、依頼を頼む時はお願いしますね」

「はい。ありがとうございました」


 ガルシア達の奴隷商人の隊商は、そのまま王都の西側にある店舗へと向かう。

 コミリア達は王都の冒険者ギルドへと。ここで依頼完了の手続きを行い、依頼達成のギルドポイントと報酬を受け取る事になる。

「のんびりとした道中だったわ。もう少し早い移動かと思ったけど」

「馬車に10人を荷台に乗せて、他にスタッフや商人が乗ってました。あれ以上のスピードだと多分馬換えが必要になりますよ?」

「あ、それは面倒だわ。予約なんか出来ないし、宿場に着いてから馬屋との交渉になるわね。下手すれば半日跳ぶわ」

 依頼を達成し、ホッとした感で雑談しながらギルドへ向かう。


「はい。護衛依頼の完了、達成を確認しました。報酬はパーティー割にしてあります」


 ギルドの受付嬢リザがにこやかに手続きを行っていく。高ランクパーティーの相手は、受付嬢にとっても色々と意義のある時間となる。金貨数枚銀貨十数枚入った皮袋を手に、フィア達『紅い牙』は目を丸くしてしまう。


「ふぁ? こ、こんなに」

「大商人の1週間以上の護衛って、上手くいけばとても美味しいのよ!」

「頑張れ! Cに上がれば、此の位の依頼料のモノがくる事もあるわ」

 コミリアとマッキーがランクDの後輩を激励して、この依頼は終了した。

「私達はギルドの馬車でアゥゴーに帰るけど、貴女方はどうする? 王都で別の依頼を受ける?」


 4人で話し合う『紅い牙』。

 結果、せっかくなので、このギルドのランクDの依頼を受け、しばらく王都を拠点に活動する事になる。


「頑張れ! 可愛い後輩達!!」

「はい!いつか、先輩達のような冒険者パーティーになります。今回はありがとうございました」


 そして『竜の息吹』の4人は法治管理官の詰所へと赴く。証拠たる『召喚の魔笛』を持って。


「フム。ありがとう、『竜の息吹』の諸君。確かに表沙汰には出来ないが、有耶無耶にもしない。今、王太子殿下の改革が進んでいてね。フフ、この辺りの風通しが良くなってきてるのさ」

 ニヤリと笑う管理官は、コミリア達から見ても若く希望と理想に燃えた人物であった。


 後年、パイカル子爵領に「北部の要衝だから」と近衛兵団の詰所が出来る。国境も近いので王都や貴族・官僚も何の疑問も持たなかったが、わかる者にはわかる。近衛兵が監視しているのが国境のみにあらず!という事を。


 帰路の馬車はスムーズに快適に進む。

 もうすぐエルンストというところで、馬車を呼び止める女性がいた。


「ごめんなさい! ちょっと足を痛めてしまって!その、お金は払います。アゥゴーまで乗せて乗せてもらえませんか!?」


 見たことのないドラゴンスケイル・アーマーに身を包むエルフの女性。尤も胸の谷間や肩等、露出している処もあり動きと色気を妨げない形になっているのが、ある意味不思議とは言えるのだが。

 この姿のエルフの女性をコミリアとマッキーは1人しか知らない。


「え~と、タニア姉様? 」

「あら? コミリアじゃない! これは女神ルーシアン様の助けね。ね、乗せてもらえる?」


 コルニクス=アリアスの弟子。

 コミリアやロックの姉弟子にて、錬金術を継ぐ最後の弟子。タニラルシアーナ=パルシラム、通称タニア。

 錬金術師って、やっぱ変人?

 偏見ではあるが、その誤解が解けない人物であった。



 話は1週間程戻る。

 交渉でポンコツ振りを見せたロックだったが、直後から『毒竜の森』に入り活動し始める。

 デュラハンの活動の確認となると夜間になってしまうからだ。

 流石に門番やギルドの者は、森に夜入る事の危険度の高さをロックに話して1度は呼び止めた。

 勿論ロックも十分承知している。だが、

「モンスターハウス、オープン! ドラン、ヒューダ、ジンライ、スライ出てきて!!」


 空間が開き、トライギドラス、ヒュドラー、アイスフォックス、ナイツスライムが現れる。

「僕の従魔に勝てるの、もう神獣クラス、ランクSかな? ドランがA+だし、Sが2頭以上なら大変かもしれないけど」

「ロック様、この中で1番お強いのは貴方ですよ。我々に勝とうと思うのならば神竜、つまりランクSSが必要です」

 スライが気負う事なく語り、他の従魔も頷くように声をあげる。

「パルルルル【だな、兄貴】」

「ピルルルル【そうだ、そうだ】」

「プルルルル【俺達、最強】」

「シャアアアア【チゲェねぇ】」

「コーン【全くだ】」


 門番やギルド職員は勿論、そこにいる全ての冒険者が彼等の強い絆を見る。そして驚く。

『毒竜の森』が隣にある街だから、街の者ならば毒竜ヒュドラーの事を良く知っている。

 テイムされたからと言って、ヒュドラーが人に従う事など見た事も無いからだ。というか、そもそもテイムされることすら皆無と言っていい位の暴竜であり、レトパトとは違う意味でテイマー泣かせの魔物なのだ。

 ヒューダと呼ばれた、そこにいるヒュドラーは、9つ首という若く強い個体の筈なのに信じられない程大人しく、他の従魔もだが、ロックと楽しげに会話しているように見える。


「じゃ、頼んだよ、ヒューダ」

「ジャア、シャアアアア【任せろ。森は庭だ】」


 夜間の森はかなり暗く、闇の中と言っても過言ではない。普通よりは夜目がきくロックではあるが、やはり灯りの魔法 ~ ライトに頼らざるを得なかった。

 五感の優れるドランと探知魔法を持つスライは闇も関係は無い。その意味ではジンライが厳しいのだが、気配を察知する事で回りを感じている。ヒューダも目よりは温感で獲物を感じるので闇はあまり苦にならない。

 だが気配も温感も、生者の探知ならば兎も角、亡者 ~ アンデッドの探知となると意味は無いのだ。


「シャアアアア【祠はこっちだ】」

「パルルルル【マスター、誰かいる】」

「シャアアアア【生きてる。人間だ】」

「ロック様!」


 ドランが感じ、ヒューダも温感に引っ掛かったのでロックに伝える。

 その様子と、自分の探査呪文サーチでスライも感じる。例の『結界の祠』の前に佇む者がいる。


「来たね。ロック君だよね? 会いたかったよ。アリアスを継ぐ者。最後の弟子たる君にね」

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