第29話 さびしさよりも君はさびしい

 眠ったまま担ぎ込まれたレフィーナ王女を見て、王宮は大混乱に陥った。

 ロック達『竜の息吹』だけでは到底王族も官僚も、近衛騎士も納得しなかっただろう。

 王女と同行した侍女や近衛騎士が生存し証言したが為に、ロック達の言葉が事実と実証されたのだ。


「今レフィーナ王女殿下は?」

「状態としては眠っているだけでございます。先程までは拘束呪文を掛けておりました」


 受け答えしているのはソニア。

 下級騎士家とは言え、貴族階級でないと本来は王族や上位貴族に直答出来ない。報奨授与の時に、ロックが国王とやり取りしたのは稀有な事態だったのだ。


「確認致しました。彼等の言う通り、今現在レフィーナ王女殿下はお健やかに眠っておられるだけです」


 王宮仕えの魔導師がソニアの言葉を肯定する。

 そこへウィリス王太子とレムライナ王女が来る。


「ウィリス王太子殿下、それにレムライナ王女殿下も」

「話は聞いた。だが詳しい話を聞きたいので、直答を許すよ、『竜の息吹』の諸君。あぁ、皆にも言おう。ロック君は本人が辞退したので平民なのだよ。父王陛下は男爵位を1度は叙勲したのだからね。それに彼には『王家の友人』の称号を贈った。この意味、官僚達もよく考え、覚えておいてくれ。よいな」


 王太子の言は重い。

 これ以降ロックの扱いは下位貴族に準じた物となる。



「結界の祠に『継承の祭壇』が? それでレフィーナはとんでもない魔導の力を得た、と。また厄介なものが存在していたものだ。純粋な想い、か。気持ちはわからんでもないのだが」

「兄上。とは言えレフィーナのした事は余りにも罪が重いと考えます。家臣が数名亡くなっておりますし、ロック様の『ファイナル・ヒール』が無ければ更に数名の四肢欠如という事態になっています」


 ヒュドラーに食われ、四肢を失った騎士や侍女をロックは回復させた。食われた直後だったので、『ファイナル・ヒール』で欠損した部分を修復出来たのである。1週間以内であれば、この呪文で回復する。これを過ぎると、もはや回復の手段は無いと今までは思われていた。

『オーク討伐』依頼において、ロックが遺失呪文『レゾナ・リターン』を使った事で、数年経っても回復する事が出来ると広く知られる様になったのである。


 尤も、現状使える術者がロックしか存在しない。

 必要魔力量が32,000というのも論外である。


 普通、冒険者としての一般人が持つ魔力は5千前後であり、魔法使い職の高ランクに有る者ですら1万とかの世界なのだ。アイシスが2万近いのは破格と言っていい。ちなみにコミリアは4千程度でありマッキーが1万弱という平均的な魔力量である。ソニアが4万近いのはエルフの種族特性であり、リルフィンの9千程度は獣人としてはこれも破格と言える。

 コルニクスの10万超えもダークエルフだからという事がある。尤も種族を考えても「神竜の如く」と言われていたのだが…。


 ロックの魔力が35万程だというのが、如何に有り得ない数値なのか。


 話が逸れたが、四肢欠如となると騎士は勿論侍女としても働く事は出来ない。レフィーナの我が儘が家臣達の人生を失わせた事になる。

 命が有るだけめっけもん。

 いくら王族でも、それですまされる話では無い。ロックのお蔭で確かにその責任は無くなってはいるが。


 どちらにせよ、ヒュドラーに食われて亡くなった者が3名おり、子供だからといってレフィーナの責を問わない訳にはいかなかった。


 また、10歳児をランクB相当の『毒竜の森』に行かせた事も問題になったのである。

 いくら王族の命令であったとしても、何故レフィーナを森の探索に同行させたのか?

