第27話 緊急依頼

 新学期が始まり学生達は落ち着きを取り戻してきた。


 俺も大学二年生。

 希望に満ちた初々しい後輩達はサークルの熱烈な勧誘を受けている。そんな光景を微笑ましく眺めながら一人家路につく。


 正直少し羨ましい。


 でも、俺は陰陽師一筋!

 脇目を振っている場合ではないのだ。


 陰陽五作も残すところあと一つ。来週が最後の講義となる。


 だが、


 今週は自主練の予定だったにも関わらず、田沼さんからグループラインへ緊急招集メッセージが届いた。


 集合場所は横浜駅。


 東京支部なのに何でまた横浜? と思ったのだが、何やら頼み事があるらしい。


 午後八時。

 電車に揺られること三十分。

 

 待ち合わせ場所に到着するとすでに三人は待機していた。


「おはよう!急に呼び出してすまないね」


 田沼さんは今日も元気そうだ。


 この業界では昼夜逆転することが常なので、夜の挨拶は「おはよう」が定番。


 未春と涼香は高校にも通っているため難しいが、俺は大学の講義をなるべく午後に集めて半逆転生活を送っている。


「おはようございます」


「おはよ〜」


 今日は金曜日だったので、未春と涼香も呼び出されたようだ。


「えっと、今回三人を呼んだのは厄消作業を手伝ってほしいからなんだよね」


「厄消しですか?」


「うん。今朝方、本部から神奈川支部に横浜駅周辺の定期浄化作業の依頼が入ったんだ」


「はい」


「六時半頃から始めて、いつも通り厄消作業をしていたんだけど、把握していた厄体の数と実際の数がかなり食い違っていたらしく、増殖のスピードが早いみたいで神奈川支部だけでは人手が足りなくて、俺が呼び出された。

 それでも、対象エリアが広くて手が回らなそうだから、三人にも手伝ってもらえないかと思って」


「私達三人だけでですか?」


 陰陽生が三人で業務を行っていいのだろうか。


「うん。東京支部でも人手が足りていなくてね。俺は西口方面を見るから君達は東口を当たってくれないかな。終わり次第そっちに合流するから。脅威度は2〜3って話なんで、強い厄はいないと思う。ただ数が多くてさ。この業界は常に人手不足なんだよ」


 申し訳なさそうな田沼さん。


「大丈夫でしょうか?」


 不安そうに未春が言う。


「未春がいれば何とかなるっしょ」


 相変わらずの涼香。


「単独行動しないように三人で行動しよう。危なくなったら幽世から出ればいいんだし」


 後継者教練でもなければ、日没から夜明けまで幽世の出入りは自由なはず。危なくなれば出たらいい。


「そう。危険を感じた時は誰かがみんなを連れて現世に避難してほしい。

 出る場所なんて気にしなくていいから危険な時はすぐにね。

 俺も何度か経験があるけど、これだけ人がいれば急に現れてもあまり気にされないもんだよ。錯覚かなぁみたいな感じ?」


 そういうもんなのだろうか。

 目の前にいきなり人が現れたら言い訳できないような気もするけど。


「分かりました。状況見て、人目のつかないところへの移動が難しかったら、そうします」


 まずは身の安全を第一に。誰も傷付かずに任務を完了しなければ。


「それと!今回はタダ働きじゃなくて報酬が発生するので安心して。

 仮免試験に合格して神社外活動も解禁されたし、加納くんはもちろんだけど、御堂くんも類家くんも高校生になったからね。アルバイト出来る年齢になったでしょ」


「是非お手伝いさせてください!」


 田沼さんの言葉に食い気味で返答したのはもちろん俺だ。


 陰陽生のうちは報酬が貰えないと思ってたのに、陰陽師訓練しながらお金を稼げるなんて最高じゃん!


「本来、陰陽生の実戦投入は極力しないんだけど、君達には期待してるし、早く厄消しに慣れてもらいたいから」


「任せてください」


 2〜3なら仮免試験の時と同じだ。

 数が少し多くてもなんとかなるだろう。


「何かあったらラインで連絡して。

ちなみに、正式な陰陽師よりも単価は下がるんだけど、脅威度1は1体浄化すると五百円、2が千円、3が三千円支給されるはず」


「マジですか!」


 これは結構割がいいんじゃないか。

 居酒屋だと八時間バイトしても一万円もいかないからね。


「やった!」


 金額を聞いて涼香も俄然気合が入ったようだ。


「本部のシステムは優秀だから霊力で個人を識別できるんだよ。

 だから、厄体が消滅した時に誰の霊力によるものかが分かるんだよね。

 それによって報酬が支払われてる。

 普通は振り込みなんだけど、君達はまだ口座登録してないからあとで現金支給するね」


 すごいなぁ。

 幽世にシステムが入ってること自体が驚きだ。エンジニアをしてる陰陽師でもいるんだろうか。


「エリア全体で厄体がどんどん湧き出てきていて、現時点で把握してるのは東口エリアに二十五体ほど。

 囲まれないように慎重に。あまり突っ込み過ぎないよう気をつけてね」


「「はい」」


「分かりました」


 今回の対象は横浜駅と構内施設。


 東口の主な浄化対象施設は駅と直結している十一階建てのファッションと美容関連の建物だ。


 俺達はまず地下二階から確認することにした。


「さっき調べたら終電が十二時三十五分だって。未春は何時まで居られるの?」


「私は終わったらお父さんが迎えに来てくれることになってるんだ」


「いいなぁ。うちの親父なんて。出てくる時にもう酒飲んでたよ。マジクソだわ!」


「そんなことないよ。急だったから。うちの車で一緒に送ってもらうように頼んでみるね。加納さんも良かったら一緒にどうですか?」


「ありがと! みはる〜」


「いいの? どうしよう。送ってもらおうかな」


 未春はやっぱり優しい。

 涼香も毎日学校があって終電まで陰陽師の仕事なんて大変だろうに。口は悪いところあるけど真面目だからな。

 今後のこともあるし、車の免許でも取っとくか。お金貯まったら。


 緊張感のないやりとりをしながら地下二階へと到着すると、蠢く何かが目に入った。


「あれは、ミカリバアサン!」


 未春が真剣な表情で言う。


「ミ、ミカリ、ミカリバ?」


 見ると小学生高学年くらいの身長の妖怪がフロアを彷徨うろついていた。

 その顔には大きな目玉が一つ。


「あれって一つ目小僧ってやつじゃないの?」


「目、でけえ!」


「呼び方は地域によっていろいろあって、一つ目小僧とかダイマナコなんて呼ぶところもあるみたいです」


「へぇー、そうなんだ。脅威度いくつくらいかなぁ。2か、3か」


「確か2だったと思いますよ」


「なら、余裕だね〜」


 こうして、東京支部二月生の初業務が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る