第26話 彼女達の思惑

 王国からの報奨。

 ロックは報奨金のみを受け取り、爵位叙勲と王都に賜る屋敷を断った。

 その代わりに? ウィリス王太子から『親友になって欲しい』という提案を受ける。

 戦争時や祝勝会の時の気さくな言動もあり、ロックはウィリスにかなり親しみを感じていた。


「では爵位ではなく称号を、『王家の親友』を贈りたい。これは受け取ってもらえるかな?」

「慎んでお受け致します、王太子殿下」

 それを聞いて、横から口を挟む少女。


「王家の、という事は私達全員、つまり私の親友にもなるわけですわね?」

 満面の笑みをうかべている王女レフィーナ。

「否定はしません。ですが、田舎者故ぼ…私はウィリス王太子殿下以外を知りません。ご無礼、平にご容赦ください」

 ロックは頭を下げた。

「アッハハハ! 確かに先の祝勝会でも会っておらんな。クククッ。では親友に兄弟姉妹を紹介しないとな。後で時間をくれるかい?」

 そう言いながら、ウィリスは父王と宰相に目配せをする。


「では、報奨はそれでなった。これにて謁見は終わる」

 宰相ラーデウス公爵が宣言する。国王マシウス3世はロックを見つめ反応を示さない。

 が、とにもかくにも報奨はなったのだ。一礼してロックは下がり、部屋を出る。国王はまだ、下がるロックの背を見つめたままだ。

「ロック…。お前は王国の敵にはならぬ。その言、信じてよいのか? 王命に逆らうお前は、真に我が敵と…」

「…父上…」


 控えの間で、元の服とバンディッツアーマーに着替え、剣に魔法発動体の腕輪を受け取る。

「やっと一息つける」

 緊張するなと言う方が無理。流石に冷や汗掻きまくってぐったりくる感のあるロックだった。


 そのまま帰ろうとした時、ロックは自分を呼ぶ声に振り向く。

「殿下?」

「そのままでいいよ。こっちへ、こっそりとね。王族と同席するのに武器所持は、色々うるさくてね」

「お預けしますよ、殿下?」

 剣を背から、腕輪を左腕から外すロックに、

「構わないよ。だって、君がその気なら、もう王都は消し飛んでいるだろう?」

 にこやかに話すウィリス。言ってる事は全然穏やかではないのだが…。

「そこまで魔王でも、傍若無人でも無いつもりですけど」

「アッハハハ! まぁ、私は親友を信じるけどね」

「私は…?、ですか。そうですね。陛下の視線は、少し怖いです」

「気付いていたか、やっぱり。そこは何とかする。私を全面的とは言わなくても…」

「100%信じてますよ? 僕から殿下に、剣を向ける事は無いですから!」

「親友、いや、永遠の悪友と言いたいな、ロック君。これからも頼みとしたい」

「それは、殿下の悪巧みに乗れと言う事ですね? わかりました」


 応接間。

 ウィリスはそう言っていたが、壁の厚さや防音の魔法がかかっている点で、只の談笑部屋ではない事がアリアリと言えた。

 入ると国王以外の王族が揃っていた。

「ある意味、私の私室に近いんだ。ロック君、順に妹のレムライナとレフィーナ、弟のサリウス、そして母上のサリアだ」

 入口付近のまま跪くロック。

「初めまして…、先程振り?でよろしいのですか? ロックです」

「叙勲は無理だとしても、『ルシアナ』は名乗って欲しいと思うよ?」

「平民に姓があるのは不自然過ぎます。しかも畏れ多いもの過ぎです」

「成る程。まぁ、それはさておき…」

「もうお兄様、お話が長過ぎますわ。ロック様、初めまして、第2王女でレフィーナと申します。その、お聞きしたい事があるのです」

 モジモジと、話す時がくるのを今か今かと待ちわびた少女は、ウィリスだけが話し、自分達にその機会が回ってこない事に苛立っていた。

「え~と?な、何でしょう、姫様」

「私は何故、ロック様に振られたのでしょうか? それも会う前に、です」

「レフィーナ? それを言うのならば私も同じです」

 楽しげなレムライナ。だが、ウィリスから見た彼女の笑顔はやや黒く感じる。