 侍女頭のシャーリィと同行した騎士隊長ポール=ブラマス。2人ともヒュドラーに食われてしまっているので、その責任を問われる者が存在しない。とはいえ、他の者に責を問う訳にもいかなかったので、結局死亡している2人を殉職扱いとしないことで有責とした。勿論家そのものには何の咎めもいっていない。

 ウィリス王太子は連座責任を敢えて避けた。また、この件の後始末を王太子自身が行う事を王宮として発表し、ウィリスが行う処罰以外の咎めを禁じたのである。

 それでも、後日レフィーナ王女に撒かれ城を抜け出された事に責任を感じた近衛騎士ジム=カントナーは職を辞した。また、脱走に加担した侍女リンダも同様に王宮侍女の職を辞めたのだった。

 また、記載はしたものの理由を聞かずレフィーナ王女一行の森へ入る許可を出したターカッド家の警備員達も処罰の対象となった。


 処罰は兎も角、現状の確認をウィリス王太子達と行ったロック達『竜の息吹』が解放されたのは、その日の夕刻である。

 とりあえずギルドに寄り、王家の依頼を達成した事を報告する。

「『竜の息吹』が王家からの『王女探索依頼』を達成した事を確認致しました。今回で依頼件数基準を達成しましたので、ロック君はAランクへと昇格します。またソニアさんとリルフィンさんの昇格基準を満たしました。お2人はランクアップ依頼を受ける資格を得たのですが、今回の依頼が王家のモノでしたので、昇格試験依頼の基準をもクリアしています。依頼達成と王家及びターカッド家への対応が考慮され、お2人のBランクへの昇格が認められました。よって『竜の息吹』はA1人B2人C2人となりB-パーティーとして登録されます。本当におめでとうございます。これはアゥゴー・ギルドへも連絡済みです」


 B -。パーティーランクが1つ上がる。

 これでAランクの依頼が受けられる様になる。アゥゴー処か王国内でも有数のパーティーになった。


 レフィーナ王女を王宮に送り届け、即ターカッド家の依頼の為にデルファイへ向かうつもりだった予定は崩れ、結局ロック達は再び王都のINN『永遠のパレス』に宿をとる事になる。勿論アイシスとディックも同様であり、アイシスはターカッド家の依頼を明日以降からと言明してくれた。

 依頼達成と昇格を祝うべくINN併設の食堂で軽く祝いの宴を開く『竜の息吹』。

 とは言うものの、達成感の無い後味の悪い依頼となった為、あまり華やかと言える宴にはならなかったし、それ以上に沈み込んだロックが、まるで葬送の如き雰囲気を醸し出していたのだ。


 レフィーナ王女の自分への想いから始まった暴走。

 果てに死者や重症者も出た。また、自分の従魔も2頭失ってしまった。


 ロックには後悔しかなかったのである。


 こうなると、元々コミュ障害と言える引き籠り体質。

 沈んだまま食事をすませると、

「ゴメン、ちょっと…」

 そう言って1人で食堂を出ていってしまう。


 皆はリルフィンを見るが、彼女もどう動き、どう慰めたら善いか、考えが纏まらなかったのだった。

 結局女性陣は同じ思いでロックの相棒に託す事にした。


 ナイツスライムのスライに。


 そのロックは王都郊外まで赴くと、モンスターハウスからドランを、トライギドラスを呼び出す。

 背に乗ると、

「頼むよ」

「パルルルル【ま、いいけど】」

「ピルルルル【マスター】」

「プルルルル【気にすんな】」

 フワリと浮かぶドラン。そのまま毒竜の森へと向かう。


 森の奥。ある意味原因もなった結界の祠に来る。


 と、いきなり時間が止まってしまう。

「女神ルーシアン様?」

「会いに来たのでしょう? ロック」


 白き神界に世界が変わる。目の前に女神ルーシアンが佇んでいた。

「継承の祭壇って、女神様の意図?」

「偶々。どちらかというとあの祠を作った錬金術師マリック=アリアスの意図です」

「マリック? ってジッチャンの確か曾祖父の?」

「そう。善悪を問わない、只純粋な想いにのみ反応するなんて仕掛、彼でなくては創れません。とは言え、その様な純粋な想いを持つ者は邪な企みを持つ事等及ばず、だからこそ私も放置しました」


