第12話 従魔の進化
翌朝、ロックとリルフィンは、捕らえたミルザー法王国の男女を連れて警備隊詰所を訪れた。
「流石だよ。感謝する、ロック君」
そのままギルドを訪れる。基本的に、コミリア等他のパーティーメンバーとはギルドで合流する事になっていた。
「あら? ロック君、リルフィンちゃん。コミリア達はまだ来てないわよ? 少し早くない?」
「あ、警備隊詰所に、行ってきたから」
2人並んで答える子供達に、
「何かあった? 今聞捨てならない事を言ったと思うよ?」
受付の奥、事務所にいた幹部、ロック達の試験官もやっていたリックが聞きつけ、不思議そうな顔でやって来た。
「昨晩『法王国』の人が来た。ジッチャンのノートや書籍を求めてだったけど。その人達を捕まえて、今朝詰所へ連れて行った」
「成る程。やはり、まだ取りに来ようとした訳だ。我々の所に全て移した後で良かったよ。だが、必要とした事は…」
コクリ。
「まだ改良型や新しい獣魔兵器を造る気。世界の全てに教えを拡げるって言ってた」
「ダイザイン王国だけがターゲットでは無い、という事か。となると、この戦乱続くのか?」
難しい顔をするリック。こうなると子供達には小難しい話になってしまう。前世では18歳のロックは、本来政治的な話もかなり理解出来るのだが、普通の11歳位の子供では厳しい。実際リルフィンにはちんぷんかんぷんの処もあるのだ。既にチートな存在なのに、これ以上輪をかける必要無いよね? ロックは思惑、思慮分別を年相応な態度にする事に決めていた。実際、腹芸が苦手で分かりやすい反応をしているので、強ち演技という訳でもないのだが。
そのお陰か、大人達、ギルド職員にしても貴族達にしても、ロックの事を戦闘力には一目置いても危険視していない。
「あぁ、ごめん。しかし、フム。考えてしまうんだ、色々。こうなると戦争の依頼が王国からくる可能性が出てくる。魔物相手と人間相手では違うし、また盗賊退治とも違う。殺し合いに納得できるか? っていうのもあってね。ギルドとしては王命だとしても冒険者に強制はしていない。でもね、君には指名依頼がくるかもしれない。勿論強制はない。ペナルティもね。だけど…」
「国の依頼を断る、変なレッテル張られる?」
「あぁ、こういう風評って厄介でね」
子供に諭す様に話すリック。聞いたロックも感心して頷いている。リルフィンも困った表情だ。
「まぁ、どっちにしても、そういう事態になってからの話だけどね」
最後は笑い飛ばしたリックだったが、周りの冒険者にとっても、子供への例え話とは伝わらなかった。
現状では、誰でも想像できる未来だったからだ。
そこにコミリア達が来た。
「あれ? 早いのね、どうした? ロック」
リックにした話をコミリア達に話す。
「はぁ~、アンタ『法敵』になってんじゃん? 大丈夫?」
「今程度なら」
ロック自身ランクBの冒険者である。しかも戦闘力だけならA相当。倒すのも一苦労する上に従魔もA+のトライギドラスを筆頭に低くてもEが揃っている。嫁のリルフィンもランクCの獣人。しかも魔狼族という、子供といっても筋力・魔力・敏捷性に優れるハンパないスペックを持っている。
「あれ? 私達の方が危なくない?」
このパーティーで1番弱いランクDなのがコミリアとマッキーなのだ。
「『法敵』は個人にしかつかないわ。人間である貴女達に法王国が、直ぐに害そうと襲ってくるとは思えない。まだエルフ=亜人の私の方が可能性あるけど、そこまで大きくはない。むしろ…」
「パートナーで獣人の私、ですね」
リルフィンが自らを指差す。
「でも、貴女はロックと何時も一緒なんでしょう? 」
「あ、その、はい」
ボン! 必殺の瞬間ボイラー発現。
ニヤリ!
