第7話 ギルド登録

 オーク討伐隊が、無事帰ってきた。


 街の門番と入管手続きを済ませて、馬車は、そのまま領主の館へ向かっていく。

 また、門番よりギルドの方にも連絡がいく。


「そう。無事帰ってきたの」

 ギルドマスター・ルミナもホッとした表情を見せる。

「領主の、ケイン様の館に行きます。後お願いね」

 サブマスター・ロベルトに伝えると、ルミナは、領主ケインの館に向かう。


 館に着く前に馬車と会ったルミナは、そのまま馬車に合流し乗り込む事にした。

 街の中央よりやや右の高台にある領主の館は、館と言うより砦に近い様相を持つ。

 この辺、辺境であり国境にも近い街の位置関係と、領主アルナーグ辺境伯が、代々貴族というよりは、武断よりの実質剛健を旨とする性格である事も大きい。

 代替りをして6年。

 現領主ケインも若く、優しげな風貌に見えて、武人寄りの実質剛健な男であり、派閥『貴族派』の武を代表する重鎮でもあった。



 館に着いた彼等は、そのまま大広間に通される。

 個人的に知り合いであるシオンやギルドマスターのルミナは兎も角、他は低ランクの冒険者であり、貴族の館では落ち着きがなかった。

 ロックとリルフィンに至っては、キョロキョロとオノボリさん丸出しであり、年相応の姿に皆ホッとしたのである。

「ロックも慌てるんだニャ」

「見た事無い物ばかり…。手が当たったら大変」


 子供に弁償は言わない、と思うルミナ。

 他の貴族は兎も角、アルナーグ辺境伯は性格的に言わない。領主を知る者は、普通にそう思った。


「皆様、お待たせ致しました」

 執事が謝罪し、高価で重そうな扉を開く。

「済まない、待たせたな。オークの集落殲滅と拐われた女性の確保。本当に良くやってくれた。それと、君がロック君? 3年前には、本当に済まなかった」


 領主ケインが平民の冒険者に頭を下げる!


「いえ。ジッチャン、わかってた。『怨むな』言ってた。僕、今、こうして生きてる」

 頭を下げられた事に慌てたのか、必死に伝えるロック。ケインにしろルミナにしろ、やはり本人の口から『怨みは無い』と言われた事に、ホッとした表情を見せた。


「ロック君。この街に住まないか? 良ければ、ここの冒険者ギルドに所属してくれると、私達も嬉しく思うのだが」

「従魔もいるし、まだタラム村でいいです。でも、ギルドにはゆくゆくは入ります。その、まだ11だから、登録出来ないと思うし」

「そうなのか? ルミナ」

「原則的には12歳からです。但し、領主やギルマスによる特例措置があります。なので、実は大丈夫なの」

「そう?ですか? 僕等、特例に入ります?」

「勿論よ。多分高ランク冒険者として登録出来る筈」


 高ランク冒険者?

 確かに、剣技凄まじく魔法も高レベルの回復魔法を使ってみせた。でも、入った時にはGからのスタートと聞いていたのだが。

「ギルドの試験官が認めたら、その限りではないわ。って、貴方がGランクなんて、詐欺としか思えないもの」

『竜の牙』は勿論『紅き閃光』のメンツも激しく頷き同意する。

「明日、試験官と私が立ち合う。登録手続きをお願いしたいのだけれど?」

「………、分かりました」

 ホッとするギルドマスター・ルミナ。


「さて、救出された女性の3人は当家で全て買い上げる事にした。皆、借金奴隷だ。犯罪歴はない。なので2年のメイド作業で返済出来る形になる。その後は希望に添えるよう考慮する。また、その間の衣食住は保証する」

「「「あ、ありがとうございます。ご領主様」」」

 3人揃って礼を言う。


「それと…、まさか、アウローラ叔母上か?」

「大きくなったわね、ケイン。もといケイン様、ね」


 12年前、前々辺境伯ゴート=アルナーグが戦争で亡くなった時、嫡男ケインはまだ14歳だった。また、同じ戦でゴートの弟も亡くなり、その為、ケインが成人するまで末の弟ディルロが辺境伯を継ぐ形となったのだが、官僚肌で病弱のディルロにとって、『貴族派』の武を1手に引き受ける事は、かなりの身体への負担になっていた。補佐役も兼ねてディルロの姉であるアウローラが、ヒューレン侯爵領に出向いた時、盗賊団の襲撃を受け、連れ去られてしまったのだった。