 王女2人の目付きが怖いので、ロックは知らぬ存ぜぬで通す事にする。

「あ、い、いえ、その。ぼ、僕は、その事を全く知らされて…なくてですね。その、爵位叙勲の事は聞かされていたのですが…。その」

「叙勲だけ?そうなのですか?」

「言っただろう? ロック君は『報奨を与う』としか聞いていない筈だと。考え過ぎだ」

「もう、お兄様には聞いておりません! 私はロック様に伺っております」

「あの? そうです。ぼ…私は叙勲は聞いていたので、騎士爵位を与えられると思っていました。それが男爵位と王都に屋敷と聞いて、本当に驚いたのです」

「せっかく王都にお屋敷を賜る事になったというのに、何故お断りなさったのですか? この王都にお住みになれば、色々お伺いも出来ようものを」

「ぼ…私がテイマーだからです。普段は家の回りに好き勝手に動いています。リント…ポイズンスライムやキノチュン等ならば兎も角トライギドラスやナイツスライムも一緒におります。王都では庭先に従魔をおいておく事はとても無理でしょう。だからです」

「この王都にもテイマーはおります。テイマーズ・ギルドだってあるのです。魔物の保管場所位は…」

「保管? 保管ですか? 彼奴等は物じゃない!共に過ごす仲間だ! 今までずっと、ずっと一緒に生きてきたんだ!!」

 怒鳴り付けられ驚くレフィーナ。レムライナもウィリスもため息をつく。

「妹の無礼を許して欲しい、ロック君」

「あ、あの、王女殿下に対し暴言等…、本当に申し訳ありません」

「いえ。悪いのはレフィーナです。ロック様の怒りは当たり前の事。レフィーナ、ロック様の最初の従魔はスライムだというのは、貴女も聞いた事があるでしょう? ずっと一緒に戦ってこられて、今、ナイツスライムにまでになったと。貴女は従魔とは言え、ロック様と幼少の頃より共に過ごしてきた方を侮辱したのですよ? 」

「あ、あの、私…。お姉様、申し訳ありません」

「謝る相手は私ではありません。ロック様と、その従魔達に対してです」

「レムライナ? もういい。レフィーナも、まずはロック君に謝罪だ」

「申し訳ありませんでした、ロック様」

「こちらこそ、怒鳴り付けてしまい申し訳ありません」

「あぁ。勿論不敬罪には問わない。全面的にこちらが悪いのだからね。レフィーナ、確かにお前はまだ幼い。だが、王族の言葉の重さを判る様にな。取り消せぬモノもあるのだから」

「はい、お兄様」


 10歳の子供には厳しいと思う。流石のロックも同情しつつある。だが、王族は勿論騎士爵位の者ですら『前言撤回』が不可能の場合もあるのだ。


 その事は、幼いレフィーナも理解していた。末っ子といえど王族の義務と権利は何ら変わりはしない。


「さて、ロック様。話はもどるのですが…」

 そう言うレムライナの目は、少し悪戯めいていた。

「本当に私かレフィーナとの婚約の可能性、お聞き及びではありませんでしたか?」

「うぇ? え、は、はい」


 やはりロックに腹芸は不可能だった。


「ウフフ、ご存知だったみたいですね。にも関わらず、爵位や屋敷を言及したお父様も婚約は全く触れる事はなかった。強い意思をもって断られたのですね?私共はロック様にとって、魅力のない女だったのでしょうか?」

 やや黒い笑みで見つめてくるレムライナと、先程までの続きで泣き腫らした目で睨むレフィーナ。思わずロックはウィリスを振り返るも、ウィリスは視線を逸らしてしまう。

「ロック様?」

「…ぼ…、私が聞いているのは、レフィーナ王女殿下とのことのみです。歳も同じ位だからって言われて…。その…、田舎者の平民です。この国は一夫多妻制ですけど、平民は大概妻は1人しかいません。余程の富豪でないと、2人の妻など養えませんし、母が1人しかいないのも当たり前です」

 ウィリスとレムライナは頷くものの、レフィーナは頭に?マークを閃かせていた。いきなり夫婦の体制の事を言われても、成人しているウィリスとレムライナは兎も角、レフィーナにはまだピンとこない話だった。

