第36話 このまま行く訳がない
エイト達と別れて2日程、馬車は街道を進む。
今は山道を進んでおり、これから野宿が出来る場所を探している。
この辺りはまだ魔物も少なく、出てくるのは狼や猪といった低級の魔獣。
しかも、群れではなく多くても3、4匹で襲いかかってくるので俺にとっては運動にもならない。
「ザクゥ、今日はこの辺で休むぜぇ」
「わかった、薪でも集めてくる」
「へへ頼むわ」
ここまでは順調だな。
ロジックの行っていた待ち伏せは気になるが、あるとしたら…。
焚き火に当たりながら地図を広げ、考える。
この世界の地図は、大雑把なもので正確な縮尺の記載はないがおおよその地形は載っている。
俺達のルートは、このまま後2日ほど街道を進み、脇道に逸れて山道を進む形だ。
正式に他国へ行く事の出来ない商売をしている奴らが使うルート。だからこそ読み易いのではないか?
「この道を読まれている可能性はないか?」
「へへ、ザクよぉ。心配するなって。何箇所もこういった裏道はあるんだ。しかもこの経路は俺達のような奴等でも殆ど知られてないんだせぇ?」
「…そうか」
杞憂だと良いんだが。
---
2日後、山道へ入る。
馬車一台分くらいの道幅しかなく起伏が多く厳しい道。
まだ、荷台に乗っている俺は楽だが、馬はさぞ辛かろう。
「この山を越えたらやっとフローレンを抜けるぜぇ。そこからさらに二つ程国を跨げば目的地のスパルタスだ」
「ああ」
追っ手もなく、このまま行けば問題なく国外へ脱出だ。
しかし、やはりというか何というか。そうすんなり行くはずも無かった。
山道を進み、少し開けた場所に吊り橋が掛かっている。こういった後ろ暗い所がある人間が秘密裏に掛けたのであろう吊り橋。
そこに差し替った時に事は起こる。
「止まれ、ハギル」
「なんだよザクゥ、さっさと行っちまおうぜ」
「…待ち伏せだ」
「何ぃ!? 此処は知られてないハズだぞ!?」
「どうあれ事実だ。馬車を止めろ」
馬車を止め、荷台から降りる。
すると、岩陰から数十人現れた。殆どがローブを目深に被っている。まず間違いなく聖神教関係者。
そして、その中でも2人。とてつもない気配。
(12柱か…)
そのとてつもない気配を出している内、大柄で筋肉質、金色の短髪、鋭い目付きの男が声を掛けてくる。
「やっと来たかよ待ちくたびれたぜぇ。お前ら、どっちがザクルートだぁ?」
ロジックの言っていた事は大当たりだな。
待ち伏せされたか、情報は何処から漏れた…?
まぁ今はどうでもいい切り抜ける事を考えなくては。
「さぁ、誰だいそのザクルードって?俺達は行商だぜ」
「グハハ!しらばっくれるなよ、例え違ったとしてもココで殺すがなぁ」
どうあっても戦闘は避けられそうに無いな。
俺だけなら、抜けれる…か。
「ハギル、お前は逃げろ。包囲に穴を作ってやる」
「で、でもよぉザク。お前はどうすんだ?」
「俺1人なら、なんとかなる。が、お前まで面倒見切れん」
「そ、そうか…じゃあ…」
「あぁらここまで助かった。合図したら行け」
「なぁにコソコソ話してんだぁ? 逃げられやきねぇよ」
相手に聞こえないようにハギルと打ち合わせし、隙を探る。
前方吊り橋側に12柱と思われる2人、後方にローブの聖神教が10人ほど。あとは12柱の後方に待機か。
「まぁ誤魔化しても無駄そうだな。俺がザクルードだ」
「グハ!本当にガキだな、こんなのにミストラはやられたのかよ情け無ぇ!」
「油断するで無いぞ、本物じゃ」
残りの1人の小柄な老人が嗜めるように言う。
特にこいつがヤバい、立ち姿に一分の隙も無い。紛れもない達人。
「で、アンタらは?こっちは名乗ったんだ教えてくれるだろ?」
「あぁん?まぁ良いぜどうせ死ぬんだ。俺は【破壊】のオズマってんだ」
「ワシはオウガイじゃ。なぁザクルードとやら無駄な抵抗はせず大人しく捕まってはくれぬか?悪いようにはせぬ」
「何言ってんだオウガイよぉ。ダミアンからは確実に殺せって言われてるだろう?」
やはり、ダミアンの指示があるか。
一瞬頭に血が上りそうになったが、一呼吸し心を落ち着かせる。
この老人のほうは、俺を殺すつもりではないようだな。ダミアンの思惑と違う行動か…。
「大人しく捕まるつもりは無い」
「ほらな? 殺すしかねぇんだよ」
「……しかしのぅ」
「うるせぇんだよジジイ。ならそこで見てろや。俺が殺すからよぉ!」
どうやらローブの奴らは動かないようだな。このオズマって奴は大人数で襲いかかるのは嫌いなんだろう。
自分の実力に自信があり、何者よりも強い自負。典型的な協調性のない独立した個。そこが隙になるか…。
ただ、その力は本物だろう。
「あぁ、後1つ教えてくれるか?冥土の土産に」
「あぁ?なんだ!?」
「なんでここがわかった? ダミアンはどうした?」
「2つじゃねぇかよ。まぁ良いぜどうせ死ぬしな」
単細胞だな情報くれるようだ。
「単純にここ以外の国外への道に張り込みしてるだけだせぇ。ダミアンは別の場所だ。お前、運が悪かったなぁ俺の所に来ちまうとはよぉ」
裏切りは無いか。良かった。
「運が悪い? 逆だろ。お前のような単細胞の所で良かったよ。色々教えて貰えたしな」
「なんだとぉ!?」
「ククク、言われておるのうオズマよ」
「っ殺す!」
オズマが踏み込んで来ようとするタイミングで俺も一瞬前に出る。
先手を取られた形でオズマは迎え撃つ体制を取るが、俺は反転し後方のローブの集団に突っ込む。
「あぁん?」
「行けっ!ハギル!!」
ローブの集団は、まさかこちらにくるとは思っていなかったのか棒立ちだ。
それなりに使う奴らなんだろうが、完全に隙をついたから何も出来まい。
そのまま数名を打撃で昏倒させ、やっと動き出しナイフを取り出して俺を殺そうとするが遅い。
(最初から武器は出しておくんだったな)
後方にいたローブ集団を蹴散らし、ハギルの馬車は包囲を抜ける。
それを見て、振り返り告げる。
「じゃあ、殺り合おうか」
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