「これは? もしかしてお風呂や寝る時も一緒?」
ここぞとばかりに突っ込むコミリア。益々赤くなっていくリルフィン。見ればロックも赤く染まりだした。
「ラブラブです事。幸せそうで何よりね」
ニヤニヤ処では無い、黒笑みを浮かべるコミリア。マッキーもソニアも引いている事に気付いていない。いや、2人だけではなく、そこにいる者が結構引いている?
「ないわ~」「弟って不憫」
ギルド内の空気が、あっという間に変わったのである。
…読めない者が、約1名。
リックも変わった空気にため息をつきつつ、
「いいから。依頼見つけに来たのではないのか?」
少し強引に空気を戻した。
「そうね。何か面白そうなのある?」
「…昨日と変わりませんよ。この薬草採取でもします?」
「それFランクの依頼じゃない」
憮然とするコミリア。
「コミリア? 各自の行動日にしない? 少し調べたい事もあるし」
マッキーが言い、ソニアも同意する。
「そう? わかった! じゃロック、リルフィンも。また明日ね」
コクリ。黙って頷くロックとホッとした表情のリルフィン。2人は直ぐギルドを出ていった。
「じゃ、私も」
マッキーも出て行く。ソニアは奥で、ギルドの薬師で薬草採取の依頼主のミルパと談笑中だ。
「あらら? 私何しよっか?」
「コミリア、もしやる事無いのなら、コイツらの面倒見てやってくれないか?」
リックが声をかける。その後ろにいるのは、コミリア達と同じく若手の少女パーティーと言われる『紅い牙』の4人。Eランクの駆け出しながら、着実に実力をつけつつある若手。
コミリア達も若いが、それでも18歳と成人年齢の16歳を超えている訳で。ソニアに至っては136歳だ。最もエルフとしては、かなりの若手ではあるのだが。
普通、村を出られるのが100歳。成人年齢が86歳。どちらもクリアしているものの、冒険者となっているエルフは、ほとんど200歳超えが一般的と言える。
その意味では『紅い牙』の4人の平均は15歳であり、3人が未成年だった。
「リックさん? この娘達って、確か『紅い牙』? 貴女達Eランクよね? 面倒って、この娘達結構堅実な依頼受注するし、問題起こした事なんてないでしょう? どうして? 私、Dだから、そこまで指導出来る立場じゃないわよ?」
「コイツら、もうすぐランクアップ依頼を受けられる所にいるんだ。わかるだろ。ここが初の試練って事」
ギルドに登録すればGランクからのスタートだ。確かにロック達のように特例もあるが、あのような事は滅多に無い。Gで依頼を10こなせばFにランクアップする。次に30こなせばEに上がる。
そして、ある程度依頼をこなし、ギルドから承認されればDへのランクアップ依頼が受けられるようになる。『依頼』とは名ばかりのほとんど試験と言っていい。試験官が同行し、依頼達成は勿論、パーティー内の連係や相手との意思疎通等の行動其の物、意識を問われる事になる。
コミリアも、何だかんだでその試練を乗り越えてきているのだ。
「うーん。ソニアがいてくれた方がいいのだけど。あ、ソニア? ちょっといい?」
薬師との話が終わったのか? ソニアがこちらに向かって来ていた。
話を聞いたソニアは、2つ返事で了承した。
「じゃあ、よろしくお願いします!」
「ええ。見させてもらうわね」
コミリアとソニア、そして『紅い牙』のパーティーは、受けたランクEの依頼の為に、またまた『飛竜の谷』へ向かう事になった。
一方、ロックとリルフィンは、3つ首竜の森の奥、リーオー王国との国境近い白銀山脈の麓へ来ていた。
実は、ビッグスライムのスライが、進化の兆しを見せていたのだ。
普通のスライムからビッグスライムに進化している為、スライに進化の兆しが見えた時、流石のロックもびっくりしたのである。