「そして、私にはもう婚約者って言うか、事実婚状態の女性がいます。一緒に住んでいます。だからです」

「ホホホ。小気味良い言葉ですね。色事に目くじらたてる貴族達に聞かせたい気がします。ロック、貴方の飾り気の無い正直な気持ちは、良くわかりました」

 ここまで黙って見ているだけの王妃が微笑む。楽しげなその顔は、やはり子供達の母親だった。大笑いするウィリスにも、微笑むレムライナは勿論レフィーナの笑顔にも良く似ていたのだ。

「側室を持たず、只1人を愛すると?」

「村では、妻は1人でした。そんな生まれ育ちをしております。それに王女殿下を側室にするのは流石に無理だと思います。かと言って、今まで共に歩んで来たものを第2夫人にするのもどうかと思いますし。あの、そう言う風にしか考えられなくて…、なので、辺境伯を通して、どうしてもと…」

「アルナーグ辺境伯からロック君が泣き付いて来たと言ってきてね。私も父上を強く諫めた。それでも爵位叙勲を言ってきたから、どうしようと思ったけどね」

 ウィリス王太子も少し呆れ顔である。


「リルフィン様でしたかしら? 魔狼族の美少女。もうアゥゴー・ギルドでは人気N.o.1で、癒しの微笑みはルーセリア1と聞いています。レフィーナ? 相手が悪かったかもしれませんね」

 そう言うレムライナには面白がっている雰囲気がアリアリと出ている。

「お姉様?」

「先の戦争でもロック君のパートナーとして負けず劣らずの活躍をしている。彼女も飛竜騎士の予備隊を倒しているのだから」

 ウィリスが付け加える。

 冒険者。ロックのパートナーは、家庭で待つだけでは務まらない、兄の指摘にレフィーナも二の句が告げられない。

「わかりましたわ。ロック様、真正面から正直にお答え下さりありがとうございました」

 レフィーナは頭を下げる。

 王族の謝罪にロックも困惑したが、そのため「今は無理でもいつか」と呟くレフィーナの声は流石に聞こえなかった。


 そこにいた王族3人はピンと来たのだが…。



 王都で買い物をしている『竜の息吹』の4人は、いきなり声をかけられて立ち止まった。


「ソニア、久し振りだな。共にいるのが『竜の息吹』でいいんだよね」


 4人が振り向くと、そこにいたのは超絶美形エルフ。

「兄様? 何故王都に?」

 ソニアによく似た顔立ちに同じ色の髪。カル下級騎士家の嫡男、ディック・ミラ=カル。

 兄がいる事は聞いているので、仲間の3人も軽く会釈する。

「礼は不要だ。妹の仲間に貴族振るつもりは無いよ。それと私が動くのは姫様の護衛のみだよ、ソニア」

 そう言うディックはハーフプレートの背にカイトシールド、腰にバスタードソードという冒険者風の出立をしていた。そして、横に金髪の女性が、レザーアーマーにローブ姿、腰にメイスを下げて、佇んでいた。プリースト? 或いはヒーラークラスの冒険者に見える。


「アイシス様? これは失礼致しました」

 慌てて跪き礼の形をとろうとするソニアに、慌てて声をかけるアイシス。

「ダメ。折角一介の冒険者の姿になったのだから。久し振りね、ソニア。ね、そちら、パーティーメンバーでしょう? 紹介くださると嬉しいのだけど」

「あ、失礼致しました。こちら、ターカッド辺境伯のご息女アイシス様です。で、右から順に『戦士』コミリア、『魔法使い』マッキー、『レンジャー』リルフィンです」

 順に頭を下げるコミリア達。

「噂に名高い『竜の息吹』の方々ね。ディック、貴方の言う通り。こちらで買い物をしている、と」

「兄様?」

「姫様はソニア達、と言うよりロック殿に会いに来られたんだ」

「ロックに? 姫様が?」

「ロックならば、今王城にいて…」

「報奨授与の最中ですね。私共もわかっております。その、私達の姿で、こっそり来ているのは察して戴けると思うのですが、実はロック殿にお願いがあるのです。只、いきなり会って頼み事もどうかと思うので、ソニアを介してお願い出来ればと思ったの」