 病の発作が出ていて動けなかったディルロは、代わりに姉を向かわせた事を心から悔いた。

 また、領内で客人たる伯爵令嬢を拐われてしまったヒューレン侯爵のメンツも丸つぶれであり、激昂した侯爵は、自ら陣頭指揮に立ち盗賊狩りを実行した。

 だが、結局拐った盗賊団の行方は掴めず、アウローラも行方不明になってしまったのだった。


「まさか、盗賊団がオークの襲撃を受けていたとは。叔母上、さぞ」

「そうですね。死んだ方がましと思う目に会ってきました。暴行され、オークの子を産み、育て、人前に出られない程の傷すら負ってしまった。あの子の、ロック君の魔法のお陰で、こうして元の、傷1つない身体に戻ることが出来た。此処に戻って来る事が出来た」

「ディルロ叔父上も、ずっと叔母上の身を案じていました。こうして戻って来られた事に、女神様と、何よりロック君に感謝しないと。本当に君には借りを作りっぱなしだ」


 再びロックに頭を下げるケイン。

 慌てて首を振る少年。


「僕を、信じてくれないと、魔法効かない。生きる希望、持ってないと、魔法効かない。だから、僕も嬉しい。ジッチャン、『生きてりゃ何とでもなる』言ってた」

「それでも、君がいてくれた事。あの村の生き残りである事に、本当に救われているんだ。感謝するよ、ロック君」

「いえ。そう言えば、聞きたい事、あります」


 振られたついでに、気になっている事を尋ねようとするロック。


「うん? 何かな?」

「村にある『竜の湧水』、祠への水路、壊されていました。村の守護者、生まれないようにしていたのは、ケインさんの命令?」

「いや、疫病の為、死者諸とも村を焼き払う命令は確かに出した。だが、壊す場所を指示する事はない。私は村に行っていない。そこに何かあるとかは、現地スタッフの認識で、私は焼き払った事の報告のみ受けたんだ」

「現地スタッフは、ギルドと騎士団で組んだの。私が責任者。あの時には、施設の破壊などはしていないわ。ね、村の守護者って?」

「ドラン。トライギドラス。祠の水路に竜玉の形で眠っていた。水路を修復して、『竜の湧水』を得てドラン、生まれた。で、従魔契約した」

「生まれたばかりだから、か。とは言うもののAランクの魔物を、良くテイム出来たわね」

「村の者。少し手加減もあった」

 事にしておこう。ロックは内心でペロリと舌を出す。

 実際、全く戦ってはいないのだから。


「フム。結界の祠の水晶といい、村を知る者が何らかの破壊工作をしているな。何時の間に」

 知らなければ分からない。そういう箇所を壊しているのだから、これはもう内部の犯行である。

「村の者で、あの疫病騒ぎの時にいなかった人物と言えば? ロック君、心当たりは?」


 コルニクスの知識から割り出す。

「いなかったのはコミ姉ェ…コミリアさんとマッキーさん。後、ドーラさんとレザックさん」

「コミリアが村を売る? 全く考えられない」

 ルミナの言にロックも頷く。

「コミ姉ェもジッチャンの弟子…。絶対ない。それにマッキーさんもよく遊びにきてた」

「そうね。えーと、ドーラは翌年病気を発症して亡くなりました。彼が疫病の最後の犠牲者です」

 ルミナが把握出来ている疫病の経緯。残るは1人。

「レザック…、か?」

「レザック…、ジッチャンと仲悪い。『尖り耳』呼ばわりした」

 コルニクスの知識にあるレザックは、とても親しくしようとは思えない人物だった。

「『尖り耳』…、ミンザ主義者か?」


 ミンザ主義。

 人間至上主義。平均的ではあるが欠点もほぼ無い種族の人間が、最も神に近い完璧と言える生物であると言う主義。亜人は1段下の存在とし、獣人に至っては亜人とすら認めていない。

 この主義者達の最たる者が『ミルザー法王国』であり、この国の王族貴族は全て人間である。

 全世界的にこの主張を拡げ、認めさせようとする為、獣人の国リーオー王国、ドワーフが王族であるダイザイン王国とは戦争状態にある。また、亜人はおろか獣人の貴族もいるザルダン帝国とも国交を断絶している。ここ、ライカー王国も騎士爵位の亜人がいるのと、獣人も亜人の中にいるので、やはり法王国の国是と相容れない。