 強すぎる程の一途な想い。

 邪な者は彼是と欲が出る。一途なモノにはならない。


 だが、今回は裏目となり、多くの者が不幸になった。


「レフィーナ王女はあのままなの? あんな力を持ったままこれからを生きるの?」

「本来ならばそうです。でも強すぎる力に彼女の精神が悲鳴を上げているのも事実。眠りの呪文が効いたのを幸い、心の奥底に籠りつつあるようです」

「目覚めないかもしれない? 」

「目覚めてその責を、報いを受ける事を怖がり、その事自体への嫌悪感もあるようですね」

「嫌悪感?」

「犯した罪を責められる事への恐れと、恐れている自分を不甲斐なく思い嫌悪する。王族の責任感。それも強すぎる為に、今の自分の責めから逃げようとしている姿を心が追及している。心が引き裂かれようとしているの」

「だから目覚めない…。でもそれじゃ、まだ不幸になる人が増える。…あの力を取り除く事は出来るの? その上で陛下かウィリス王太子に裁きを下して貰おう。それで責めも償いも解決出来る。そうすれば呵責も消える」

「出来るけど…、そうね。ではレフィーナに与えられた力をこちらで預りましょうか?」

「僕の希望という事でお願い出来ますか?」

「いいわ。お告げという形で彼女に話します。『力』そのものに嫌悪感が出来つつあるし、レフィーナも納得するでしょう。とするとこの『力』が宙に浮く形となります。ロック? 貴方が貰いますか?」

「それがよりベターな方法なのだったら。魔力が少し増えるだけですよね」


 35万も36万も一緒。ロックには多少開き直りの感があった。


「そうね。魔力に関してはそんな感じです。但し遺失呪文を幾つか会得します。それと属性もね」

「属性?」

「具体的には地形操作と補助系、移動・転移系、時空系。使えないのは闇・呪詛系位になります。今までリルフィンやスライ、レツに頼っていた系列の魔法呪文が使える様になります」

「構わない。使えるのと使うのは違うから」


 ズン。ズズズズ。


 いきなり魔力の底上げが図られる感じがした。


「ありがとう、女神ルーシアン様。僕も女神様のお告げを受けたとウィリス王太子に報告しとく」

「これで貴方は『人間属』から『亜神』の領域に入りました。この事、不本意かもしれませんが、力に自分を見失わない、溺れない貴方ならば神の領域も大丈夫でしょう」

「…『亜神』ですか?」

「それでは、ロック。色々と有るけど…、要らぬ力を与えといて何だけど…」


 白き神界が消え、時間が再び流れ出す。

「ドラン、ありがとー。皆出てきて! モンスターハウス!!」


 従魔に囲まれ、ロックは失ったフレイムコングとキノチュンを思う。


「ロック様。私達は貴方の従魔で在る事に誇りと喜びを持っています。『コング』も『キーノ』も、後悔はしていませんよ」

「そう言っていつも慰めてくれるよね。ありがとう、スライ。うん、君と意思疎通が出来る事が本当に嬉しいよ」

 ほんの数ヶ月前。スライはビッグスライムであり人語を話せなかった。ドランの通訳が必要であり、後はニュアンスや何となくの雰囲気の世界だったのだ。

 異世界転生した日から、ずっと共に暮らす仲間。

 相棒。

「いつも側にいてくれるよね。スライ、これからもよろしくね」

「勿論です、マスター、ロック様。でも、そろそろこの役目はリルフィン様に変わった方がいい気がしますけど」

「あー、それはそれ。これはこれ。リルフィンにも側にいて欲しいけど、スライを遠ざける気も無いから。女神ルーシアン様と確認したんだ。レフィーナ王女が得た力を僕に移すって。そうなるともう『亜神』の領分だって」

「もう私達は必要無い程強くなられる訳ですね」

「力はそうだろうね。でも、1人で何でも済ませる程強くはなれないと思う。僕は皆といたいし」

「貴方の口癖ですものね。『僕達は強くなる』と。ロック様。貴方はいつでも自分だけでやろうとしていない。私達と共に、いつでも一緒に強くなろうとされる。だから私達も応えたい。共に強くなりたい。私も『ハイナイツスライム』になりたいし、ひょっとしたらまだ上の進化があるかもしれない。只のスライムでは持てない大それた夢。上位種への進化。ロック様の従魔にならなければ考えることすら無い大きな夢。最弱の魔物 ~ スライムだった私がこんなにも強くなった」