「2度目の進化? え? そうやって、どんどん上位種に進化していくの?」
「ピキ、ピキー!」
魔力を吸収する形で蓄えていくスライ。この、魔力の蓄積こそが進化の前兆だった。スライもリントもライムも、上位種になる前に魔力を蓄積する行為が見られたのである。
ちなみに、今ここには、そのスライム種しかいない。ドランとレツは、大空を競争がてら好きに飛び回っているし、気温が低く、でも湿気の多いこの場所ではコングは活動し辛い為『モンスターハウス』から出てこない。
ここは、氷タイプの魔物が多い場所。
スライム種には少し辛い場所とタイプの敵なのだが、『捕食』持ちのドランとスライに、氷タイプの魔法或いはスキルが手に入ればラッキー。その思いもあるのと、氷タイプをテイム出来れば、戦闘のバリエーションが拡がる。
狙い目はDランクのペギラント。水・氷タイプのスキルを持つ子供大のペンギン種。もしくはEランク、氷タイプのアイワンコ。犬型魔物ワンガンコの氷亜種。
この2種がよく出没している場所で、相手がDやEという思い込み? 油断があったとは思いたくなかった。
出現したのが、何故かアンデットのCランク、リビングアーマーだったからだ。
「ピッキ? ビッギーィィ!!」
「な? しまった! ライム?」
いくら動きが緩慢なアンデットと言っても、不意を突かれてしまっては避けられない場合もある! 今回、ヒールスライムのライムがリビングアーマーの剣戟を食らう。
「ライム、自分を治療してて! はぁあ!」
ロックも剣を抜くが、動く鎧たるリビングアーマーに剣戟は効果的ではない。
「なら、光属性『ホーリーライト』」
聖光の魔法が輝く。Lv1とは言えアンデットには致命的な魔法攻撃。叫んだ気がした。リビングアーマーは動きを止め、崩れ落ちる。
「ライムは? あれ?ライム」
ヒールスライムの動きは止まっていた。
「ライム! 『ヒール』だ!ライム?」
目の光が消えそうだ。死にかけている?
「しまった! まさか魔核が?」
魔核。ランクによって大きさも変わるそれは魔物の心臓部と言っていい。これさえ無事ならば、魔物は再生する。その為魔物の討伐証明にも使われる。魔物が死んでも、魔核だけは消滅しない。特にアンデットの場合は討伐の後、魔核抜き取りの作業は必須だ。
流動的な身体とは言え、スライムにも当然魔核はある。両目の間、身体の中心に小さく存在する。不幸にもライムのそれに、リビングアーマーの凶刃が当たったのだろう。
「ピピッキ、ピッキー」
「ピキ、ピキー!」
スライム同士で何か会話があったのだろう。今にも命が尽きそうなライムの上に、ビッグスライムが覆い被さる。
「え? スライ?」
そのまま横に崩れていた騎士の鎧、リビングアーマーの成れの果てにも覆い被さっていく。
魔力の爆発? そう言って良い位スライの魔力が膨れ上がっていく。しかし、身体は何故か小さくなっていきビッグスライムと通常のスライムとの中間位の大きさになる。
その分ゼリー状の塊が頭頂に出来る。やがて、それはまるで人の上半身の形になっていく。
「スライ? 君はまさか?」
その形に、なりつつあるスライを見ると緑の通常色から、少し鈍く輝く、まさに流動金属のような被膜が身体中を覆っていく。そう、まるで鎧だ。上半身の人形に装着される形で鎧の被膜が出来上がっていく。
「ピキ! ピキー!」
「やっと、ここまで来ました。ロック様、私はここまで強くなれた」
下の本体? スライムの口からは今まで通りの鳴き声。だが、上の人形…、確かに鎧に覆われ、目や口が見えている訳ではない。でも、間違えなくしゃべった!
「スライ?」
「ええ。私はスライ。『ナイツスライム』のスライ」
ナイツスライム。Bランクのスライム種。いや『捕食』持ちなのでB+か? 人間大に近く、剣や槍、すなわち武器を使えるスライム。だが喋るのは?
