いずれ伝説の陰陽師〜いつの間にか有名人の後継者になってました〜

シマリス

第1話 謎の少女

 人は誰にでもちょっとしたマイノリティがあると思う。


 それは左利きだったり、ハーフだったり、食に対するこだわりだったり。

 先天的なもの、後天的なもの、人によって様々だろう。


 俺のマイノリティは他人に見えないものが見えること。つまり、普通の人よりも霊感が強いってことだ。


 今までそれで得するよりも損しているほうが多いように思う。


 幼稚園の頃は普通に見えたものを辺り構わずカミングアウトしていたものだが、気持ち悪がられると分かってからは一切口外しなくなった。


 見えた霊やら妖怪やらを怖がっていたのも小学生までで、特に自分に危害を加えられないと悟った小五の夏からは風景の一部と化していた。

 十九歳となった今では見えることが当たり前の日常になっている。


 大学生になって初の年越し。

 彼女などいた事のない俺はいない歴=年齢の同士達と三人で恋愛成就で有名な神社へと初詣にやってきていた。


 一月一日一時過ぎ。

 深夜だというのに辺りには屋台が立ち並び、新年となった興奮冷めやらぬ人達でごった返している。


 さっさと歩いていく二人を追って、俺も人と人魂を巧みに躱しながら、拝殿へと続く参道を進む。


 かじかむ手を上着のポケットに突っ込み、白い息で視界がぼやける中、二人を見失うまいと懸命に歩いていると、灯籠の横に佇む一人の少女が目に入った。


 体が神々しく発光しているその少女は明らかにこちらの世界の住人ではないと一目で分かる。


 霊というのは人魂だったり、ぼんやりと人や動物の形をしているものが多いので、普段はあまり目立たない。


 急に目の前に現れて驚かされることもあるけど、この距離であれほどはっきり見えるというのはとても珍しい。


(こんばんは)


 そんなことを考えながら歩みを止めていた俺の頭の中に女の子の声が木霊する。


(見えてるでしょ?)


 今まで嫌というほど見えざるものを見てきた俺でも話しかけられた記憶はほとんどない。


 ホラー映画なんかだと幽霊に襲われて忽然と姿を消したとか、身体を乗っ取られたとか、積極的に霊のほうからアピールしてくるイメージがあるが、実際にそんなことはほとんどない。


 同じ場所にいるのに気付いていない、お互いの存在を認識できていないといった感覚が近いように思う。


 突然の展開にどうしていいか分からず硬直していると、周囲の景色が徐々に茜色の光に包まれていく。


 時間が戻っていくかのような不思議な感覚。空はまるで日没直後の物憂げな雰囲気へと変化していった。


 外灯や屋台の明かりは消え、さっきまで真っ直ぐに歩くことすらままならなかった人ごみまで消え失せている。


「ふーん、初めてこっちの世界に入ったのに平然としてるなんて、やっぱりあなたの潜在霊力はかなりのもんね」


 周囲に気を取られている間に少女はいつの間にか俺の目の前へと近づいていた。


 声が頭の中に直接響いていた先ほどとは違い、今度は普通の会話として聴覚を刺激してくる。


「だれ?俺のこと知ってるの?」

「君のことは生まれた時から知ってるわよ」


 誰だこの子は?

 俺は過去の記憶を必死に呼び起こしてみたが、思い当たる節が全くない。


 見た目は明らかに七〜八歳前後にしか見えない少女の姿。霊的な存在だから容姿なんて関係ないということか。


「俺は知らないぞーって顔してるね。それはそうよ。会うのは初めてだもん。候補になりそうな人は早くから目星を付けてるの」


 候補?


「たまに怪しげなのに見られてるなぁって感じたことあるでしょ?」


「…」


 そう言われると、、


 よく見る人魂や霊とは違う笠をかぶった虚無僧のような人や、袴を履いた男がたまに家の前に立っていたような。


 物心ついた頃からの日常だったので気にしてなかったけど。あれは俺を監視してたってこと?!


「なんで? 何のために?」

「ある人の後継者を探しててね。私には潜在的な霊力を見極める能力があるの」


 俺の知らないところで勝手に観察するような得体の知れないやつを信じられるわけない


けど、、


 霊力が高いと言われれば確かにそうだ。

 だから誰かの後継者に選ばれた? 

 見ず知らずの俺が? 

 いや、彼女は昔から俺のことを知っていたのか。


 人生には何度かターニングポイントがあるというが、自分にとって今がまさにそうなのだとしたら。


 まだ見ぬ新しい世界。

 恐怖心、猜疑心とは違った未知への好奇心が俺の中に芽生えた瞬間だった。


「そのある人というのは誰なの?」

「史上最強の陰陽師! かの有名な『安倍晴明』よ!」

「……あべのせいめい」


 予想外の答えに一瞬少女の言ってる意味が分からなかった。

 やはりここが夢オチ確定フラグなのか?


 安倍晴明といったら、九字を切ったり、式神を操ったりしていた平安時代のスター的存在だよな? 新手な宗教の勧誘か?


「名前くらい聞いたことあるでしょ?」


「映画とかゲームにまでなってるくらいだから、もちろん多少は知ってるけど」


 かなり誇張され現代風に脚色されたフィクションだと思っているが。


「まぁ、ということなんで、君、え~と、加納賢吾くんはこの度晴れて第三百五十二代安倍晴明に選ばれました!」


 突然の出来事に混乱している俺など気にすることなく、少女は無邪気な笑顔でパチパチと拍手している。


 安倍晴明って、そんな総理大臣みたいなシステムだったのかよ。


 平安時代といえば約千年前。

 それで三百五十二代目とすると一人当たり平均三年弱という計算になる。


「後継者って何をする人なの?

千年間で三百五十二人ってちょっと入れ替わり激し過ぎじゃない?」


「代替わりの理由は……まぁ、いろいろよ。ただ陰陽師になって彼の力を受け継いでくれればいいだけ」


 いろいろって!

 一番知りたい部分なのに。


「任期でもあるの? 途中で嫌になって辞めていくとか?」


 それ以外に理由があるとすると、、

 最悪の結果が頭をよぎる。


「そんなもんないわよ。継承も一子相伝だから、そう簡単には辞められないし。あまり細かいこと気にしてないで、どうする? やる? やらない?」


「ちょ、ちょっと待って! そんなすぐには決められないよ」


 興味はある。確かに興味はあるんだけども。あまりにも唐突かつ不安要素もりもり過ぎて即答することができない。


 ハイリスクハイリターンの陰陽師か、ローリスクローリターンの平凡で安全な人生か。


 この話が本当なのだとすれば、まさに俺にとっては人生初のターニングポイント。


 これが俺と少女のファーストコンタクトであった。


___________________


読んでいただきありがとうございます!


面白い話がありましたら、タイトルページの目次の下にある☆評価もよろしくお願いいたします。何卒〜

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