第40話 知らない天井だ
……ここは?俺は生きているのか?
目が覚めると簡易的なベッドの上で寝ていた。骨折していた左腕には添え木と包帯が巻かれている。
誰かが助けてくれたようだな。
賭けには勝ったか。しかし、ここは何処だ?
窓から見える景色は生い茂る草木。
森の中?か。
「ああ、気が付いた?」
声がする方に向くと、妙齢な女性が果物が入ったカゴを持ち立っていた。
特徴的なのは耳が長く尖っている、ファンタジー世界のエルフとそっくりだ。
(いや、そういやファンタジーな世界だったな)
「アンタが助けてくれたのか、ありがとう」
「良いのよ、川に水汲みにいったら貴方が流れ着いてたんだもん。ビックリしたわ」
「そうか…それで、此処は何処だ?今は何日だ?」
「まぁまぁ、その前に。私はグィネヴィア。グィネヴィア・ツア=ギクル。見ての通りエルフよ。
まぁグィネでもヴィアでも呼び易く呼んでね。それで、貴方は?」
「ザクルード。ザクで良い。それでさっきの質問だが」
「じゃ、食事しながらにしましょ。お腹空いてるでしょう?」
やはり、エルフだったか。
まぁだからと言ってどうと言う事はないが、初めて見たな。
エルフは美形ばかりとエイトから聞いたことはあるが、なるほどこんなのばかりなら納得だ。
追っ手が来る事を考えると時間は無いが、食事しながらと言うならお言葉に甘えるか。
現状の把握をしなくては。
このグィネヴィアと言う女性曰く、ここはフローレン王国の隣の国サイダルと言う国らしい。
森の中に家を建てたのは、単純に街中よりも落ち着くからだそうだ。
「ほら、私って人間から見ると美形じゃない?だから街だと色々声掛けられてウザいのよ。まぁ、悪い気はしないけどね、美しいって罪よねぇ。ザクもそう思うでしょ?」
「知らん。それで今は何日だ?」
「今日? 今日は3陽の16日だけど?ザクを拾ってから何日経ったか知りたいの? 貴方拾って3日よ。大変だったんだから、貴方見た目によらず重いのね。ちょっと引きずっちゃったわ、ごめんね?」
16日…。崖に落ちてから4日経っているのか。
此処があの山からどれほど遠いかは不明だが、早めに移動は必要だな。
「…感謝する。引き摺ったのは気にするな。
悪いが、見ての通り何も持ってないから礼は出来ない」
「あぁ、良いのよお礼なんて。何も無い日常も良いけど無さすぎて暇だったから。ザク拾った時はドキドキしたわ、日常には刺激も必要よね。
それで、貴方は何で川から流れてきたの?
というか、何処からきたの?
あと、1人なの?旅の途中?何処まで行くの?」
立て続けに質問してくるな。
孤児院のカーミラに似てる所があるな、女はみんなこうなのか…?いや、アレッタなんかは逆に意思疎通困難なほど言葉少ないな。
さて、どうするか…。聖神教の関係者には見えないし、悪い奴じゃ無い。正直に話しても問題ないか。
「グィネヴィアは「グィネで良いわ」…グィネは聖神教は知っているか?」
「知ってるわよ、アイツら嫌いだわ。エルフは精霊信仰だからってすぐ異端扱いしてくるんだもん。やんなっちゃうわ。何?ザクは聖神教の人なの?」
そうか、エルフは異端扱いされる側か、ならば問題無いな。
「逆だ、俺は聖神教に追われてる。異端者扱いでな。聖神教は俺を始末したいんだそうだ」
「ふぅん、聖神教がそこまでするなんて、よっぽどの事ね。もしかした、ザクは邪教徒だったりして!?」
「邪教徒が何かは知らないがな…あと俺は犯罪者だ殺人のな。だから国を出た、旅の途中だ」
「殺人…」
グィネヴィアは殺人と聞いて、少し緊張したようだ。仕方ない事だがな。
「そういう訳で、急ぎ出発する。手当てして貰い感謝する。いつか、機会があればこの恩は返す」
「…恩は返さなくて良いわ。でも教えて、貴方くらいの年齢でどうして殺人なんて…?」
「故郷の村が滅ぼされた、その復讐だ。今もその途中でもある」
「なるほど、そういう事ね…」
グィネヴィアは事情を聞いて納得したのか、俺を目を真っ直ぐに見てくる。
少し気恥ずかしいな…同情や憐れみでもなく、ただ真っ直ぐに心配してるような目をされると…。
俺の目は復讐という暗い気持ちで濁っているから、それを悟られたく無いのかもしれない。
気まずいので目を逸らす。すると俺の手を握って言った。
「辛かったでしょう。聖神教に追われてるのもわかったわ。此処は滅多に人も来ない森の中だし安全よ。急いで出発する必要もないわ、ゆっくり休んでからでもいいじゃない」
「そういう訳にもいかない。いつ追っ手が来るかもわからないんだ。これ以上迷惑を掛けるつもりはない」
「迷惑なんて思ってないわよ。でも今日は起きたばかりなのよ、明日にしなさいね」
「何故そこまで見ず知らずの人間に親切にする?」
すると、グィネヴィアは微笑んで言った。
「うーん…ザクだからかしら?」
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