第33話 王都での一幕

ザクが貴族の館で大暴れし、村へ向かった時。

王都にある聖神教の本部でダミアンは報告を受け取っていた。


余計な物が無い、清廉なダミアンの執務室。

小さい水晶のような物を額に当て、ここにいない誰かと話をしている。通信用の魔道具の一種である。


「そうですか、逃げられましたか」

『私だけでは押さえる事は不可能だと判断し、報告を優先しました。申し訳ありません』

「仕方ありません。徒手とは言え【至近】のミストラと互角の闘いをするのですから」

『行方は知れません。国外に出る可能性もありますが…』


ふむ、と一息ついたダミアンはこう返す。


「まだ国外へは出ていないでしょう。手段も無いでしょうし国境付近には既に通達をしてあります」

『では、如何致しますか?』

「国から出る線は恐らく間違ってはおりません。今はその準備というところでしょうか。貴方はそのままファルトの街で、天昇の道という冒険者のパーティを監視してください」

『冒険者ですか?』

「ええ、そのパーティには元聖神教司祭のロジックという者がいます。コンタクトを取っても良いかも知れませんね…」


逃すわけには行かないとダミアンは思う。

貴族での大量殺人を行った事から、既に堕ちてしまっている。このままでは200年前の悲劇が繰り返されてしまう。


「とにかく、何か進展が有れば連絡しなさい」


と言って通信を切る。


さて、念には念を入れないといません。とダミアンは思う。


「王にも協力して頂きましょうか。これは神の御意志でもあるのです。喜んで手伝っていだだける事でしょう」



---


この国フローレン王国では聖神教の影響は非常に大きい。

王でさえ、教会には強く言えず。ある意味教会の権力下にこの国はあった。

勿論、それを良しとしている者ばかりでは無いが。


そんな王宮の一室。

王命により直ぐに王宮に赴ける12柱が集められていた。


「ふむ、集まったのは6名ですか。嘆かわしい事です」


この集会を発案したダミアンはそう言ってため息を漏らす。


「急であったからな。して王よ、今日は一体何故儂等を集めたんじゃ?火急との事じゃったが」

「うむ、実は儂も詳しくは知らぬのだ。ダミアン司教によればこの国を揺るがす一大事であるとの事だが」


【神技】オウガイが王に問い掛けると王も知らないと言う。


「どうでも良いけどよぉ、こっちは忙しいんだよ。早く本題に入れや」

「ふん、貴様はどうせ暇だろうが」

「あぁん?ヤんのかこコラ!?」

「まぁ、落ち着きたまえ君達」

「うるせぇよ、10歳のガキにやられた奴が偉そうによぉ」

「ほぉ、なんだい喧嘩を売っているのなら早く言ってくれたまえよ」


周りに噛み付いているのは【破壊】のオズマ。

【火焔】のヒバナとの喧嘩の仲裁に入った【至近】のミストラだが逆にオズマと喧嘩になりそうであった。


「や、やめましょうよ…王宮ですよ…?」


気弱に止めようとする女性。

彼女は【創生そうせい】のアンジェラ。魔道具発明の天才である。


「して、ダミアン司教。今日は司教の発案でこの集会なワケだが。本題を聞こう」

「ええ、わかりました」


そう言って集会の本題を伝えるダミアン。

それは随分と懐疑的な内容だった。


「オウガイ老とヒバナさん、ミストラさんは当事者なのである程度わかると思いますが。ファルトの街でザクルードと言う子供がいます。

彼は異常な強さでミストラと互角以上の闘いをしました。明らかな異常性を感じた私はその強さは異能によるものかと思いファルトの教会に赴きました。

そこで得た事実は正にこの国に危機をもたらすものでした」


「笑えるぜぇ、なぁミストラさんよぉ。どんな気持ちぃ?」

「黙たまえオズマ。君では彼には勝てないよ」

「なんだとぉコラ!俺がガキに負けるってのかぁ!?」

「静かにしろ、お前ら。まだ途中だ」


「さて、教会で得た事実というのが。彼は異能の祝福を受けたそうなのですが、祝福が弾かれたそうです」

「何と…誠か?」

「それは、なるほど…ダミアンが僕たちを集めるのも納得だ」

「あぁ?弾かれたから何だってんだぁオイ」

「あ、安心して下さいオズマさん。私も良く解ってないです…」


はぁ、と呆れた様子でオズマを見やるダミアン。

首を振り、残念そうな表情をする。


「な、なんだぁ?弾かれたからなんだよオイ」

「嘆かわしい…それでも12柱ですか…仕方ありません貴方にもわかるように簡単に説明します」


聖神教に残されている伝承と200年前に世界を恐怖に陥れた魔王の関係。

掻い摘んでダミアンは説明する。


「つまり、ダミアン司教はそのザクルードという子供が魔王になると?」

「そうですとも王よ。事は一刻を争うのです」

「しかし、そうと決まった訳ではないだろうダミアン」


ヒバナがそう言うと、待ってましたとばかりにダミアンが続ける。


「つい先日ファルトの街で起こった伯爵子息と兵士合わせて58名の命が奪われた悲劇があったでしょう?あれはこのザクルードが起こした悲劇なのですよ!」



犯人まで判明していなかった、壮絶な事件。

その真相がここで暴露された。


ザクルードが孤児院について4日後の事である。




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