第31話 孤児院とうるさい女の子
怒りは未だに収まらず、復讐という黒い感情に支配されているが少し冷静になれた。
準備か、確かに今のまま感情に任せて突っ走った所で途中で死ぬであろう。
サルヴァに街に戻る途中、現在俺が置かれている状況を聞いた。
まず、伯爵の次男と大勢の兵士を殺害したことでお尋ね者である事。
教会が異端者として追っている事。
このままでは近いうちに捕まり処刑されるであろう事。
予想は出来たが…犯罪者か…。
「そんな状態で街に戻って大丈夫なのか?」
サルヴァに問い掛ける。
街に入る際に即御用なのではないか?と。
「大丈夫では無いがな。数日なら問題ない」
サルヴァも教会側とグルで俺を嵌めようとしている可能性も考えたが、それならば村に1人で来る必要が無い。その可能性は低いだろう。
ここはサルヴァに従っておくか。
街に向かう途中、道を外れ森の中を進む。
まだ街まで距離があるが…ここに何かあるのか?と考えていると小さな建物が目に入る。
簡易的な山小屋のようだが…。
「…この小屋はなんだ?」
「ここから街に入るぞ」
中に入ると目に包帯を巻いた男が1人、簡素な木の椅子に座っていた。
扉の開く音に反応し立ち上がる。
「おかえりなさませ、サルヴァ様」
「馬は外にいる、任せた」
「はい、承知しました」
盲目か、この声…。
「アンタ、鼠の人か?」
「そうでございます、初めましてザクルード様」
雰囲気的にサルヴァの部下、それも腹心に近そうな立場の人間だな。こいつがサルヴァの目か。
小屋の床の一部、キッチンの床下収納のような部分を持ち上げると地下への入り口が現れる。
「…こんな物作ってるのか」
「行くぞ」
地下に降り進むと、物が腐った匂いと排泄物の刺激臭がしてきた。
(下水道か…)
酷い匂いを我慢しながら進み、ある地点で地上へと出る。
そこは、何処かの部屋の中だった。道具や食料が棚に積まれている。
サルヴァはそのまま倉庫のような部屋から出て、廊下を進み、また別の部屋の中に入る。
その部屋には温和そうな老婆の姿があった。
「あら、サルヴァ。早かったわね」
「マザー、コイツがお願いしていた奴です。暫くお願いします」
「えぇ、わかったわ。私はマリア、マザーと呼んで頂戴。貴方のお名前は?」
「…ザクルードです。此処は?」
「此処は孤児院よ。貴方の事は多少聞いているわ、大変だったわね。短い間だけど、ゆっくりして行きなさい」
孤児院か。サルヴァとどういう繋がりだ?こんな裏社会の男が。
そう思い、サルヴァを見ると何故かバツが悪そうに明後日の方向に顔を向けている。
「ふふふ、サルヴァはね。此処の出身なのよ、今も何かとお世話してくれるのよ?」
「そうなのか?意外だな」
「……俺は準備があるから失礼する。明日また来るから大人しくしておけ」
言うや否や部屋から出て行くサルヴァ。
恥ずかしがってんのか?似合わねぇ。
「それじゃ、此処を案内致しましょうか」
マザーはそう言って立ち上がり、孤児院を案内すると言う。
途中、広い部屋があり目線を向けると、子供たちが10数人椅子に座り正面に立つ女性の話を熱心に聞いている。
教室と何かの授業か…。
そう思って見ていると、赤茶色の髪を後ろに纏めた活発そうな女の子と目が合う。
すると、その子はいきなり立ち上がって叫んだ。
「あーーー!!!アンタは!何でここにっ!?」
「カーミラ、授業中ですよ?」
「う…ごめんなさいステラさん。でも…」
大声を出した子に注意する先生?の立場の女性。
俺を見て叫んでいたが、既に俺の人相などが孤児にすら出回っているのか?だとすれば此処に居る事は得策では無いが…
「あら、カーミラ。もしかしてこの子?」
「あ、マザー!そうよ!この人が王子様なのっ!」
お、王子だと?
何言ってるんだコイツは…?
んん?何処かで見たような……あぁ、思い出した。
「兵士に絡まれてた時の…」
「そうよ!あの時アナタ名前を言わずに言っちゃったじゃない!教えてよ!?あと何歳なの!?ここに居るって事はこれからアナタも住むの!?」
グイグイ来るな…。
ちょっと恐怖を覚えるんだが。
「俺はザクルードだ。ザクでいい。あと少し落ち着け」
「そ、そうね。ごめんなさい…。改めて言うわ、あの時はどうもありがとう」
感謝か…。俺はそんな人間じゃない。何人も殺した。俺のせいで母も村のみんなも……。
胸の奥が痛い、心が荒れる。
「あ、あの大丈夫?」
「……ああ、気にするな。たまたまだ」
「さぁ、みんなはお勉強を続けなさい。ザク、アナタはこちらへ」
マザーに言われ、俺の部屋だという場所に連れて来られる。
「何かあれば声を掛けてちょうだい。今は少し休みなさい」
「…わかった。すまない」
部屋にあったベッドに横たわり、目を瞑る。
疲れていたのか、すぐに微睡んできた。
(…先ずはこの国を出て、もっと力を付けなければ……俺は…ぜ……めない…かな…ず……して……)
必ず復讐してやる。
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