第13話 凝術
二月も半ばに差し掛かり寒さは一段と厳しさを増している。
幽世の中にも四季はあるが、気温や天候は常に変わらない。気温二十度前後、湿度五十%といったところ。快適である。こんな日は幽世にこもるのが一番なのだ。
今日はいよいよ
これは簡単に言うと、集めた霊力を体内で凝縮し質の高い霊力に精練する技術。
これを行うことで、より高度な技を使えたり式神や呪具などの使用条件になっていたりする。
要するにただ単に霊力を集めればいいというわけではなく、質の高い霊力にしておかないと強力な技や式神、呪具なども使いこなせないぞということのよう。
凝術も数値化はできるらしいのだが、普段はFからSのランクで表示され、最高ランクはSだ。
とりあえず数字が高いほうが霊質が高くランクも上がるということ。
田沼さんから一通りの説明が終わると、まずは実践練習だ。
集術とは違い無意識に行えるものではないので、練習してから恒例の測定を行うことになった。
今回の講義からは各支部で行うので、測定は東京支部の三人のみ。
「凝術の説明は以上になりますが、何か質問はありますか?」
田沼さんが説明し終わり三人を見回す。
凝術は集術同様この後の三つの術とも密接に関係してくるので、一流陰陽師も重要視しているとのこと。
特に質問がないことを確認し、講義は実践練習へと移行した。
凝術の習得に必要不可欠なもの。
それは『呼吸法』だ。
幽世には酸素がないので生命活動のための呼吸は必要ない。
しかし、幽世でどのようにして霊力を得ているかというと、それも呼吸なのである。
ということで、酸素なのか霊気なのかの違いはあれど、結果的に呼吸は必要ということになる。
凝術の数値が高いほど効率的な呼吸を行えていて、受け入れた霊気の質を体内で高められているということだ。
今回は現世でも有名な凝術の基本となる「丹田呼吸法」の練習を行った。
臍の指三本ほど下にある丹田と呼ばれる部分に意識を集中し、ゆっくり息を吸い込み、その倍の時間をかけて更にゆっくりと吐き出す。
今回は時間の関係もあるので、この練習を三十分ほど行い、現状の確認をすることになった。
「そうそう。ゆっくりと五秒間お腹を膨らませるように息を吸って〜、もっとゆっくりと少しずつ吐き出す〜。これは倍の十秒ね。最初は目を閉じて数を数えながらやったほうがいいかな」
田沼さんから言われた通りに俺達はこの練習をひたすら繰り返す。
「凝術は分かりづらいけど、できるようになると丹田の部分が温かくなって、それが全身に流れていく感覚がするはずだよ」
二人は「おぉ〜」などと言っているから出来ているのだろうが、俺にとってはさっぱりだ。心地良くてどうしても眠気のほうが勝ってしまう。
「じゃあそろそろ終了の時間だし測定してみようか」
田沼さんが時計をチラチラ見ながら皆に促す。
測定方法は単純で集術と同じく霊力を測り、凝術を使用した状態で再度測定する。
その差がどのくらいあるかでランクが決まる。
一番目は類家涼香さん。
彼女は一緒に合格した一月入学の三人目。
測定結果は5.4%。
ランクにするとFだった。最も低いランクだ。
どういう計算かというと、
凝術使用前の霊力が37
凝術使用後の霊力が39
最大霊力は39となる。
霊力上昇率が39÷37=1.054なので5.4%ということ。
凝術使用前と使用後の霊力差が10%以内の場合はランクがFということらしい。
そして、次は俺の番。
測定結果は0%。ランクなし。
要はできていないみたい。
「ふ〜ん」って感じ。想定内だ。
良く考えたら霊力5が6になったら20%アップなわけで、類家さんが5%そこそこなのに俺がそんなにあるはずがないのである。
でもさすがに「0」を目の前に突き付けられた時はショックだったけど。
大抵の合格者は小さな頃からコツコツと陰陽師のイロハを教わってきたものばかり。講習前から積んできた経験が違うのだ。しょうがないだろう。
そして、最後の御堂さんは18%で、ランクEだった。
ランクが高いというのは、それだけ体内で霊力を精錬でき、霊質を高められているということだ。
御堂さんと目があったので微笑んでみたが、気まずそうに俯いてしまった。
他人に気を遣わせている俺の霊力が憎い。
*
凝術の講義後、俺は休みなく修練場に通い続けた。たまに田所さんなどにも稽古をつけてもらい霊力の使い方もだいぶ分かってきた。
こっそり測ってもらったところ、5だった霊力は最近の訓練で8になった。
二週間で3アップというのが早いのか遅いのか分からないが、着実に強くはなっている。
回復霊力についてはまだ減ったことがないのでよく分からないが。
また、因縁のオヤジ1とのバトルについてだが…
普通に勝てた!
これで凝術も少しは増えてるといいな。
霊力の使い方が分かってきたので、十字受けも成功し見事な回し蹴りをクリーンヒットさせることができるようになった。
もうふっ飛ばされるはことはないので、最近はオヤジ2へとランクアップさせている。
霊力を使うというのは、常世から受け入れた霊気を逆に外へ出す作業。
コツを掴めば難しくないのだが、現世には存在しないため、始めのうちはかなり意識しなければできない。
現世で死を迎えた肉体は焼却や埋葬などといった手段で幽世に送られる。幽世に着いた肉体は霊化現象により徐々に霊体へと変化し、常世のある天に召されていく。
幽世内ではいたるところで霊体が浮遊し、長い列となって常世に登っていく。
この霊体の列は昔から『三途の川』と呼ばれているそうだ。
現世では『三途の川』を山から海に流れる現実的な川として描いている。
しかし幽世では、空を見上げると蛍のように光る何千何万という霊魂からなる『三途の川』が幻想的な光景を作り出している。
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