テイマーが大人気
第18話 テイマーズギルド
「ロックさんにお願いがあるのです。ぜひテイマーズギルドに入って下さい!」
テイマーの先輩、リーリエが頭を下げる。
「えと、それは全然構わないのですけど、何処にあるんですか?」
街へ来て数ヶ月。まだまだ知らない場所、区画、設備や施設がある。
「案内します」
リーリエに連れられて来たのは西の街外れ。
建物の奥に広場や泉、森擬き。そこに数頭の魔物がいる。ドクターらしき者もいて魔物の状態を診ている?
「へえ。確かに西側にはあまり来なかったです。此処がテイマーズギルド?」
中に入ると数人、犬型魔物ワンガンコの事で話し合っている。奥のカウンターにいるのは受付? 獣人の少女が1人。そしてマスターと思われる男性? あれ?
「ね、リーリエさん?」
「言いたい事わかります。あの変態がギルドマスターのカインさん。カイン=アンダーソン元伯爵です」
うっすら髭が青くなっている男性。髪は白く長く、ポニーテールになっているのだが、結び目に真っ赤な、大きなリボンがある。唇も鮮やかな赤なのが、余計に髭の青さを引き立てている。しかもピンクのドレスを着ている筋骨逞しいオッサン。
伯爵家当主の座を捨てテイマーズギルドを設立した者なのだが、当主の座を捨てたというか、捨てさせられたのは誰がどう見ても、あの個性的な姿なのだろう。
「あ~らリーリエちゃん? 変態は酷いじゃない? あら? あらあら? まぁ、その子は、もしかして、ひょっとして?」
リーリエの後ろで、驚いて声も出ない緑の髪の少年と銀髪の獣人美少女。
ギルド内で雑談していた者達も気付く。
「え? あの子は?」
「マスター、新規加入者です。アゥゴーに数ヶ月前に来たテイマーのロック君」
やっぱり!
うわあ!! 回りの喧騒が大きくなる。
街で噂の凄腕のテイマー。今回のミルザー法王国の戦争で大活躍し、ライカー王国の勝利を決定的にした冒険者。
「ほ、本当に?このテイマーズギルドに入ってくれるの?」
「僕、テイマーです。何か色々言われてますけど、冒険者ギルドでも『Bランクのテイマー』で登録されています」
戦争で見せた剣技。『輝竜』と呼ばれる魔法剣士。
勿論6頭の従魔の存在があるのでテイマーを疑われる事は無いのだが、そもそも戦士以上の剣技を持つテイマー等規格外にも程がある。
「わかったわ。歓迎します、ロックさん」
こうして手続きが完了し、無事テイマーズギルドの一員になったロックだった。
「良かったわ。元々貴方は名誉会員として勝手にギルドの一員にしていたのだけど」
「名誉会員?」
「リーリエちゃんに聞いたのよ、ビッグスライムを従魔契約出来ない理由。世界中のテイマーズギルドに発信する為に、貴方をうちのギルドメンバーにする必要があってね。その番号がそのまま会員番号になっているわ。これで辻褄は合う」
樮笑むカイン。ロックもちょっと呆れた感じで、でも頷いている。
「これからは、こっちにも顔を出してね。従魔の事で色々相談にのれるかもしれないし、そうそう、エサ代もウチを通せば安くなるから。トライギドラスのエサとか、どうしているの?」
「森の奥とかで何かしら食べてると思いますよ。毎日エサやってるのってコングとレツかな」
「そうそう、そのレトパト! どうやって従魔にしたの? ウチ、手紙の配送もしてるけど、レトパト捕まえられなくてキノチュンを使っているの」
キノチュン。やはり人里にも出没する茶色く小さな鳥型魔物。臆病で戦闘力がないのはレトパトと同じだが、総じて人に馴れやすい性質を持っている。その為配送にも使い易いが、レトパト程拠点を覚えられないし、飛行距離も短い。
「あぁ、うーん、ちょっと反則技です」
「は?」
「彼奴ドランに驚いて気絶したんです。落ちて来たので介抱ついでにテイムしたので」
「何それ、ズルい!」
「後、『絆通信』も聞きたい。俺もレトパト持ってるけど、その、『絆通信』なんて俺達には出来ない。何でだ?」
別のテイマーも突っ込んでくる。
「『絆通信』はレトパトのスキルですけど、これ、テイマーの魔力をメチャクチャ使います。多分、魔力不足…」
「は? 俺の魔力は普通だと思うけど? 『ステイタス』、えーと、うん、3,358 だから」
まだ少年…18くらい? だとすれば平均値より低いか?
