第8話 姉弟子 コミリア
「で、ロック? 何でアンタがギルドにいるの?」
頭をグリグリしながらコミリアが聞く。
周りも目がテン。
訓練所でのロックの実力を目の当たりにしているのだ。「何も知らないあの冒険者、後でボコボコにされるぞ?」と、普通なら思ってしまう。
だが、そう思えないのは、どう見ても姉弟にしか見えないからだった。
「もう、コミリア? 何してるの? 入口に止まって? あら? ロック?」
同じパーティー、同じ村の魔法使いマッキー。若手の有望な魔法使い。
「マッキーさん、お久しぶり」
グリグリ!
「何で私には『げ?』で、向こうにはさん付け?」
「何、2人して止まってるの?」
パーティーの3人目。レンジャーで珍しい精霊魔法の使い手、エルフの女性ソニア・レ=カル。
「あら? この子は?」
「私達の同郷の子。コミリアの弟弟子」
急にギルド内が華やいだ感じになるのは、やはり美少女パーティーと呼ばれる『竜の息吹』ならでは。
金髪碧眼でスタイルも良い、たおやかな雰囲気のマッキー。
輝く銀髪、スレンダーながら森の妖精と呼ばれるに相応しい美形エルフのソニア。
ショートカットの黒髪が似合う、力強い戦士なのに筋骨逞しい感じではなく、スタイル抜群と言えるコミリア。
人気の点ではアゥゴー・ギルド 1 の若手パーティー、それが『竜の息吹』。実力はD+である。コミリアとマッキーがDランク、ソニアがCランク。
男共の勧誘も多いが、ソニアの精霊魔法で直ぐ眠らされるので、中々手強い存在になっている。
また、コミリアの苛烈でガサツな性格も良く知られていて、それが勧誘に待ったをかけていた。
「ギルドに冒険者登録。ギルドマスターが、もう、出来る、言ってた」
「そうなの?」
ギルドの中に入った処で、コミリアは受付に確認する。
「オーク討伐依頼、女性救出依頼での活躍を考慮し、ギルドマスターの判断で先行登録する形になりました。ロック君とリルフィンさんでC+パーティーです。
「は? 私達より1ランク上なの?」
「はい。ロック君がB、リルフィンさんがCランクですから」
「は? アンタBランクなの? そんな強かった?」
再び頭グリグリ。
「前からコミ姉ェより強い。ジッチャン、僕を『出来の良い弟子』って」
「あ、あたしだって!」
「ジッチャン、コミ姉ェの良いとこ乳だけって…」
「あのセクハラジジイ! まだ言ってたか?」
ハーフプレートを身に着けている為、今揺れる事は無い。だが、買い物とかの私服姿ではボリュームのある双丘が見てとれるし、そもそもハーフプレート姿であってもスタイル抜群なのは、誰もが認める処だった。
「そう言えばリルフィンって?」
「あ、あの、私です」
ちょっと離れた所にいる銀髪の獣人美少女。
確か彼女もCランクと。自分より強い? こんな幼い少女が?
「貴女が、この子のパートナー?」
「は、はい。その、お…、お嫁さん…です」
ボン!
自分で言ってて真っ赤になる瞬間ボイラー。
コミリアがロックを見ると、
「奴隷商人助けた時に、お礼で、お嫁さんもらった」
少し赤くなるロックと、爆発寸前のボイラー少女。
「何よ、それ? 」
「あら、おめでとう」
「あ~あ、弟弟子に先越されちゃった」
憮然となるコミリアに、祝福するソニアとマッキー。
いや、3人とも恋人というか彼氏はいないのだが、それでも2人はコミリアより遥かに声をかけられ、食事とかも誘われていた。
「何? 何で? 私の何が悪いの?」
「口と性格」 ボソッ
「何だとー!!」
またまた頭グリグリ!
