第21話 瞬殺と静寂
「それでは、ザクルード選手の入場です!」
実況とか居るのか、凄いな…うわ!大型テレビみたいなのもある!!
はぁー、関心したわ。こりゃ前世と引けを取らないくらいしっかりしてる。
昔でた合同試武祭とは雲泥の差だな。当たり前だが。
これは、やる気出てきたぞ。
「続いて、リパー選手の入場です!」
「「ウオオォォォー」」
俺の時はまばらだったが、入場ですげぇ盛り上がりだな。まぁ、今の俺はどう見ても噛ませだからな。
「えー、本来は年齢差もあってのハンデ戦だったのですが、ザクルード選手がそんなものは必要無い!と、断ったそうですね」
「いや、勇猛というか無謀というか…大怪我がないように祈りましょう」
ハンデェ?聞いてないし、必要無いなんて言ってねぇ!
いや、必要ないよ?ただ、勝手にさぁ……あの男だな。まぁ良い。若干だか観客も盛り上がった。
相手のリパーとかいう奴と対峙する。
「何だ、こんなガキが相手かよ…オイわかってんな?」
「は?何をだよ?」
「テメーは俺様の強さを披露するサンドバックなんだよ、すぐにギブアップなんてすんじゃねぇぞ?」
ふーん、そういう感じね。
出来るだけ長く痛ぶって、残虐振りとかヒール方向で売っていきたいのかね。
「わかったな?テメーみたいなガキはそんくらいしか役に立たねぇんだ。せいぜい俺の為に働けよ?」
「…」
顔は微笑みを浮かべつつ、平静を装っているが、こめかみにピキピキと血管が浮き出てるのが自分でも分かる。
こいつ、ムカつく態度が過ぎませんかね。
気に入らねぇ。
こっちも初めての闘技場だから、長く楽しもうと思ったが止めた。
この場の全員、度肝抜いてやるよ。
ごぉんと大きなドラの音が響き渡り闘いが開始される。
「さぁ!かかってこいガキ!」
「…黙れ犬」
縮地で近付き、そのままガラ空きの顔面に右手で掌打。
同時に左で相手の膝裏に引っ掛け引き寄せる。
仰向けに倒れた相手にマウントポジション。
状況が掴めてないのか呆然としている。
「…は?…え?」
「すぐにギブアップなんかすんじゃねぇぞ?」
鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌
見かねた審判がドラを鳴らして試合を止める。
一切誰も喋らない静寂、ドラの残響のみがこの場唯一の音だった。
数瞬後
爆発的な歓声、悲鳴、怒号。まさに喧喧囂囂である。
物まで飛んでるじゃねぇか。賭けに負けたなアレは。
倒れてる狼男は、ピクピクしてるが絶賛気絶中である。聞こえ無いだろうが、お礼は言っておかないとな。
「ありがとうよ、お陰で俺の強さを披露出来たわ」
---
「す、凄過ぎるー!!ザクルード選手正に瞬殺!!」
「いやぁ信じられません。言葉を失うとは正にこの事ですね」
「そう!会場全体、全員言葉を失ってしまいましたね!」
「相手のリパー選手も移動の疲れなどあったのかもしれませんが、ちょっと格が違う闘いでした」
「大番狂わせですね、これは賭けが大変なことになってそうです! 損した人が大多数なのではないでしょうか?」
「…え、えぇ……そ、そうですね」
「あれ!?…まさか」
---
控え室に戻ると、左目に大きな傷の男が待っていた。
「驚いた、ザクだったな。お前化け物だったか」
「ちょっと早過ぎた?向こうの魅せ場も必要だったか?」
「いや…問題ない。俺はサルヴァだ。今日は儲けさせてもらった。ほら、お前の金だ」
パンパンになって戻ってきた革袋を受け取る。
「儲させてもらったって、アンタも俺に賭けたのかよ?」
「ああ、お陰でこれからが楽になりそうだ」
「随分無茶したなぁ、良く賭ける気になったもんだ」
このサルヴァという男、見た目で判断せず己の直感とかそういうの信じるタイプか。
何だろうな、悪人だが、悪い人間じゃないように思える。
これからも闘技場に出るつもりだし、繋がりは持っておいて損はないだろう。
「じゃあ、俺はこれで」
「あぁ、帰りは悪い奴に気を付けて帰れ」
「アンタが言うな」
「クク、冗談だ」
「あー、次はもっと強い奴いるなら呼んでくれ。普段は冒険者してるからギルドに言えばいいと思う」
さて、今日一日でゴロツキ兵士をボコしたり祝福に行ったり、闘技場に出たりとイベントが盛り沢山だったなぁ。
闘技は消化不良だし、帰って鍛錬しよう。
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