「冒険者の人間の成人なら4 ~ 5,000 だろ? ちょい不足だぜ、マイケル」
他のテイマーからヤジが飛ぶ。
「えーと、『絆通信』は魔力3,000使います。だからリミッターかかってると思います」
からかっていた他のテイマーも目を丸くする。
「なる程。魔力枯渇に近い状態になるので身体が拒否するっていうアレか」
「じゃあ、俺達の絆云々じゃなくて?」
「レトパトはテイムされた絆が全てです。絆結べないと、そもそもテイムされない」
ホッとする少年テイマー。
「サンキュー! 良かった。俺さ、レトパトとの絆、自信なくなってきてたから。あ、俺の名前マイケル。よろしくな」
テイムに使う魔力は10程度。スキルを使わせるのも、ランクにもよるが100 ~ 200 の世界だ。D以下位の従魔ならば3,000もあれば、そう不都合はない。
例えAランクだとしても、7 ~ 800 の話なのだ。
冒険者になろうと思う人間ならば、ほぼ持ち合わせている魔力量。テイマーが安易で人気の無いクラスである理由の1つと言える。
戦士や魔法使い、シーフ程持って生まれた資質に左右されないのだから。
「でも、ロック君のお蔭で、テイマーが脚光を浴びた!どの街でも『なりたい』という問い合わせが増えたって聞いてるわ!」
グググってせまるピンクのドレスのオッサン!
流石にロックも後退ってしまう。
同情の目で見るテイマー達。
「でも、どう考えても彼はテイマーとしては規格外です。憧れが諦めに変わった時の反動が怖いですね」
受付嬢の獣人少女がボソッと話す。
確かに、ロックをテイマーの基準に考えられると、とても大迷惑だ。
「そう言えば、貴女もテイマーなんですか?」
同じ獣人の少女に声をかけるリルフィン。自身は『レンジャー』なので、ここまで全く存在感がなかった。
「いえ、私は違います。シーフ上がりの元冒険者で、ある失敗で借金背負って、ギルドマスターに借金奴隷として買われたんです。なので、ここで受付・事務員やってます」
悲惨な事ではあるが、開き直って割り切っているのだろう。今の少女には悲壮感が全く無い。
「一緒ですね。私がなってた可能性があるのか…」
「そう? 貴女は強い運命があるのかもよ?」
「はい?」
「家族を失って奴隷落ち。オークに襲われたのに、助けに来た勇者様のお嫁さんになったんですもの。今時童話でも出てこないサクセスストーリーよ?」
ボン!
勇者様のお嫁さん。必殺のボイラー変身ワードだ!