 ナイツ。

 騎士たるスライムだからだろうか。スライの考え、態度、忠節は本当に騎士そのものになっている。それ以上かもしれない。

 従魔、いや仲間達に囲まれ、ロックは、スライと並んで星空を見上げる。

「女神ルーシアン様。貴女の御元に仲間が行きます」

 死者を送る旧き慣習。

 ロック含め全員の遠吠えで葬送の合図を送った。


「うぅぅぅ、うわぁあああー!」

「パルルルル!」

「ピルルルル!」

「プルルルル!」

「コーン!」

「ピキー!」

「シャアアアア!」

「クックルーッ、ポー!」

「ピキ、ピッキー!」

「ニャアアアアオン!」

「ポールピー!」


「さよなら、キーノ。さよなら、コング」


 一方、その頃。

『永遠のパレス』に残された『竜の息吹』女性陣は、相棒のスライに託しつつ、ロックの事に想いを馳せていた。

「立ち直ってくれるといいのですけど。前に『ライム』を失った時もかなり落ち込みましたし。それに、レフィーナ王女様も、元々はロックへの恋慕から始まった事だし。多分、自分が全ての原因って思ってると…」

 リルフィンの表情も少し重い。

「2頭同時は初めてかもね。特に死別は…。彼奴、私達が考える以上に絆を大事にしてるから。だからこそ王家の方々と結ばれた絆が、今回の原因って事にショック受けてるし」

 コミリアも口調が沈んでいる。

「本当はこんな時は側にいて慰めたいのだけどね。私とコミリアには、その昔の事もあるし」

 マッキーもため息ついて話す。

「昔の事?」

「ソニア、私達ロックと同郷なのは忘れてないよね。あの3年前の村の焼き払い。当時15歳の私達は修行も兼ねてリーオー王国にいたの」

「私は12の時に村を出た。師匠に『もう1人前!剣士としては習う事は無いわ!後は実戦で培う‼︎』って啖呵きって」

 語るマッキーとコミリアを見つめるソニアとリルフィン。


「私がコミリアと村の外で出会ったのは、そのリーオー王国で。獣人の王国だから魔法使いは引く手余多。簡単な依頼ですら魔法使い不足だったから、低ランクの依頼をガンガンこなしていた時でね。同郷の女性冒険者。それも同じ年齢、幼友達。直ぐパーティー組んで」

「前衛と後方。簡単な依頼をこなすには充分だった。故郷に帰らず、ガムシャラに依頼を受けていてね」

「そんな時に故郷が病魔に襲われ、焼き払いされる事を聞いた。でも、病死した者と隔離された区画と聞いていたから…」

「病人ごと村を全て焼き払ったって後から聞いて…。でも病魔にかかってない者は、他でちゃんと暮らしてるって聞いて…」

 表情が沈む2人。

「それが私達2人とレザック、そしてロックしかいないってわかったの、ロック達と会ってからなの」

「師匠が、焼き払われた事も知らなかったし、その後ロックが1人で住み続けたって思いもしなかった。気にならなかったって言ったら嘘。心の何処かにはあった。でも、そんな訳無いって…。ロックは他の村に行ったって信じ込んだ。…凄腕の子供がいるって噂が流れて、まさかって思ったの…」

「結局まさかで…。でも何か合わせる顔なくて」

「ギルドで会った時、どうしようって思ったけど、彼奴全く変わらずに『げっ? コミ姉ェ』ってさ。それで元の姉弟に戻れたって思えて…。何となく今日まで来たけど…、やっぱりね。1人にしてしまった事が、小さなトゲの様にこの胸に刺さっているのよ」

「何度も後悔した。どうして村の事を聞いた時に直ぐ戻らなかったのかって。私もコミリアも、今の状況に甘えているのわかっているけど…」


 沈む2人に、リルフィンは意を決して話し出す。


「あの、ロックは…、スライや従魔達と楽しく暮らしてたって言ってました。私、1人で暮らしていた2年間の事聞いた事があるんです。その…、スライが話せる様になったらスライからも」

 皆がリルフィンを見る。

「ビッグスライムに進化するまでは小さなスライムだったから、水飲みの度に流されたとかスライの色々なヤラカシもだけど。結構ロックもヤラカシてるみたいで、一緒に流された事件とか。ドランの寝惚けて丸かじり事件とか」

