第3話 一次試験

 迦具夜と出会って一週間。


 俺は朝早くから彼女の紙切れに書かれていた神社へとやってきていた。


 あの後少し考えてみたけど「案ずるより産むが易し」とも言うし、とりあえずやってみることにした。


 受け取った紙切れには目的地の神社の名称しか書いていなかったが、都内の結構有名な神社だったのですぐに分かった。


 境内はかなり広く、社務所にいた若い女性にそれとなく聞いてみたものの、あからさまに変な人を見る目で「分かりません」の一点張り。


 陰陽師のことで話を聞きたいと言われても少し前なら俺だって「はぁ?」って感じだったからしょうがないか。


 俺がしばらく途方に暮れていると社務所のほうから初老の男性が歩いてきて助けてくれた。

 さきほどの子は年始の臨時アルバイトの子らしく、何も知らなかったみたい。


 男性に迦具夜の紙切れを見せたところ凄く驚いた表情をしていたが、特に何も言われず試験会場へ。


 登録だけだと思っていたのに陰陽師になるには試験があるようだ。


 そもそも試験を受けるにも紹介状が必要らしく、受験者の大半は代々の陰陽師家系のご子息。

 ベテラン陰陽師などから紹介を受けた一般人が受験しに来ることもあるようだが、かなり稀らしい。


 迦具夜の紙切れでも大丈夫なのか聞いたところ問題ないとのことなので一安心。


 拝殿を抜け、普段は立ち入ることのできない本殿に入ると等間隔に机が並べられていた。

 椅子はなく座布団のみ。試験会場としては変わったスタイルだ。


 試験というのは何をするのかと思っていたら本当によくある筆記試験だった。


 机には問題兼解答用紙と鉛筆三本、消しゴム一個が置かれ、内容は陰陽師の歴史等についての穴埋めや記述問題。

 全百問、制限時間六十分とのこと。


 正直内容については当然ながら全く知らないことばかりだ。

 陰陽五行思想はなんとなく聞いたことがあるけど、陰陽寮成立当初の経緯や何とか陰陽道についてなど聞かれたって、さっぱり分からない。

 中には『芦屋道満の好きだった食べ物は?』なんて問題まである。


こんなもの絶対に受かるわけないでしょ!


と思ったのだが…


 始まってすぐにこの試験のカラクリ(趣旨というべきか)に気付いてしまったので、おそらく合格だろう。


 試験時間を十五分ほど残し見直しもバッチリ行ったので、暇つぶしに辺りの様子を観察。


 この場には四十人ほどの受験生がいる。

見た目は若い人が多く、というかそれしかいないぐらいでほとんどが俺と同じか少し下くらいの印象。

 男女比は半々といったところだ。


 頭を抱えている者、終了したのかお手上げなのか遠くを見つめ呆けている者多数。

おそらくこの試験の趣旨に達しなかったのだろう。


 ただそんな中、背筋をピンと伸ばし正座しながら前方を見据えている一人の女性がいた。


 終わったのかな? そうだろうな。


 あの雰囲気で試験を諦めて放心状態とは到底思えない。ということはあの人も合格か。


 カンニングを疑われない程度に他の受験生の様子を眺めているうちに試験時間が終了。


 試験はすぐに採点され、午後には合否結果が通知されるとのこと。

 場所はさきほどの社務所掲示板で「採用一次試験結果のご連絡」として受験番号が貼り出されるそうだ。


 今回の試験は一次試験だった。

 となると当然二次があるわけで。


 一次試験が筆記だったから次は実技試験かな? 自慢じゃないが身体能力には全然自信ないんだけど。


 お腹が空いたので、早めの昼食をとり二時間ほどして戻ってくると掲示板に早速さきほどまでなかった貼り紙がしてあった。


 俺の受験番号は19番。


 自信があってもやはり緊張する。

 ドキドキしながら結果発表を見ると…


 やっぱりあった!


 八人の合格者が記載された中に19番の文字がしっかりと書かれている。

 念のため何度も確認したので間違いない。


 他の人達はちゃんとした受験票が発行されていたようだが、俺は迦具夜の紙切れだけを頼りにここまで来たので、試験官に頼み机に貼られていた番号札を念のため拝借していた。


 ちなみに俺の試験の点数は百点満点中九十九点。見直ししたのに一つ書き間違えた。


 結果通知には点数も記載されていて、八名の合格者のうち百点が二名、九十九点が四名、九十八点が二名、九十七点以下は不合格である。


 なぜそんなに高得点が取れたかというと答えが書いてあったからだ。


 仕組みは分からないが、おそらく一定の霊力がある人しか見えないよう細工されていたのではないかと思う。

 用紙の右側に書かれた「以下の答えを書き写しなさい」という解答部分が見えるかどうかを確認することが今回の試験の趣旨。


 ちなみに芦屋道満の好きな食べ物は不明らしい。


 会場に四十人ほどいたので合格率はだいたい二割ってとこか。


 思い返すと、俺が終わった時点で必死に何かを書いている人よりも遠くを見つめ、ぼーっとしている人が圧倒的に多かった。


 陰陽師家系の子息であれば、どんな試験かは事前に知っているのだろうから、一か八かで受けに来た人が結構いたのかもしれない。


 例の正座美女は合格しただろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る