「様子を見るしか無い、か。全くもって厄介だな。ま、いいか。気にはとめておくとして。うん、もういいぞ」



 翌日。

 約束通りギルドにやって来たロックとリルフィン。


「おい? あれって?」

「例の森に住む凄腕のガキだろ? まさか、ギルドに登録するのか?」


 冒険者達のざわめく中、試験官とギルドマスター・ルミナがやって来る。

「まずは実技を見せてもらう。エモノは剣でいいのか?」

「はい。基本的には、背負ってる剣です」

「基本的? 他も扱えるのか?」

「ジッチャン、武芸全般だったので。槍に棒術、体術。弓にブーメランもO.K.です」

「では、剣と体術を見せてもらう」


 ギルドの奥にある訓練所。

 ロックは全く危なげ無く、試験官を叩きのめしたのだった。ルミナが、少し呆れて止める。


「そこまで。戦闘力だけならAランクね。元Bのリックが全く歯が立たないなんて。後、魔法も使えるのよね?」

「攻撃、回復、生活魔法なら。属性は火と風、大地と水、後神聖魔法。得意なのは風系統。で、獣魔術」

「成る程。それじゃあの的を狙って撃って」

「あれ、ですか? じゃあ『ウィンドカッター』」

 風の刄が的を切り裂いていく。

「低レベルの割には威力が高いな。魔力が高いのか?そう言えば、どれくらいなんだ? その年齢なら2,000もあれば、かなりのもんだが?」

 試験官が不思議がる。が、ロックは応えられなかった。

「測ったこと、無い」

「ステイタスボードは? 持っていないのか?」

「まだ、作って無い」


 普通は5~6歳で教会に行き、女神の審判を仰いでボードを発行してもらう。2つ折の皮紙で、個々の固有の魔力に反応してステイタスを映し出す。


「仕方ないな。此処のギルドでも発行出来るから、待ってろ」

 そう言うと試験官は、カウンター奥の棚を探し出す。

「奥の左から2列目。上から3つ目の、そう、そこ」

 ウロウロしていたからか、ルミナが指示を出す。

 皮紙を渡すと、

「10秒押さえてから『ステイタスオープン』と言えば映し出される筈だ。一般的な魔力は大人で4~5,000。魔法使いとして高ランクなら10,000超えって処か? まぁ『黒き大賢者』は100,000超えという伝説があるが。実際はどうだったんだ?』

「ジッチャンは104,000って言ってた」

「本当だったのか? っと、もういいぞ。出してみろ」


 ロックも皮紙を拡げて

「ステイタスオープン」

「出たか? で、魔力はどれくらいだ?」

「328,000」

「は?」


 内心、地球では燃え尽きるくらいの魔力と言われていたので、かなり高いとは思っていた。

 が、実際見ると、我ながら馬鹿げた人外の数値が出ていて「成る程、これは死ぬな」自分の死因に納得したのはここだけの話。



「ジッチャンは『かなり高いだろ』っては言ってた」

「いや、高過ぎだろ? お前本当に人間か?」


 一般の6~8倍の数値である。そもそもダークエルフより高いとはどういう事だ?


「ギルドマスター? この子、特例のBランクスタートでいいと思います」


 周りがざわめく。Bランクとなると国家レベルの依頼にも対応出来る。

「そうね。特別対応必要と但書付きでね。流石に国や貴族の依頼の時には補助がいると思うから」

「成る程」


 その後、リルフィンの審査に入り、こちらも年齢不相応の実力と診断された。よってCランク。

 ロックとリルフィンのパーティーは、C+ランクのパーティーという事になる。また、リルフィンのステイタスボードも、此処で新規発行する事になり、こちらも獣人らしからぬ魔力8,000という数値を出したのであった。

 因みにミーナの場合、魔力600という数値である。別段彼女が殊更低い訳ではなく、獣人として平均的な物と言える。


「このギルドに新しい、しかも高ランクのパーティーが誕生した。何と言う幸運。これからよろしくね」

 笑顔のルミナに、頭を下げる2人。特例だらけの異例パーティーが、此処に誕生した。


「じゃあ森に帰ります」


 用は済んだとばかり帰ろうとする2人。

 そこへ、依頼を済ませ帰ってきたパーティーが来た。


「え? あら? まさか、ロック?」

「げ? コミ姉ェ?」


 途端に少年の頭を掴み押さえる女性。

「げ?って何? それが姉弟子に対する言葉?」


 コルニクスに師事した女性戦士。女神ルーシアンの小細工と過去操作で、ロックの姉弟子という設定になっているDランクパーティー『竜の息吹』リーダー、コミリア。

 ロックが苦手にしている姐御設定の女性でもあった。

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