「コミ姉ェ、痛い、酷い!」
実際は女神ルーシアンの小細工と過去操作である。
コミリアがコルニクスの弟子なのは事実なのだが、ロックの存在は後付けなのだから。
そんな風に全く見えないのは、文字通り神の仕業だ。
頭グリグリされつつ、これが嬉しい事なのか、はた迷惑な事なのか? そうは言っても拒否するような不快感を感じないロックだった。
「コミリア? ところで依頼達成手続きは? 終わったの?」
「あら? 忘れてたわ」
「済ませて報酬貰うわよ? 貴女は買い物も有るのでしょ? オーダーするとなると、大分かかるのだから」
カウンターへ行き、手続きを済ますコミリア。
「買い物? オーダーって?」
「このハーフプレート。かなり傷んできてるし、此処に少しヒビもあってね。買い換え時なんだ。まぁ、大分貯めてるし、今回の報酬で何とかなると思ってね」
その時、ロックの脳裏に浮かぶビジョン。
コルニクスからの願いが、女神のメッセージとしてロックに届く。
「コミ姉ェ。鎧、ある」
「は? 何? どういう事なの? ロック」
「1つ、ジッチャンから預かってる。『卒業祝い渡して無い』言ってた」
「卒業って…。私、もう1人前って…、勝手に飛び出したのに?」
「そう言ったの、凄い喜んでた。明日、持って来る」
呆然とするコミリアに応えるロック。他の2人も、
「『黒き大賢者』作の鎧? 良かったじゃない、コミリア」
我が事の様に喜ぶ。
「じゃ、また明日」
ロックとリルフィンの2人は森に帰って行く。
依頼達成打ち上げで、ギルド併設の酒場で食事をとる『竜の息吹』の3人。そこへ、仕事が終わったのか? 試験官を勤めたリックが通りかかる。
「お? コミリア。お前さんの弟弟子凄いな」
「あら? リックさん? え? じゃあロックの試験官はリックさんが?」
「あぁ。剣技では叩きのめされてしまったがな」
「リックさんって…、Bランクでしたよね?」
「元、だけどね。全く相手にならなかったよ」
自嘲気味に話すリック。ロックを良く知るコミリアとマッキーも唖然とした表情になる。
「あの子、そんなに強かったっけ?」
呟くマッキーに、コミリアは共に師の元で訓練した日々を思い出していた。
「強かった…わよ、ロック。太刀筋も惚れ惚れする位だったし。でも、何かさ、剣を振るう彼奴よりスライムなんかに囲まれて、楽しそうにしている姿の方が多かったし。だから、戦士って柄じゃ無いと思うんだけどね」
「あぁ。本人は『テイマー』と言ってたぞ、ギルドもそれで登録している」
「は?『 テイマー』って、まさか『スライ』?彼奴の従魔ってスライムの…」
「確かにそいつもいたが、主戦力は『ドラン』というトライギドラスだ」
「何時の間に? まさか、守護竜をテイムしてるの?」
「らしいな」
呆然とする同郷の2人。
「『男子3日会わずば刮目して見よ』だったかしら? 会わない間に、弟は随分成長したようですね」
ソニアの、単純に少年の実力を認める発言。リックも頷く。
「で、私としては其れ程の実力者、パーティーに誘いたいです。姉としてはどうです? 認められませんか?」
2人が加入すればパーティーランクが1つ上がる。
BとC2人、D2人となるので、D+がCになる。1つ上のランクまでが依頼受注可能と規定されているので、Bランクの依頼をこなせるようになるのだ。この差は大きい。
Bランクの依頼となると、国家レベルの物もある。報酬が桁違いなのだ。
ソニアが苗字持ち、つまりは貴族階級に類する者なので、その辺りの対応も出来る。確かに下級騎士爵位ではあるのだが。
「コミリア、私もソニアに賛成。ヘタな男子入れるより、あの子なら私達もよく知ってる。お嫁さんも即戦力だし、願ったり叶ったりだと思うんだ」
「フム。ギルドも賛同出来ると思うぞ。コミリア、本当に誘ってみればどうだ? おっと、こんな時間か? 結果はまた今度でも教えてくれ。それじゃな」
そう言ってリックは去って行った。
「そうね。聞くだけは聞いてみようか? でも彼奴、私を苦手にしてたからなぁ。断られたらゴメンね」
「頭グリグリされるしね。苦手にもなるか? も少し優しい姉になるべきね」
クスクス。マッキーの微笑みに憮然とするコミリアだった。
翌日。
再びギルドにやって来るロックとリルフィン。
今日は剣と共にザックも背負っている。使い込まれた品に見えて魔法の袋という便利アイテムである。
魔力によって内容量が決まる代物。つまり、ロックだと無尽蔵と言えた。何せ普通の6~8倍の魔力なのだから。
「ロック。こっちこっち!」
酒場の方から声。見ると『竜の息吹』の3人。
そちらへ行くと、ザックからハーフプレートの鎧を出す。