 辺境伯と陪臣の娘同士。本来なら絶対的な主従関係の筈。一言の命令ですむのだ。だが…。ソニアはコミリアを見る。頷くコミリア。

「向こうのカフェに行きませんか? 酒場だと面倒にもなりそうですし」

 コミリアが提案し、メンバーは勿論アイシスも賛同する。ディックは少し困った顔をしていたが。


 王都の中央通り。様々な店が立ち上る中心街に、菓子やお茶が女性に評判のカフェがある。『素晴らしき一時』という名のカフェは、その名に負けない雰囲気の女性客が多いカフェだった。中庭のテラスのテーブルに陣取ると一番人気のお茶とケーキを頼む一同。ディックはやっぱり困った表情をしている…。

「ディック?」

「兄様?」

 そう問い掛けるアイシスとソニアは、ほぼ同時にクスクスと笑い出してしまう。

「兄様は甘い物が大の苦手なの」

「私の護衛なのだから慣れて欲しいのだけどね」


 信じられない。

 そんな表情の娘達。彼女達にとって、ケーキが苦手というのはあり得ない! という想いだ。


「ロックへの依頼? という事でしょうか」

「ある意味では。実は彼の持つ『古の回復魔法』を教わりたいのです」

「『レゾナ・リターン』ですね。年数を経て固定されてしまった古疵は『ファイナル・ヒール』でも治癒出来ない。でもロックのそれは、アルナーグ辺境伯の姉君を五体満足に完全な状態へ回復させた。目の前で見ていたシオン、その、Cランクの魔法使いです。彼も『信じられない想いだ』と言ってましたし、回復した当の姉君も最初は信じられなかったと、夢かと思われたそうですから」

「ロック殿は何処でその呪文を手に入れたのでしょう」

「師匠の、あのセクハラジジイの極悪非道な脳転写です」

「まぁ、確かにね」

 吐き捨てるコミリアに苦笑するマッキー。

「師匠のコルニクス=アリアスは400年を超える年月を生きていました。だから280年程前の『魔神動乱』。あの戦乱で失われた魔法を持っていたんです。それをあの根性曲がりのセクハラジジイは、あえて脳転写という形で、弟子のロックに、ある意味無理矢理伝承したんです」

「コミリア? 確かに『黒き大賢者』様は、何と言うかいい性格をしておいでだったのですが、ロックの莫大な魔力を知った大賢者様は、持てる全ての知識と技を、失伝する前にと言われて、毎日1つ2つずつ伝承されました。彼が幼少の頃、村では叫び声と笑い声が響くのが日常茶飯事でしたの」

 呪文の脳転写は、どんな複雑で長い呪文・術式でも正確に覚え、しかも忘れる事は無い。幼少だろうが、理解力があろうが無かろうが。但し、された者は頭が割れる? 破裂しそうな痛みに半日程苛まれる。

 コミリアやマッキーが、師を性格悪いと言っているのは、脳転写の副作用を知った上で、実に愉しげに弟子に行っていたからなのだ。しかも毎日。

「毎日脳転写を? それはまた…、随分な苦労をされていたのですね」

 アイシスは、脳転写を受けた事は無い。だが、その痛みは、魔法を使う者ならば最悪の伝承手段と語り継がれている。

「まぁ、ロックがアイシス様に脳転写をする事はありませんから。きちんと魔力の場を作り伝承すると思います」


 師から弟子に魔法を伝承する場合、一般的には魔力の場を作り、口述しながら術式を手の内に示しながら行う。弟子は1字1句間違い無く聞き取り、復唱しながら手の内に術式を示す。魔力及び理解力とセンスが必要となり、それが無ければ弟子は会得出来ない。

 この術式を示すという行為が必要な為、ルーセリアには魔導書という物は存在しない。書物に呪文を記述する事は出来ても、術式を記す事が出来ないのだ。つまり、ルーセリアでは魔法の独学は絶対に出来ない。師匠に術式を示して貰い、学び取らなければならないのだから。

 術式は唱えるべき魔法そのものであり、魔力の中でしか示す事は出来ない。呪文を唱え、己が手に具現化した魔力の中に術式を記す事で魔法が発動するのだ。

 これは攻撃魔法であろうが生活魔法であろうが変わらない。勿論従魔法も例外では無く、テイマーとして成り立つ為には、この『テイム』という魔法を伝承出来るかどうかにかかっている。