「は? 丸かじりって?」

「ドラン、寝惚けて従魔のスライム数頭食べちゃった事有るみたいです。私が暮らす様になった時はスライとリント、ライムしか居なかったけど…。前はまだ10数頭いたみたい。今だって村には、野生だけど100頭近いスライムがいますよ」

「そう言えば…。確かにあの村魔物園みたいになってきたわね」

「まぁ、他の従魔のエサにもなってるけど。暇な時のロックって、大概スライムと遊んでます。最近はキノチュンやボルビー、ホーンラビットも多いです。でも、だからあまり人と関わらない気がしてるので私それなりにお節介してます」


 アゥゴーに来始めた頃、ロックはカタコトしか話さず、明らかに人見知りの兆候があった。最近はそこまではないが、それでも引き籠りが完全に解消された訳では無い。


「でも今、コミリアさんやマッキーさんと、ソニアさんも。一緒にいるのがとても嬉しいみたいで。だからパーティーから出される事を頑なに拒んだんです」

 頷き、苦笑する女性達。

 確かに、ロックは聞き分けの無い子供の様に喚いて拒否した。


「いやだ、いやだ!いやだ!いやだ!絶対ヤダ‼︎」

「あの? ロック?」

「僕はイヤだからね!」


 ここまで駄々を捏ねたロックを見るのは後にも先にもこれっきりである。だが、凄腕と言われる冒険者のロックがガキっぽい…、年相応の姿を見る事が出来るのは特権の様に思えたのだ。


「本当に寂しい人。寂しすぎる人なのは分かるんです。だから、その…、珠に甘えてくるの、私、凄く嬉しくて…」

 照れた様に赤くなるリルフィン。

「そうね。本当に…、リルフィンが彼奴の側にいてくれる事が本当に彼奴の…、ロックの救いになってると思う。私達の救いにもなってると思う。村にはロックと同年代の子、いなかったし、1番年近かったのが私達だったし。でも7つも離れるとね」

「私もコミリアも、早く大人になろうと背伸びしてたからね、あの頃。ロックの遊び相手って、スライとか魔物しかいなかったし。だから私達を慕う事はあっても甘えてくる事ないし」


 やがて、吹っ切れたように明るくなって帰ってきたロックを見て、ホッとした女性陣だった。


 その夜。

 レフィーナ王女、そしてウィリス王太子は夢 ~ 女神ルーシアンの啓示を受ける。

 翌日、レフィーナはウィリスの裁き、謹慎と再教育を受け入れた。


「私は、王族として正しく強くなります。その上で成長した私に会ってくださいますね、ロック様」



 王都を出たロック達『竜の息吹』とアイシスにディックは、当初予定を3日遅らしてターカッド辺境伯領都デルファイに着く。

 アイシスの実母メルシスと会い、貴族…伯爵夫人らしからぬ気さくな人柄に魅了されたロック達は、「自分なんかの為に大変な遺失呪文など使わなくても…」というメルシスを説得する事になる。


『レゾナ・リターン』は術者と呪文を、治療される本人が心から信頼・信用しなければ発動しない。


 実は、ロックのみが理解している遺伝子情報を読み取り再生していくという治癒呪文。その為に記憶をも少し見ないといけなくなり、心を開いてもらわないとハッキリと読み取る事が出来ないのだ。

 必要魔力と発動制約が多いこの呪文。地球の、多少の医療知識が必要であり、ルーセリアの魔法医学では遺伝子情報等の医療科学は理解処か想像の範疇にもなかった。ロックしか使えないのは必要魔力だけの問題ではなく、むしろ必要魔力は使用術者を指定するカモフラージュと言っていい。

 只使用時の負担も大きく、ロックとしても出来れば失敗したくない呪文であり、自分に相手が心を開いてもらう為の説得が必要となった。


 皆の説得もありロックが『レゾナ・リターン』と『フル・キュア・コンディション』を行使した時には、もう日が暮れようとしていた。

 傷1つない五体満足な身体を取り戻し、感謝するメルシスと、それ以上に感謝感激するターカッド家の人々にもまれ、ロック達はターカッド家の賓客としてもてなしを受ける事になった。

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