「ナイツに進化すると、意思の疎通が出来るようになります。これ迄以上に、お役に立てるかと」
「あは! 凄いや!! これからもよろしくね、スライ。これが最終進化系?」
「いえ。まだ上がいます。『ハイナイツ』が。これからも精進します。そしてロック様、貴方の口癖通りに…」
「あぁ。僕達はもっともっと強くなる!」
それを見て降りてくる2頭。
「パルルルル【アニキ!】」
「ピルルルル【強いぜ!】」
「プルルルル【ヤリィ!】」
「チッチッチッ」
と、そこへ
「この気配は? あれは?」
現れる白銀の狐。しかも2本の、金色な角と白く大きな尻尾を持っている。身体も大きく騎乗出来る位だ。
「雷獣アイスフォックス? しまった! 近い! これじゃ?」
氷と雷・電撃属性を持つAランクの魔物。角の輝きが強いので、臨戦態勢に入っている?
「パルルルル【させねぇ!】」
「ピルルルル【任せろ!】」
「プルルルル【俺、盾!】」
間に割って入るドラン。電光ブレスを持ち、感電状態無効があるので、放電攻撃には対抗出来る。だが、竜種は氷属性の攻撃にやや弱い。
「くっ? よくよく運が無いな。何だってコイツと出会う?」
「コーン!【コイツ? 人間風情が我をコイツ呼ばわりか?】」
「意志が通じる? 済まない! では改めて、何故貴方がここに?」
「コーン、コーン!【ほう、我の意思を読み取れるか。成る程、『魔物使い』か? 中々の使い手のようだ】」
会話が成り立ったからか? アイスフォックスの角の輝きが収まっていく。
「コーン、コーン!【そこな竜は、何故人間風情に味方する? そなた程の力があれば、非力な人間なぞ一捻りであろ?】」
「パルルルル【俺、マスターの魔力で生まれた】」
「ピルルルル【マスター、俺を救った!】」
「プルルルル【マスター、俺と絆結んだ!】」
ドランは、まだ間に入り臨戦態勢のままだ。
互角、というよりは、やや優勢?力も上回っていると思うが、飛べる分のアドバンテージが地味に効いている。でも楽勝は無い。むしろかなり苦戦しそうだ。
「コーン!コ、コ、コーン!【面白い!つまり竜玉から誕生させる程の魔力を持つ者ということか? ほう、成る程。確かに人間とは思えない魔力。面白い!】」
どうやらアイスフォックスは、ロックに興味を持ったようだ。
「ロック様はいつも言っています。『僕達は強くなる!』と。マスターなのに、何時でも我々と同等の、同じ立位置で考え事を成す。だからです! ここにいる全てが従魔であって同士。仲間とさえ言ってくれる。我々はロック様に使役されるのではない! 共に戦い共に歩む。共に強くなる。だから共にいるのです! この1年、私はロック様の最初の従魔として共に生きてきました」
スライの声が辺りに響く。少し照れるロックと感動のあまり泣いているリルフィン。
従魔達も、全員が強く頷く。
「コーン!コーン、コ、コ、コーン!!【スライムと1年? ますます面白い! ならば、我も共に生きてみようか? さあ、我も絆を結ばん】」
近付き、頭をよせるアイスフォックス。
「貴方の名は『ジンライ』今後ともよろしく」
バチン!
絆が結ばれし証の音。2つの尻尾が振られているのは喜んでいる?
こうして、ロックは想像以上の従魔の充実が図れたのだった。
「不在のようです。今のうちにあの家の焼き討ちを行いましょう。『法敵』に罰を与えねば」
「ならん。出直すぞ」
「何故です? 我々は…」
「特務、つまり正規軍だ。盗賊でも傭兵でもないぞ。侯爵閣下も、わざわざ念押しをした筈だ。王太子殿下の意向もある。『法敵』への天罰は、天下に示す形で彼のみに与えるのだ!」
タリム村の入り口。
冒険者風の人間のみのパーティー。血気に逸る男と嗜める女。特務隊長を勤めるファーガスン侯爵の副官アルテナ=サウズ。サウズ伯爵令嬢でありながら特務の副官として実働部隊を纏め上げている。
「もうすぐ世界は変わる。より良く美しく。ロック。それを教えてやろう、『法敵』よ」
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