第34話 影獅子
我ながら、二発目の『流し雛』のタイミングは完璧だった。放たれた侍人形もある程度の軌道修正は自ら行うので、当たったことは間違いない。
そして、着地点に叩きつけられた狛獅子はバラバラに砕けた。
ここまでは紛れもない事実だったのだが、見るとその狛獅子はすでに元の状態へと戻っている。
いくら幽世内で壊れたものが復元するといっても明らかに早すぎる。
「今の連携はなかなか良かったぞ。なぜすぐ復活したのか不思議じゃろ。その謎を解明した暁にはお主に協力してやろう」
狛獅子が得意気な口調で言う。
完全に勝ったと思ったのに、あんなすぐに復活してピンピンしてるなんて。このままだと同じことの繰り返しになるかもしれない。
「霊力がなくなってしまってこの状態のまま続けるのは厳しいので、少し休憩を挟んでも良いですか?」
「ふふ、構わぬよ。実際の死合ではないからな」
「ありがとうございます」
俺は紫炎と百水を解き放ち、霊力の回復を図る。
どういうことだ。
俺はもう一体の方に目を向けるも、微動だにせず最初の地点から一歩も動いていないようだ。
やはりこちらも同じなのだろうか。
「混乱しているようだな。ではヒントというわけではないが、今度は選手交代してあやつに出てもらうか。次は儂が物見遊山と洒落込もうかの」
一分ほど経過し霊力が回復した。
秒間2ということは一分間で120回復
何もしなければ霊力量を気にすることなどないのだが、戦闘となるとわけが違う。
霊力が無くなったからといって敵が何十秒もじっと待っていてくれるわけもなく、回復するまで猛攻を耐え忍ばなければならない。
戦い方も考え直さないといけないけれど、今は教練のほうが優先だ。
すぐに交代したということは、もう一体もおそらく結果は同じだろう。
休み休み何度も試して探りを入れてみるしかないか。
*
三十五戦目。開始から丸一日が経過した。
もはや何が勝利なのか分からなくなってきた。
相変わらず俺達は何度も狛獅子に勝利している。
ある時は俺が、ある時は紫炎と百水がクリーンヒットさせているにも関わらず、壊れた体は十秒と経たずに組み上がり元に戻る。
たまに攻撃を受けて、紫炎と百水が討ち死にするが、三時間ほどで再召喚できることが分かった。
一体どうすればこの教練は終了するのだろうか。闇雲に戦っていても埒が明かない。何かあるはずなんだが。
「どうじゃ?降参か。別に後日出直してきてもいいのじゃぞ。」
出直したところで誰かに教えを請うわけにもいかないし、迦具夜に聞くわけにもいかない。そもそもそれを含めた教練なのだから。
「いえ、少しだけ時間をください」
二体同時撃破が鍵なのではと思ったのだが、狙ってやるのは至難の技だ。
しかも、それはすでに検証済。
先ほどたまたま撃った二発の『流し雛』が両方に命中したことがあった。
でも、二体は十秒後にやはり復活していた。
そうなると残された可能性は、
三十五戦してみての違和感。
それはまだ一度も二体同時に動いているところを見ていないこと。
一体ずつではどちらも全く違和感がないので、手加減されているだけとか思っていたのだが、どうもそれだけではない気がする。
誰かが操っている?
ただ、それらしい糸や人影も見受けられない。操るとしたら、あの二体以外にも誰かがいるわけなのだが。
あと考えられるとしたら、
「そろそろどうじゃ?」
「はい、お待たせしました」
いつもと同じく紫炎と百水が先行して攻撃を仕掛ける。隙を見て俺も剣撃を入れ三対一の構図。
相手は本気じゃないだろうが、これで今のところ対等。
いや、対等にしてくれているのか。
すかさず『流し雛』を打ち、二匹を引っ込める。少しの間、霊力の回復を待ちながら、二発目を放ち、一呼吸おいて三発目を放つ。
ここまでは同じ。
常に次の行動を予測して当たった時は一刀両断という仮初めの勝利だ。
またもや二発目は躱された。
いつもなら躱すであろう方向に前もって撃っていた『流し雛』。
しかし、今回は別の場所へ放ってみた。
狛獅子から大きく逸れたそれはぐんぐんと狛犬の下の地面に近付いていく。
すると狛獅子の影のある地面が盛り上がり、侍人形の刀が「ガチン!」と地面に当たった。
岩ではない。
そんなもので『流し雛』の刃は止められない。
良く見るとそれは真っ黒な獅子だ。
口を横に開き、侍人形の刀をその黒い歯で受け止めている。
「ようやく気付いたか。我は『影獅子』。稽古はこれにて修了としよう」
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