第32話 感謝の正拳突き
「ザク!起きなさい!朝ご飯よっ!」
部屋の前から声が聞こえる。朝から煩いな…。
部屋を出ると、昨日のカミーラが居た。
「おはよう!朝ご飯が出来てるわよ」
「…ああ、わかった」
「また、寝惚けてるようね。寝癖がたってるわよ?先に顔を洗って来なさいよ」
なんなんだよ、会ったばかりなのに保護者気取りか?まぁ、良い。
庭にある井戸で顔を洗い、カミーラに案内されるまま食堂に連れられる。
「おはようザク。良く眠れたかしら?お腹が空いているでしょう?質素で申し訳無いけど食べて頂戴」
「ああ、すまないマザー。世話になる」
1つのパンと野菜の入っているスープ。
孤児院だから贅沢は出来ないのだろう、質素ではある。だけど、暖かく懐かしい……。
「ザク…?泣いてるの?」
「泣いている?俺が?」
気付けば確かに涙が溢れていた。
気恥ずかしくなり、乱暴に目元を拭う。
「何でもない、気にするな」
「そう?何かあったらアタシに言いなさいね。アタシのがお姉さんなんだから」
「お姉さんだと?何故?」
「だってザクは10歳って聞いてるわ。アタシは12歳だからお姉さんよ」
あぁ、このくらいの年頃は年下に大人振りたい頃か…。精神年齢は俺のが相当上なのだが。
「クク、パン屑を口の周りに付けてるのがお姉さんとはな」
「なぁっ!? うるさいわねっ!」
真っ赤になって口を拭くカーミラ。
元気な女だ。
「ザク、サルヴァは昼過ぎには来るようよ、ここから出るのはダメだけど、院の中は自由にしてちょうだい」
「ああ、マザー。わかった」
「なら、アタシが案内してあげるわ。ご飯食べ終わったら行くわよ!」
うるさいから1人で部屋にいたいのだが…。
鼻息荒く、随分やる気になってるのを断るのも悪い気がするな…。仕方ない付き合ってやるか。
「…じゃあ頼む」
「任せなさい!そうと決まればさっさと食べるわよ」
「…ゆっくり喰わせてくれ」
朝食を平らげ、急かすカーミラに手を引かれ院内を巡る。
途中、物影からこちらを伺う俺と同じくらいの子供が居た。
「…アイツは?こちらを見ているか?」
「え?何? あー!カミーユ!ちょっとこっちに来なさい!!」
聞くと、カーミラの弟で助けた時に一緒にいたようだ。
(そういえば居たような気もする…)
じっと見つめて来るので、何か言いたい事があるのか?
すると、カミーユが口を開く。
「あ、あの…その…」
「…なんだ?」
「あの…あの時は……アリガトウ」
声小さいな。オドオドしすぎじゃないか?
「もう!カミーユ!お礼言うならはっきり言いなさいよ!」
…この姉のせいか。姉が五月蝿い反動でこうなってしまったのだろうか。
しかし、まだ見られてるな?
「まだ何かあるのか?」
「あ…その……」
「ハッキリしなさいっ!!」
「ど、どうしたら貴方のように強くなれますか!?」
強くか…。
そうか、お前から見たら俺は強く見えるのか。
少し、考えた俺はカーミラに尋ねる。
「身体を動かせるような、少し広い場所はあるか?」
良い所があるわ。とついていくと、裏庭のような場所につく。
「ココなら他の子供たちも来ないし、大丈夫よ」
別に他の子供がいてもいいんだが、何を勘違いしているのか目をキラキラさせている。
(必殺技とか見せてくれるとでも思っているのか…)
「まず、カミーユだったか。強くなりたいって言ったが何でだ?」
「そ、それは…その、この間みたいな時に…お姉ちゃんを守りたい」
「それは、俺がやったみたいに倒してしまいたいって事か?」
「そ、そうです!」
そうか…姉を守りたいが守り方がわからないのか…だから俺のように相手を倒す事になってしまうのか。
「まず勘違いしているようだが俺は弱い。言っておくが、俺がこの間あのクズ兵士共にしたのは暴力であって……伝え方が難しいな……まぁ強さにも色々ある」
(そう、俺は弱い。武力という面では強いのかもしれないが、コイツの言うような守れる強さは無い)
「そういう意味では、お前の姉を守れる強さはそれこそココのマザーの方が俺よりも強い。ただ、どうしても暴力、武力が必要な時も確かにあるだろう」
カミーユは黙って俺の話を聞いている。
そう、俺に足りない強さは、武力は勿論のことだがそれ以外の力が必要だ。それが準備か……。
「お前が姉を守りたいのなら、あらゆる力をつける必要がある。それは頭の良さ、仲間、人脈、色々あるだろう」
「ただ、さっきも言ったがそれだけでは対処できない時に武力の行使が必要な時もあるが。例えそこで相手を倒しても、次はもっと強い奴が出てきて守りたい物も守れなくなる時もある」
俺は、既に経験した。
「だから、本当は武力は最低限自分を守れるくらいで十分だ。ただ今はそれすら難しそうだな…。1つだけ見せよう」
右手の甲が地面に並行になるように腰に添え、拳を作る。左手は前へ伸ばしている状態。
膝を曲げ、腰を落とし息を吸う。
短く息を吐くと同時に後足を蹴りつつ捻る、腰も足の動きに連動し周り、伸ばした左手を引き、腰に添えた右手を手の甲が空を向くように捻りつつ突き出す。
ボッ!という局地的な突風が吹いた音が鳴る。
「正拳突きだ。まずこれを練習し、いつどんな時でも即座に出せるようになれば。まぁこの間の兵士くらいはワケない」
「…す、凄い」
「…綺麗……格好良い……」
何か言っているが良く聞き取れんな。まぁ良い。
お陰で俺に足りない物も見えた。
もっと強くならなければ。
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