真っ赤になるリルフィンに、回りのテイマー達もゲラゲラ笑う。
と、そこへ、
「おい! オッサン!! 今日こそウチの支部になるかどうか、ハッキリさせてもらうぜ!」
やってきた居丈高な男。
「隣街べリーボリスのテイマーズギルドの人。規模はあっちの方が大きいのよ」
リーリエが教えてくれた。
ライカー王国南の商業港街べリーボリス。
商業ギルドの本拠地でもあるこの街は、交易と商業で栄えている王国直轄領。つまり、ここの領主は国王陛下自身なのだ。陸路海路整備されているここは、魔物の襲撃はあまりなく、冒険者ギルドは商業ギルド内の1区画でしかない。とは言え商業ギルドが冒険者を軽んずる事は決して無く、両者の関係は上手くいっていると言える。
交易の拠点でもあるので、荷役用や配送用の従魔も多く、ここはテイマーズギルドとしても王国有数の規模を誇っていた。
アゥゴーのギルドマスター・カインとべリーボリスのテイマーズギルドマスター・アレックスとは仲が悪く、また、規模が小さい事もあり、アレックスによる支部化の話 ~ 合併吸収の企み ~ がきていたのだった。
「必要ありません! アゥゴーのテイマーズギルドは、自身の足で立てます!歩めます!!」
「お? リーリエ! お前も、そろそろこっちへ来い。お前なら直ぐにギルドの幹部にだってなれるんだぜ?」
居丈高な男、ピーターがリーリエを誘う。
成る程、リーリエが実力のあるテイマーなのは他の街でも評判なんだな。ロックは納得してしまった。
「結構です、ピーターさん。それにウチにも有望な新人が入りました。もう、ベリーボリスには負けませんから」
「ワッハハハ。そいつは良かったな? フン、察する処その後ろのガキか? よし! こうしよう! そのガキが俺に勝てれば、リーリエの話、納得しようじゃねぇか」
「それは、勿論…」
「あぁ、従魔の話だ。俺もガキとチャンバラやる気はネェよ! テイマーなら従魔で勝負が当たり前だ。さぁ、表に出な!!」
奥の広場。
ピーターは『モンスターハウス』からオークジェネラルとオーク3頭を呼び出す。
「4頭? そんな!?」
CとDランク。スキルを使わせるには1回で1,000位の魔力が必要となる。
テイマーが、大概1頭で戦う理由がここにある。
使える魔力が平均して3,000程。よくあるCランク魔物のスキルとして4 ~ 500。つまり6 ~ 7 回使える計算になる。複数だとこの倍。だから主力の1頭のスキルで、存分に攻撃した方が効率が良いのだ。
「俺達の使うスキルが2 ~ 3回だと思うなよ。さぁ、ガキ! 出してみな!!」
「成る程。つまり、貴方の従魔はオークジェネラルだけなんだ! リーダー使役でオーク3頭を使ってる」
図星!? 少し苦笑いするピーター。
「よく知ってたな、ガキの分際で」
回りのテイマーがざわめく。
「なんだ?それ?」
「『配下使役』。リーダータイプの従魔が持つ特別スキルです。あの3頭のオークは、オークジェネラルをテイムした時にセットで付いてきた、オプションみたいなモノだと思えばいいと言う事です。だから4頭使っても魔力が不足しないのですね」
リーリエが納得したように話す。
「そんな卑怯技!」
「はあ?」
小馬鹿にしたように笑うピーター。ロックも、
「『配下使役』はテイマーとして合理的なスキル。あれば僕も率先して使います。それじゃ、凄腕の先輩テイマーに敬意を表して、『モンスターハウス』みんな出て来て!」
空間が開き、現れる6頭。
「なあぁ?」
レトパトやポイズンスライム、フレイムコングの時は、数に驚いたものの、まだ余裕をピーターは見せていた。
「げえぇっ!」
ナイツスライム、アイスフォックス、トライギドラスが出て来て、流石に真っ青になったのである。
「僕が勝てたら、アゥゴーのテイマーズギルドから手を引く。そういう事でしたよね」
「まさか、お前、そんな」
「ピーターさん。このアゥゴーの新人テイマーのロック君です」
「ど、何処が新人だ! そいつは…」
「今日、テイマーズギルドに新規加入したのです。この街の冒険者ですもの。何か不都合がありますか?」
丁寧に、凛とした顔で話すリーリエ。まるでお姫様みたいだ。
「パルルルル【お肉!】」
「ピルルルル【旨そう】」
「プルルルル【喰っていい?】」
「流石にそれはやめて」
オーク達は震えあがっている。
「わかった! 俺の敗けだ、リーリエ!!」
「はい。降伏を認めます。ロック君、引いてください」
モンスターハウス。空間を開き従魔を格納する2人。
「ちっ!ギルドマスターには、ちゃんと言っとく。じゃあな」
ピーターは去って行く。
「ありがとうございました。ロック君のお蔭で、アゥゴーのテイマーズギルドが存続出来ました」
「リーリエさんって、お姫様みたいなんですね」
ボン!
