第41話 俺達の冒険はここからだ

「俺だから? どう言う事だ?」

「うーん、私達エルフは精霊を信仰しててね。声が聞こえるのよね」

「それで?」

「ザクは良い人だって言ってるから、それにまだ子供だしね。心配しちゃうじゃない?」


精霊の声か、エルフってのは凄いものだな。

しかし、良い人か…笑ってしまう。良い人である事は良い事だ、悪い人よりは。

ただ、俺が目指すのは良い人では無い。


「…まぁ言いたい事はわかった」

「じゃ、ご飯の続きにしましょ。明日出発するのよね?朝早く起きる?」

「あぁ、早めに移動するつもりだ」

「そっか、じゃあ支度しなきゃ。忙しい忙しい」


支度?何を言ってるんだ?

俺の持ち物なんてほぼ無いから、支度も何も無いんだが。


「何の支度だ?」

「え? だってザクは旅するんでしょう?色々準備しないと大変じゃない」


何だ、何か用意してくれるってのか…?

そこまでしてもらうのは心苦しいが、旅の準備はあった方が良いな。

好意に甘えるとしようか。


「そうか、悪いな」

「?? …まぁいっか、食べよ」





次の日。朝早く起き、体調を確認する。

まだ、骨折による微熱があるが概ね問題なさそうだ。


「あ、起きたんだ。早いね」

「あぁ、繰り返しになるが、助かった」

「ううん、全然いいのよ。あ、出発はちょっと待ってね」


そう言って、何やら自分の部屋へ行くグィネヴィア。

まだ、何かあるのか…?

なるべく早く出たいんだが。


時間にして10分程だろうか、グィネヴィアが大きなリュックを背負って戻ってきた。


「お待たせ。じゃ、出発しようか。ところで何処行くの?」

「…待て。ちょっと待て。お前もしかして…?」

「うん。一緒に行くのよ? 当たり前じゃない」


何が当たり前か。


「何故ついてくる。昨日会ったばかりだぞ?理解出来ない。というか、俺がアンタを信用出来ていない」

「『出来ていない』んでしょ?これからすればいいじゃない。あとね、ついてく理由は精霊の声もあるけど、勘かしらね」

「……その勘は狂ってるぞ」


ダメだ。この目、何を言ってもついてくる目だ。


「説明はしたが、俺は聖神教に追われてるんだ危険な目に遭うぞ?」

「大丈夫、私結構強いのよ? まぁ、何を言われても支度もしちゃったし、ついていくけどね」

「…この家を捨てるつもりか?目的地は近くない、もう戻っては来れないぞ?」

「それも大丈夫よ。私もだいたい2年位したら転々と旅をしてるし、この家も仮の家だから良いのよ」

「…もう知らん、勝手にしてくれ」


グィネヴィアの言葉を信じるなら聖神教とは対立側の人間という事だし、もし聖神教側なら手当てする必要も無いだろう。

どうせ何を言ってもついてくる気なんだ。勝手にしてもらおう。


「それで、ザクは何処に向かうの?」

「スパルタスという国だ。そこで俺はもっと強くなる」

「ふーん、スパルタスね。野蛮な国だよねぇ、力こそ全てって感じで」

「気に入らないならついてこなくていい」

「何よ、別に気に入らないなんて言ってないじゃない。全く素直じゃないんだから、1人より2人の旅のが楽しいでしょうが」


気楽な1人旅の方が割と楽な気がするんだが…。

どうもこいつは楽観的というか、何というか捉えどころが無いな。

エルフだし、長く生きているとそういう感じになるのかね。


「そういえば」

「なになに?どしたの?」

「お前「グィネ」…グィネは何歳なん-!?」


その平手打ちは全く見えなかった。



---


半月後。

国を跨ぎ、ようやくスパルタスへ到着した。

見える場所に大きな街がある。


「やっと着いたぁ。長かったね」

「ああ、グィネが酒場で絡まれて返り討ちにしたりしなければ馬車も借りれてもう少し早く着いたな」

「いつまで言ってんのよ。ザクだって山賊の根城を潰すとか言わなければ早く着いたわ」

「…アイツらは調子に乗っていて気に入らなかった」


旅は順調なようで順調では無かった。

今言った事以外にも、グィネが財布をスられて金が足りなくなったり、俺が街の裏組織の奴をぶっ飛ばして逃げるようにその街を去ったりと色々あったが、一番気にしていた聖神教の追っ手は来なかった。


(諦めた訳じゃあ無いな…まぁどうでも良い。向こうがどう思ってようと、俺がやる事は決まっている)


「どしたのザク?考え事?」

「…いや、なんでもない。とりあえず街に入るか」

「そうね。早く宿に泊まりたい、お風呂入りたい、お腹空いた」

「うるさい」




さぁ、此処から始めよう。

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