第40話 卒業式
一月三十一日
今日は俺達二月入学生の卒業式だ。
先週行われた卒業試験は何の問題もなく通過できた。しかし、他の支部の残り十二名のうち四名は基準に達しなく陰陽生延長とのこと。
内容としてはまず集術、凝術の数値を各自調べた。最初の時と違って公開検査ではなく、やり過ぎなくらい厳戒体制の中での確認だった。霊力が高いだけで卒業できるわけでもないらしい。
ちなみに、俺の霊力は1018、凝術ランクはDになっていた。
最初よりもかなり上がっているが、他の卒業生達がどのくらいの数値かよく分からないのでなんとも言えない。
その後は模擬厄体ジンガイ3との試合。
ここでは放術、操術、譲術の確認をした。
式神は必ず召喚しないといけないが、紫炎と百水が仲良く協力している光景を見て試験官が驚いていた。
試験官といっても俺の時は小田川さんと田沼さんだけだったけど。
そういえば先月の『卒業生選抜試験』は結局、未春の前に試験を受けた十七番走者が犯人だと自ら自白したそうだ。
ただ、はっきり言って真相は闇の中。
田沼さんも歯切れが悪そうだったが、本人が自白し陰陽師を辞めていったため、それ以上の調査が難航しているとのこと。
その後、未春は試験をやり直し、なんと全体の三位で試験を終えた。一年早いにも関わらず素晴らしい結果だった。
完走タイム:四分十五秒
厄消数 :十五体
卒業していないので、まだどのクランに入るか明かされていないが、いくつもの有名なクランからすでに
声がかかっているらしい。
それと、後継者教練『裏遍路巡り』の到達数は八箇所。残りの数は、、気にしないことにしている。
始式集術 二段
始式凝術 二段
始式操術 二段
始式放術 初段
始式譲術 初段
石見国で一度失敗した後、一ヶ月間ひたすら霊力の安定供給に取り組み、二度目の挑戦で無事にクリア。
次の凝術二段は志摩国の『天の岩戸』で行われた。
始祖の呼吸法『深皮呼吸』という技術を教わり、皮膚からの霊力集量を大幅に増やすことができた。
そして、操術二段で教わったのが『極硬』。
対馬国の壱岐対馬国定公園に指定されている浅茅湾は日本でも有数のリアス式海岸地帯。
そこから北西に少し行ったところにある『神ノ島』にて龍神でもある豊玉姫命の使徒なる方からご指導賜った。
霊力を体の一点に集め、その部分を超硬くする技だ。
首無し武者の攻撃を防げたのはこの技のおかげ。『極硬(左腕)』だ。
これも習得するまでにやはり一ヶ月くらいかかった。
あの時、刀を掴んだはいいものの次にどうすればいいか考えていなくて、田沼さんが来てくれたのは本当に助かった。
刀が振り下ろされる場所が分かっていたのと『極硬』があったから防げたけど、たぶんまともに戦っていたら今の俺では勝てなかったと思う。
下手したら二人で死んでいたかもしれない。あいつ頭無いくせにめっちゃ足早かったし。
「今日を持って諸君達は陰陽生を卒業し、正式な陰陽師として日夜活躍してもらうことになる。
情けない話だが、陰陽協会としてできることはもうそれほど多くはない。
これからは私達のために貴方達の力を貸して欲しい。宜しくお願い申し上げる」
小田川さんの挨拶が終了すると周囲がざわつき始めた。
今日は初回と同様に二月生十五名がここ東京支部に集まっている。
皆やはり一年前とは違って精悍な顔立ちになっている気がする。
小田川さんや田沼さんにとっては毎月の行事の一つかもしれないが、俺達にとっては新卒入社の社会人になったような気持ちだ。したことはないけど。
「私はもう所属するクラン決まってるんだぁ」
「えぇ~、いいなぁ。どこどこ〜?」
涼香が未春に耳打ちする。
「凄い!いいとこだね!涼ちゃんに合ってるよ!どうやって入れたの?」
「でしょでしょ〜、実はね、」
他の支部の者達もそれぞれが晴れ晴れとした顔付きで卒業の日を迎えられたようだ。
「加納くん!どうだい?正式な陰陽師になった気分は?」
話しかけてきたのは田沼さん。
「まだ実感わかないですね。ついこの間まで卒業できるか不安だったくらいですから」
「またまた〜、君が落ちるわけないじゃない」
「いや、そんな事ありませんよ」
「ところで、加納くんはどっちにするんだい?」
どっちとはなんだろう?
陰陽師か、就職かってことかな?
「僕はもちろん陰陽師として精進していくつもりですよ!」
俺は姿勢を正し、大先輩の陰陽師に返答する。
「違うよ。あの二人のことだよ」
と、田沼さんは未春と涼香のほうに視線を向ける。
「ど、ど、どうって?どうもありませんよ!
少し前まで中学生ですよ!二人は頼もしい同士ですから」
「本当に?明日からクラン入りしたら取られちゃうかもよ?」
「それは、二人が選んだことなら、それでいいんじゃないですか」
確かに今後は会うことも少なくなるだろう。明日からはお互いの道を歩むのだから当然だ。
だけど、何だろうこの気持ちは。
田沼さんに言われるまで気付かなかったこの感情。
それが誰に向いている気持ちなのかも今の俺には分からない。
でも俺には陰陽師以外のことを気にしている余裕なんてないんだ。
明日から何が待ち受けているのか検討もつかないのに休んでる暇なんてない。
俺の人生はこれから始まるのだから。
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