瞬間ボイラー2号! 色白なだけに余計に真っ赤ちゃんが目立つ。紅眼に多少違和感があるが。
「リーリエちゃんは、ザリナス上級騎士家のお嬢様よ」
カインが真っ赤ちゃんを笑いながら言う。
「上級騎士? 貴族なんですね」
「ザリナス家はアルナーグ辺境伯の陪臣です。私は3女なので、もう好きになさい状態なのです」
ちょっぴり頬を赤く染めてロックに話すリーリエ。
「いいの? 旦那がお嬢様を口説いてるわよ?」
面白がっている様に見える 受付嬢。でもリルフィンもニッコリすると、
「ロックは、素直に感情を出すの。羨ましいくらいに」
「ふーん、旦那の事は全部ご承知? 結構最強の嫁なんだ!」
ボン! プッシュ~!
湯気も立ち上る瞬間ボイラー娘。笑いながら、でも生暖かい目で見てしまう受付嬢。
そこへ、リーリエと共に来るロック。
「じゃ、リルフィン、帰ろ」
「それじゃ。本当にありがとう、ロック君」
確かにテイマー希望の若者は増えた。
従魔法術は、それほど難しい魔法ではない。魔法使いの様に理論的でもないし、錬金術の様に理論と天性の才を求められる訳でもない。
だが、それでも高い壁が1つあるのだ。
『テイム』の条件そのものである。
相手を倒し、自分の方が勝っている事を魔物に納得させなければならない。その上で絆を結ぶのが『テイム』という魔法なのだから。
つまり、最初の1頭は、自力成約という危険が伴う。強い従魔を求める冒険者は、ここで現実を知る。
普通はスライムから始まるのだ。
これを第1歩ととるか、諦めととるか。この時点でテイマーとしての素養が決まると言っていい。
アゥゴーの英雄とも言える凄腕テイマー・ロック。
その従魔、トライギドラスが余りにもインパクトが強い為、英雄希望の新米冒険者はAやBランクの魔物を得ようとしてしまう。
10歳の子供が出来たのだから…。
物心ついた時から『黒き大賢者』という神竜の如き天才に育てられた。装備も師のお蔭で竜種と互角に戦えるモノになっている。
何故、10歳の子供が出来たのか? 理由はちゃんとあるのだ。都合良く失念する愚か者の何と多い事か!
無謀な若者が増え、その為に死亡者や親達の馬鹿な子供等探索依頼が増えた。
冒険者ギルドやテイマーズギルドは、最初の従魔にスライムを推奨する。ロックでさえ、最初の従魔はスライと言う名のスライムなのだから。そして、そのスライムは、今Bランクのナイツスライムにまで育てられていた。だからギルドは、従魔の育成を呼び掛ける。
テイマーとは強い従魔を捕まえるのではない! 従魔を強く育てあげる者だ!!
無謀な挑戦は確かに若者の特権なのだが、性急過ぎるのは如何なものか?
アゥゴーは無謀な新米冒険者ラッシュで、別の意味で活気付いていた。
「それ、僕のせい?」
「いや、まぁ、そうは言わないがな」
冒険者ギルドに併設された酒場で、ミルクを飲んでいたロックに、つい恨み言を言ってしまったギルド幹部のリック。
1時期、新規登録数日後死亡という笑えない状況が続き、名簿作成にブチ切れそうな日々を送っていたのだ。新米共の自己責任なのだが、そのフィーバー振りに振り回される身にもなってくれ!
八つ当たりとわかってはいるのだが、大元の子供が可愛い嫁とのんびりと飲んでいる。
「本当にご苦労様です」
リルフィンの、美少女の癒しの微笑みは、本当にリックを癒してはくれた。
「ところでお前達、今日は何しに?」
「ギルドマスター・ルミナさんの呼び出し受けました。今、待ってるんです」
「そうなのか?」
受付嬢リリアに訊ねると、
「はい。直ぐに会う筈が、予定外の来客があって…」
「予定外?」
「ベリーボリス、テイマーズギルドマスターのアレックスさんです」
「何しに来たんだ?」
「9分9厘決まっていた吸収合併をウチのギルド員が妨害したって」
「ウチのって…。ロック、確かにテイマーズギルドに加入したんだろ?」
「はい。加入してからピーターさんとの勝負になったんです」
「だよな。9分9厘決まっていたって言っても、勝負は勝負だろ?こっちが文句言われる筋合いは無いぞ」
それはそれとして、何故ギルドマスターから呼び出されたのか、嫌な予感しかしないロック達だった。
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