 尤も、呪文も術式も一言に近く、必要魔力も少ない『テイム』を会得出来ない者は稀と言える。ギルドで生活魔法よりも簡単に修得出来るのだ。余程の事が無い限りテイマーに成れないという事は無く、誰でも成れる底辺職として、逆に冒険者の成り手が無い職種だったのだ。


 ある少年の出現前までは…。



「それともう1つ。実は『毒竜の森』の探索を依頼したいのです」

「それは…、ロックがいる村の入口たる『3つ首竜の森』とは訳が違うと思いますけど?」


 ライカー王国辺境の街、アゥゴーの北西にある『3つ首竜の森』はタラム村を囲み、『飛竜の谷』や『デングル平原』へ続いている。同じ竜の名を冠する森だが、出現する魔物のランクは全然違う。

 確かに3つ首竜、つまりAランクのトライギドラスのいる森として存在するが、トライギドラスは元々村や森の守護竜の性格を持っている。本来は滅多に出会うモノでは無い。Cランク以下しか生息していない森であり、以前は結界があったので森から魔物が出てくることもなかった。

 今、その結界は消滅している。だがトライギドラス『ドラン』のエサ場にもなっている為、隠れる場所の無い森の外に、魔物が無防備に出てくる事はやはり皆無に近い。森の中の街道には出てくるのだが…。


『毒竜の森』の主は毒竜ヒュドラと言われている。

 首の数は生まれたばかりの幼竜で5つ。成長するにつれて2つずつ増えていき、最終的には11の首を持つ竜種となる。毒攻撃が恐ろしい、凶悪狂暴な魔物で、こちらもAランクだ。この魔物を筆頭にBやCランクの魔物が幾種類か存在する。難易度は遥かに上だ。

 王国の南、ターカッド辺境伯の領都デルファイの先に連なる森で、ここが在るためデルファイの防壁は王国1を誇る規模を持つ。尤もヒュドラ自身は森から出てくる事は滅多に無いし、一応結界は存在する。


「ヒュドラ討伐なのですか?」

「いいえ。探索と言いました。奥の結界の祠の近くに咲くと言われる『バオルの花』を探したいのです』

「『バオルの花』? …確かに今が咲く季節ですけど」

「ヒュドラの生息地たる『黒毒沼』の畔に咲く花ですよね? かなり強い毒消薬の元ですが? お知り合いに重病人がいらっしゃる?」

 コミリアの言葉にディックが驚く。

「『戦士』と思っていたけど、薬学も詳しい?」

「師匠は『薬師』と頑なに名乗りました。呪文を使えない私は、回復しようと思ったら薬頼みですから。依頼もあるし、大概の薬草・毒草は知ってますよ」

「剣術のみとは言え、コミリアも『黒き大賢者』様の弟子ですよ、兄様。私達も剣を振り回すだけの脳筋をリーダーにはしません」

 ソニアの言葉にマッキーもリルフィンも真顔で頷く。

 コミリアは苦笑するものの、

「あの森だとC+の私達では依頼を受けられません。ヒュドラは1頭しかいないという訳ではありませんから。2頭以上出てこられたら、逃げるのも難しいです」


 花摘みというカテゴリーの依頼だが、『黒毒沼』に行くとなるとAランクの依頼になる。B-以上のランクを持つパーティーでないとそもそも依頼を受ける事が出来ない。

「私がB、ディックがAランクです。私達が臨時で加わればA1人、B2人、C3人となりパーティーランクはB-になると思うのですが。依頼だけして、安全な場所から見ているだけなんて出来ません。そういう依頼ならば、こんな格好にはなりませんから」

「それにロック殿はSランク相当と聞いている。多分彼と従魔だけでも大丈夫なのでは?」

 アイシスもディックも、何とかこの依頼を受けて欲しいという想いを強く出して来る。辺境伯の令嬢にしては、依頼への想いが強すぎる気がする。コミリアは、その事を尋ねた。


「花から精製する『特浄化の秘薬』が必要なのです。その…、母上の為に…」

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