「それ、師匠のザック?」
「僕用に、作ってもらった。鎧、これ」
ザックから出した事を見て、周りがざわめいている。
「あれ、魔法の袋か?」
鎧を受け取るコミリア。
「軽い! これ、材質はミスリル?」
「ここ、胸の水晶に魔力を込めて。コミ姉ェを登録する。サイズ変わる。ジッチャン、『どんな乳でも大丈夫じゃ』言ってた」
「あのセクハラジジイ! 何言ってやがる!」
怒りながらも魔力を込める。
パリン。
水晶が割れて消える。
「登録完了。着てみて。ジャストフィットする筈」
トイレに消えるコミリア。
やがて帰ってきた時、サイズO.K.の鈍く輝くハーフプレートを身に着けていた。
「うん、軽い! しかも動き易い。流石師匠!」
「魔法防御ある。『シャドウボディ』の魔法かかってるから当たりにくい。サイズ増えても大丈夫」
「何だとー! 太らないわよ!」
「ジッチャン、『乳、もっとでかくなっても大丈夫じゃ』言ってた。ジッチャン、コミ姉ェの乳、とても大事」
「ビミョーに腹立つわ、マジで」
最高の鎧を手に入れた喜びと、それをぶち壊す師匠の言葉と。それを伝える弟弟子と周りで笑っている仲間達と。
「でも、やっぱり師匠と、それをきちんと預かってくれた弟弟子に感謝ね。ありがとう、ロック」
フルフル、首を振って、
「ジッチャンとの約束果たせた。僕も嬉しい。それじゃ…」
「あ、待って! ね、ロック? 私達のパーティーに入らない?」
「僕が?」
「ううん。アンタと、その、お嫁さん」
ボン!
やっぱりイチイチ反応する瞬間ボイラー少女。
「これはイヂリ甲斐があるかな?」
「ところで、あのセクハラジジイの愛弟子だけど大丈夫だった? 昨夜とか変な事は…、されたみたいね」
ますます赤くなっていくリルフィン。見るとロックも赤く染まっていく。
「あの、その…、私、お嫁さんだから…、あの、変な、…事じゃ…ない、です、その…、一緒に…住んでるし」
小さな声で、赤くなりながらも微笑む少女を生暖かい目で見ながら、
「で、どう? ロック、アンタ達が一緒だと、凄く私達が助かるの! お願い出来ない?」
リルフィンを見るロック。
「いいかな?」「はい」
目で夫婦の会話をする2人。
「ビミョーに腹立つわ、マジで」
「コミリア? 大人気ないわ」
「弟夫婦妬いてどうすんの? フフ、よろしくね、ロック、リルフィン」
少し憮然としたまま、コミリアはパーティーリーダーとして、カウンターへ、メンバー登録変更の手続きに向かう。
「聞いてたわよね。今から『竜の息吹』は5人パーティー。しかもCランクよね?」
「分かりました。『竜の息吹』のメンバー登録変更とランクの変更を確認しました。以後Cランクパーティーとして登録されます。Bランクまでの依頼を受ける事が出来ます」
「よっしゃあー! さて、何か良い依頼ない?」
「ちょっと? 今日は…」
「実は国境近くの『飛竜の谷』で、商業ギルドの馬車が襲われました。原因の調査と積み荷の回収、Bランクの依頼ですけど、受けてみますか? 期限2ヵ月です」
「『飛竜の谷』? 彼処で馬車を襲うといったら『ワイバーン』だと思うけど。あれってDランクの魔物よね?群でもC-。何故ランクBに?」
「襲ってきた魔物の正体が不明なんです。空から襲ってきたのは間違いないようなのですが。あの場所だと『アースドラゴン』の可能性もありますし」
「だからB? え、でも『アースドラゴン』が空から来る訳ないよね?」
大地属性の竜種『アースドラゴン』はBランクの魔物だ。だが、飛ぶことはおろか跳ねる事すら出来ない鈍重な動きと図体をしている魔物でもある。
「AやBのパーティーは? それ受けてないの? 『悠久の風』とか」
「『悠久の風』はしばらく休息って。温泉街の『エンブイ』に行ってます。『電光の大斤』は、先日の盗賊討伐で戦士のアンザックが毒刃を受けてケガしました。主戦力がいないのです」
「何て間の悪い…」
「ロック、いける?」
コクリ。頷くロック。BのロックとA+の『ドラン』。主戦力は充分だ!
マッキーとソニア、リルフィンも頷く。
「その依頼、私達『竜の息吹』が受けるわ!」
新生『竜の息吹』初陣!
『ワイバーン』位ならばいける! 私達は、もっと飛躍できる! リーダー・コミリアの胸には、この時は希望しかなかった。
だが、そこに待っていたのは竜種等ではなく、おぞましき悪意と、ある意味裏切者だった。
そして後から思えば、これが、『ミルザー法王国』との戦争の始まりだったのである。
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